マツケン奮闘記・・?!⑥
俺たちの向かうカラオケ店は、商店街の中央通りを突っ切った隅っこにゲームセンターと並んで建ってる。
そんなおっきくもないけど唯一此処一件しかないこの店は、何時来ても待たされるのはここじゃ当たり前みたいなものだ。
とは言っても、待つ事、三十分ってのは、暇を持て余す俺としては、ちと限界に近いかもな。
けど、出先から乗り乗りの美穂ちゃんは、先頭切って受付を済ませて、順番待ちは当然とばかりに満足げに顔は綻んでるんだ。
(ま、分かんなくはないけど、まだ五組は待つってのに、ほんと元気な奴だよなぁ・・負けるよ)
「なぁ美穂ちゃん?深山さんってさぁ?美穂ちゃんの伯父さんって言いてたけど、お母さんの方の兄弟かなんかなのかぁ?」
「ああ、お父さんのほうよ?確かお父さんの弟、になるのかなぁ、でも、うちのお父さん、伯父さんの事嫌ってるの、だから、
会う事もしないのよねぇ?でもね?お母さんは、たまに店に顔出したりしてる見たなのよねぇ、なーんか、可笑しな感じよ、
って、まあ、あたしにはそんなのどうでもいい事なんだけどね・・」
「そう・・?ああ、処でお母さんに頼んでみるって言ったのって何の事なんだぁ?もしかして、俺たちの事でなんか厄介な事、
引き受けさせちゃったんじゃないのか?」
「ああ、それはないわよ?前からあった事だしね?なんたってうちは色々事情が複雑なの、まっそう言う事だから、お兄さんは
気にしなくていいのよ、ねっ?」
「ああ、まあ、それならそれでいいけどさぁ・・まっいいや、けどほんと助かったよ、ありがとな?」
「いえいえ?はは、何か改まって礼を言われちゃうとあたし、ちょっと照れちゃうかな?あっそだ、ねぇ?照れついでに、ちょっと
聞いてもいい?」
(そんな、ついであんのかよ?・・まいいや・・)
「ああ、いいけど・・なに?」
「ああ、あの、お兄さんてさぁ?・・彼女とかって、いるの?」
「はぁ?俺かー?ああ、俺は、いないよ?つうか、そう言うの俺は作る気ないんだ?!けど、何でそんな事聞くんだぁ?」
「えっ?ああ、なんなんでしょ?あ、いや、あの何ていうかほら、年頃の女の子がよく抱く好奇心って奴、かなぁなんてね、はは」
(何がはは、だよ?・・何言ってんだかなぁまったく、意味分かんねぇっつうの・・)
そんな中、奈津美は・・・。
(どうしよう、今日はそんなに遅くまで居られないのに来ちゃった・・やっぱり言わなきゃ・・)
「ねぇ?ここまで来てなんだけど、あたしもう帰んなきゃいけないの、それで悪いんだけど先帰らせて貰っていいかなぁ?」
すると美穂・・・。
「ああっそうなのぉ?残念ねぇ・・でも、分かった、いいですよ?それじゃまた今度、機会があったら遊んでくださいね?」
「それはもちろんよ?ありがと美穂ちゃん?それじゃ悪いけど、マツケン、西田君?真子ちゃん?ごめんね、じゃお先?」
とまあ、何ともあっさり帰ってしまった。
その後、十五分くらいした時だ、いきなり商店街の通りから、けたたましく救急車のサイレンが鳴り響いた。
けど、その内この近くで鳴り止むと、何やらガヤガヤと外が騒々しくなった・・。
(なに、この近くなのかぁ?・・)
「おい西田ー?なんか外、やけに騒がしくないかぁ?それにやけ近いしさ・・・悪い、俺ちょっと見てくるわ、すぐ戻るよ・・」
「はぁっ?おいマツケン?!ちょっと待てよー!」
どうにも気になりだしたらジッとしてられない俺は、様子を見るだけのつもりで外に飛び出した。
(・・事故かぁ?・・嫌な感じだなぁ・・まっ奈津美は平気だよな・・多分、あいつだし・・)
とか思いはしたんだけど、けどどうも駄目なんだよなぁ俺・・・。
実を言うとさ、俺が高一の時、同じように、この商店街から救急のサイレンが鳴ったんだ。
