デラックス学園サイキックス同好会

転生したけどお受験落ちた


  俺には前世の記憶がないーー。
 
  俺がそう思い込むことに決めたのは、俺が自分から「行きたい」と言った名門小学校を受験してから一ヶ月後、『今世の』母さんが何も言わずに俺を抱きしめてきた日からだった。



   1話:転生したのにお受験落ちた

 



 「いけると思ったんだけどな」

 両親が残念会を開いてくれた次の日、俺は親が買い物で家から出かけている間、独り言を言っていじけていた。
 幼稚園に通っている間に、中学生一年生までの数学ができるように「見せかける」ことに成功してから、俺はいわゆるボーディングスクールである『絢爛学院小学部』への入学を親に強く希望するようにしていた。
 まず何よりも、この学校が日本では数少ない全寮制であるという部分。ボロが出ないという点でこれが俺にとっては重要であったのだが、それよりも『絢爛学園』に入れさえすれば俺は人生に勝てる、そういう目算があった。

 人生に勝つ、とは何だろうか?
 俺は物心がついて自身に前世の記憶が蘇った瞬間、最初にこの疑問が脳裏をよぎった。
 それは、家の部屋数がトイレを入れて4部屋以上あったからだろうか。毎月、家族で市役所に通っていなかったからだろうか。
 そういうことに考えを巡らせた瞬間、すぐとんでもないことに気づいた。
 
 「なんで俺はこんなにいろんなことを一度に考えていられるんだ?」

 俺が、部屋数があるということと家庭の金銭的困窮を結びつけて考えることができる、ということが何を意味するのかわかった瞬間、俺は人生に勝った、と思った。
 その日から1週間くらい、俺は俺自身を試し続けた。

 テレビのニュースを見て、キャスターの言うことをどれだけ覚えていられるのか。
 家にあった適当な小説(まず家に小説があったことに仰天した)の文字を一文字一文字ゆっくりと追ってみて、どのくらいイライラするのか。
 やればやるほど、自身の口から何か、言葉にできない叫びが出てくるようだった。

 キャスターの言うことを三分の一以上も正確に覚えていられるし、二行以上ある文章を見て目が滑らない。
 というか、そういう自身のための努力をする『気になる』、それ自体が俺の心に不思議な感慨をもたらした。まるで何かが、いや、何かではない。はっきりと頭脳が前世から『リセット』されているようだった。
 
 
 それで俺はこそこそと親が保管していた郵便物の類を漁って、その中に督促状の類が一通もないことを確認した後、俺は親に初めて習い事をやってみたい、と言い出した。
 

 そこからは人生で初めてのことばかりだった。まず、親が幼稚園生である俺に「通いきれるのか?」と言うことを筋道立てて問うたこと、それを理解できたと実感できたこと、幼稚園のみんなが話している、めちゃめちゃ早い速度の世間話の大意を1発で掴めてから話したことのある人間の数が前世を超えるのは一瞬だった。

 楽しい!楽しい!楽しいっ!
 この頃の俺はいつでも笑顔のお気楽少年として先生たちの間で随分扱いやすく思われていたみたいだ。なんか逆に放って置かれていた気がするが、放って置かれている間はどこかに飛び出ていくでもなく文字の練習をして過ごしているのだから実際扱いやすかっただろう。

 そして、ジェットコースターのように過ぎていく日々の中で、幼馴染のママと俺の母が話していた『お受験』の話題の中に出てきたのが『絢爛学園』だった。
 その単語が耳に入った瞬間、俺は「そこに行きたい!」と叫んで母を困らせたが、俺にはその宣言によって自分の人生のギアがもう一段階上がる音がした。



 絢爛学園には主人公が通っている。

 これは、前世で俺が読んでいた漫画『デラックス学園 主人公部』の1巻についていた帯のセリフであった、と思う。
 両親が喧嘩している間、弟を連れて床屋をやっている叔母さんちに避難していた頃、よく床屋の客が読む用の棚から盗んで弟と読んでいた。
 正直なところ漫画は読むのが面倒くさくて途中で投げてしまったが、ちょうど投げた瞬間にテレビアニメが始まったのが功を奏して、俺の人生の中で唯一最後までストーリーを追った物語だった。正直なところ内容はうろ覚えだが、朝にやっていたアニメの最初に何度も繰り返しその文言のナレーションが放送されていたからよく覚えている。
 まあ、叔母さんちにはいつの間にか俺たちが行くと裏口に鍵がかかるようになってからいかなくなったけど。
 あれは今思うと、生活保護の親族照会が叔母さんちに届いちゃってたのかな。
 
