三味線

三味線

田舎の山奥に、白装束の格好で人に魅せられ三味線を抱えて、旅の道連れに一緒に死んでくれませんか。
神様の道添い案内人の中で、人を騙して押しのけて道を作って、一体何の為になるのか。
人の世は儚く淡れに明滅する移りゆく世の無常に、ただひたすら前へと頑張ってきたのです。
人を喜ばせて生きていく、その為に三味線で夢を叶えるの。私の憧れ。それは民の心の支えになり救うことなの。
森の道を松明を付けて一人次の村へと足を進める。
孤独な旅のサーカスは、人生の試練の血の中に沈んでいく。
この世は一体何て悲しみの中に一人沈んでいくのか。それを知るのは、菅笠をかぶった少年だったのでしょうか。
人間の血の中に沈んでいく。
この旅芸人という与えられし宿命に、人間とは苦しみに耐え抜き、たった今青空をじっと見つめ、そっと鳥のように飛んでみるのです。
町の民衆はこの三味線を喜んでくれる。私にとって一つの光が、期待の雲となって浮かんでいく。
生まれ変われるなら、青空の中の一つの雲になって、夢の中で少年に抱かれて死にたい。
人間として生まれてきまして、たくさん稽古を積んで、一人前の三味線師になりました。
さんざん苦労して時を重ね、揉まれて擦り切れてこんな哀れな人間と成り果てたのです。
私は生まれて来ない方は良かったのです。
でも私にはこの音楽を聴いてくれる民衆がいて、救いの手を差し伸べてくれる。
一つの聖典を携えて読み試練の意味を理解する。
夜空の静けさの中で、悲しみにふけた三味線をひたすら強く握るのです。
強く握る手が、希望の太陽の暖かさに変わり、宇宙の雫が一滴垂れる時、木漏れ日の静けさに一人、民衆の愛でる音楽を奏でるのです。
聴衆は私のひたむきに弾く三味線の音楽で、月夜に沈む寂しさの凝縮の中で死なしてくれるのでしょう。
人間の中に、ほらっ、もう一つの花を見つけました。
私は生きているのでしょうか。
それとも死んで、三味線を弾いて民衆を喜ばすのでしょうか。
三味線の音がしんみりと哀しげに、冷たい海の上で響き渡る死の臨界線の中で、一人奏でる音色に死んでいた花が復活するのがわかるのです。
人生の中に灯火の微かな光で、民衆は音色の穏やかさに、ただ生の希望をじっと見つめていたのです。
この暗闇の中に、希望の光は真実なのでしょうか。
凄絶な心の渦の中に、森羅万象の精気が渦巻き死んで、生命の吐露の中で、安心したバラの花はもうすでに死んでいる。
もうすでにバラの花を悲しみの面持ちで、そっと手にしてみる。
宇宙に揺れて死んでいく、三味線の音色に枯れ果てて、哀れな心情の吐露が、一雫の人生の歌の中に、若く散らした赤色のバラの花びらを見つめるのです。
ああ、何て哀れな人生の微かな灯火の心に、死んだ花の情景のモノトーン。
あなたは私を殺したのです。
あたしを殺した時のあなたの表情をしっかりと見つめていました。
何て無情な世界の微かな灯火に、一つまた一つと死んでいくのでしょう。
何て無情な世界の微かな灯火に、人の哀れの涙の雫で、一つの真実を見つめるまで時間が掛かるものなの。
もうすでにあなたは死んでいくのでしょうか。
三味線は孤高の中に、一つの悲しみの宿命が、また一つ意識を無くしていくのがわかります。
三味線は孤高の中に、一つの真実を写し出し、神様の涙をそっと浮かべるあなたの真実に、人生の中の一人ぼっちの悲しみを知るのです。
私を一人残して死んでいったあなたが悪い。
私の中に一つの悲しみの宿命が、また一つ意識を無くしていくのがわかります。
私の奏でる三味線で、民衆はどのような心になってしまうのでしょうか。
悲しみの中に神様が手を合わせて拝んでくれる。
その救いの時、私の人を喜ばす意味を知り、そっと命の中で夕焼けの静けさに立ってお祈りをしている。
何て美しい光の静寂の中に、人生の申し子の言葉で、生命は哀れな灯火に一つまた一つと死んでいくのでしょう。
三味線の中に、人生の真実の言葉を聞いた時、死ぬのがこれ程嬉しいのでしょう。
人生の中にほろ苦い宇宙を経験した、あなたの中に一つの言葉があったのです。
あなたを殺した私が間違いだったのです。
人間を愛したあなたの心が間違いだったのでしょうか。
人生をもう一度リセットさせてください。
トリスタンとイゾルデの中の真実の愛に気づき、一人箱の中のとても美しいメロディーを響かせる。
この哀しき人生の中で、一つの最も大事な言葉を大事に使う時、光の宇宙の中に、一つ一つ丹念に築き上げた、みそらのそわかの神様の三味線がひとりでに深遠に鳴り始めました。
三味線を愛するあなたよ、私の為に死んでください。
私に三味線を取りあげたら一体何が残るのですか。
死ぬまでひとりぼっち、死ぬまで一人ぼっちで三味線を弾かせてください。
この物哀しさに一人死んでいったあなたを想い、今日も三味線を弾いている。
そして青空の中にたった一つの美しき三味線をふわっと放り投げる。
何て哀しき運命を背負った一人の主人公の性。
私に神様の存在を教えてください。そしてあの世にいった時のせめてのなぐさめとして、私だけの本当のメロディーをください。
昇天する時のこの気持ちだけでいい。
この世の主人公になりました。あなたに恋をした菅笠をかぶったあなた。死んでいる。ああ死んでいる。

三味線

三味線

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-06

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