けどそん時の俺は、『関係ねぇ・・』ぐらいにしか思ってなくてさ、気にも留めてなかったんだ・・。
でも翌朝、学校行って知ったんだよ、そん時のサイレンが俺の親友の事故だったってさ。
やっぱり嫌なもんだよな、いきなり親友、失うって言うのは・・・。
俺が行ったからってなんも変わんないだろうけど、けどやっぱり知らないのってどうも俺の中じゃ許せないんだ・・。
だからって訳でもないけど、それ以来かな、確かめずにいられなくなったんだ俺・・。
まあ、そうは言っても、俺も野次う馬の一人にしか過ぎないんだろうけどな・・。
ここ商店街に建つカフェは、カラオケ店からちょっと斜め向かいの、丁度十字路になったその角に建ってる。
そして、このカフェの角の脇道を少し通り抜けると、住宅を挟んでそう多くも無いけど車と人が行き交ってるんだ。
そして今俺は、その脇道を通り抜けた処に、辿りついた・・。
そこから俺の丁度目の前、通りを挟んだ向う側に、何やら人だかりが出来て、その周辺でお巡りさんが二三人立ってた。
(やっぱり誰か車にはねられたのかぁ?・・)
人がだんだん集まって来たら俺の視界からは、倒れてる人の姿は見えなかった・・。
(しょうがない、ちょっと行ってみっかな。気になるし・・って、なに気にしてんだかな俺・・)
なんたって奈津美の家がこの先に在る所為だって俺は、どっか自分に自問しながら向かいの歩道へと渡った・・。
けど、何処を見ても人の頭だけだ・・。
そん時、俺のすぐ隣でお婆ちゃんが口元押さえながら人だかりの前でおろおろしてた。
「あの、お婆ちゃん?誰か事故にあったんですか?」
するとお婆ちゃんは俺の顔を見上げるなり、なんだか興奮しながら話しだした。
「ああぁついさっきだよ、渡ろうとしてたんだろうさね、車の来るのも見えて無かったんじゃないのかねぇ・・・
ぶつかったんだろさね、かわいそうによぉ・・・もう少し道が広けりゃぁよぉ、どうしてこう狭い道作ったんだかねぇ・・」
どうも道路の狭さに不満を募らせたのか、お婆ちゃんの話しは怒りの方向に変わってしまったようだ・・。
(気持は分かるけどさぁ・・ここで俺に言われてもなぁ・・)
と、その時、警察の人達が来た・・。
「ほらほら下がってー!見せもんじゃないよ?道開けてー!」
と、そこに居た人達と一緒に、俺も押しのけられた。
と、その時・・・。
人の流れが変わったお陰か、一瞬だったけど、そこの光景が俺の目に飛び込んできた・・。
それは救急車の中へと運び込まれてく担架に乗せられた人の傍で寄り添ってる奈津美の姿だ・・。
(うそ・・・なんで・・)
「おおーい!奈津美ー?!・・お前・・何やってんだよー?あ、すみません、ちょっと通してくれませんか?
俺の友達が居るんですよ?!・・おおーい、奈津美ー?!どうしたんだよー・・なんで・・・」
人垣を押しのけて、車に乗り込む寸前だった奈津美を捕まえて、俺はやっと、奈津美を目の前にした・・・。
でもその時、いきなり俺は腕を掴まれた・・・。
「コラー!何なんだお前はー?!関係ないものはさがってなさい!」
「あの?こいつ、俺の友達なんですよ、すみません一緒に着いて行きたいんですけど、駄目ですか?」
「はぁ?なに、お前、この子の知り合いなのか?・・ああっそれじゃ乗って?!」
と急かされて慌てて車の中に乗り込むと、すぐさま車のドアが閉まった・・。
《バタンッー》
「いいぞー出してくれー」
と声がかかって再び救急車のサイレンが鳴りだすと同時に走り出した。
そして車の中、奈津美は、おでこに大きな絆創膏・・そんで隣て横たわってる人はお婆ちゃんだ・・。
(誰かなこの人・・、奈津美の知り合いなのかぁ?)
