「燈火」
燈火を片隅に置きて
我頬づえして無音に沈むる…
燈火のともし やわらかく
我が眼を射抜く弓ならず
我が眼を染める蜜柑色よ
瞳を閉ざせ ぱすてるからあの泡景色
もっと睫毛が長ければ
上下を糸で縫い留めるものの
我が睫毛の憎きほどに短なるぞ
与えられしは燈火の揺らめき
夕暮の空たちのぼる陽炎
かなわぬ心いたづらに歪み
燈火の硝子は鏡となれず
あらぬ景色を抱えるのみ
まだ蜜柑はモノクロにならないでいる
蜜柑は耿耿と揺らいでいる
酸素を吸うか
吹く息を待つか
ゆがんだ硝子の燈火の夜よ
「燈火」