異国の友達
祖父との暮らしは穏やかで、幼い私には退屈に思えた。本棚いっぱいに書籍が並び、あるのは筆記用具ばかりだ。私は毎日祖父の手を引き、森や公園で遊んだが、年頃の近い友達が少なく、楽しみが少なかった。
あと2年もすれば、両親や兄と共に働くことになるが、幼い私にとっての2年間は長く感じた。そんな私の家に、留学生が訪れるようになった。近隣のアパートに住む若い男は、聴き慣れない言葉と、親しみのある言葉を織り交ぜて使う。異国の風貌やその言葉遣いに、私は夢中になった。祖父は翻訳の仕事をしていたので、話を聞きたいと、訪ねてきたのだ。
男はハルと名乗り、犬と猫を連れていた。とても仲が良いのだと話してくれた。私も友達のことりとリスを見せてあげた。犬と猫も、興味深そうにこちらの匂いを嗅ぎ分けていた。彼らはとても賢く、そしてとても優しかった。ハルは幼い私の子守もしてくれた。祖父と3人で公園に行き、ベンチで祖父と難しい話をしながら私を見守り、時に私と遊んでくれた。私のお喋りにも付き合ってくれたし、異国の言葉も教えてくれた。
ハルの2年間の留学が終わる頃、私も働く年頃になった。初めての労働に出る不安と期待の夜、ハルは私の頭を撫でながら「がんばってね」と言ってくれた。ゆったりとした花の香りのような言葉に包まれ、その日は眠った。
朝起きて、新品の制服に身を包み、兄と共に仕事へ向かった。初めての仕事は、お湯を沸かすことと、玉ねぎをみじん切りにすることだった。玉ねぎを刻むと、目が痛くなり、涙が止まらなかった。兄の助言があり、何度も洗面所で顔を洗ったが、帰る頃には目の周りが赤くなってしまった。
家に帰るとハルがいて、祖父と真剣な面持ちで何か難しい話をしていた。帰ってきた私を見るなりハルは「どうしたの」と私の頬を手で包みながら心配そうに聞いた。「今日は玉ねぎをたくさん切ったね」と兄が私を見ながら言い、私も誇らしげに頷いた。ハルは表情を崩し、嬉しそうに笑った。
その夜、ハルとお別れをした。留学の期間はまだ少し残っていたが、妹が結婚するので国に帰るのだと言う。結婚式ならば私も行ってみたかったが、「また来るね。手紙を書くよ」と言って、ハルは空港へ向かうバスに乗った。最後に頭を撫でながら「がんばってね」と言ってくれた。嬉しくて、夜だったけれど少しぽかぽかと暖かかった。
異国の友達
カフェのカウンターに置いてあるフレンチドリッパーと、さまざまな大きさのステンレス製の計量カップがかわいいので、これらが人間だったらどんなふうに生きてるかなと思って書いた。