芥川龍之介著「仙人」及び旧作から数作程。

芥川龍之介著「仙人」及び旧作から数作程。


 (今日明日は手抜きで、明日は無いかも・・不明。)



 仙人
芥川龍之介



 皆さん。
 私わたしは今大阪にいます、ですから大阪の話をしましょう。
 昔、大阪の町へ奉公ほうこうに来た男がありました。名は何と云ったかわかりません。ただ飯炊奉公めしたきぼうこうに来た男ですから、権助ごんすけとだけ伝わっています。
 権助は口入くちいれ屋やの暖簾のれんをくぐると、煙管きせるを啣くわえていた番頭に、こう口の世話を頼みました。
「番頭さん。私は仙人せんにんになりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
 番頭は呆気あっけにとられたように、しばらくは口も利きかずにいました。
「番頭さん。聞えませんか? 私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
「まことに御気の毒様ですが、――」
 番頭はやっといつもの通り、煙草たばこをすぱすぱ吸い始めました。
「手前の店ではまだ一度も、仙人なぞの口入れは引き受けた事はありませんから、どうかほかへ御出おいでなすって下さい。」
 すると権助ごんすけは不服ふふくそうに、千草ちくさの股引ももひきの膝をすすめながら、こんな理窟りくつを云い出しました。
「それはちと話が違うでしょう。御前さんの店の暖簾には、何と書いてあると御思いなさる? 万口入よろずくちいれ所どころと書いてあるじゃありませんか? 万と云うからは何事でも、口入れをするのがほんとうです。それともお前さんの店では暖簾の上に、嘘うそを書いて置いたつもりなのですか?」
 なるほどこう云われて見ると、権助が怒るのももっともです。
「いえ、暖簾に嘘がある次第ではありません。何でも仙人になれるような奉公口を探せとおっしゃるのなら、明日あしたまた御出で下さい。今日きょう中に心当りを尋ねて置いて見ますから。」
 番頭はとにかく一時逃のがれに、権助の頼みを引き受けてやりました。が、どこへ奉公させたら、仙人になる修業が出来るか、もとよりそんな事なぞはわかるはずがありません。ですから一まず権助を返すと、早速さっそく番頭は近所にある医者の所へ出かけて行きました。そうして権助の事を話してから、
「いかがでしょう? 先生。仙人になる修業をするには、どこへ奉公するのが近路ちかみちでしょう?」と、心配そうに尋ねました。
 これには医者も困ったのでしょう。しばらくはぼんやり腕組みをしながら、庭の松ばかり眺めていました。が番頭の話を聞くと、直ぐに横から口を出したのは、古狐ふるぎつねと云う渾名あだなのある、狡猾こうかつな医者の女房です。
「それはうちへおよこしよ。うちにいれば二三年中うちには、きっと仙人にして見せるから。」
「左様さようですか? それは善い事を伺いました。では何分願います。どうも仙人と御医者様とは、どこか縁が近いような心もちが致して居りましたよ。」
 何も知らない番頭は、しきりに御時宜おじぎを重ねながら、大喜びで帰りました。
 医者は苦い顔をしたまま、その後あとを見送っていましたが、やがて女房に向いながら、
「お前は何と云う莫迦ばかな事を云うのだ? もしその田舎者いなかものが何年いても、一向いっこう仙術を教えてくれぬなぞと、不平でも云い出したら、どうする気だ?」と忌々いまいましそうに小言こごとを云いました。
 しかし女房はあやまる所か、鼻の先でふふんと笑いながら、
「まあ、あなたは黙っていらっしゃい。あなたのように莫迦正直では、このせち辛がらい世の中に、御飯ごはんを食べる事も出来はしません。」と、あべこべに医者をやりこめるのです。
 さて明くる日になると約束通り、田舎者の権助は番頭と一しょにやって来ました。今日はさすがに権助ごんすけも、初はつの御目見えだと思ったせいか、紋附もんつきの羽織を着ていますが、見た所はただの百姓と少しも違った容子ようすはありません。それが返って案外だったのでしょう。医者はまるで天竺てんじくから来た麝香獣じゃこうじゅうでも見る時のように、じろじろその顔を眺めながら、
「お前は仙人になりたいのだそうだが、一体どう云う所から、そんな望みを起したのだ?」と、不審ふしんそうに尋ねました。すると権助が答えるには、
