満月の恋

 満月の夜、海の底に月のしずくが落ちてきた。
 月のしずくは銀色のあぶくにくっつくと、うさぎになった。
「こんばんは、人魚の娘さん」
「よい月夜ね、うさぎさん。今日はどんなお話を聞かせてくれるのかしら」
 海の上に上がることを許されていない人魚の娘に、うさぎは雲の上の永遠の国について語った。
 人魚の娘はうっとりとうさぎの話に聞き入っていたが、やがてため息をついた。
「人間が羨ましいわ。死んだら永遠の国へ招かれるなんて。魂を持たない人魚は、死んだらあぶくになって消えてしまうのに」
「おやおや、それはなんとも寂しいことだ」
 満月は人魚の娘に恋をしていた。
 月のしずくは、娘恋しさに満月が流した涙。彼女を手に入れるために、うさぎは人魚の掟を破るよう唆した。
「人魚が魂を得る方法を知っているかい? 人間を愛し、同じように愛されればいいんだ」
 たとえ人魚の娘がだれを愛しても、雲の上まで昇ってきた彼女の魂は満月のものになる。
 無垢な娘を悲劇へ誘う役目を果たし、うさぎは銀色のあぶくに戻ってぱちんと消えた。

満月の恋

満月の恋

そして彼女は、人魚姫と呼ばれるようになりました。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-04

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