尾上コンツェルンに国境はない。文豪作品、旧作夜景3~6、演歌・歌謡曲初期。

尾上コンツェルンに国境はない。文豪作品、旧作夜景3~6、演歌・歌謡曲初期。

 NKに食料及び半導体を提供する事になった。 
 SKから国境を超えて定期的に供与する事になる。同時に他国に対しても「半導体」の不足分を供与する事になっている。
 ただ、人類の使用している半導体の類は存在しなく、古代のdataから復元させた疑似仕様ものになる。
 其処で暫くの間人類が使用可能な状態に可変できる方法につき、三次元空間内で数人の社員達が教育研修に携わっている。
 兼ねてから同一素材からあらゆる物質を製造する事でほぼ無限に近い純益を計上してきた。
 という言語自体人類のものに合わせているだけで、利益も何も本来は不必要と言える。
 価値が無価値である事情は青い惑星で関知不可能なlevel。

 花街の茶店で行われている夕餉にはお馴染みの面々が顔を揃えている。雄二と三田綾子は人類と同化する為に数十年以上人類社会で生活を共にしてきた。
 その点若井夕子は二年程前に更に進化した生命として合流したという経緯がある。
 青い惑星に生命体が誕生し、やがて人類となった当初に近くを移動していた雄二達の先祖が生命体反応をキャッチし人類に接近した。
 その際に原始人類の不安を癒すため、神又は仏なるものを授けた。史上人類が様々に解釈をしてき今では社会問題迄になっているのも人類の志向性故。
 釈迦というものも初期の人類が思いめぐらしたもので、実在としているのが仏教での祖であり、海外でも関連する著書としてヘルマンヘッセの「シッダールタ」等がある。
 聖徳太子が同時に十人の人の話を同時に聞く事が出来たという事も、元は祖先達が全ての人類の頭脳を読む事が出来た事に通じる。
 というところで、時間が無くなったので、旧作を載せて終わる事にする。漱石の作品も載せたが、現代の言語では分かりにくいかも知れない。

 お終い。
 
 

 人生
夏目漱石



 空くうを劃くわくして居る之これを物といひ、時に沿うて起る之を事といふ、事物を離れて心なく、心を離れて事物なし、故に事物の変遷推移を名づけて人生といふ、猶なほ麕身きんしん牛尾ぎうび馬蹄ばていのものを捉へて麟きりんといふが如し、かく定義を下せば、頗すこぶる六つかしけれど、是を平仮名ひらがなにて翻訳すれば、先づ地震、雷、火事、爺おやぢの怖きを悟り、砂糖と塩の区別を知り、恋の重荷義理の柵しがらみ抔などいふ意味を合点がてんし、順逆の二境を踏み、禍福の二門をくゞるの謂いひに過ぎず、但たゞ其謂に過ぎずと観ずれば、遭逢さうほう百端ひやくたん千差万別、十人に十人の生活あり、百人に百人の生活あり、千百万人亦また各おの/\千百万人の生涯を有す、故に無事なるものは午砲を聞きて昼飯を食ひ、忙しきものは孔席こうせき暖あたゝかならず、墨突ぼくとつ黔けんせずとも云ひ、変化の多きは塞翁さいをうの馬に※(「迚-中」、第4水準2-89-74)しんにうをかけたるが如く、不平なるは放たれて沢畔たくはんに吟じ、壮烈なるは匕首ひしゅを懐ふところにして不測の秦しんに入り、頑固なるは首陽山の薇わらびに余命を繋つなぎ、世を茶にしたるは竹林に髯ひげを拈ひねり、図太づぶときは南禅寺の山門に昼寝して王法を懼おそれず、一々数へ来れば日も亦足らず、中々錯雑なものなり、加之のみならず個人の一行一為、各其由よる所を異にし、其及ぼす所を同じうせず、人を殺すは一なれども、毒を盛るは刃やいばを加ふると等しからず、故意なるは不慮の出来事と云ふを得ず、時には間接ともなり、或は又直接ともなる、之を分類するだに相応の手数はかゝるべし、況まして国に言語の相違あり、人に上下の区別ありて、同一の事物も種々の記号を有して、吾人ごじんの面目を燎爛れうらんせんとするこそ益ます/\面倒なれ、比較するだに畏かしこけれど、万乗には之を崩御ほうぎよといひ、匹夫ひつぷには之を「クタバル」といひ、鳥には落ちるといひ、魚には上がるといひて、而しかも死は即すなはち一なるが如し、若もし人生をとつて銖分縷析しゆぶんるせきするを得ば、天上の星と磯いその真砂まさごの数も容易に計算し得べし
 小説は此錯雑なる人生の一側面を写すものなり、一側面猶なほ且かつ単純ならず、去れども写して神しんに入るときは、事物の紛糾ふんきう乱雑なるものを綜合して一の哲理を数ふるに足る、われ「エリオツト」の小説を読んで天性の悪人なき事を知りぬ、又罪を犯すものの恕ゆるすべくして且憐あはれむべきを知りぬ、一挙手一投足わが運命に関係あるを知りぬ、「サツカレー」の小説を読んで正直なるものの馬鹿らしきを知りぬ、狡猾かうくわつ奸佞かんねいなるものの世に珍重せらるべきを知りぬ、「ブロンテ」の小説を読んで人に感応あることを知りぬ、蓋けだし小説に境遇を叙するものあり、品性を写すものあり、心理上の解剖を試むるものあり、直覚的に人世を観破するものあり、四者各其方面に向つて吾人に教ふる所なきにあらず、然れども人生は心理的解剖を以て終結するものにあらず、又直覚を以て観破し了おほすべきにあらず、われは人生に於て是等これら以外に一種不可思議のものあるべきを信ず、所謂いはゆる不可思議とは「カツスル、オフ、オトラントー」の中の出来事にあらず、「タムオーシヤンター」を追おひ懸かけたる妖怪にあらず、「マクベス」の眼前に見あらはるゝ幽霊にあらず、「ホーソーン」の文「コルリツヂ」の詩中に入るべき人物の謂いひにあらず、われ手を振り目を揺うごかして、而も其の何の故に手を振り目を揺かすかを知らず、因果の大法を蔑ないがしろにし、自己の意思を離れ、卒然として起り、驀地ばくちに来るものを謂いふ、世俗之を名づけて狂気と呼ぶ、狂気と呼ぶ固もとより不可なし、去れども此種の所為を目して狂気となす者共は、他人に対してかゝる不敬の称号を呈するに先さきだつて、己等おのれら亦曾かつて狂気せる事あるを自認せざる可べからず、又何時いつにても狂気し得る資格を有する動物なる事を承知せざるべからず、人豈あに自ら知らざらんやとは支那の豪傑の語なり、人々自ら知らば固もとより文句はなきなり、人を指して馬鹿といふ、是れ己が利口なるの時に於て発するの批評なり、己も亦何時にても馬鹿の仲間入りをするに充分なる可能力を具備するに気が付かぬものの批評なり、局に当る者は迷ひ、傍観するものは嗤わらふ、而も傍観者必ずしも棊きを能くせざるを如何いかんせん、自ら知るの明あるもの寡すくなしとは世間にて云ふ事なり、われは人間に自知の明なき事を断言せんとす、之を「ポー」に聞く、曰いはく、功名眼前にあり、人々何ぞ直ちに自己の胸臆を叙して思ひのまゝを言はざる、去れど人ありて思おもひの儘まゝを書かんとして筆を執とれば、筆忽ち禿とくし、紙を展のぶれば紙忽ち縮む、芳声はうせい嘉誉かよの手に唾つばして得らるべきを知りながら、何人なんびとも※(「足へん+厨」、第3水準1-92-39)躇ちゆうちよして果たさざるは是が為なりと、人豈あに自ら知らざらんや、「ポー」の言を反覆熟読せば、思半なかばに過ぎん、蓋けだし人は夢を見るものなり、思ひも寄らぬ夢を見るものなり、覚めて後冷汗背に洽あまねく、茫然自失する事あるものなり、夢ならばと一笑に附し去るものは、一を知つて二を知らぬものなり、夢は必ずしも夜中臥床の上にのみ見舞に来るものにあらず、青天にも白日にも来り、大道の真中にても来り、衣冠束帯の折だに容赦なく闥たつを排して闖入ちんにふし来る、機微の際忽然こつぜんとして吾人を愧死きしせしめて、其来る所固もとより知り得べからず、其去る所亦尋ね難し、而も人生の真相は半ば此夢中にあつて隠約たるものなり、此自己の真相を発揮するは即ち名誉を得るの捷径せふけいにして、此捷径に従ふは卑怯ひけふなる人類にとりて無上の難関なり、願はくば人豈あに自ら知らざらんや抔などいふものをして、誠実に其心の歴史を書かしめん、彼必ず自ら知らざるに驚かん
 三陸の海嘯つなみ濃尾のうびの地震之を称して天災といふ、天災とは人意の如何いかんともすべからざるもの、人間の行為は良心の制裁を受け、意思の主宰に従ふ、一挙一動皆責任あり、固もとより洪水こうずゐ飢饉ききんと日を同じうして論ずべきにあらねど、良心は不断の主権者にあらず、四肢しし必ずしも吾意思の欲する所に従はず、一朝の変俄然がぜんとして己霊の光輝を失して、奈落ならくに陥落し、闇中に跳躍する事なきにあらず、是時このときに方あたつて、わが身心には秩序なく、系統なく、思慮なく、分別なく、只一気の盲動するに任ずるのみ、若し海嘯地震を以て人意にあらずとせば、此盲動的動作亦必ず人意にあらじ、人を殺すものは死すとは天下の定法ぢやうはふなり、されども自ら死を決して人を殺すものは寡すくなし、呼息逼せまり白刃はくじん閃ひらめく此刹那せつな、既に身あるを知らず、焉いづくんぞ敵あるを知らんや、電光影裡えいりに春風を斫きるものは、人意か将はた天意か
 青門老圃らうほ独ひとり一室の中に坐し、冥思めいし遐捜かさうす、両頬赤せきを発し火の如く、喉間こうかん咯々かく/\声あるに至る、稿を属しょくし日を積まざれば出でず、思を構ふるの時に方あたつて大苦あるものの如し、既に来れば則ち大喜、衣を牽ひき、床を遶めぐりて狂呼す、「バーンス」詩を作りて河上に徘徊はいくわいす、或は呻吟しんぎんし、或は低唱す、忽ちにして大声放歌欷歔ききょ涙下る、西人此種の所作をなづけて、「インスピレーション」といふ、「インスピレーション」とは人意か将はた天意か
 「デクインシー」曰く、世には人心の如何いかに善にして、又如何に悪なるかを知らで過ぐるものありと、他人の身の上ならば無論の事なり、われは「デクインシー」に反問せん、君は君自身がどの位の善人にして、又どの位の悪人たるを承知なるかと、豈あに啻たゞ善悪のみならん、怯勇けふゆう剛弱高下の分、皆此反問中に入るを得べし、平かなるときは天落ち地欠くるとも驚かじと思へども、一旦事あれば鼠糞そふん梁上りやうじやうより墜おちてだに消魂の種となる、自ら口惜しと思へど詮せんなし、源氏征討の宣旨せんじを蒙かうむりて、遥々はる/″\富士川迄押し寄せたる七万余騎の大軍が、水鳥の羽音に一矢いつしも射らで逃げ帰るとは、平家物語を読むものの馬鹿々々しと思ふ処ならん、啻たゞに後代の吾々が馬鹿々々しと思ふのみにあらず、当人たる平家の侍共さむらひどもも翌日は定めて口惜しと思ひつらん、去れども彼等は富士川に宿したる晩に限りて、急に揃ひも揃うて臆病風にかゝりたるなり、此臆病風は二十三日の半夜忽然吹き来りて、七万余騎の陣中を馳かけ廻めぐり、翌くる二十四日の暁天に至りて寂せきとして息やみぬ、誰か此風の行衛ゆくゑを知る者ぞ
 犬に吠ほえ付かれて、果はてな己は泥棒かしらん、と結論するものは余程の馬鹿者か、非常な狼狽者あわてものと勘定するを得べし、去れども世間には賢者を以て自ら居り、智者を以て人より目せらるゝもの、亦此病にかかることあり、大丈夫と威張るものの最後の場に臆したる、卑怯ひけふの名を博したるものが、急に猛烈の勢を示せる、皆是れ自ら解釈せんと欲して能はざるの現象なり、況いはんや他人をや、二点を求め得て之を通過する直線の方向を知るとは幾何学きかがく上の事、吾人ごじんの行為は二点を知り三点を知り、重ねて百点に至るとも、人生の方向を定むるに足らず、人生は一個の理窟に纏まとめ得るものにあらずして、小説は一個の理窟を暗示するに過ぎざる以上は、「サイン」「コサイン」を使用して三角形の高さを測ると一般なり、吾人の心中には底なき三角形あり、二辺並行せる三角形あるを奈何いかんせん、若もし人生が数学的に説明し得るならば、若し与へられたる材料よりXなる人生が発見せらるゝならば、若し人間が人間の主宰たるを得るならば、若し詩人文人小説家が記載せる人生の外に人生なくんば、人生は余程便利にして、人間は余程えらきものなり、不測の変外界に起り、思ひがけぬ心は心の底より出で来る、容赦なく且かつ乱暴に出で来る、海嘯と震災は、啻たゞに三陸と濃尾に起るのみにあらず、亦自家三寸の丹田たんでん中にあり、険呑けんのんなる哉かな
(明治二十九年十月、第五高等学校『竜南会雑誌』)



