檳榔子黒

 私は黒々と蟠る陰鬱な腹部を伏せ、
 腹這になりしろく剥がれて往く背、
 蒼銀の夜天の冷然な火に晒し爛れ、
 背は神経に剥かれ腹は地に染みる。

 くすむ呂色の染みは腹部より洩れ、
 さらさらと光を辷り撥ねる薄衣へ、
 さながら漆黒のカシミアと変容え、
 わが身闇夜の海に浮ぶ蒼白へ翳る。

 果て恩寵の月光に黎明と照らされ、
 波うつ黒の天鵞絨としなる神経へ、
 荘厳なる海の深奥の紺桔梗が毀れ、
 惑溺の躰が混濁し檳榔子黒へ昇る。

 青の色彩宿す大いなる美を憎めて、
 亦其津へ往き着く私は黒に纏われ、
 背を神経の白へいたみに剥がして、
 装飾の黒を月光に濡らすを夢みる。

  *

 月光は清む青銀の水の沓音の光よ、
 其射す黒天鵞絨は果てが檳榔子黒、
 犬死の骸は闇夜に浮きあがる真白、
 檳榔子黒に重層まれる刹那天撃つ。

檳榔子黒

檳榔子黒

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-13

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