偉そうな私、キレながらクリスマス観望会開きます。(観望会開く前に終わるけどね)

偉そうな私、キレながらクリスマス観望会開きます。(観望会開く前に終わるけどね)

第一幕 「キレる私」

「おい、お前。」
私は、いつものように偉そうに彼に声をかけた。彼は椅子から振り返り、私の胸元をチラリと見てから顔を見上げた。
彼の名前は晴人。私たちが所属する天文部の副部長で、私の気持ちを知ってか知らずか、ずっと告白をしてこない男子。彼の切れ長の目に私はいつもドキドキしていた。
「今日は天文部が休みなのに珍しいね。」そんな彼の言葉に、私は内心で苦笑した。私がいつも部室に来るのを知っていて、なぜいつも部室にいるのか。私の心の中は渦巻いていた。
「珍しくもないだろう。まぁなんだ。お前と話をしたかった。」
私も素直な気持ちを隠し、いつもの偉そうな態度で彼に言った。
もうすぐクリスマスシーズン、わたしは、内心めっちゃイラついていた。一年間も待たせておいて、なんで誘っても来ないのっ!?でも、そんなことを言って振られたくも嫌われたくない。だからこそ、今日声をかけたのだ。
「僕は椿さんの暇つぶしの相手じゃないんだけどな。」
彼は、いつものいい加減な態度でからかうように答えた。その態度がすごく頭に来る。でも、めげるわけにはいかない。わざわざあの糞顧問に媚びをうってまで準備をしたのだ。
「大丈夫だ。今日は暇つぶしではなく、お前に話したいことがある。」 「うーん、僕には話すことがないんだけどなぁ。」と彼は返す。
うーっ!なんなの、この面倒なやり取り!と心の中で叫びながらも、私は冷静な表情を保ち、なんとか話を続ける。
「また、そんなことを言って。今回は重要な話だ。」
そう、今日の話は彼とクリスマスを一緒に過ごすための重要な話なのだ。
「また、何か企んでる?」
彼の言葉に一瞬ドキッとする。いい加減に見えて鋭い。ここで怯んではいけない。私は、なにもなかったように言葉を進める。
「企んでるわけじゃない。お前、この部活の活気のなさ、嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないってか、この活気のなさがいいんだよ。」
入学当初、彼はあまり部活に入る気はなかったらしい。しかし、全員が部活に入るという校風のせいであまり活発でない天文部を選んだそうだ。学校の売りの天体観測室もあってイメージもいいとかなんとか。その割には部室にいつも居るな…。
「ふふふ、素直じゃないな。観望会にはいつも参加してるじゃないか。」
「まあ、せっかくだからね。」
この素直じゃない性格、変に可愛げがあって、なおムカつく。
まぁ、とりあえず彼が話に乗ってきたからいいか。
私は、大きな教壇の前に登り宣言するように話を始める。この企画で彼と共にクリスマスを過ごせることを信じて。
「そこでだ。部活活性化と部員勧誘のため、クリスマスに大きな観望会をやる。」
しかし、彼は「はぁ?クリスマスにそんな地味なイベントをやっても誰も来ないでしょ」とつれない返事。彼の予想通りの反応に私はすぐに反論する。
「そんなことないぞ。クリスマスに星を眺めるイベントだぞ。ロマンチックじゃないか。」
「でかい展望鏡で星をのぞくだけでしょ?」
天文部の部室の上には小さなドーム型の天体観測室がついていて、学校も売りとしている。しかし、残念なことに学校側が夜間活動に積極的ではなく、実態としてほとんど使われていなかった。彼がそういうのも仕方がない。だが、わたしは負けない。
「そのでかい展望鏡で星をじっくり観察して、二人でその感想を言い合うんだ。しかも、年に一回のことだぞ。こんな体験をできる日はない。わたしはすごく興奮するぞ。」
そう、クリスマスに彼と星の話をして楽しむのだ。わたしは、軽やかに歩きまわり妄想を膨らませていた。
「顧問が許さないんじゃない?」
観望会を潰そうと彼は面倒くさそうに言った。わたしは心の中で、その回答はわたしの想定範囲内よ。甘いわね。と思う。
「それは、大丈夫だ。既に打診して仮の許可は得てある。お前、知っているか?あの顧問、娘が中学生で絶賛反抗期中だ。そこで中学生に見えるわたしが目を潤わせて頼んだらいちころだった。まぁ、単純に家に居場所がないのかも知れないが。」
私は隠し持った展望鏡の使用許可書を取り出し自信たっぷりに答えた。
「ホント、どんなやり方してるんですか。」
「ふふふ、これも、わたしの魅力がなせる技だ。まぁ、別に脅しているわけでもないし、顧問も嬉しかったんじゃないか?」
そう、あのロリコン糞野郎は嬉しそうにしていた。だいたい、このイベント、顧問の点数稼ぎになるから媚びなくてもいいとも思える。だが、奴の性格を考えると、そうしなければ観望会の開催率は二十パーセント程だったに違いない。なんでここまでしなくちゃいけないんだ。わたしは更に腹を立てる。
そんなことを考えていると彼は別の案を出してきた。
「それよりも、学校の近にある港で恋愛にまつわる星座の話をして、その後に近くの山手の神社で星をみる方がロマンチックだと思うけどな。」
地元の港は、明治時代に栄えた歴史ある場所で、現在ではレトロな風情が残る観光スポットとして知られている。クリスマスシーズンには、イルミネーションで鮮やかに彩られ、独特の美しさを魅せる。近くの丘の神社には、海峡を挟んだ神社と共に、別れた恋人たちが未だに想いを寄せるという伝説が伝わっているらしい。
釣れた!!私は初めから平凡な案を出して彼を釣りあげるつもりだった。彼が罠に掛かったことにわたしは歓喜した。思わず口元が緩む。
「だめだな。港は人が多すぎるし山手の神社は海峡の橋が明るすぎる。顧問の手前、高校のアピールも必要だ。まぁ、星座にまつわる恋愛の話はいいかもしれないな。」
彼は納得したような表情を浮かべていた。私は、このまま押しきろうと言葉を発する。
「よし、準備をしよう。まず広報としてチラシを作る。担当はお前だ。」
「えっ?僕もやるの?」
「そうだ。お前は副部長だろう?それに"観望会の改善案まで考えてくれた"んだから、参加させないわけにはいかない。」
彼は罠にかかったことを悔やむ表情を見せた。でも、わたしは、彼のことを思ってこのイベントを企画したのだ。去年の"あの日"の出来事を思い出しながら、わたしは決意を持ってクリスマスに誘う。
「そ、それにな。どうせお前はクリスマス暇だろう?
寂しく過ごすくらいなら、みんなで何かやったほうが楽しいと思わないか?」
彼の表情が悲しみの色を帯びた。きっと去年の"あの日"を思い出したんだろう。
「いやまぁ、暇だけどさ。」と彼は答えた。そこで、わたしは、すかさず話をまとめる。
「よ、よし決まりだな。私はもう一度顧問と話をしてくる。また、明日部室で会おう。」
彼が何か言う前に、私は早足で部室を後にした。
よし、今回も上手くいった。しかし、いつもと違って今日は本当に緊張した。わたしはガクガクと震える自分の脚を見ながらそう思った。ふと、窓の外に目をやると、木々が風を受け、ざわざわと揺れる様子が見えた。