 数年前のもので、当時はamebaもHTMLに別途に画像を貼り付けなければならなかったので、おかしなものになる可能性がある。。
 また、Googleも経営難や著作権の関係で、動画を察知すると没にする様になったので・・果たして再現されるのかは不明・・。

 3

<strong><font size="3"><font size="7">夜景</font><font size="5">(</font><font size="5"></font>

<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg" alt="" border="0"></a>
<font size="5">3</font>

洗足の駅まで優子を迎えに行った。
一男の引越しの日で、優子が手伝いに来てくれたのだ。
「おはよう、今日は宜しくお願いします」
「お役に立てるかな、ところでこの辺ってお屋敷が多いのね」
今日はグレーに模様の入ったTシャツの上にターコイズブルーのデニムシャツをカーディガン風に、黒スキニーパンツ、白いソックスに草色に白が混じった豹柄パンプスという出で立ち。
下宿に帰ったら、運送屋が小型トラックを停めて待っていた。
「このトラックで全部運べるの?」
「大した荷物じゃないから大丈夫」
荷物の一部は、自分で二階から降ろして表に置いておいた。
「いいギターね、上手いんでしょ?」
と言いながら、ギターを弾く真似をする。
「上手いかどうか、小学校6年の頃からやっているから、ポピュラーな曲は大抵弾けるけれど」
一人では運べない机や本棚などは二人で二階から下ろした。
女性にこんな事をさせるのは不味かったかな、友人に頼めば良かったかなと思ったが。
二人で荷物を車に積み込む。
「やっぱり、本が沢山あるわね」
「優子さんの知っている本ばかりでしょう」
「志賀直哉、武者小路実篤、芥川龍之介・・・成る程、私と同じ様な好みみたいね」
「最近買った本はあまり無いから、旧い本ばかりだけど」
大した量では無かったからすぐに積み終わり、二人を乗せた車は環状七号線を走り馬込のアパートに着いた。
六畳の部屋は二階だったから、アパートの外階段から運び込んだ、鉄製の階段だから結構足音が響く。
「さっぱりとしたお部屋じゃない」
「うん、まあ、学生の一人住まいだからね、片付いたら、また遊びに来てよ」
「そうね・・本のお話なんかするにはこういう所のほうがいいと思うわ」
一男は、優子が今度来てくれたらギターも弾いて聴いて貰おうと思った。
「どうもお疲れ様でした、ありがとう、お腹空いたでしょう」
引越しが終わってから、近くの中華料理屋で昼食を取った。
「これからどうしようか?」
「渋谷にでも行ってみる?この前一男さんが言ってたジャズ喫茶とかいろいろ行く所がありそうだから」
アパートから大森の駅までは丘の上にある山王という高級住宅街を歩いて抜ける、バスもあるのだが本数が少ない。
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大森の駅の手前にある小さなお地蔵さんを拝む。
「優子さん、何をお願いしているの?」
僕は決まっているけれどと一男は思った。
大森駅からJRに乗り、品川で乗り換え渋谷のハチ公前に出た。
先ずは、NHKのスタジオパークに行くことにした。
人で混み合っているスクランブル交差点から公園通りを抜け、嘗(かつ)ては紅白歌合戦の会場だった渋谷公会堂の前の放送センターに着く。
<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/9b/4f/p/o0213016013523533137.png"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/9b/4f/p/t02130160_0213016013523533137.png" alt="" width="400" height="200" border="0"></a>
スタジオを見て廻る、連続ドラマなどを撮影中のスタジオもあり、有名な俳優を見れることもある。
今日は日曜だから、日曜バラエティーというラジオ番組の生放送をやっている、歌手が歌ったりゲストのタレントのお話があったり。
「あの司会者は山田邦子じゃない?」
「そうだね、ラジオ第一でやってるやつかな」
更に歩いていくとサンダーバードや紅白歌合戦の歴代の展示があったりする。
体験コーナーが幾つもあって、スタジオパークNEWSから廻ることにする。
「僕はニュースキャスターをやってみよう」
「じゃあ、私がカメラマンね」
次に優子がお天気キャスターをと楽しんで、写真を撮る。
クリエイティブラボでは優子が映像素材と音楽素材・キャラクターを組み合わせてオリジナル映像ストーリーを作った。
「映像と音を操(あやつ)れて面白いわね」
「なかなかいいよ、優子さんの作品」
アニメファクトリー、二人が声優になりきってアニメの台詞にペアでチャレンジした。
ネイチャーカメラマンでは
「これは危険な動物なんかを遠くから撮る時に使うカメラなんだって」
二人で様々な特殊カメラを操り自然番組を撮影する。
メディアウォール、それぞれカラフルな画面に触れて、歴代のドラマや歌番組が飛び出してくるのを楽しむ。
NHKクエストでクイズにチャレンジし、ワールドでは様々な言語で収録中のラジオスタジオを見学する。
「あ、これ知ってる、ためしてガッテンだ」
「大河ドラマや連続テレビ小説をやってるわ、衣装もあるし」
二人ともまるで、子供のように楽しんだ。
「本当に楽しかったね、」
外人も見学に来ている、優子が英語で何か話している。
ここで、一男は優子が英会話ができるということに気が付いた。
「優子さん英語話せるんだ?」
「外国人の友達がいるから話さないわけにいかないから」
優子は、頷きながら国際放送を聴いていた。
NHKを後にして、宇田川町を抜け、東急百貨店本店に行く。
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「優子さん、何時もお洒落な格好をしているけれど、デパートなんかで買い物するの?」
「お洒落じゃないよ、横浜のそごうなんかで買うことはあるけれど・・」
・・・と、優子があらぬ方を見て、
「あれっ、ジャーメインじゃない!私の友達の・・」
前に聞いたことがある名前だ。
「ジャーメインさんって、前に東京タワーで話してくれた・・あの人?」
「そう、フィリピン人なのよ」
「覚えてる、お父さんがフィリピン大使館に勤めていて、大学の図書館で読んでいた英語の本を勧めてくれた人でしょう?」
「そうよ、ジャーメイン!」
と優子は小さく手を振る。
「Oh yuuko!・・・」
向こうも手を振る、ゆったりとした動作で。
優子と彼女との間に英語が飛び交う。
一男には殆どわからなかったが・・。
どうやら、友達と一緒にショッピングに来たらしい。
婦人服売り場の横のソファに腰掛けて三人で話をしている。
一男の事を紹介したようだ。
「Hello! Kazuo」
「Hello! Ms Germane」
一男も簡単な挨拶くらいはできた。
話は間も無く終わった。
「Good-bye, see you again」
「Bye!」
ジャーメインの家は横浜山手の優子の家の近くらしいから、また会うこともあるだろう。
デパートを出て、道玄坂の元ヤマハミュージック(音楽ファンに惜しまれながらも閉店・・現在は無い)の前を通る。
「ここは5年位前まで、多くの音楽愛好家やポピュラーミュージック系アーティストに親しまれてきた店だったんだ、いろんなヤマハの楽器や楽譜が見られたんだ」
「そうなの?ヤマハのピアノは知っているけれど」
「約40年間の間に多くのミュージシャンが生まれ、エレキギターはサンタナや高中正義が使用したのと同じようなSGシリーズが飾ってあったんだ、2010年に閉店したんだけれど・・あ~高中正義やサンタナとか知らないよね?」
「知らないけれど、ギタリスト・・?」
「そう・・ヤマハのギターSGを使ってたんだ、僕のギターでも真似事はできるから・・今度優子さんにも聴いて貰おうかな・・」
「そうね、楽しみにしてる」
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もう陽は落ち始めている。
道玄坂の交番前から近い「J・B・S渋谷」というジャズ喫茶に入る。
<a <a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151228/00/europe123/d1/14/j/o0240024013524126836.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151228/00/europe123/d1/14/j/t02200220_0240024013524126836.jpg" alt="" width="400" height="300" border="0"></a>
広くないスペースに、何人かの客が座ってスピーカーから流れてくる音楽を聴いている。
二人が席を確保した後、一男はジョン・コルトレーンの「マイ・フェイヴァリット・シングス」をリクエストした。
ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の劇中曲をカバー、コルトレーンのソプラノ・サックスがいい。
ピアノはマッコイ・タイナー、スティーヴ・ディヴィスのベース、ドラムはエルヴィン・ジョーンズ。
ドリンクを飲みながら優子が、
「この曲映画で有名だから私も知ってる」
<iframe width="459" height="344" src="https://www.youtube.com/embed/rAtwTQLJV58" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>
一男は、優子が気に入ってくれるかどうか心配だったが、先ず先ずのようである。
渋谷のジャズ喫茶は「Mary Jane」「swing」「J・B・S渋谷」等。
70~80年代のジャズ・ブルース・ソウルなどのレコードが壁一杯に並べてある。
スピーカー:アルテック・カーメル、アンプ:マッキントッシュMX110+MC60、マーク・レビンソン LNP-2Lプリ
プレーヤー:トーレンスTD-124,TD-124(復刻)のツイン
アーム:SME3009(現在も同じかどうかはわからないが)
1時間ほど次々に流れてくる曲を聴いた。
店を出ると渋谷の街の灯りが辺り一面に拡がっていた。
<a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20171125/01/europe123/07/7b/p/o0275018314077523683.png"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20171125/01/europe123/07/7b/p/o0275018314077523683.png" alt="" border="0"></a>