「別にこれと云う訣わけもございませんが、ただあの大阪の御城を見たら、太閤様たいこうさまのように偉い人でも、いつか一度は死んでしまう。して見れば人間と云うものは、いくら栄耀栄華えようえいがをしても、果はかないものだと思ったのです。」
「では仙人になれさえすれば、どんな仕事でもするだろうね?」
 狡猾こうかつな医者の女房は、隙すかさず口を入れました。
「はい。仙人になれさえすれば、どんな仕事でもいたします。」
「それでは今日から私わたしの所に、二十年の間奉公おし。そうすればきっと二十年目に、仙人になる術を教えてやるから。」
「左様さようでございますか? それは何より難有ありがとうございます。」
「その代り向う二十年の間は、一文いちもんも御給金はやらないからね。」
「はい。はい。承知いたしました。」
 それから権助は二十年間、その医者の家に使われていました。水を汲む。薪まきを割る。飯を炊たく。拭き掃除そうじをする。おまけに医者が外へ出る時は、薬箱くすりばこを背負って伴ともをする。――その上給金は一文でも、くれと云った事がないのですから、このくらい重宝ちょうほうな奉公人は、日本にほん中探してもありますまい。
 が、とうとう二十年たつと、権助はまた来た時のように、紋附の羽織をひっかけながら、主人夫婦の前へ出ました。そうして慇懃いんぎんに二十年間、世話になった礼を述べました。
「ついては兼かね兼がね御約束の通り、今日は一つ私にも、不老不死ふろうふしになる仙人の術を教えて貰いたいと思いますが。」
 権助にこう云われると、閉口したのは主人の医者です。何しろ一文も給金をやらずに、二十年間も使った後あとですから、いまさら仙術は知らぬなぞとは、云えた義理ではありません。医者はそこで仕方なしに、
「仙人になる術を知っているのは、おれの女房にょうぼうの方だから、女房に教えて貰うが好いい。」と、素そっ気けなく横を向いてしまいました。
 しかし女房は平気なものです。
「では仙術を教えてやるから、その代りどんなむずかしい事でも、私の云う通りにするのだよ。さもないと仙人になれないばかりか、また向う二十年の間、御給金なしに奉公しないと、すぐに罰ばちが当って死んでしまうからね。」
「はい。どんなむずかしい事でも、きっと仕遂しとげて御覧に入れます。」
 権助ごんすけはほくほく喜びながら、女房の云いつけを待っていました。
「それではあの庭の松に御登り。」
 女房はこう云いつけました。もとより仙人になる術なぞは、知っているはずがありませんから、何でも権助に出来そうもない、むずかしい事を云いつけて、もしそれが出来ない時には、また向う二十年の間、ただで使おうと思ったのでしょう。しかし権助はその言葉を聞くとすぐに庭の松へ登りました。
「もっと高く。もっとずっと高く御登り。」
 女房は縁先えんさきに佇たたずみながら、松の上の権助を見上げました。権助の着た紋附の羽織は、もうその大きな庭の松でも、一番高い梢こずえにひらめいています。
「今度は右の手を御放おはなし。」
 権助は左手にしっかりと、松の太枝をおさえながら、そろそろ右の手を放しました。
「それから左の手も放しておしまい。」
「おい。おい。左の手を放そうものなら、あの田舎者いなかものは落ちてしまうぜ。落ちれば下には石があるし、とても命はありゃしない。」
 医者もとうとう縁先へ、心配そうな顔を出しました。
「あなたの出る幕ではありませんよ。まあ、私に任せて御置きなさい。――さあ、左の手を放すのだよ。」
 権助はその言葉が終らない内に、思い切って左手も放しました。何しろ木の上に登ったまま、両手とも放してしまったのですから、落ちずにいる訣わけはありません。あっと云う間まに権助の体は、権助の着ていた紋附の羽織は、松の梢こずえから離れました。が、離れたと思うと落ちもせずに、不思議にも昼間の中空なかぞらへ、まるで操あやつり人形のように、ちゃんと立止ったではありませんか?
「どうも難有ありがとうございます。おかげ様で私も一人前の仙人になれました。」
 権助は叮嚀ていねいに御時宜おじぎをすると、静かに青空を踏みながら、だんだん高い雲の中へ昇って行ってしまいました。
 医者夫婦はどうしたか、それは誰も知っていません。ただその医者の庭の松は、ずっと後あとまでも残っていました。何でも淀屋辰五郎よどやたつごろうは、この松の雪景色を眺めるために、四抱よかかえにも余る大木をわざわざ庭へ引かせたそうです。
(大正十一年三月)