顧問に正式な許可を得て、私は家路に着いた。通学路の山手通りを歩きながら、私は天文部での思い出を振り返っていた。
晴人とは同じタイミングで入部した仲だ。切れ長の目と坊っちゃんがりの変な髪型が特徴的だった。同級生の男子が他に二人ほどいたが、わたしは見逃さなかった。何気にめっちゃ顔整ってね?
わたしは、これはチャンスだと思った。隠れイケメンなら競争率は低い。これなら、幼く見えるこんなわたしでも付き合えるんじゃないか。まぁ、このあと彼には中学生の頃から付き合っている彼女がいると知って落胆するのだけれど。
わたしはというと、学力的にもう少し優秀な学校にもいけたが、天文部を狙ってこの高校に進学した。それなのに、この活気のなさだ。わたしは絶望した。人生なかなか上手くいかない。
私は、天文部を改善しようと奮闘した。不定期だった活動を週一の定期活動に切り替えたり、観望会や展望鏡の講習会などのイベントを開催したり精力的に活動した。しかし、彼以外の同級生たちは、改革に不満を感じたのか徐々に姿を見せなくなっていった。
わたしは、またかと劣等感を感じていた。わたしの情熱はいつも実を結ばず、空回りしてしまう。小学校の図書委員でも、中学の英会話クラブでも、懸命になる度に自分も他人も傷つけてきた。結局、今までに得たものと言えば、自分も他人も傷つけないための、この偉そうな態度だけだった。

