「銀のナイフ」
鋭さを失った銀のナイフの夜露に冷えることよ
熱を失ひし切っ先
白霜に沈みつ
ナイフは鏡より数多のものを刀身に映せり
あまりに磨き済んだ神経を酷使しすぎて
映るものはみな歪みき
ナイフは挑みき
挑んだものすべて吾が身より遥かに硬きものなり
擦り傷を負わせしも
みづからが怪我おびただしく
幻聴の 風鈴の響き沁みて
しめやかな響き沁みて
ナイフは空を仰ぎつ
白き土肌に背中捧げて
痛みに火照る身体に雪を受く
空から降る瀧の雫よ
気まぐれな飛沫の心地いいこと
「銀のナイフ」