「ロシア料理なんか食べない?前に下宿にいた先輩と行ったことがある店を知っているんだ」
「ロシア料理?面白そうね、行ってみよう」
円山町に在る「サモワール」に入る、小さな店だが常連が多い。
「僕はウォッカを頼むね、優子さんはロシアの・・甘いけど・・クアスなんかどう?」
「じゃあ、それにしようかな」
「すみません、ウォッカとクアスそれとボルシチとペリメニも下さい」
昔ながらのロシア料理にウォッカとクアス。
一男は目の前のウォッカと優子を交互に見ながら
「ねえ、優子さんウォッカ少し飲んでみない?」
「いいの?じゃあ戴く」
優子はウォッカの入ったグラスを持って口をつける。
「う・・カーッとする・・」
と言ってグラスを戻した。
「強いでしょ・・50度くらい、でもスピリタスなんていうウォッカは96度あるんだよ、世界最強じゃないかな」
「アブサンより強いのね」
「ははっ、そうだね、僕も後はクアスにしよう、すみません、クアス一つ下さい」
と言って一男は残ったウォッカをグッと飲む。
「き~、きくなー」
二人で料理を摘みながら、クアスを飲む。
(因みに、この店は今は池尻大橋と三軒茶屋の中間に移転している。メニューも違うかも知れない。)
「ねえ、この後私のお薦めの場所に行かない?」
「いいけど・・何処かな?」
「私の知り合いがやっているレストランバーが、セルリアンタワー東急ホテルの中に在るの」
「へ~、知り合いがセルリアンタワーの中にいる・・じゃなくて・・知り合いのお店が入っているの?」
「ワインになっちゃうけど・・いい?」
一男は、セルリアンタワーといったら、高層ビルのホテルだということは聞いたことがあった。
<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/be/86/j/o0800035513523535354.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/be/86/j/t02200098_0800035513523535354.jpg" alt="" width="350" height="250" border="0"></a>
かくして、二人はまた渋谷の街の灯りを見ながら、歩くことになった。
一男が歩きながら、
「あそこで、ウォッカ飲み過ぎなくて良かった・・」
並んで・・腕を組んで・・道玄坂から国道246号の方に向かう。
「ワインが美味しいわよ」
タワーのエレベーターを呼ぶ、中に入って上部の表示を見ながら一男が、
「何ていう店?何階?」
「ベロビスト、40階だわ」
高速エレベーターが空気を切りながら、あっという間に二人を40階まで運ぶ。
ドアが開くと、辺り一面薄暗い中に様々な色の光の粒が取り巻いているように見えた。
<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151226/15/europe123/21/67/j/o0800048013522567302.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151226/15/europe123/21/67/j/t02200132_0800048013522567302.jpg" alt="" width="400" height="300" border="0"></a>
優子が店の入り口で、スーツを着た男性と話をしている。
「さあ、行きましょう」
男性が笑いながら二人を窓際の席に案内してくれた。
「凄いコネだね・・」
一男は本当にびっくりした。
今度は制服の男性が、手の平に、ワインのボトルと二つのグラスに食べ物がのったトレイをのせて。
「今日は、プイィ フュメ バロン ド エルです、どうぞごゆっくり」
「何、そのプイ・・・とかいうのは?」
「ワインの名前よ、フランスの」
「何か高そう・・」
「大丈夫、サービスだから」
「凄いサービスだね、それに・・この夜景・・半端じゃないな、凄いよ」
一男は「凄い」の連発をする。
さり気なくメニューを見たら、プイ・・は 1本 29、700円だった。
夜景を見ていると心が落ち着く。
<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151226/16/europe123/4e/32/j/o0800048013522624922.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151226/16/europe123/4e/32/j/t02200132_0800048013522624922.jpg" alt="" width="350" height="300" border="0"></a>
先ずは一男が。
「ねえ、武者小路実篤なんかどう思う?」
「そうね、川端康成みたいな綺麗な文章では無いけれど、ストーリーは面白いと思う」
「どれも優劣付けがたいけど、彼の作品だったらどんなのが好み?」
「いろいろあるけれど、『友情』とか『愛と死』なんかが代表的じゃないかな」
「友情っていうと三角関係という感じのやつだね」
「現実によくありそうな話ね、野島が友人の妹の杉子に恋をする、一方野島とかたい友情で結ばれた大宮が、EUROPEに旅立つ」
「大宮は実は、杉子が好きだったから敢えて冷たい態度をとっていた・・野島との友情があるから・・で、野島が杉子に振られちゃう・・杉子がEUROPEに追いかけて行く・・野島は恋人と友人を一度に失ってしまう」
「どっちかというと、人の心を素直にお話にする人だよね」
「愛と死なんかも泣かせるわ」
一男が
「そうだね、悲しい話だ・・小説家の端くれである村岡は尊敬する小説家で友人となった野々村の元へ訪問するようになり、野々村の妹である夏子と知り合い、最終的に村岡の巴里への洋行後に結婚をするまでの仲になる。」
優子が
「そして・・悲劇が・・半年間の洋行の間でも互いに手紙を書き、帰国後の夫婦としての生活に希望を抱きカレンダーを毎日塗り潰す様に夏子との出会いを待っていたが・・帰国する船の中で、電報によって夏子の急死を知らされる・・なんて悲しい結末ね・・」
一男と優子は互いにワインを注ぎ合ってはグラスを口に運ぶ。
<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151226/16/europe123/be/8d/j/o0800048013522624923.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151226/16/europe123/be/8d/j/t02200132_0800048013522624923.jpg" alt="" width="400" height="300" border="0"></a>
「美味しい白ワインだったね」
「他にもいろいろあるから、どう?」
「何か敷居が高くて・・でも、こんな機会は滅多に無いから戴こうかな」
メニューを見たら、11万以上する酒もある。
「今度は赤ワインにしようか? グラン ヴァン ド ボルドーは流石にオーダーものだから、このシャトー グリュオ ラローズにでもしよう」
優子がメニューを指差してからオーダーする、これも2万以上する、普通ならサラリーマンだってなかなか手が届かないのではないか、学生さんが・・・しかし、優子の置かれている環境がどんなものかは何れわかるようになる。
ガラス越しに見える光の宝石はこれでもかというくらいに燦然(さんぜん)と輝いている。
<iframe width="480" height="270" src="https://www.youtube.com/embed/sEZKcYn7API" frameborder="0" gesture="media" allowfullscreen></iframe>
夏目漱石の名言が浮ぶ。
『食いたければ食い、寝たければ寝る、怒るときは一生懸命に怒り、泣くときは絶体絶命に泣く。』
もうこうなったら、その心境でいくしかないな・・と思った。
同時に自分にとって、優子は相性が良い素晴らしい恋人だと思った。
もう一つ名言が浮ぶ。
『恋心というやつ、いくら罵りわめいたところで、おいそれと胸のとりでを出ていくものでありますまい』
<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/f5/40/j/o0767050213523535352.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/f5/40/j/t02200144_0767050213523535352.jpg" alt="" width="400" height="300" border="0"></a>
優子が言った。
「ねえ、提案なんだけれど、これから作品のお話をする時に書き出しとか終わり方なんかが感じがいい作品を一つ挙げるというのはどうかしら」
「いいね、でも調べないといけないな・・全部は覚えてはいないから。今日は何にしようかな、覚えているところで漱石の『我輩は猫である』なんかはどうかな」
「いいわね、誰にもわかりやすくて面白い」
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ・・・」
「書き出しが1人称で、読み始めに驚かされる文章ね」
「書き出しに驚かすといえば志賀直哉の『城之崎にて』もそうだけれど」
「山の手線に跳ね飛ばされて怪我をした・・その後養生に・・一人で但馬の城之崎温泉へ出掛けた・・・いきなり『電車に跳ねられた』んじゃ驚くな」
「それで温泉で治るのかしらね?」
と優子は笑う。
二人とも飽きずに・・話は弾む・・気が合うんだろう。
不夜城の光は輝くことをやめようとはしない。
時間の経つのが早く感じられた。
大学の図書館でまた会うことになるだろう。
その時に優子の家に・・という話も出るかもしれない。
二人とも、お店の人に丁寧にお礼を言ってエレベーターに乗った。
ハチ公前まで腕を組んで・・下り坂を歩く。
一男は優子と一緒に東急東横線の自由が丘まで行った、そこから大井町線に乗り換える。</font></strong><font size="3">
<strong>「また、図書館でね・・」
「今日は引越しまで手伝わせちゃったし、疲れたでしょう、ゆっくり休んで・・」
優子が車内から小さく両手を振る・・。
一男は右手をあげたまま・・。
電車の赤い尾灯が遠ざかっていく・・街の灯りに溶け込むように。
月が微笑んでいた。




