いきなり大人にはなれないし

「今急に500万あったら何したい?」なんてマックでポテト食べながら学校へも行かず、考えたり考えるのやめたり別のこと考えたりしてたのって、いつだった?拝啓、あの頃の私たちへ。私たちは今、死体を埋めています。

ネットで知り合った男と雑にセックスしたあと、タバコを吸いながら雑談をしていた。たまにじっと目を見つめる、という点以外は普通の、そう、普通そうな男だった。だから、「500万の仕事、興味ない?」と言われた時に、まさかそんな「普通の男」からそんな大きな金額が出てくると思わなかったので、私はぽかんとして、床にタバコの灰を落としてしまった。男は神経質そうに床を拭きながら「経験として、一度くらいはやってみるのもいいかなと思うんだけどね」と、子どもに犬を飼わせる親のように言う。
そんなことが綺麗な仕事ではないということが分からないような子どもではない。まだハタチになったばかりで、こんなに早い段階で手を汚すような仕事をしてもいいのだろうかと悩んだ。結局一度持ち帰って考えることにし、捨てアドではないメールアドレスを交換して、その日は別れた。家に帰ると誰もいなくて、ちょっとだけ普段は感じない寂しさがあった。
なんとなく頭からそのことが離れないまま数日の暮らしが続いた。バイトへ行き、帰る。バイトへ行き、ちょっと遊んで帰る。バイトへ行き、男と遊んで帰る。バイト休みで、家で昼まで寝る。バイトへ行き、帰る。その帰り道、なんとなく友達にメールを送った。「500万の仕事って、どんなことするんだろう?」返事はすぐにきた。「半年かけて設計図を制作する、とかじゃない?」
「そういうことじゃないだろう」と半ば呆れた自分にも嫌気がさした。普通そういうもんだろう。でもそういう話ではないんだ。こんなこと、誰かに相談して決めるようなことじゃない。相談もなにもない、お断りだ。「普通の男」の連絡先を
アドレス一覧から消してしまおう、忘れてしまおうと思った。「藤本 青吉」サブメニューから削除コマンドを選ぼうとする指は震えて、その下に登録された「ホズミ」をポイントした。ホズミの名前が目に入った瞬間、衝動的に電話をかけていた。

3年前、私たちは確かに17歳だった。別に、将来がどうとか、そういうことはどうでもいい、というか、考えてる余裕もなかった。今日を生きることで精一杯で、自殺したクラスメートのことを考える。自殺だけは良くないってどこかで信じてた。

死体に土を被せながら、死体袋から、小さなうめき声が聞こえたのを、聞こえないふりをした。涙が止まらなかった。

いきなり大人にはなれないし

ツイッター書き出しハッシュタグより
平成のギャルってこんな感じの人もいたんだろうなーって想像で、自分はそうならなかったけど、そうなっちゃったやつも多分いたんだろうなと思う。

いきなり大人にはなれないし

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2023-05-31

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