水月花

水月花

ロマンをこよなく愛する乙女は、恋のキューピットに弓を射たのです。
伝説となった一つの事柄を追求し、こだわる偏執狂の妄想の中で作られる。
人智の輝きの中心軸での針に、基礎を作り、この世に時間をきざむ正真正銘の生きた証明。
人間は生命時間に燃える事を許され、新しい波の先端で魂が仁義を果たす。
こうして一人の人間の歴史が完成する、一つ一つの積み重ねが形状として、魂になった。
貝殻に耳を当てて、海の音色を聞いてみた時、人類史上誰もした事のない考え方をしていく。
貝殻を手先で浮かばせひらりと手の中で返して、待ちに待った海の記憶を聞いて、指先の人間の思考で大事に言葉を使うのです。
海の記憶をひとつひとつ解きほぐして、太古の海洋生物が、私の手の中で生き生きと泳いでいる。
こうしてロマンのパッションで地球の反対側の地平線まで弾け飛ばす、熱情のパルティータ。
私は何番目の変奏を好んで聞くのでしょうか。
潮の波が私の足にかかる。潮はひんやり歴史を孤独に語り出す、寂しい月光の中の少女。
人が海の音を聞きたくなるのは決まってこんな時なのです。
宇宙が殻を破ろうとしているのがわかる。あなたの感覚は不可思議な心中で、海に慣れ親しんでいく。
期待した通りに事が運ぶ潮の波は清らかに成功するようにできている乙女の初潮。
ふと海にロマンを追い求める熱い視線の先に乙女の美しい掛け声があり、ふと物思いにふけて、潮の高さが大上段に上がったのです。
人間ではない乙女になったばかりの生々しい生きた肉体の水月花。
生命の花が海の真ん中で咲き始めるねっちょりしたエキス。
雲を掴もうと青空に向けて海面から一輪の水月花が手を伸ばし、ふんわりと浮き始めた。
生命の系譜を記す、一つ一つ端正に歴史を刻む事を許され、もう少しで男のロマンが赤色の熱情へと変わり、貝殻がふたを開けるのです。
一輪の水月花は尊敬の想いで、海全体の水面に優しく慣れ親しんでいる。
その先には一人の頑張った人間が感じれる、黄昏の夕陽の中で恍惚と身を酔い知れた。
一輪の水月花が青空に向けて、さあーっと昇り人間界の頂点へ行こうとしている。
生命の歳月はひとつふたつと年老いていく宿命。
この世の俗物から掛け離れた聖なる秘めた場所で生きていく。集大成が一つの真っ白な浜辺の砂の中に埋もれていく。
期待に満ちた美しい物語に、水月花を追って、少女の手は青空へとすらっと伸びていく。
一つの動機が積み重なって無限に変容していく、生命の複雑化が螺旋状に昇る、バイタルは正常な複素数。
そしてまた素数化していき、人間はまた人間をやめたくなるのです。
ああ、ずいぶんと遠くに来てしまい、波の音は微かに聞こえるのがわかるくらいに、静かに還っていくの。
宇宙を遊泳する時の体の感覚に身を寄せて、死への準備をしているのが過去の私、それとも現在の私、それとも未来の私。
静かに海を見つめて、ふと昔の前世の私に身をはせた。
真っ白な砂を握りばら撒いて、ふと青空を見上げると、一輪の水月花が一人の人間の人生を祝福して咲き誇った。
人が来た道は孤独に悩み乗り越えた地平の先に、一つの青い空があり一つの青い海があった。
青い色情に抱かれた人情の儚さに、人との心が想いを作り形になるその時、海に天女がふわっと現れて水月花を私に手渡した。
周りには絶景の目映い光に囲まれ、この想像を絶する理想郷がここにあり、人生の讃歌を天女が歌い始めた。一つの物語があり、一つの人間がそこにいた。
ここには喜びの有頂天の一つの明るさで、クライマックスが青空へと駆け渡る、人間マンダラ。
そっと手を伸ばし、宇宙の広大深遠さを、天女が知らせ、彼方遠くに地平線が真っ赤に染まり、美しき夕闇に一人人生を感じ尽くし、ふと手には水月花があったのです。
人生の意味を知る時、反粒子が反応しこの手の感触にじわりと熱を与え、一ひらのメルヘン思想の地平へと皮がむけて、一つの理想が舞い降りていく。
その一筋の光の先に、この世で最も愛された水月花があった。
人間として想う時、人間になれたとわかった時、人間として恋しくなる。
生命がまた一つ生まれたようです。
生命の頂きに神様がいて、水月花をこよなく愛しているが私にはわかります。

水月花

水月花

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-06

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