<strong><font size="3">

<font size="7"><strong>夜景</strong></font><font size="5"><strong></strong></font>

</font></strong><p><strong><font size="3">

<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg"><img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg"></a>

<font size="5"><strong>4</strong></font>

<span style="font-style:italic;"><span style="color:#0000FF;"></span></span> <span style="color:#009900;">

</span>


優子は講義が終わって、大学の図書館の階段を上がる。
今日は一男のほうが先に来て待っていた。
「お待たせ」
「僕もちょっと前に来たばかりだから・・この前約束した書き出し等が感じがいい作品の話をしなくちゃね」
図書館でお喋りも気を使うからと、仲通りの喫茶店に入る。
「また漱石だけれど『我輩は猫である』を書き終えてから10日後に執筆を開始し二週間後に完成したという、『草枕』の冒頭は有名だよね」
「山路を登りながら、かう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。」
「意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」
「そう、それ、そこがいい」
「でもストーリー性は漱石の他の作品に比べればやや派手さが無いかもしれないけれど」
「主人公の画家の青年が言っている『小説なんか初めから終いまで読む必要はないんです。けれども、どこを読んでも面白いのです』って」
「芸術論を随分念入りに書いているわね、漱石もそれを強調したかったようだし、情景描写が綺麗、文章が素晴らしい、不人情でなく非人情という言葉も面白いし」
「那美という女性が自分が池に身を投げて浮いている姿を絵に描いてくれと言う、画家は物足りないから絵にならないと言ったが、最後に出征兵士を見送る那美の顔に「憐れ」が浮んでいるのを見て『それだ、それだ、それが出れば絵になりますよ』と那美の肩をたたき『余が胸中の画面はこの咄嗟(とっさ)の際に成就したのである』という終わり方も余韻を残して、如何にも天才漱石らしい」
「漱石の文章というのはこの作品に限らず独特の味わいがあるわね」
「そうだね、漱石についてはまた別の作品でも話をすることになると思うけれど、本当にいいね、文章を味わうということは」
作品についての二人の話は言外にお互いの心の中に拡がっていった。
「ところで、今度の休み何処に行こうか?」
「家に来ない?」
一男は来たなと思った。
「そうだね・・それはいいけれど僕が突然行ったら家の人が驚くんじゃない?」
「大丈夫よ、もう母と弟にはあなたの話をしてあるんだ」
「ええ、そうなの?」
「いきなりで来にくいなら私と一緒に来ればいい」
「そうか・・それもそうだね」
どんな家なんだろう・・不安と好奇心が渦巻いている。
ウイークデーはすぐに過ぎた。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/93/0a/j/o0300022513532610518.jpg"

その日は優子と横浜のそごうデパートで待ち合わせをし、昼食はデパートで食べた。
今日の優子は、黒に細いオレンジの大き目の格子が入ったカットソーに、ダークグレーのガウチョパンツの上からベージュのロングトレンチコートをさらっと羽織っている、長い髪に似合っている。
婦人服売り場に顔を出し、デパート内をぶらぶらした後JRの根岸線に乗る。
優子の家は横浜の山手にあった。
二人は根岸線の桜木町の駅で降り、並んで客待ちをしていたタクシーに乗ると、優子が運転手に行き先を告げた、それがこの山手である。
車は馬車道から中華街の脇を通って坂を上がっていく。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/6c/96/j/o0259019413532610519.jpg"