 Inferno


 「ここは自治会の当番がいろいろあるから」

 安井久は、賃貸マンションに引っ越そうと思って下調べに来た。
 家賃が安いし、と思い申し込みに来た。自分の家を出てからかなり時間が掛かった、やはり、遠い。もう夕方になろうとしている。
 それに、最寄りの駅からも遠い。一時間に一本しかないバスを逃したら、三十分は歩かないといけない、山の上にある大きな団地だが。
 駅から団地行のバスに乗ったら、運転手は愛想が無いから、何処のバス停で降りたら良いのか聞いても黙ったまま。口を開けたと思ったら、「音漏れがうるさいから切って」と注意され、音楽も聴けない。
 何とか歩いて、途中何人かに聞いて、やっと棟を探す事ができた。棟のエレベーターは使わずに、わざと階段で各階の状況を見ながら最上階の十階まで辿り着いた。ドアに「班長」「棟長」その他何か良く分から無いが、大きめの看板のような物が貼ってある。久は、こりゃ何かいろいろありそうだなと嫌な予感がした。
 詳しい事を聞いてみようと思ってドアをノックしても、反応が無い。昼間だから、働いている部屋が多くて留守なのかなどと思った。
やっと、チャイムに応えてくれた部屋があって、中高年の女性がドアを開けてくれた。
 久は、「済みません。何かドアにいろんな物が貼ってある部屋が多いんですけれど、あれは何ですか?」
 その女性は嫌そうな顔をしながらも、「いろいろ、当番があってね、順番に回って来るんだよ。詳しい事は自治会の五区の事務所がずっと向こうの棟の先にあるから、詳しい事はそこで聞いた方がいいよ」と言って早々にドアを閉めてしまった。
 事務所までは、結構遠かったが、何とか人に聞きながら見つける事が出来た。
 蛍光灯かLED電球か、良くは分からないが、文字の形に配列されていて、「<span style="font-size:1.4em;">じちかいごくしゅうかいじょ</span>」と書いてある。久はそれをちらっと見て、「電光掲示板のようだが洒落ているな」と思った。
 久が、ドアを開けて、「済みません、何方かいらっしゃいますか?」と声を掛けたら、奥から中高年の女性が出て来た。
 久が分からない事を聞き出す。「あの班長とか、棟長とか、その他ドアに貼ってあるのは当番という事でしょうが、どんな事をするんですか?」
 女性は細かい説明を始めた。「班長は・・、棟長は・・」
 久は、そのくらいなら何処もあるだろうから面倒でも仕方が無いなと思った。
 しかし、女性の話はなかなか終わらない。話している最中に老人が入って来て、「あたしゃ、これ、出れないから」と弱弱しそうな口調で女性と話をする。
「先ずは、自治会費の集金、これは一軒一軒廻って集金ね」
「先程、何処の部屋のドアをノックしても反応が無かったんですが、まあ、昼間だからいないんでしょうね」
「違うんだよ。此処は、年寄りばかりだから、耳が聞こえ無いからね」
 久は、こりゃ大変そうだなと思い、「それじゃあ、集金にかなり苦労しそうですね」と言うと、女性は何とも言えない顔付で、「まあ、やってみれば分かるよ」
 久が次の質問をしようと思ったら、先程の老人が入って来て、先程と同じ事を。「あたしゃ、出れないからね」
 女性が、「分かってるよ」
 久が女性と話をはじめて暫くすると、また、あの老人が。久は四十分くらい集会所にいたが、その間に十回くらい、あの老人が同じ事を言いに来る。
 久は自分の親で経験があったから、「あの方、認知症では?」
 女性はぶすっと笑って、「此処は多いんだよ。ああいう人達が。皆、九十五とか百歳代・・だよ。あんたなんか若いから・・」
 老人の度重なる訪問の合間に詳しい事を聞く。
 久は女性の説明を聞いている内に、「こりゃ、半端じゃないな。しんどいぞ」
などと思った。
 女性が喋る、「・・それに、建物の階段の清掃・建物の周りの清掃・集金・運動会・祭り・まだまだあるよ。ゴミ置き場の清掃に分別や・・他にもいろいろ・・」
 久は思った。「ゴミ置き場など普通は業者が来て持って行くし、ある程度清掃して行くから・・、そんな事までやる所は無いけれどな」
「ゴミの分別と言っても、いろんな物があるからね・・死骸とか・・」
 久は呟いた。「面倒だな。ペットの死んだ後まで処理しなきゃいけないのか・・」
 女性は耳は悪くないらしい、久の呟きをしっかり聞いていた。
「ペット?違うよ。此処は年寄りが多いから・・」
 久はこれ以上説明を聞いても仕方が無いと、挨拶をして、表に出た。引越し、此処はやめようと思った。
 もう、外は真っ暗だった。