天文部のことを思い出しながら家に帰り着くと、周りはすっかり暗くなっていた。

ベッドに横たわると、今日の出来事が頭を巡った。ニヤリ顔が止まらない。
次は彼へのクリスマスプレゼントだ。しかし、流行りに疎いわたしには何も浮かばない。彼に直接聞くことも考えるが、好意がばれて振られたくはない。
悩みは堂々巡りで、最終的にわたしは意を決して彼に聞くことにした。恥ずかしさを隠そうと、布団をかぶって眠ろうとする。しかし高鳴る鼓動にわたしは、なかなか寝付くことができなかった。

第二幕 「怒る私」

次の日、私が部室へ行くと、のんびり過ごしている彼の姿が目に入った。「今日も部活がないのに、珍しいね」と彼が軽妙なジョークを飛ばす。私は「お前は頭脳明晰な鳥のようだな」と鋭い返しをしてみせる。
「こちらは、ちゃんと顧問の承諾を得てきた。まぁ、事前の根回しもあって楽勝だな。それでお前の方はどうだ?」
「デザインは後輩が美術部の知り合いに頼んでる。文言はまだ考え中だけど、その辺のチラシと似たような感じでいけるでしょ。まず大事なのはデザインだからね。」
どうせ彼なら何もやっていないだろうと思っていた。まさか進めているとは。しかし、私は慌てず冷静な態度を保つ。
「流石だな。行動が早い。文言は明日の部活で皆の意見を聞くのがいいだろう。現時点ではその程度がちょうどいいな。お前はなかなかできる男だ。」
ぎこちない褒め方だけど大丈夫かな?と、とにかく、まずは感謝を伝えないと。
「よし、目処はついた。いつもありがとうな。」
「お、おう。」
よし、ここからが正念場だ。わたしは心を落ち着かせようとする。しかし手は震え口も思うように動かない。でも、彼のためにも聞くんだ。
「そ、それでだな。お前に、ちょっと質問がある。」
彼は「何か用?」と軽く答える。やっぱりこの性格ムカつく。それでもわたしは言葉を続けた。
「お、お前はどういう人間だ?どんなことに興味がある。」
その質問はプレゼントを選ぶためのわたしの精一杯の表現だった。果たして彼はわたしの気持ちに気づいてしまっただろうか。期待と不安が入り交じる。
しかし、わたしの想いも知らず彼は軽率に言葉を発した。
「急に聞かれても困るなぁ。僕は椿さんみたいに優秀じゃなくて普通の人間だね。興味はこれってのはなくて色々。椿さんはホントにスゴいよね。頭も良いいし天文部の活動だっていつも情熱的で、学年一の才女ってもっぱらの噂だよ。」
なっ、なんなのそのテキトーな答え!一年間も待たせた挙げ句、なんでそんな答え方なの?この観望会の企画も、この質問も、わたしがどんな想いでやっていると思ってるの!?
「お、お前の興味はそんなものか!本当につまらない男だな。お前には情熱ってものがないんだ。」
隠し続けた気持ちが出てしまう。なんで気づかないの?!そんな想いも彼には届かない。
「そんなことないよ。僕も情熱を持って生きてるって。急にどうしたの?」
「本当にそうか?そうだといいな。だが、わたしにはお前の情熱が伝わってこない。」
まさに返す言葉になんとやらだと私は少し冷静になりそう思っていた…。彼の次の言葉を聞くまでは。
「えっ、そうかな?どうすれば伝わると思う?」
「どうすればいいかだって?!」
それはあんたが考えることでしょ!なんで他人事みたいに言うの!?
「そんなこと自分で考えるべきだ。お前が情熱を持っていることがわかったら、わたしに教えるんだな。それで、これから話を続けられるかどうか決める。」
わたしは怒りに任せて、そう言ってしまった。
「は、はい、わかりましたよ。情熱を持っていることがわかったら教えますよ。」
わたしは自分のいたたまれなさと彼を傷つけたことへの罪悪感から、この場を一刻も早く離れたかった。目に熱いものが込み上げてくる。
「ふん。それじゃあ、今日はこれで切り上げる。また今度、時間があるときにでも話をしよう。」わたしは、簡単には揺れない前髪を揺らして急いで部室を出た。
窓の外に目をやると、冬の冷たさに耐えるように木々が立ち並んでいた。