山手と言えば高級住宅街である。
近くには、外国人墓地や港の見える丘公園等が有る。
やはり、タクシーから降りたら目の前に大きなお屋敷が待ち構えていた、優子の家である。
優子の父である野宮哲夫は、東京の多摩に有る野宮病院の院長であると優子から聞いていた。
野宮病院は、その地域では有名な総合病院である。
家も立派なわけだと一男は思った。
大きな門を通りドアを開けると、広い洋室の空間が待ち構えていた、一応間仕切りはあるのだが、何処までが一部屋なのか分からないほど広い。
「こちらが一男さん」
「こんにちは、お邪魔します」
「よくいらっしゃいましたね」
ゆったりとしたソファに腰掛けて優子の母親と対面する。
目の前のテーブルには立派なガラスの灰皿と葉巻が置いてある。
葉巻を勧められて、銜(くわ)えてみた、上等の葉巻のようで香りが素晴らしいし、味?も良い。
大学の事や馴れ初めなどを話す。
「お父様は学校の先生ですって?」
「ええ、そうです、小学校の」
別に緊張はしなかった、事実を話すだけだ、一男の家のことも優子が話してあったようだ。
「ああ、いらっしゃい」
弟も顔を出した、後から聞いたのだが、大学1年生でもうフジテレビに就職が決まっているようだ、家の繋がりだろう。
「これ、弟のイタリアのお土産のネクタイ、一男さんの事話してあったから」
「え、いいの?どうもありがとう、イタリアか・・」
一通りの挨拶は終わって、優子の部屋に案内された。
「ここが優子さんの部屋か、綺麗な部屋だね」
「一男さんのアパートだってこじんまりとしていいじゃない」
そういう褒め方もあるんだなと思っていると、ドアをノックする音がして、返事をすると、中年の男性が入って来た。
「こちら、私の主治医の先生なの」
「主治医って?ああ、そうか、病院を経営しているから医者は何人もいるんだろうな、それにしても主治医とは凄いな」
一男は独りごちた。
大きな家にしては優子の部屋は小奇麗にしてあって、ベッドと本棚と机や衣装箪笥が置いてある。
「野宮病院って知っているよ、バスで前を通ったことがあるから、多摩の大きな総合病院だよね」
病院に行っているのか父親には逢わなかったが、1時間くらいはいたであろうか、無事何事も無く快適な時間を過ごすことができた。
「今日は、本の話は後にしてジャーメインの家にでも行ってみましょう、近くだから」
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/98/a6/j/o0259019413532610521.jpg">
お礼を言って家を出て、外国人墓地方面に歩いていくと大きな洋館があった。
外人の家だから土足で入るのだ。
ドアを開けると中年の女の人が出てきた。
優子が紹介をしてくれた人はメイドさんだそうだ、フィリピン大使館に勤めているくらいだから、それとも外人の家は結構そういう家が多いのかなどと思った。
メイドさんが奥に入ると入れ替わりにジャーメインが出てきた。
優子が挨拶と一男の紹介をした、前に渋谷の東急デパートで会っているから会うのはこれで二回目だ。
英語が飛び交うが早すぎて一男には何を言っているのかわからない。
優子が言うには会話の相手にも早口だと言われるそうだ、英語の早口なんていうのもあるのだなと思った。
三人で外国人墓地まで歩いていく、一男は横浜はよく知らない。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/f9/2f/j/o0259019413532610522.jpg">
外国人墓地も墓には違いないが十字架だらけで、日本の墓地とは全く違って明るい印象がする。
来た道を戻って港の見える丘公園に行く。
<img style="HEIGHT: 194px; WIDTH: 276px" border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/de/1d/j/o0259019413532612753.jpg" width="276" height="194">
<strong><img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/72/66/j/o0275018313532610520.jpg"></strong>
「何か東京の公園とはまた違って緑や花が多いし、整然としていて綺麗だね」
「あっちに行くと眺めがいいわよ、海や街が見えるから行ってみましょう」
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/39/9c/j/o0275018313532612752.jpg">
「確かにいい眺めだね、向こうにベイブリッジ、手前には山下公園に氷川丸とマリンタワーが見える」
「後で行って見ましょう、ここから見える夜景も素晴らしいわよ」
「いいな、毎日こんな景色が見れるなんて、羨ましいよ」
三人で近くのレストランに入り、コーヒーを飲んだ。
迫力のある英会話が飛び交う。
「Bye!」
ジャーメインとは店を出て別れた。
バスに乗り山下公園に行く、陽が傾いてきている。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/b3/39/j/o0259019413532612754.jpg">
氷川丸と人形の家を見学し、マリンタワーを上がる頃には夕闇もGood byeして、ブルーにライトアップしたタワーが綺麗だ。
<img style="HEIGHT: 194px; WIDTH: 275px" border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/28/68/j/o0259019413532625626.jpg" width="275" height="194"><a
</a>
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/92/68/j/o0275018313532625627.jpg">
「港の夜景が綺麗だね」
「そんなに高くは無いけれど、浜っ子には此処が似合っているのよね」
「夕食はどうしようか?作品の話もしたいしね」
「ランドマークタワーでも行きましょうか?」
「そうだね、中華街もいいけれどまた来ればいいからね」
ランドマークタワーは地上70階高さは296メートルの日本一(今は違うが)の超高層ビルである。
日本最速のエレベーターは2階から69階までを40秒で結ぶ。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160105/17/europe123/3c/d8/j/o0291017313532639837.jpg">
「上のレストランに行こう?」
「もう、横浜は優子さんに任せるよ」
高速エレベーターが音も無く風を切り、68階に着く。
ドアが開くと天空に色とりどりの宝石が散りばめられていた。
<iframe width="480" height="270" src="https://www.youtube.com/embed/eRqCHt3xXas" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>
席も空いていたから二人共ゆったりと寛げる。
「今日は、お邪魔したけれど楽しかった、やはり、僕にとってはいろいろ驚く事もあったけれど。」
「どう致しまして、私も来てくれて嬉しかった」
「でも、小さな僕のアパートにもまた来て貰いたいな、見栄えはしないけれど」
「勿論、近いうちにまたお邪魔することになると思う、アパートってこじんまりして本の話をするには、向いているじゃない」
優子が赤ワインと食べ物をオーダーした。
ワイングラスで乾杯をした。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160106/12/europe123/34/4b/j/o0800050013533313572.jpg">
「漱石が続くけれど・・この景色を見ながらだと落ち着いて話せるな、明るい『坊ちゃん』なんかいいかもしれないな」
「ストーリーは分かりやすいけれど、文章の魔術に酔える雰囲気ね」
「書き出しは如何にも漱石らしい」
「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。」
「小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。」
「二階から飛び降りたら大怪我をしない方がおかしいようなものだね」
「坊ちゃんの話は親しみやすいけど文章が味わいがある」
優子が一男のグラスにワインを注いでくれる。
一男も一口飲んでから、優子のグラスに注ぎながら話す。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160106/12/europe123/52/a3/j/o0800053313533313571.jpg">
「僕は中学校の時に始めて読んだけれど、それからずっと・・余韻が残ったというかいいなと思ったところがあるんだけれど・・何処かわかる?ヒントは可愛がってくれた下女の清なんだけれど」
「う~ん、わかる・・最後のところじゃない?」
「ええっ?よくわかったね」
「『山嵐とはすぐ分れたぎり今日まで逢う機会がない。』で行動を共にした人と別れてしまって何か淋しいような気がするところに、次の文がいいのよね」
「そうなんだ、読んでいた僕が淋しくなってしまったところに・・『清(きよ)の事を話すのを忘れていた。――おれが東京へ着いて下宿へも行かず、革鞄を提げたまま、清や帰ったよと飛び込んだら、あら坊っちゃん、よくまあ、早く帰って来て下さったと涙をぽたぽたと落した。おれもあまり嬉しかったから、もう田舎へは行かない、東京で清とうちを持つんだと云った。その後ある人の周旋(しゅうせん)で街鉄(がいてつ)の技手になった。月給は二十五円で、家賃は六円だ。清は玄関付きの家でなくっても至極満足の様子であったが気の毒な事に今年の二月肺炎に罹(かか)って死んでしまった。死ぬ前日おれを呼んで坊っちゃん後生だから清が死んだら、坊っちゃんのお寺へ埋て下さい。お墓のなかで坊っちゃんの来るのを楽しみに待っておりますと云った。』で・・また淋しくなっちゃうんだな」
「そして一男さんがボーッとしてしまったのは最後の一文でしょ?」
一男は、次の優子の言葉を聞く前に、宝石箱から溢れ出た七色の光がこちらを照らし出している様を一瞬味わった。
<img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160106/12/europe123/93/9f/j/o0800053313533313570.jpg">
「だから清の墓は小日向(こびなた)の養源寺にある。」
この『だから』を井上ひさしは日本語で一番美しい「だから」の表現だと言っている。
優子とは本当に気が合うというか、分かり合える・・それは大事な事だと思う。
何でも無いような一文の味わいがどうして分かるんだろうと思った。
「この本を田舎の自分の家で読んだ時に、何時か東京に行ったら小日向の養源寺って所に行ってみようと思ったくらいなんだ」
「このお寺って実際にあるの?」
「小日向というより本駒込にある、今度行ってみない?」
「いいわね・・文学の旅か・・」
ワインが美味しい、今日も充実した日だった。
一男は優子が自分の事を好いてくれている実感を感じ取る事ができた、勿論自分はそれ以上だが・・。
漱石の名言を思い出した。
『女には大きな人道の立場から来る愛情よりも、多少義理をはずれても自分だけに集注される親切を嬉しがる性質が、男よりも強いように思われます。』
名残惜しい夜景をそっと心の中にしまって、エレベーターに乗った。
桜木町の駅まで腕を組んで・・また立ち止まって・・二つの影が重なり唇が触れる。
</font></strong><font size="3"><strong>「楽しかったね」</strong>
<strong>「またアパートに遊びに行くからね」
根岸線が来る、一男は駅の階段を上がりながら何回も振り返っては優子に大きく手を振った。
優子も小さく両手を振って。
電車は、ホームに滑り込んできて、一男を乗せると後も見ないで走り去る。
赤い尾灯が街の灯りに溶け込んでいった</strong>