とか考えながら、でもそん時、俺は、不意に店に残してきた西田達の事を思い出した。
(ああ、そういやぁ、俺、何も言わずに来ちゃったなぁ・・まっいいや、あとで電話するかな・・)
なんだか訳わかんないまま付いてきてしまったけど、俺の横に坐ってる奈津美は、今にも泣きそうな顔なんだよな。
(なんか聞けないよなぁ、こんな奈津美にはさ・・けど考えたらこんな奈津美、見んのも初めてだ俺・・)
そして着いた病院は、この街じゃ一番でかい市立の病院だ。
他にも幾つか病院は有るけど、でもここには一通りの医療が揃ってる病院なんだ。
そして俺たちの着いた場所は、急患の窓口とも言うべき、救急センター・・。
そこに降りついてから俺は、とりあえず西田に電話を入れた。
「西?悪いな、俺、今病院なんだ・・、話すと長くなっちゃうからさ?悪いんだけど、真子達の事頼むよ?ほんと悪い?」
『はっ?なに、なにか有ったのか?で、今何処の病院なんだよ、マツケン?俺も今からそっち行くよ』
「はぁっ?ああ・・そうな、今、市立病院の救急センターに居るよ。悪い、とりあえずこれで切るな?じゃぁあとで?」
その時、奈津美は、警察の人に何かと聞かれてるようだったけど、なんか動揺してるようで、どうも歯切れが悪いんだ。
なんたって肝心の自分の名前まで間違える始末で、なんか見てらんないって感じなんだ・・。
そんなこんなで俺も、多少の状況を知る事が出来たんだけど、どうもあのお婆ちゃんは奈津美の祖母なんだそうだ。
なんでもお婆ちゃんは、出かけた帰りだったらしくて、奈津美もその途中、その事故に偶然居あわせたらしいって話しだ。
そんで、奈津美の絆創膏の理由は、駆けだした時に転んじゃったんだそうだ・・。それでおでこに絆創膏・・。
(って、どんな転び方したんだよあいつは?!けど、無事で良かった・・)
その後、俺は奈津美の居る病室を覗いてみたんだ。けど、なんかちょっと入りずらい雰囲気なんだよな。
だから仕方なく待合室で時間を潰す事にした・・とは言っても、なんも出来ないんだけどな病院だしさ・・。
そしてそこから数時間後・・・。
前に一度、奈津美と一緒にカフェに来てたあの綺麗な女の人だと思うんだけど、何気にその人と奈津美が俺んとこに来た。
けど奈津美の奴、まだ泣きたりないって顔して、その綺麗な人のうしろで俯いたままだ。
(なんつう顔してんだかなぁまったく・・)
とは言っても俺には、そんな奈津美に、なんか言葉を掛けようにも何言っていいんだか見つかんないんだよな。
だからとりあえずは俺は、頭をさげた。
すると、なぜかその綺麗な女の人が俺んとこ来るなり俺の肩を叩いた・・・
(は?なに・・・)
とちょっとドキっとしながらも俺は顔を上げた。
すると、いきなりその人の顔が俺の真正面でその顔をドアップに俺に笑って見せた・・。
(うわっ!・・あっ・・、綺麗な人・・)
と、つい見惚れた俺に・・・・。
「貴方が松岡君?そう硬くならくてもいいのよ?初めまして私、奈津美の姉で美由紀っていいます、よろしくね?奈津美の事
知らせてくれたの貴方でしたよねぇ?ほんと助かったわ、ありがとう?」
「ああっいえ、俺は何も・・、あ、あの、お婆ちゃんは、大丈夫なんですか?」
「ええ、何とか一命は取り留めたわ・・でも歳も歳だから、しばらくは入院するようになるわね・・でもほんと、ありがとう?」
そう言って俺に一礼すると、急に奈津美と向き合った・・。
(はっ、なに急に・・)
すると・・・。
「奈津美?貴方もちゃんとお礼言わなきゃ駄目よ?ほらぁいらっしゃい・・」
と、いきなり俺の前に奈津美をつきだした。
(はー?なにもそこまでしなくてもよくないか?・・)
すると奈津美はうつむいたまんまで・・。
「あ、あの、ありがと・・」
って言いいながらも、なんかもう、らしくないっつうか、それってなんか、奈津美じゃないみたいだよな・・。
「ああ、いやぁ・・、あっけど、好かったな?お婆ちゃんさぁ・・それじゃ俺、そろそろ帰るよ、元気出せよ、なっ?じゃな?」
と、なんて言ったらいいか分からず俺は、その場で、お姉さんにお辞儀だけして、脇見も振らずしてとっとこ歩き出した。
(まったくなんつう顔してんだかなぁ・・けど、あの人が奈津美の姉貴とは、ちょっと驚きかもなぁ・・)
と、その時、不意に俺は、西田に肩を掴まれた・・。
「なんだよー?!ああ、悪い・・」
「何だじゃないだろう?まったく、お前が出てったあと、真子ちゃんに美穂ちゃんまで、何があったぁ?とかってあれこれ