 
 記憶が前世に届くと大体落ち込みそうになり、脇に逸れた思考を戻す。

 絢爛学園は、物語の舞台であり、何より日本一の名門校と言う『設定』なだけあって、毎年一万人の受験者の中で一次試験の時点で200人、面接2回を通して100人前後しか受からない狭き門。しかも家柄枠と呼ばれる特殊な枠がその中に30くらいある、と言うフィクションらしい噂(つまり真実)を鵜呑みにすれば、実質70人。

「つまり、ケンラン(そういや書けないや)学園に受かると言うことは0.007%というキョーイ(そういや書けないや)的な確率なんだぞ」
「1まんぶんの70は0.7パーセントだと思うし、多分だけどそれってカクリツの問題じゃないと思う」
「んん゛ッ」

 預かり保育中に、家に帰ったら勉強しておこうと、思い出せなかった漢字のメモをとる俺の横で、地面に「驚異」を下手くそな字で書いてドヤ顔をしている幼女の名前はフィーナ・瀬良。
俺のミスをあげつらうのが趣味の子供ながらにウザいやつだ。こいつは俺が絢爛学園を『お受験』したいと言い出した後、すぐに自分も受けると言い出した。彼女の親のそれとない説得にも耳を貸さず、彼女のママはまるでイヤイヤ期に戻ったようだ、と俺の母にこぼしていた。多分俺に負けるのが嫌なんだろう、と彼女のママは考えていたし、それに俺も同意していた。

「それに、今からケンラン学園に受かるためには、『驚異』的な勉強量をこなさなきゃならないんだよ、もう9ヶ月とちょっとしかないし」
「あたしバカより勉強できるもん!」
「バカは使わないって俺と約束したよな?」
「あっ……だって名字が番家じゃん」
「返事は?」
「う……ごめん」
「いいよ」

バカって言われると、子供の言うこととはいえ、昔笑ってこの言葉を流していた自分のことを思い出して本当にムカつく。
今は違うのに。

「別にケンランがどんなとこかすら知らんだろうに」
「知ってるよ!ケンランって頭の良い人が通うところでしょ!」
「それって親の会話から予想つけただけだろ、それだけじゃないよ」

 絢爛学園は、頭がいい人が通う学校ではない。頭が良くてお金のある人が通う学校だ。そして彼女が絢爛学園に通えないのは、シングルマザーの彼女の家庭に金がないからだ。と言うか、世帯年収が700万あって、言っちゃあ悪いがまだ母が専業主婦で、ここからさらにお金を捻出できる可能性のあるうちの家庭だって母が困った顔をするくらいに、絢爛学園の授業料そのほかは高額だった。
 
(まあ、太鼓持ちしてるだけで札束をポンと投げてよこすレベルの金持ちがいるのを知ってるから俺は行こうとしてるんだがな)

 そういうシーンばっかり覚えてる俺って、と一瞬また思考がバッドに向かおうとした瞬間にフィーナが「う〜」と癇癪を起こ初めて俺は慌てた。

「大体、なんでそんなにケンランに行きたいんだよ」
「う〜!だって、だって行きたいんだもん!」
「だからなんでなんだよ」
「う〜」

 ついに駄々をこねて、彼女はその場にうずくまって「石」のポーズを取ってしまった。こうなると、てこでも動かない。
 いつもみたいに地面を転がして幼稚園の保育室に戻してしまおうと思った俺は、彼女が蹲った地面にポツポツと水が落ちていることに気づき激しく動揺した。
 夏で暑いからとか、そういう言い訳を一瞬だけ考えて頭を振った。瀬良が初めて泣くところを見た。あの子供らしくない瀬良が。