</font></p></strong></font>



<span style="font-size:1.96em;">5</span>


<span style="font-size:1.96em;">(この夜景seriesはまだブログもHTMLと分離されていた。母が介護中に書いたから、7年前くらいのものです。写真を張り付ける際に最初はHTMLページに貼っていた時代でした。)
</span>



<strong><font size="3"><font size="3"><strong><strong><font size="3"><strong><font size="3"><strong><strong><font size="3"><font size="7"><strong>夜景</strong></font><font size="5"><strong></strong></font>


<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg"><img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg"></a>



  <span style="font-size:1.4em;">講義が講義が終わってキャンパスに出たら、優子に会った。
 キャンパスの芝生が沈んでいく夕陽でオレンジ色に燃え上がる。
 二人で幻の門から三田通りを渡り、仲通りの喫茶店に入る。
 「今度の休みはアパートに来ない?」
 「いいわよ、本の話がゆっくりできそう」
 「今日の講義は何だったの?」
 「英文学でシェイクスピアと美術史で印象派とかかな」
 「印象派は僕も好きだな、モネとかルノアールとか、白色を使っているんだね、白色を使っているといえばゴッホの『夜のカフェテラス』なども綺麗だけれど、
 僕の部屋にもルノワールの絵のコピーが飾ってあるんだ」</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/03/europe123/21/4a/j/o0481060013541085467.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「じゃあ丁度見れるわね、印象派って言葉は絵だけでなく音楽でも使っているね」
 「ああ、そうだね音楽はドビッシーとか・・『月の光』などは綺麗な曲だね」
 「今日の文学のお話は一男さんのアパートに行く時まで延ばそうか?」
 「それもいいね、それまでに何がいいか考えておこう」
 「お話をしてそれから何処かに遊びにいけばいいね」</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/03/europe123/bd/6f/j/o0800098513541085469.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">ウイークデイはまたたく間に過ぎ、週末がやってきた。
 大森の駅まで優子を迎えに行った。
 今日の優子は、ミニスカートに白黒色模様のセーターの上からダークグレーで二つボタンのビックカラーダブルコートにロング黒ブーツ、ウエストラインから広がる綺麗なフレアシルエットが似合っている。
 田園調布と並ぶ山王の高級住宅街を抜ける、
「僕のアパートとは対照的な高級住宅街だな」
おもわず呟く。
 この前は優子の豪邸を堪能したから、今日は貧乏学生をそのままに見せようと思った。
 だからというわけではないが、昼は近くの定食屋さんに行くことになった。
 ここはお婆さんばかり何人も働いている、多分安い時給なんだろうなと何時も思う。
 一品料理から納豆や玉子一つまで個別に頼めるから学生さんには便利だ。
 一男は目玉焼きハムなどを頼んだ、優子もここでは定食などを。
 部屋に戻って来る時にアパートの入り口で、下に住んでいる管理人夫婦に会ったから優子の事を紹介した。
 「こんにちは」
 「彼女かい?」
 「同じ大学の友達です」、
 一男も引っ越してきてそんなに時間が経っていないから、アパートの人達との付き合いは大事にしている。
 「何時もは華やかな優子さんだけれど、こんな学生アパートでも気に入って貰えればいいけれど?」
 「私は、学生が住む地味でこじまんりしている部屋もいいと思うけれど」
 「隣の部屋に優子さんと同じ文学部の友人がいるから紹介しとくね」
 一男は優子を連れて隣の部屋に行きドアをノックする、住人が出てきた、優子を紹介する。
 「こちら山岸君、文学部国文学科で教員試験を目指して勉強しているんだ」
 「こんにちは」
 「こちら同じ大学の文学部英米学科の野宮優子さん、僕の友達」
 「あっ、どうも」
 紹介しておきたかった、大学で会うかもしれないし、一男の大事な人だから。
 部屋に戻り、一男は、本棚から「日本幻想文学集成」の夏目漱石を手に取る、
 「漱石の作品の中で幻想的な小説が幾つかあるよね、『夢十夜』『琴のそら音』『変な音』『幻影の盾』などだけれど、今日は『倫敦塔』を読んでみるね」
 「漱石が英国に留学中に見物したロンドン塔の感想を描いた作品ね」
 「そう、やはり知っていたね」
 「読むね、『二年の留学中只一度倫敦塔を見物したことがある。其後(そのご)再び行かうかと思った日もあるが止めにした。人から誘われた事もあるが断った。一度で得た記憶を二返目に打壊(ぶちこ)はすのは惜(おし)い。三たび目に拭(ぬぐ)ひ去るのは尤(もっと)も残念だ。
「塔」の見物は一度に限ると思ふ。』」
 [如何にも漱石らしい書き出しの表現だね]</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/b1/bb/j/t02200164_0260019413542069162.jpg" alt="" width="220" height="164" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">一男の部屋の窓から、庭の花壇の赤や黄色の花が見える。
 その後は、優子が続けた。
 「長くなるけれど読むわね、『行ったのは着後間もないうちの事である。其頃は方角もよく分からんし、地理杯(など)は固(もと)より知らん。丸で御殿場の兎(うさぎ)が急に日本橋の真中へ抛(ほう)り出された様な心持ちであった。表へ出れば人の波にさらはれるかと思ひ、家に帰れば汽車が自分の部屋に衝突しはせぬかと疑ひ、朝夕安き心はなかった。此(この)響き、此群集の中に二年住んで居たら吾が神経の繊維も遂には鍋の中の麩海苔(ふのり)の如くべとべとになるだらうとマクス、ノルダウの退化論を今更の如く大真理と思ふ折さへあった。しかも余は他の日本人の如く紹介状を持って世話になりに行(ゆ)く宛もなく、又在留の旧知とては無論ない身の上であるから、恐々(こわごわ)ながら一枚の地図を案内として毎日見学の為め若(も)しくは用達の為め出あるかねばならなかった。』」
 「明治の人だから読みが難しいわね」</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/3f/ed/j/t02200164_0260019413542069163.jpg" alt="" width="220" height="164" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「ちょっとコーヒー淹れるね、休憩、インスタントだけれど・・いいかな?」
 「コーヒーには変わりはないわ」
 一男がコーヒーを淹れる、少しは休憩になっただろうか。
 その後を一男が続ける。
 「すこし飛ばし読みするね『「塔」を見物したのは恰(あたか)も此方法に依らねば外出のできぬ時代の事と思ふ。来(きた)るに来所(らいしょ)なく去るに去所(きょしょ)を知らぬと云うと禅語めくが、余はどの路(みち)を通って「塔」に着したか又如何なる町を横ぎって吾が家に帰ったか未だに判然しない。どう考へても思ひ出せぬ。只「塔」を見物した丈(だけ)はたしかである。「塔」其物の光景は今でもありありと眼に浮べる事が出来る。前はと問はれると困る、後はと尋ねられても返答し得ぬ。只前を忘れ後を失したる中間が会釈もなく明るい。恰も闇を裂く稲妻の眉に落(おつ)ると見えて消えたる心地がする。倫敦塔は宿世(すくせ)の夢の焼点の様だ。』」</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/57/ac/j/t01850272_0185027213542069164.jpg" alt="" width="185" height="272" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「また漱石らしい面白い表現だ」
 「飛ばすね、『此(この)倫敦塔を塔橋の上からテームす河を隔てて眼の前に望んだとき、余は今の人か将(は)た古(いにしえ)への人かと思ふ迄我を忘れて余念もなく眺め入った。冬の初めとはいひながら物静かな日である。空は灰汁桶(あくおけ)を掻(か)き交ぜた様な色をして低く塔の上に垂れ懸(かか)って居る。壁土を溶かし込んだ様に見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず無理矢理に動いて居るかと思はるる。』
 「この表現も難しいけれどなかなか味がある」</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/61/5c/j/t02200146_0275018313542069166.jpg" alt="" width="220" height="146" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「飛ばして読むわ『見渡した処(ところ)凡(すべ)ての物が静かである。物憂(ものう)げに見える、眠って居る、皆過去の感じである。さうして其中(そのなか)に冷然と二十世紀を軽蔑する様に立って居るのが倫敦塔である。』長かったから疲れたでしょう」
 「でも凄い文章だね、真似しようとしたってできないね」
 「で、漱石は結局二十世紀のロンドンから、いにしえのロンドンに迷い込んでしまうわけね」
 「ここは処刑場として有名だったらしい、沢山の有名な人が処刑され、悲劇の女王レディ・ジェーン・グレイの首切りが再現される、余(漱石)は無我夢中で宿に帰り、その話を主人にすると…という話、同じ時期に書かれた「我輩は猫である」とは対照的に幻想の世界に入り込んでいる」
 「天才だから書ける文章ね、あ、あれ ルノワールの絵」
 ルノワールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」が最初から息の合う二人を見ていたのだ</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/03/europe123/4a/06/j/o0800100313541085468.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「僕の部屋の感想はどうだった?良かったらまた来てね」
 「気に入った、また来るね」
 「さて、これから何処に行こうか?」
 「今日は新宿にでも行ってみよう」
 かくして二人は新宿駅に降り立つ。
 歌舞伎町は日本で最大の歓楽街だ、猥雑とも言えるかもしれないが。
 各種の店が立ち並び、その筋の組の方も出現をし、三丁目などは「ゲイ・ニューハーフ」など何でもありの怪しい雰囲気も窺える。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/77/b8/j/t02200198_0237021313542067529.jpg" alt="" width="220" height="197" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">そんな中に突如現れる安らぎの場所「花園神社」、知る人ぞ知るパワースポットとも言われている。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/8e/b0/j/t02200165_0800060013542067530.jpg" alt="" width="220" height="165" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「落語でも見ていこうか」
 三丁目の「新宿末広亭」に入る、桂歌丸の落語を楽しむ。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/3a/2c/j/t02200165_0300022513542067527.jpg" alt="" width="219" height="165" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「面白かったね、次は御苑でも行きましょうか?」
 歩いて新宿御苑に行く。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/51/df/j/t02200147_0800053313542067531.jpg" alt="" width="220" height="146" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">御苑内は約58ヘクタールのスペースに「日本庭園」、「イギリス風景式庭園」、「フランス式整形庭園」を組み合わせており、樹木の数は1万本を超える。
 桜は約1300本あり、春には花見の名所として大勢の観光客で賑わう。
 「『玉藻池』を中心とする回遊式日本庭園は、内藤家下屋敷の庭園『玉川園』だったらしいね」
 「都会の中の静寂ってとこね」
 新宿駅に行く途中、老舗デパート伊勢丹に寄った。
 「ちょっと寄っていこうか、婦人服でも見ながら」
 「あら、いつも、婦人服なんだね、紳士服は興味ないの?」
 「いや・・僕はいいんだ、ファッションっていう柄じゃないし」
 婦人服売り場を中心に店内を廻る。
 西口に着く頃には、薄暮がやってきて、やがてほんのりと青い夜の闇が騒いでいる街を包んだ。
 「お腹空かない?」
 「よく歩いたから運動になったし、眺めのいいところでも行きましょうか」
 新宿西口から地下道を通って地上に出ると、左側に東京都庁が見える、見学のために此処を訪れる人も多い。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/42/02/j/o0190014213542068339.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「都庁もいいけれどまた今度にしましょう」
 「そうだね、第一本庁舎は48階高さ243 mで、完工時にサンシャイン60を抜き、日本一の高さを誇ったんだけれど、日本一の座を横浜ランドマークタワーに(現在は違う)、東京一の座を六本木のミッドタウン・タワーに譲ったんだね」
 足踏みをしていた都会の夜が待ってましたとばかりに幕を下ろした。
 中央公園に突き当たって左に曲がればパークハイアット東京が見える。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/13/europe123/44/cf/j/o0800050013542106723.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">「面白い形をしたビルだね」
 エレベーターに乗って表示を見る。
 「何階に行けばいいかな、レストランは?」
 52階まで高速エレベータが風を切って二人を運ぶ。
 ドアが開くと、光の粒の塊があたり一面に自慢げに姿を現す。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160116/12/europe123/61/d2/j/o0800064013542068342.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">窓際の席に座って一男がメニューを見た、渋谷のホテルの10分の1の値段だ、慣れない口調でワインをオーダーする。
 「これなら僕でも・・シェーファー レッド ショルダー ランチ、 シャルドネ、 ナパ バレー カーネロスというのを」
 これに前菜とグリル・サイドオーダーを注文する。
 二人は白ワインを互いにグラスに注ぎながら美味しい料理を摘む。</span>
<iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube.com/embed/eggR4dKQR_w" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>
 <span style="font-size:1.4em;">窓越しに見える宝石箱の光が食事に色を添え話が弾む。
 「此の前は優子さんの家にお邪魔したけれど、お母さん達何か言ってなかった?」
 「別に?いい学生さんねって言ってたわよ」
 「そうか、それなら良かった」
 話し出すと結局はどうも本の話になってしまう。
 「芥川龍之介の『蜘蛛の糸』は小学生でも知っているけれど、大人になってからもう一度よく読んでみると、なかなか文章がいいと思う」
 「やっぱり天才だから・・」
 「たった原稿用紙20枚くらいの作品だけれど、ストーリーは面白いし文章も漱石に比べれば分かりやすい」
 「書き出しも最後のところもいいわね、地獄の罪人がたった一つ良いことをしたのは蜘蛛を助けたということだけだけだったが、それを御釈迦様が取り上げて蜘蛛の糸で助けてあげようとしたんだけれど、結局は罪人は保身の事しか考えなくて糸が切れてしまうというお話ね」
 「長くなるから書き出しは言わないけれど、終りのところだけ・・『しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着(とんじゃく)致しません。その玉のやうな白い花は、御釈迦様の御足(おみあし)のまはりに、ゆらゆらうてなを動かして、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂が。絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽ももう午(ひる)に近くなったのでございませう。』蓮の擬人化と極楽に朝や昼があるというあっさりと終わるところが味わいがあるんだな」
 「芥川龍之介も漱石を師と仰いでいたんだよね」
 「文豪達の集まりってあったら凄かっただろうな」
 「実際に会った時にはどんな話をしてたんだろうね」
 「毎回そう思うけれど、此処も夜景が美しいな」
 本当に宝石箱から溢れ出た光は美しい。
 二人とも一日を満喫できたようだ。
 地上に降りると街の喧騒が和らいだ夜の光景が目の前にあった。
  新宿駅から大森までは二人共JRで、一男はそこで降りた。
 「楽しかった、また学校でね」
 「本当に楽しかったね」
 ドアが無表情に閉まると、電車は滑り出す。
 一男は右手を大きく上げ優子も両手で手を振る。
 電車の尾灯が街の灯りに溶け込んで消えて行く。