その夜、わたしはものすっごく落ち込んでいた。なんてことを言ってしまったんだろう?彼に嫌われてしまったかもしれない。こんなにずっと好きだったのに…。わたしは目に涙を浮かべながら、彼との思い出を振り返っていた。彼と親しくなったのは、いつだろう。去年の今ごろだったかもしれない。

第三幕 「惚れる私」

「これが、小惑星探査計画の概要だ。それで小型探査機を近くの工業大学で実験するとかなんとか聞いたぞ。あそこも航空宇宙をやってるからな。なにか、一緒にできないだろうか?おい、聞いているか?」
部室の黒板に小惑星探査イメージ図が描かれている。私はいつもの調子で熱っぽく話をしていた。彼はというと、椅子に座りいつも通りの微妙な態度だった。
「ん?あぁ、ぼちぼち聞いてるよ。小惑星に行くって簡単そうだけど、難しいんだね。なかなかドラマチックな感じ?うまく行くかな?」
彼はやる気がないように振る舞っているけど、いつも部活に出席している。わたしは、もしかしてと思う。
「お前は、いつも聞いてないフリして意外と話を聞いているな。本当は天文に少しは興味があるんじゃないか?」
私の話を聞いてくれるのは、いつも彼だけだった。私は、それが悲しくもあり嬉しくもあった。
「そうかな?まぁ、いつも、ちょっと面白い話だと思ってるよ。全部は理解できないけど。」
「お前が天文部の活動に毎回参加しているのはそれが理由なのか?」
私は彼にそう問いかける。
私が改革を行った結果、同級生で天文部に来るのは今や私たちだけになっていた。もともと、先輩たちは来ていなかったので部室はいつも二人だけだった。私は自分の改革が良かったのか、ずっと自問自答を続けていた。
「ん~、まぁ暇だからね。」彼は何かを隠すように、いつもの調子で答えた。本当に暇だから来るのかな?私は少しの好奇心から彼に問いかけた。
「お前は、いつも『暇だ』と言っているが本当にそうなのか?お前には中学生から付き合っている彼女がいると聞いたことがある。彼女との付き合いもあるんじゃないのか?」
しばらくの間、沈黙が続いた。やってしまった…。こんな風に詮索されたら嫌に決まってる。
「いや、詮索してしまった。悪かった。」
私はバツの悪い顔をして彼に謝った。「椿さんが謝ることないよ。」私に申し訳ないと思ったのか、彼は本当の理由を話してくれた。でも、本当は誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
「そうだね。春頃は彼女とよく出かけて、連絡も取り合っていた。高校が違うからその違いが新鮮で面白かったしね。でも、そのうちに共通の話題がなくなって、話が合わなくなってきた。それに、彼女も高校の活動が多くなって来たとかなんとか言って、最近はあまり会ってないんだ。ははは、まぁ、それが暇な理由ってわけ。」
彼は笑っていたが、その瞳には悲しみの色が滲んでいた。わたしは彼の気持ちを思うと堪らなくなった。
それと同時に自分の部活への情熱が彼を傷つけてしまったのではないかと自分が嫌になった。自分の顔がくしゃくしゃに崩れていることにわたしは気づく。
「お前はすごいな。そんな辛い思いを抱えながら、いつも冷静に振る舞えるなんて。私はそんなこと到底できないそうにない。そんなことも知らずに、いつも付き合わせて悪かった。天文部が嫌だったら辞めてもいいんだぞ。」
そう、わたしのために彼が犠牲になることはない。そんな悲しい想いをするくらいなら、いっそ辞めて欲しい。
「別に嫌ってことないよ。彼女とは天文部の話はしてたし、椿さんの変なキャラクターは、面白くてネタにしてたしね。」
彼は私を気に気を遣い軽口をたたいた。私は彼の気持ちを汲んで怒るように答える。
「お前は、私をそういう風に見てたのか?」
「ははは、椿さんは変わってるでしょ?椿さん自身もそう思ってるんじゃない?僕はそういうの好きだよ。僕は普通の人間でそんな風に振る舞える強さもないからさ。」彼は笑いながら言った。
社交辞令とはいえ、こんな変わり者の私のことを好きだと言われ、わたしは嬉しかった。
「そ、そんなものか?ま、まぁそうかもしれないな。」
彼はわたしの目をまっすぐに見つめてくる。わたしは恥ずかしさのあまり顔を背けていた。