「S、いやA特だ」
「え?」
「成績順で上位20人。そこならフィーナはケンラン学園に通える、はずだ」
「20人」
「そうだ!俺『たち』は上位20人、いや1番、2番に入るんだ!」

 『デラックス学園』では、特待生たちの間で『賞金レース』なんて言い方をされていた特待生制度。それを、俺たちは本来の使い方で使ってやる。
 その言葉を聞いて思わず立ち上がったフィーナを俺は園に戻しながら、まあ実際は70人に入れば大丈夫だろう、と思っていた。
 今思えば、この心構え自体が間違いだったのだが。

 
 その日から彼女と俺は、暇さえあれば勉強をしていた。絢爛学園ともなると過去問ですら入手にそこらへんのゲーム機より高い金がかかる。
 しかも、今は(設定上)1990年代に入ったばかり。情報をインターネットから収集するためには金と知識が必要だ(インターネットエクスプローラがない!)。
 俺は子供の『ふり』をして買っていたカードとかゲームの類を自主的に一切断った。と言うか精神年齢が40代後半なのに親にゲームを買ってもらっていると言うこと自体はずべきことだったので渡りに船であったのだが。そうして、心理的に自分を許せる状況で親に何万とする過去問集を買ってもらい、しかもそれを瀬良に融通するというある種の出資者である親に対する裏切りを行いながら俺たちは勉強を続けた。
 

 前世は一次方程式で頭から湯気が出て、空間図形なんか頭の中にパソコンが入ってなきゃできないだろうと思っていた。
 それが今世ではどんな勉強でも『頑張れば』頭に入る。こんな楽しいことがあるだろうか?それに受かっても落ちても、勉強したことは今後の資産になる。
 そう自分に言い聞かせて長時間の勉強を俺は耐えた。フィーナは対面で鼻歌まじりに何時間でも勉強をしていたので、彼女の才能に慄くばかりであったのだが。
 
 「それにしてもよくそこまで勉強できるな」
 「ふーん、えらい?」
 「えらい!」
 「うふふふ、1番?」
 「1番!」
 「うふふ〜!いっちばん、にばん〜、ママも言ってたトンビがタカを産んだって〜、ワタシはタカよ!」
 
 鷹でいいのか?サラッと俺を2番に指差しながら彼女が楽しそうに歌う。こういうところを見ると、なんというか歳の離れた妹を見ているような気分になる。
 まあ俺の弟は中学の時に詐欺の受け子になってから音信不通になったことを考えると俺の兄力はマイナスだから関わらないほうがいいのかもしれないけど。

 そういう日々を何日も続け、夏がすぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ。

 そうして昨日、俺はお受験に落ちていた。


 「はあ〜、マジか〜」

 受験に落ちた奴にも春は来る。というか面接にすら進めてないじゃないか。学業成績は141番。俺は負けの1番にもならなかった。
 膝を抱えて部屋の隅っこでじっと時計を見ながらもう半日もこうしている気がする。掛け時計の秒針の音がいやにうるさい。
 正直なところ、勉強を初めて、半年くらいしたところで薄々落ちる可能性は感じていた。問題は解けるが、解く速度が上がらなくなったのだ。そして、想定問題から算出される合格可能性が常に『ギリギリ』合格から動かなくなった時点で俺はいつも満点か、一ミスしかしない瀬良に自身の点数を虚偽報告し始めた。点数が離れていく度、瀬良が表面上は俺のことをバカにしてくるのは変わらなかったが、段々その表情に心細さが混ざっていったのが耐えられなかった。彼女はいつの間にかバカにする代わりに俺を励ますようになって、それでそのことが辛くなったからだ。俺は、何十年と人生経験があるのに、自分の無能を認め切れるだけの度量が育っていなかったことをその時自覚し、そのことを直視するふりをすることで本当の問題から目を逸らし続けた。

 そして、次の日、俺はその真の問題を目の当たりにすることになる。

 「アタシ、受かったわ、一番よ!」
 「うん」
 「すごいでしょ、すご、すごいんだから」
 「うん、うん」
 「何とか言えよ!受かっだって!それだけでいいから!」
 「ごめん」
 「2番っでいっだのに!」
 「ごめん、ごめんなさい」
 