</span>
<span style="font-size:1.96em;">6</span>

<strong><font size="3"><font size="3"><strong><strong><font size="3"><strong><font size="3"><strong><strong><font size="3"><font size="7"><strong>夜景</strong></font><font size="5"><strong>(仮題)</strong></font>


<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg"><img border="0" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20151227/14/europe123/72/dd/j/o0767050213523535353.jpg"></a>


<font size="5">6<strong></strong></font>


 <span style="font-size:1.4em;">講義が終わってキャンパスを抜ける。
図書館の階段を上がって臙脂の絨毯の先に優子が待っていた。
「お待たせ」
「今日は、講義休講だった、出ましょうか」
東門から出て東京タワーを左に見ながら桜田通りを渡る。
何時見てもタワーはスックと立っていて凛々しい感じがする。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160205/23/europe123/c2/a5/j/t02200293_0240032013559411690.jpg" alt="" width="220" height="293" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">授業、お疲れ様と言ってくれたようだ。
 大学仲通りの商店街を掻き分け、喫茶店に入る。
二人とも、カフェラテを飲みながら
「休講だったら、随分待たせちゃったね」
「ううん、丁度宿題があったからゆっくりできて良かった」
「今度のお休み、またアパートに来れる?」
「本のお話ができるし、いいわよ」