聞かれて俺、なんて説明していいんだか参っちゃったんだぞぉ?まったくさぁ・・、けど、二人とも、ちゃんと送り届けてきたよ?」
「あぁそっか、悪かったな?ありがと・・ああそういやーカラオケはどうなったんだ?」
「ああ、あれ?当分順番は先だから諦めたよ、それにお前も居なくなちゃったしさ・・けど、お前さぁ?もういい加減、そのサイレンに
反応するの、卒業したら?・・ああ、でもいいのかな?ま、いいか・・・・でも・・奈津美さん、ほんと好かったなぁ?・・」
「ああ、そうな・・・まっいいや、そんじゃま、用もすんだ事だし帰るとすっかな?もう俺たちが居てもなんもないしさ?」
「ああ、そうだな・・」
その後、奈津美は、祖母の病室で何処か落ち込んだ顔して椅子に腰かけてた・・。
そしてそんな奈津美と一緒に居るのは姉の美由紀だ。
けど、どうも動く気なさそうな奈津美にシビレを切らしたのか美由紀は・・・。
「奈津美?もうお婆ちゃんは心配いらないわ、そろそろあたし達は帰りましょう、ねぇ奈津美?・・」
「んん・・・・ねぇお姉ちゃん?あたしがもう少し早く帰ってたらこんな事にならなかったのよねぇ?お婆ちゃん
迎えに行くはずだったのに、あたし・・・・」
「いやぁねぇ何言ってるのー?これは奈津美の所為じゃないでしょう?それにお婆ちゃんはもう大丈夫、心配ないわ、ねっ?・・
あ、そうよねぇ奈津美?彼・・奈津美はどうなの?いい子じゃないのあの子・・」
「ええっ何、急に?彼って誰の事?・・ってまさか、松岡君の事ー?それにどうって、なによ?・・ああ、嫌だお姉ちゃん、もうなに
勘違いしてるのー?マツケンはそんなんじゃないからねー?!」
「ああ、もうほらぁ奈津美ったらー?そんな大きな声ださないのよー?ここは病院なんだから静かにしてぇ?!」
「もう?!お姉ちゃんが可笑しなこと言うからじゃないのよー?知らないっ!」
「あらぁ?奈津美、顔が赤くなってるわよー?やっぱり図星なのかな?ああ、そうなのねぇ?まっいいわ、頑張ってー?
お姉ちゃん応援するわぁ、ねっ奈津美ちゃん?!」
「だからー?そんなんじゃないんだってばー?!もうからかわないでよねぇ?ほらぁお姉ちゃん帰るんでしょう?行くよ?」
「はいはい分かったわよ?ほんと奈津美って素直じゃないわよねぇ?いいわ、でも素敵ねぇ?松岡君・・いいわねぇ彼?」
「もうーお姉ちゃん?!いい加減にしてー?!」
「分かったわよー?そう無機にならなくてもいいじゃないのー?まあいいわぁ、それじゃ帰りましょう」
そして俺たちは、病院を出て、何とか街まで辿りついたとこだ・・。。
「ああなんか腹減ってきちゃったなぁ?」
「そう言えばそうかもなぁ、けど、もう帰るだけだし、ここは我慢するしかないだろ?」
「まあな・・」
と、その時、不意に誰にともなく声を掛けられた・・。
「よぉっ?!なんだぁ?こんな時間まで、夜遊びかぁ?」
と、訳の分かんない事聞いて来たのは、これも偶然か小坂井先輩だ・・。
(どう見たってお互いさまじゃねっ?ってか、なんでまた先輩な訳?・・)
「それを言うならお互いさまじゃないですかぁ?先輩こそ、こんな時間まで夜遊びですかぁ?」
とか聞いちゃったら、なんかしんないけど、バカ笑いてやんの・・・。
(大丈夫かぁ?まったく訳分かんねぇよ・・)
すると・・・。
「それもそうだ、俺も一緒だよなぁ?こりゃ失礼?けど相変わらずハッキリ言ってくれるなぁ?まっお前だしな、まいいさ・・」
(って、何のリアクションなんだよ、まったく)
「そんじゃこれで?もう俺たち帰りますんで、先輩も気をつけて帰ってくださいよ?そんじゃおやすみなさい・・」
と小首をさげると、何気に俺の肩に腕を廻して来た・・。
(はっ?なに?)
「そうアッサリ帰るなんて言うなよマツケン?なぁ西田君ッ?そう邪けにするもんじゃないぞぉ?先輩に向かってさぁ?」
(うわっ酒臭っ!ああ、嫌なのにとっ捕まっちゃったよなぁ俺・・はぁ・・)
「西田?先帰ってなよ?俺、ちょっと先輩と話ししてから帰るからさ?なっ?先輩?いいっすよねぇ?」
すると先輩は、また惜しげもなくバカ笑いしだして、
「ああいいぞぉ悪いなぁ西?先帰ってなよ、ちょっとマツ借りるからさっ?そんじゃな?ああ気い付けて帰れよ?じゃな」
すると西田・・・。
「あっああ、じゃあマツケン、悪い、俺、先帰らせて貰うよ、それじゃ先輩、お先失礼します・・」
と、小首をさげると、西田は、脇見も振らずに帰った。
マツケン奮闘記・・?!⑥