懐かしい天井

懐かしい天井

いつかどこかで見た気がする。

 「懐かしいなぁ」小声で小さく呟いた。
10年ぶりに実家に帰り、以前過ごしていた子供部屋のベッドに仰向けになった私は天井の木目模様を見て、なんとも言えない懐かしさを感じていた。
二十歳で実家を出て、一人暮らしをし、働き始めた私はこの10年で随分と自分が変わったことを実感した。
気遣い、建前、礼儀作法などの人間関係や下積み、将来設計などのいわゆるキャリアの構築。
他にも恋愛や友達付き合いなどあげれば切りがないほど、大人になってからは忙しい日々が続いていた。

しかし、実家で過ごしていたときはなんとも感じなかったのに、この懐かしさはなんだろう。
毎日見ていたときは何も感じなかったはずなのに10年ぶりに目にするとどんな芸術作品よりも私の心を動かした。

10年ぶりに見てこれなのだから、30年や40年ぶりに見たなら泣いちゃうんじゃないかと思うほどに私は感傷に浸っていた。

キッチンで母が夕食の準備をしている懐かしい音がする。その音を子守唄にし、懐かしみながら私の意識はひとときだけ、子供の時代に戻っていった・・・。

懐かしい天井

懐かしい天井

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-01

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

Public Domain