空の高さ

子どものころのように空をじっと見渡してるけど、これは何の夜明け?

(アン・カーソン『赤の自伝』小磯洋光訳)



空はいい 老いることがないから
老いることがないうえに
生きても死んでもいないから

日課のように死にたいだの
生きたいだのと言わないからいい
決して口をきかないことが
俺を慰める

近づくことも
遠のくこともないのに
決して手に届かないことが
俺を傷つける

空は詩にされるのを嫌がっていた
不老はいいことなのか
違うさ、空が不老なのがいいんだ
空だけがそうであればいい
他は全部(ほろ)びればいい

俺もさっさと老いて
亡びればいい、そう思いながら
今日もおまえに生かされてしまった
今日のおまえはいつにも増して美しかった

誰にも見られない空がもっとも美しいことを
俺とおまえだけが知っている

空の高さ

空の高さ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-28

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