「憎きもの」
重力よ
お前はいつもわたしの心を道づれにする
わたしの肉体は
お前にずるずると引摺られ
わたしの心は
肉体にしがみついて離れないから
わたしは何度心中を見たであろう
わたしは何度置いてきぼりにされたろう
そこまでわたしを厭うか 心よ
何故君はわたしからはいとも容易く離れて
肉体をひたすら愛しぬくのか
こんな重たい鎧を
腐った鉄の内側を
愛しすぎて盲目になった…?
―いいえ、わたくしは自分で眼を潰したのです―
重力よ
お前が憎い
あんな置き手紙残されて
おとなしい
綺麗な字で
わたしに涙を流させた
あの心をお前が
お前が…
お前さえ手を貸してくれなきゃ
肉体に縋らないでいられたのに
我が肉体の憎きこと
重力の憎きこと
憎い
憎い
海底の眠りを躍起になって妨げる
鉄の碇の憎きこと
「憎きもの」