蓮の華の上 ③
母の願いは、蓮の華の上に座っているような老後を送りたい。
そんな母についてのお話です。
蓮の花の上に座れるのかなあ。
父のこと
「仕事変わってな、研修中やのん。終わったら帰るわ」
『正月でいいぞ。ちゃんとうまいもん食べなあかんぞ。帰ってきたら焼肉食べに連れたるわ。』
最後の電話だった。
その1週間後、脳出血で倒れたのだ。
病院のベッドに横たわる父は、話しかけても手を握っても..握り返してはくれなかった。
優しくて子煩悩な父であることは、村中の人が承知している。
鮮魚の卸をしていた父は、高校の体育祭の時に[活造り]を届けてくれたことがある。
思春期の私は、トラックに乗り長靴を履いて学校に来る父が恥ずかしかった。
サラリーマンでスーツ姿のお父さんに憧れていたのだ。
時々、母には内緒でくれるお小遣いも魚臭くて、嫌々ながらもらっていた。
大晦日の紅白歌合戦を見ると思い出す事がある。
年末は稼ぎ時、お小遣いをあげるから手伝って欲しいと頼まれ渋々ついて行くことにした。
その年は特に寒くて雪が降っていた。
私は寒くて寒くて...すぐ車の中に。
父の魚を捌く背中に雪が降り積もっていた。
氷の入った水槽に素手を突っ込んで..
水のついた手の平は瞬く間に凍って行くのです。
暖房のきいた車の窓からその様子をずっと眺めてた。
恥ずかしいのは父ではなく、私。
情けない娘です。
お父ちゃん、ごめんなさい。
お父ちゃんは、カッコイイよ。大好きだよ。
ベッドに横たわる父に伝えるが、もう笑ってはくれない。
それでも、毎回「お父ちゃんごめんなさい、大好きだよ。もう一度だけ声聞かせてよ」
お願いするけど...手を握り返してはくれないまま2年間眠り続け逝ってしまいました。
あの時、会いに行けばよかった。
そしたら、異変に気がついたかもしれない。
お父ちゃんごめんなさい。大好きだよ。
手を合わせながら、今日もつぶやいてます。
蓮の華の上 ③