檳榔子黒
私は黒々と蟠る陰鬱な腹部を伏せ、
腹這になりしろく剥がれて往く背、
蒼銀の夜天の冷然な火に晒し爛れ、
背は神経に剥かれ腹は地に染みる。
くすむ呂色の染みは腹部より洩れ、
さらさらと光を辷り撥ねる薄衣へ、
さながら漆黒のカシミアと変容え、
わが身闇夜の海に浮ぶ蒼白へ翳る。
果て恩寵の月光に黎明と照らされ、
波うつ黒の天鵞絨としなる神経へ、
荘厳なる海の深奥の紺桔梗が毀れ、
惑溺の躰が混濁し檳榔子黒へ昇る。
青の色彩宿す大いなる美を憎めて、
亦其津へ往き着く私は黒に纏われ、
背を神経の白へいたみに剥がして、
装飾の黒を月光に濡らすを夢みる。
*
月光は清む青銀の水の沓音の光よ、
其射す黒天鵞絨は果てが檳榔子黒、
犬死の骸は闇夜に浮きあがる真白、
檳榔子黒に重層まれる刹那天撃つ。
檳榔子黒