「むすめ」

 むすめは今日も眠っている
 広い籐椅子に
 腰を沈めて
 うしろを凭せているように
 この水槽の中で眠っているのです
 青藍の薄絹 着物は水と同化して
 はだけた白 露わな鎖骨に重なる緋の痕
 蛇が締めた傷痕のような鱗のかた
 よく見れば椿の欠片である
 ほどけた紅椿の花なる鎖骨に付き従う雪の心臓 白い花
 花糸は触手のようにうようよ伸びて彷徨えり
 葯の涙花粉となって
 むすめの足首まで積もりて
 さみしい両足をぬくめけり

 むすめは今日も眠っている
 むすめはずっと
 眠ったままで

「むすめ」

「むすめ」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-15

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