私は、あの頃から彼に積極的に話かけるようになった。そのせいか、最近では彼と天文学について盛り上がることも増えた。私は、こんなわたしを受け止めてくれる彼の優しさにこの一年間ずっと惹かれていた。
それなのに、なんであんな酷いことを言ってしまったんだろう?わたしは、明日からどんな顔をして彼に会えばいいのか分からなかった。

第四幕 「決意の私」

翌日は天文部の週一回の定例会だった。部室の前まで来たものの、彼に会うのが怖くなり、結局部活を休んでしまった。
最低すぎる。自分で観望会を企画しておいて休むなんて…。後輩にも申し訳がたたない。わたしは、家に帰り自分の部屋で自己嫌悪に陥っていた。
そうこうしていると、後輩から連絡が来た。
「椿先輩、体調大丈夫ですか?観望会の準備は晴人先輩と進めています。開催の目処はつきそうです。心配しないで身体を休めてくださいね。」
その連絡にわたしは驚いた。彼は、私が体調不良で休んだことにしてくれて、さらには観望会の準備までしてくれたのだ。
晴人はわたしを守ってくれるナイト様なんだとまるで少女小説の主人公のような気持ちになった。なんとなく世界が明るくなったような気がする。恥ずかしくなって、黄色いクマのぬいぐるみまで殴ってしまう。
しかし、こんな気持ちも、すぐに自己否定の渦に飲み込まれてしまう。優しい彼と比較して、自分をもっと嫌いになってしまう。
彼に会って何を話せばいいんだろう?考えても考えても、答えはでない。クマさんに聞いてみても「殴ったのにずいぶん虫がいいんだよぉ。」としか言ってくれない。わたしは頭を抱えた。
そして、翌日もその翌日も部室に行くことができずに休日を迎えてしまった。土日も悶々としてプレゼント探しに行く気力もなかった。
日曜日の夜、悩みに悩んだ末、わたしは吹っ切れたようにこう思った。
わたしが好きなんだからそれでいいじゃないか!彼に正直に謝ろう。
わたしはそう決意したのだった。