 彼女が俺の顔をべちべちと叩いて怒鳴る。そして、その彼女の顔にはかすかにアザがついていた。
 彼女は受かってしまった。世帯年収が300万円程度では通いきれない異世界に。

 「ママ、学校からのお手紙を読んだ後、私に凄い量の参考書を買ってきて全部解きなさいっていうの」
 
 そう言って彼女は俺にどこかの書店で買ってきたであろう小学生向けの問題集を見せてきた。ペラペラとめくって見せるそれは、はっきり言って、受験勉強を始める前の彼女でも解けるレベルの簡単なものだった。

 「それで、こんな簡単なの嫌だ、って言ったら、ママ、私をたたいたの」
 「なっ」
 「ママは、ママは喜んでくれると思ったの!だって、特Sだったらお金だって」
 「そのこと、ママさんに言ったのか、まさか」
 「だってそのほうが良いって、バンカだって言ってだ!」

 ああ。俺は瀬良のママの考えてることが分かってしまう。彼女の泣き顔が周囲の景色に混ざって滲んでいく。
 これから、瀬良のママは瀬良が特待生から落ちた瞬間、一瞬で払いきれなくなる授業料との恐怖と戦う事になる。
 今、瀬良が通っている幼稚園だって少し背伸びして入ってきているんだ。しかも、その娘の学力に瀬良のママが介入できることなんて何もないのに。
 瀬良のママは、君がどれくらい頭がいいのかを想像できない、俺と同じ側の人間なんだよ!
 
 泣くまいとする彼女を抱きしめて、俺はごめん、と言い続けた。前世から頑張ってなくてごめん。何年も生きてて、何も積み重ねてきてなくてごめん、バカでごめん。
 
 それ以降、俺の幼稚園の思い出といえば、卒園式の日、彼女が「迎えに来てよ」と俺に囁いてきたことだけを俺は覚えている。



 つまりそれ以外は大体忘れてしまったということなのだが。
 瀬良にとっては人生の半分以上を俺と過ごしていただろうが、俺にとっては40年分の数年。それに、人生は失点してもスコアボードに失点が刻まれるだけですぐ次の回が来てしまうものだ。しかも誰と比べるものでもないと、俺はこの体になってよく弁えるようになった。
 私立大の代わりに国立大に受かったらおまけで軽自動車を親が買ってくれるみたいなノリで(これもデラックス学園情報だから真偽不明だが)、両親が色々と買ってくれるのを再開してから、一瞬で勉強はそこそこに俺は遊ぶようになった。
 というか『人生に勝つ』ために王道で行く必要はない、と当初の決意も忘れ俺は前世頼りの人生成功法を探し始めた。
 俺は、父親に買ってもらったカードの著作者印字欄をじっと見つめながら考え込む。  
 例えば、スマホのアイディアを『剽窃』されない形で売り込むことができれば人生を半分くらい買う金が手に入るのではないだろうか。
 何たって今はフィクションの中とはいえ1990年代。2020年代から転生した俺からすれば30年のアドバンテージがある。
 どんなことしたって一生を買う金は手に入りそうな気がした。

 が、気がしただけであった。頭を抱えながら俺は「う〜」と理由は分からないがいつの間にか癖になっていた唸り声を上げた。
 前世の俺が馬鹿すぎてマジで知識がないのだ。

 スマホはどうやってできているのか?プログラミングでアプリってどうやって売り込むのか?ていうか税金ってどうやって払うの?
 専門知識どころか、一般常識すら前世で欠けていた俺は、滑り止めで入った結構お上品な小学校で、知能レベルは周囲と同じくらい(分野によっては下)なのに下ネタとか、絶妙な衛生観念のなさとかについていけず愛想笑いをするクソガキと化していた。しかもいつも人生の勝ち方を考えているヤベーやつ。

 「それでデラックスホールディングスの株がさあ、今のうちにネットで販売サイトの元締めになればさあ」
 「番家くんっていつもお金のことばっか喋ってない?」
 「他のこともしゃべってるでしょ!遠足のこととか!」
 「なんで番家くんって行事になるとありえないくらい張り切るの?」
 「へへ」


