切り株の下のダリさん
切り株とそれを住処にする、動物を書きたかったんです。
最後は、・・・!??
人里離れた山あいの森の中。その一画に大きな切り株がありました。それは大人が何人も横になれるほど、大きいものです。
誰がいつ切ったのかは誰もしりません。ただ切り口の表面もふんわりした苔にぎっしり覆われていますので、だいぶ古くからこの姿だとはわかります。
苔が覆っていないところといえば、樹皮の一部の朽ち果てた、ところどころ空いている隙間ぐらいです。
この切り口は森の住人の憩いの場になってました。
時にはクマが散歩の途中で腰掛け、またある日は猿たちの毛繕いの床として使われてました。
けれど一番は、劇場として使われてました。
鳥たちがふわふわの苔がひかれた壇上に集まり、合唱を繰り広げていました。樹木をすり抜ける風と揺れる草木が楽器となり、森中にその演奏会は響き渡っていました。まだ柔らかい木漏れ日が一層雰囲気を盛り立てます。
色んな住人がその演奏に聴き入っていましたが、いつも特等席にいたのが、切り株の下に住んでいたモグラのダリさんでした。
大事な切り株の下に自分だけの穴を掘ってなんて誰も文句はいいません。なぜなら、どの住人も知らないずっと前からそこに住んでいたからです。
ダリさんは住処の切り株がそうなる前からかなった後からかは未だ誰もしりませんが、そこを拠点に森中の土を耕していました。そのおかげもあって、この森は豊かさを保ってました。
だから、みなから慕われダリさんと呼ばれるようになっていました。
由来は、「あのモグラ、誰ぇ?」という囁きから変化したもので、ダリさんのほんとの名前もみなしりませんが、それでも慕われ続け今に至ってます。
モグラは知っての通り、暗い地下に住んでるので目は退化していますが、切り株の年輪と同じように長年この森と共に生きてきたダリさんにはなんともないことでした。
いえ、見えないからこそかえって違った眼で多くの知恵を蓄えていったのかもしれません。
そのようなダリさんが住む切り株だからこそ、この切り株はみなの憩いの場になったのでしょう。
ある日いつものように演奏会も終わり、ダリさんの食事の準備で立ち上がる湯気が朽ち果てた隙間から昇る時刻に、金太郎は来ました。
そうあの金太郎です。百戦錬磨のクマに跨る金太郎です。
なにやらこの森の長老的ダリさんに敵対心を抱いているようです。それもそうです、金太郎は一番強いと自負して、どんな者たちからも一目置かれないと気が済まないのですから。それなのにこの森では自分よりも、ダリというよわっちいモグラの方が一目置かれ慕われているのが、気に入らないのです。
そこで食事の準備中にも関わらず、ダリさんを呼び出し、「ちょうどいい、切り株の上で相撲で勝負しろ」と挑戦を引っ掛けました。
ダリさんは柔らかな物腰で、「この切り株の上で相撲なんてとったら舞台がめちゃくちゃになるから、私が描いたこの地面の膨らみの円の中でならおうけしますよ」と提案しました。
金太郎は歯ぎしりしながらも、提案を受け入れました。
まだ先ほどまで演奏会をしていた鳥たちが近くの樹木にとまって心配そうに見つめていました。ダリさんは心配なさらないでくださいと、手で合図を送りましたが、それがまた金太郎にはさらに歯がゆい気分にさせてしました。
それゆえなんの前ぶれもなく金太郎はダリさんに一直線に突進してきました。ダリさんは目で見ていないので難なくよけて、地面に潜り込みました。その地面の盛り上がりを平手で金太郎は、文字通りモグラたたきしてました。
しかし一向にダリを仕留めることはできず、仕舞いには自分の渾身の平手打ちのせいで頭から地面にめり込んでしまいました。
そうダリさんは逃げながらも落とし穴を作っていたのです。
じたばたする金太郎の両足をダリさんは、鋭い爪でスパッと斬りました。勝負ありです。
するとなんたることか、その斬り口は金太郎そのものでした。
ダリさんも鳥たちも興味を持ち何カ所か切りましたが、どこを斬っても金太郎。
そうどこを斬っても金太郎飴。まるで樹を斬っても年輪が同じように表れるように。
もう一度。どこを斬っても金太郎飴。
………!!?
切り株の下のダリさん
初めはスローに展開していったのですが、遊び心が途中からひょいと勝って、突然の完結になりました。それも愛嬌かなと思い、そのままにしています。