第五幕 「泣く私」

月曜日の夕方、私は土日にできなかったクリスマスプレゼント探しをしようと、レトロ通りのショッピングモールを訪れた。勉強心な彼は今ごろ補講を受けているだろう。
一通りお店をまわってみた……が、何を買えばいいか全く分からん。失意の中、私は家路に着こうとレトロ通りを歩いた。
急に聞いたことのある声がする。遠くの海で汽笛が鳴るのが聞こえた。
「椿さん。前回、僕が情熱を持ってることが分かったら教えるって約束したよね。」
私は完全に固まってしまった。
なんで彼がここいるの?補講は!?あぁ、それよりもどう反応すればいいの?
わたしの頭の中のコンピューターはフル稼働。しかし、なかなか答えは出ない。結果的に出てきたのはいつもの偉そうな態度だった。
「そう...だったな。お前は約束を守る側の人間だったようだ。」
なにやってるの、私!?
私のコンピューターは完全に壊れていた。
「ははは、厳しいね。もちろん守りますよ。守れる約束ならね。」
約束。彼の言葉に、わたしは"あの日"を思い出した。そう、彼は約束は絶対に守る。去年の"あの日"もバカみたいに待っていた。また、待たせちゃいけない。彼の言葉を聞かないと。
「そうか…、そうだな。あの時のお前は必死に約束を守ろうとしていた。
わかった。それで、お前の情熱とはなんだ?」
彼は珍しく真剣な眼差しで話を始めた。
「あの日、君に『情熱がない』と言われたとき、なぜそんなことを言ったのか、考えたんだ。君はいつも偉そうなことを言うけど、実は誰にでも優しく接することを僕は知ってる。」彼は言葉を続ける。
「一年前のクリスマスイブ、僕は叶わぬ彼女との約束を守り、海峡公園で待ち続けていた。そんな僕を君は迎えに来てくれた。星を見に来たなんて下手な嘘をついて。それ以来、いつも君と話すことが楽しくて、君をからかいながら話をすることが楽しみだったんだ。でも、あの日までそんな気持ちに気づかなかった。」
そう、去年のクリスマスイブの"あの日"、彼はずっと泣いていた。わたしはその後もずっと彼を気にかけてきた。クリスマス観望会だって彼のトラウマを消すために企画したのだ。
「それで、何がいいたいんだ?」
「君は、きっと僕の気持ちに気づいていたんだと思う。だから、あの日、君が僕に『情熱がない』と言ったのは、僕が君に対して持つ情熱に気づいて欲しい、もっと目を向けて欲しいということだったんだろう?」
レトロ通りのガス燈が灯り始めた。わたしは、自分の気持ちを見抜かれ嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
「そ、そうだ。お前の表情から、お前の好意には気がついてた。」
そう、彼は入部当初からずっと、わたしの方を見ていた。
「そうなんだ。椿さんのことだから、もっと確信があると思ってた。」
いや、そもそもである。こんな偉そうな態度の女といつも話をしている時点で好意があるに決まってる。
彼との日々が浮かぶ。
「わたしも、お前と話すといつも胸が熱くなる。いつもこんな偉そうな私の話を聞いてくれるのは、お前だけだ。それなのに…。」
でも、それをかき消すように劣等感の波がわたしを襲う。
「それなのに、お前に『情熱がない』などと、なんて酷い言葉を…。
わたしは…、私は人の感情も理解できない本当に最低な女なんだ!お前に好かれる価値なんてない。」
怖い。本当のわたしを知られて彼に嫌われるのが。本当のわたしなんて劣等感の塊なのに。
「そんなことないって。そのおかげで僕は自分の気持ちに気づいたんだから。」
「違う!私は、勝手にお前が私に好意があると思い込んで、プレッシャーをかけた。お前はそれに負けて、あんなことをただ言っただけだ。好意に気づいたなんて嘘だ。確信なんてなかったんだ。私はバカだ。いつもそうだ。素直になればよかったのに、自分を守るために偉そうにして。」
