AC

家族、父とアルコール

目に入ったのは母の泣き顔だった。


何かを叫びながら父の腕を引っ張っている。

でも父の腕力の方が強かった。

あっけなく母は倒れ、父の拳が私に飛んできた。

癇癪を起こした理由は私の箸の持ち方が悪かったらしい。

「このぎっちょが!」

この言葉をかすかに覚えている。

後はいつもと同じ。殴られて、蹴られて、
母が泣きながら止めに来る。それでも父が疲れるまで
終わらない。

もう半分慣れていた。いつもと同じ。

働かず、夜になればお酒を飲んで私を殴る。

殴る理由はなんでもいいらしい。

何かにつけて殴られた。

でも今は昔の話。私が保育園だった頃の話。

もう両親は離婚して父は他県に住んでいる。

人は成長する。幾多の試練、困難を乗り越え、大人になって行く。
保育園児だった私も高校生になった。

今でも父は怖い存在だ。幼かった頃の記憶が私に襲い掛かる。
でも負けちゃダメ。大人にならなきゃ。

立ち向かう心。恐怖に打ち勝つ勇気。強い心。




喉元に突き刺した包丁から血が落ちるのを見ながら小さくつぶやいた。

「俺はお前の人形じゃない。」

父が何かを言いたげに口をパクパクさせていた。

でも聞こえない。聞きたくないし、聞こうとも思わない。

これで私も大人になれた。


昔の自分ではない。

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-02

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