 次のお休みがやってきた。
一男が昼過ぎに大森の駅まで行って優子と待ち合わせをした。
青色の電車が滑り込んで来た、ドアが開くと同時に優子の笑顔が飛び出してきた。
今日はシルバーシャツにパステルブルーのニットベスト スキニー マニッシュ靴 といういでたち。
「一度アパートまで行こうか?」
「そうね、またお話ができるから」
山王の高級住宅街の丘を越えてアパートに。
 先ず、一男はギターの弾き歌いを聴いてもらった。
観客は優子だけでも、充分に思いを込めて弾き歌った。
音楽が観客の拍手が、アパートに木魂する。
一男のお気に入りのポップス全曲集という楽譜が役に立った。
「上手いね、小学校の時からやっていたんだものね」
「いや、でも毎日のように弾いていた時期もあったからね」
何時かは鍵盤楽器も弾いて見せたいと思ったが、優子もピアノが上手のようだしきっとお似合いのペアの演奏が期待できるのではないかと思った。
 壁に貼られたルノアールのお嬢さんが文学の話を始めましょうと誘ってきた。
「芥川龍之介のトロッコも子供でも読む話だけれども、たった八ページの、面白い話だよね」
「8歳くらいの少年が主人公なのよね」
「うん、小田原熱海間の軽便鉄道の工事現場のトロッコが彼の憧れだったんだね」
「普段からトロッコに乗りたかった彼が、念願が叶って、或る日土工がトロッコに乗ることを許可してくれた」
「彼は喜んで乗っていたが、何時の間にかかなり離れた土地まで来てしまう」
「日も暮れてきて、土工達が元の場所に戻らないことがわかった時の彼の喜びは驚きと不安に変わる」
「後は、必死に家に帰ることだけしか頭には無い、草履も着ているものも脱ぎ捨てて」
「走って 走って やっと町の灯りが見えた時の気持ち 涙を堪えて」
「やっと家に辿り着いた時に思い切り涙が流れ 嗚咽というより大きな泣き声」
「ストーリーは単純と言えばそれまでだけれど 子供の心理描写が半端じゃない 子供の時に誰もが経験するような 喜びと不安 恐怖 が実にリアルに伝わってくる」
「例えば 今の作家達の推理物のようなストーリー性より むしろ繊細な心理 を表現している 芥川独特の 作品だと思うね」
「最後のところ 『二十六の年・・・。が、彼はどうかすると、全然何の理由もないのに、その時の彼を思ひ出す事がある。全然何の理由もないのに?ーーー 塵労に疲れた彼の前には今でもやはりその時のやうに、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続している。・・・・・』如何にその心理が大人になっても忘れられないものだったかが表現されているね」
「何故か現代の作品には無いものが感じられるね」
一男は持っている本を 日本幻想文学集成 芥川龍之介 を指差しながら
「この本の一つ前の作品の『藪の中』とは対照的な作品といえるけれど 心理描写だけはどちらも凄いものがあると思う」
 今、図書館によっては、文豪物は全集として別室に保管されている所もある。
そのくらい読む人が少ない、或いは誰もが読みつくしてしまったから・・いずれにしても面白い現象である。
だから・・というわけでは無いが、今また 読み返す人もいる。
 一男が立ち上がり、窓から見える庭の花壇に目をやりながら。
「出かけようか 銀座でも」
「いいわね」
大森まで戻りJRに乗る。
 今月は優子の誕生月だ、それを忘れてはいなかった。
有楽町で降りて松屋デパートまで歩く。
前に銀座に来た時に覗いた宝飾品売り場を思い出したのだ。
高いものは買えないが、何かプレゼントしたかった。
ショウウインドウを覗く二人は楽しそうだった。
「どれがいいかな?プレゼントしたいんだ」
「え~ 嬉しいな」
素直に喜ぶ優子が可愛いなと思った。
「これかな・・・」
あれこれ見てから優子が指差したのはエメラルド キュービックジルコニア のネックレスだった。</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160218/13/europe123/8f/17/j/o0233030013570411315.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">それに決めた。
「ありがとう 早速 付けてみるね」
一男はとても嬉しかった 幸せがやってきた。
人に物をあげるという事は楽しいことだと思った。
婦人服売り場やデパート内をぶらついて銀座通りに出た。
 傾いた陽がビルのガラスを赤く染めて反射している。
「夕食をとろうか」
「そうね、六本木でも行ってみましょうか」
 地下鉄で六本木に出る。
六本木ヒルズ森ビルが見えた。
高速エレベーターで58階まで風を切る。
ドアが開けば宝石の粒が鏤められていた</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160220/23/europe123/a4/62/j/o0480032113572603225.jpg" alt="" border="0">
 <span style="font-size:1.4em;">今日は赤ワインのオーダーから。
お互いにグラスについでは飲み。
「今度僕の田舎に来ない?」
「静岡でしょう?いいわね ジャーメインも一緒に誘ってみようかな」
「折角来てくれるのなら そうしたら楽しいね」
「田舎にも日本平という眺めのいい所があるから」
「それは楽しみね」</span>
<img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160220/23/europe123/6e/31/j/o0728048513572603228.jpg" alt="" border="0">
<span style="font-size:1.4em;">「ところで 好きなお話なんだけれど 『小説の神様』と言われるようになった
志賀直哉の『小僧の神様』の最後がいいよね」
「そうね ストーリーも小僧の心情を捉えているしね」
「小僧が赤の他人に お寿司を腹一杯食べさせてもらったのよね」
「そう それで小僧がその事が忘れられなくて神様だとばかりに思い込んでいる」
「それを、作者が登場する文章で小気味良く終わるところがいいわね」
「最後のところ『作者は此処で筆を擱く事にする。実は小僧が「あの客」の本体を確めたい要求から、尋ねて行くが其処には稲荷の祠があった、小僧は吃驚した・・・と書こうと思ったが、残酷な気がして、作者は前の所で擱筆する事にした。』というのがそれだね」
「昔の作品にしては随分洒落ているし味わいがある。一男さんも文章を書いているのよね」
「そうなんだ、そこで思ったことがあるんだ。今、例えば、新人賞などに応募するとする。小説には、いろいろな決まりがあるんだけれど、その中で、「視点」は一つが原則になっている。読者が読む時に読み易いし。僕は、自分の作品の中に作者を突然登場させる事があるんだけれど、視点が二つ以上になったら、先ず、審査の段階で撥ねられてしまうらしい。でも、僕は、小さい頃から読書をしてきたが、この作品のような素晴らしい作品を読んできたので、敢えて、作者を登場させたり、「ニ視点」にしている。それで、賞が取れなくても仕方がないと思う。自分の文章は、好きなように書きたいからね。だから、この作品は大好きなんだ」
</span>
</font></strong></strong></font></strong></font></strong></strong></font></font></strong><div><strong><font size="3"><font size="3"><strong><strong><font size="3"><strong><font size="3"><strong><strong><font size="3"> 窓の外の灯りの宝石箱は手を抜かずに燦然と輝いている。
<iframe width="480.0" height="270.0" src="https://www.youtube.com/embed/eggR4dKQR_w" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>
 <span style="font-size:1.4em;">エレベーターで地上に降り立った。
六本木駅はすぐだ。
「今日の夜景も素晴らしかった」
「何か、ふ~っと夜景の中に紛れ込んでいる自分たちがいる」
 明るい電車の中でも話は尽きない。
乗り継いで大森駅で一男は降りた。
 電車は、さよならのドアを閉めると、無表情に滑り出す。
大きく右手を振る一男に応えて、小さく手を振る優子が電車の蛍光灯に映えている。
やがてまた・・その灯りがスライドの早回しのように、あっという間に遠ざかり、街の灯りに溶け込んでいった

</span>
</font></strong></strong></font></strong></font></strong></strong></font></font></strong></div></font></strong></strong></font></strong></font></strong></strong></font></font></strong


「君、弱い事を言ってはいけない。僕も弱い男だが、弱いなりに死ぬまでやるのである。夏目漱石」

「あらゆる社交はおのずから虚偽を必要とするものである。最も賢い処世術は、社会的因習を軽蔑しながら、しかも社会的因習と矛盾せぬ生活をすることである。最も賢い生活は、一時代の習慣を軽蔑しながら、しかもそのまた習慣を少しも破らないように暮らすことである。芥川竜之介」

「仕事は目的である。仕事をはっきりと目的と思ってやっている男には、結果は大した問題ではない。志賀直哉」


 「0825mix」」
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「by europe123 test」
 「list pagani-ni ボラレント」
<iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube.com/embed/ZtdU9rhzurg" title="YouTube video player" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture" allowfullscreen></iframe>


「湘南 for you」
<iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube.com/embed/spjQtGl00TM" title="YouTube video player" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture" allowfullscreen></iframe>


「Pipe・piano‣orchestra、strings・Pops・29mix」
<iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube.com/embed/O7IEqGlfSwk" title="YouTube video player" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture" allowfullscreen></iframe>


「by europe123 original」

https://youtu.be/WOd05LXYI2g

尾上コンツェルンに国境はない。文豪作品、旧作夜景3~6、演歌・歌謡曲初期。

尾上コンツェルンに国境はない。文豪作品、旧作夜景3~6、演歌・歌謡曲初期。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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