わたしは暗闇の中にいた。ガス燈の微かな光だけが頼りだった。嫌われるくらいなら、嫌いにさせればいい。今までだって偉そうにそうやってきたんだ。
「椿さん、僕は君のこと……。」
「だ、だめだ。最後は私が言う。素直になれない私なんてもう要らない!」
わたしは彼を制し声を震わせながら言う。
「私は、知ってる。私は、その辺の男には惹かれないんだ。お前には、私が本気で惚れるくらいの価値がある。でもな!私にはお前と付き合うだけの価値も資格もない。素直になれないせいでお前まで傷付けて。結局、私は可愛げなんてひとつもない。偉そうなだけの女なんだ!お前だって、こんな面倒くさいバカな女と付き合いたいと思わないだろ?!」
わたしが言い放った瞬間、周囲に張り詰めていた緊張が一気に解け、沈黙が広がった。
「……ん?」
彼は戸惑った表情を浮かべると、少し笑いながらわたしに話しかけた。
「つまり、一緒にいたいってこと??」
「ち、違う…。」
「でも、そう言われたら、『そんなことないよ』って返すしかないよ。情熱については言わされたかもしれないけど、一緒にいて楽しいという僕の気持ちは本物だよ?そう言ったでしょ?」
ガス燈が次々と灯り、辺りが少しずつ明るくなっていく。
「椿さん、こんな時、普通なら素直に付き合って欲しいとか、他に好きになってくれる人がいるかもしれないとか、そんなこと言うんだよ。」
「そ、そんなこと。」
言われてみれば図星だった。嫌われたくなかった。振られたくなかった。ましてや他の女に取らたくもなかった。褒めたり質問したり何も言わなかったり。完全に見透かされている。悔しい。
「あぁ、もう!わかったよ。気持ちはよくわかった。付き合いますよ、椿さん!」
彼は頭をかきながらそう言った。
「なっ!?わたしは真剣に悩んだんだぞ。こんなんだから『情熱がない』とか言われるんだ。バカ。」
なんてテキトーな告白なの!?めっちゃムカつくんですけど。
「ごめんごめん。椿さんのそんな素直じゃないところが、本当に可愛いんだ。」
時計の鐘が鳴り響く。その音と共に、夜の街のイルミネーションが一斉に輝き出した。
わたしは、生まれて初めて自分の性格を褒められ、その目を見開いた。
「僕も知ってる。プライドがバカ高いところとか、そのくせ優しくて純粋なところとか。"ずっと見てきたんだから。"」彼は一瞬何かに気づいた表情を見せた。そして、わたしのことを理解したかのように大きく息を吸い力強く言った。
「だから僕は、全部、全部受け入れますよ。そんな君のことが好きでたまらないんだから!」
木々に織りなすイルミネーションが彼を照らす。まるで乙女ゲームのように彼が煌めいて見えた。わたしは顔を伏せ、こう思う。ず、ずるい。そんなこと言われたら、わたしどうしたらいいの?
周りを一時の静寂が包む。
わたしはどうしていいか分からず彼に近寄った。
「椿さ…」
彼はわたしに話しかけようする。わたしはそれを制し、彼に抱きつき悔しながらにキスをした。桟橋から駅へと続くイルミネーションが、私たち二人を祝福しているようだった。

わたしは、不意に自分の頬をつたう涙に気づいた。それは、一年間待ち続けたわたしの情熱だった。

偉そうな私、キレながらクリスマス観望会開きます。(観望会開く前に終わるけどね)

偉そうな私、キレながらクリスマス観望会開きます。(観望会開く前に終わるけどね)

「おい、お前」偉そうな女子高生・椿が同級生・晴人からの告白を引き出すため、クリスマス観望会を開いた。前作の文芸的な世界観と全く同じストーリーライン・台詞を、異なる人物の視点からラノベ風に描く意欲作。ChatGPT4「恋愛の矛盾を描く、胸を震わせるラノベの逸品!」

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一幕 「キレる私」
  2. 第二幕 「怒る私」
  3. 第三幕 「惚れる私」
  4. 第四幕 「決意の私」
  5. 第五幕 「泣く私」