空の高さ
子どものころのように空をじっと見渡してるけど、これは何の夜明け?
(アン・カーソン『赤の自伝』小磯洋光訳)
空はいい 老いることがないから
老いることがないうえに
生きても死んでもいないから
日課のように死にたいだの
生きたいだのと言わないからいい
決して口をきかないことが
俺を慰める
近づくことも
遠のくこともないのに
決して手に届かないことが
俺を傷つける
空は詩にされるのを嫌がっていた
不老はいいことなのか
違うさ、空が不老なのがいいんだ
空だけがそうであればいい
他は全部亡びればいい
俺もさっさと老いて
亡びればいい、そう思いながら
今日もおまえに生かされてしまった
今日のおまえはいつにも増して美しかった
誰にも見られない空がもっとも美しいことを
俺とおまえだけが知っている
空の高さ