 だが、そんな俺にも一つだけ勝てるアイデアがあった。
 それは、前世で買い方が理解できなくてその波に乗れなかった『暗号資産』。
 ただ価値のないときに設備を揃えて手元に置いておくだけで魔法のように金に変わる不思議なデータ。

 もちろん、そのデータが金に変わるのはいつなのかは全く分からない。この世界は現実ベースとはいえ、フィクションであるが故、いくつか現実と大きく違うところがある。
 まず、特定の災害とか、読者に何かを思い起こさせかねないイベントが起こっていないこと。
 そして、そこに現実とバランスを取るために架空の災害が差し込まれていることだ。それは、現実への配慮なのか、リアルでは起こり得ない超常現象として描写されていた。
 俺は父親に少し無理を言って買ってもらった箱のようなパソコンで件のニュースサイトを読んでいた。


「昨日東京都渋谷区で、C-REXが数年ぶりに突如出現し、周辺から数百人が避難する事態となり3人が大怪我を負うーー」

 画面にはたっぷり数十秒かけて、プテラノドンが周囲を『溶かしながら』飛行している写真が描画された。これで、実は俺が前世で絢爛学園が実際に存在していることを知らないという可能性が潰れた。思わずガッツポーズをして、それからやばいと思って周囲を見回した。誰もいなかった。ほっと一息をついて、それでも少しだけテンションが上がった。
 CREX。近代社会に突如復活した、超能力を行使する現代の恐竜。それがコンプレックス(COMP REX)だ。この世界ではこの生物は正体不明とされ、逆にこの生物を解析することで人類が超能力を扱えるようになるのではないか、と期待されているものの、倒されると砕けてなくなるという特殊な性質からその研究は難航している。
 だが、その生物は、人間の劣等感から生まれるという事実が作品後半で明かされ、その後は個人でコンプレックスを纏って暴れる謎の組織と主人公たち『デラックス学園主人公部』とのバトルものにスライドしていく。そして、主人公たちにコンプレックスたちと戦うための武器を供給するのがデラックスホールディングスである。
 つまり、デラックスホールディングスの株を買えば10年後には金持ち確定なのだが、今でさえ1株で2万という狂気の価格のうえ、最低購入数が一万株という、それが買える頃にはもうゲームクリアしてるだろという人生のクリア後コンテンツであった。しかも本編開始後にはおそらく倍化するのでとても手が出せない。
 

 そこで暗号資産、仮想通貨だ。これなら仕組みさえ分かっていればただ同然で今なら買える!
 
 「とはいってもまだ発想すらないか、ハハハ……は?」

 そう言って実装されたばかりの灰色のインターネットエクスプローラーウィンドウでネットサーフィンをしていたら、
 なぜか漫画カテゴリ、のさらにオカルトカテゴリのなかに、なぜか「ウソカネ」という名前の漫画の議論掲示板があり、そこにどうも仮想通貨、という言葉が記載されているようだった。
 その内容は、全く仮想通貨の話ではなかった(世界中の紙幣が同じ見た目に統一されたが、それがある手順をふむと完璧な偽札になる、という内容)が、その掲示板のコメント欄に俺はかぶりつきで見入った。

  ヤマ:もし仮想通貨が出てきたら僕は一万円だけ買ってみるかな〜
  アッホー3世:全額買って世界を買うのが俺、俺、俺俺俺俺!
  濱口:漫画をよく読んでから発言してください。全然仮想通貨が何なのか分かっていないみたいですが、荒らすのはマナー違反ですよ


 仮想通貨を『買う』。漫画の内容からは全く出てこない発想だったが、逆に、ある条件を満たした人間からはこの発想しか出てこないはずだ。
 俺は、すぐにこの掲示板に書き込んだ。

  バカ:デラックスなことについて話し合いたいです、別の場所でパスは主人公の所属していた部活をローマ字で打ってください。
  濱口:今日は変な人しかいない……。


 そうして用意した掲示板で、俺はあの愛すべきバカたちと出会った。

デラックス学園サイキックス同好会

デラックス学園サイキックス同好会

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-20

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