 入る時に気付いた電光掲示板の看板が、闇の中で心細そうに輝いている、殆ど、電球か蛍光灯が切れているようだ。残った灯りは僅かに三文字だけ。




じ・・・ごく・・・・・・・




 忘れ物



 「忘れ物をしちゃった・・戻らなきゃ・・」

 鎌田奈美は踵(きびす)を返すとゆっくりと、会社に戻って行った。
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 奈美は畜産会社支社の研究室に勤めている。
 仕事の都合で日によっては遅くなる事もある。
 今日も残業になってしまって、奈美と栄子が研究室にいるだけだ。
 研究室の見本が保管されている金庫の扉が微かに開いている。
 栄子がコーヒーを飲みながら仕事をしていたが、奈美が戻った時には、慌ててトイレにでも行ったようで姿は見えなかったから、挨拶もしなかった。
 美奈が警備員室の前を通った時、作蔵は、
「さて、定時の見回りをしなきゃ」
 と呟きながら、飲みかけのジュースのグラスを机に置くと、警備員室から出て行く。
 



 栄子の夫の康夫は、元は、奈美の恋人だった。
 二人は、結婚をする事になっていたのだが、康夫の気持ちは奈美を離れて栄子の方に傾いて行った。
 康夫と奈美は、結婚式の準備を進めていたが、直前になって式は解消する事になった。
 奈美にとっては、まさかの出来事であった。
 奈美は涙を流しながら康夫に、どうして結婚を解消するのか?と聞いた。
 康夫は、
「御免、君には悪いが、僕は社長から本社の役員室に転属になるようにと言われたんだそれで・・」
 と、頭を下げた。
 康夫の弁解の最後が聞こえない程、美奈は失意のどん底に落ちていった。
 栄子の叔父が此の会社の社長である。
 栄子と康夫の結婚を歓迎したのは、本人達だけでは無かった。
 警備員をやっている山田作蔵は、栄子の父親だ。
 前の会社を定年で辞めた後、兄弟にあたる此の会社の社長の計らいで、長い取引先である警備会社に入社し、会社の警備を任せられている。
 康夫と娘の栄子との結婚を喜び、美奈の顔を見て鼻で笑って言った。
「あんた、康夫君と付き合っていたんだって?そりゃ、可哀想だったね。栄子は利口な娘だからな、まあ、康夫君もそれが・・」



 
 次の日、社員が出勤して来た。
 入口のドアが開けっ放しになっている。
「一晩中開けっ放しだったのかな?物騒だな!」
 次々に社員が出勤して来た。
 研究室の社員が、別の社員に、
「今日は山田女史は休みだったかな?」
 と、尋ねた。
 尋ねられた社員は、
「いやあ?僕は聞いて無いけれど、遅刻かな?そのうち来るだろう」
 と、机に向かうと仕事をし始めた。
 暫くし、先程の社員が、
「山田、遅いな、連絡が入っているかも知れないから、課長に聞いてみるか?」
 と、課長室に入って行ったが、戻って来、
「何も連絡は無いらしいよ。無断欠勤かな?今までそんな事なかったけどな」。
 人事課では別の話をしていた。
「警備員の山田作蔵さんの姿が見えないけれど、朝、玄関のドアは開いていたらしい。昨晩閉め忘れたのか?物騒だな。だとしたら、此方に連絡がある筈だけれどな。日報を見てみるか」
 日報には、昨晩戸締りをした記録は無かった。
 人事課員が、警備会社に連絡をして、その旨を話したら、
「ええ?それはおかしいな。此方にも何も連絡が無いなんて、どうしたんだろう?済みません、此れからすぐそちらに行きますから」
 との事。
 間もなく警備会社の車が到着して、責任者が降りて来た。
 確かに記録にはドアを閉めた時刻の記入は無いし、鍵は机の引き出しに入ったままだ。作蔵は、ドアの鍵を閉め鍵を持って帰る毎日なのだが。
 警備の会社の責任者が、持って来た予備の鍵を眺めながら、
「おかしいな。急病でも・・なら、何処かに倒れているとか・・」
 複数で会社中を探し回ったが、何処にもいない。



 

 突然、女性の悲鳴が聞こえた。
 女子社員が片手で口を押さえながら、
「あれ・・見て!牛・・!」
 と、震えながら、積み重ねられた・・牛と・・を指差している。 
 何人かが、悲鳴が聞こえた部屋「急速冷凍庫」に入ると女性の指(さ)している方向を見る。
 周りが氷で覆われているからハッキリは分からないが、完全冷凍されている筈の物の中に、牛だけで無く何かが見えたようだ。
 どうやら、昨晩、落雷があった時、屋上にある避雷針に落ちた雷のせいで、導線の直近にあった電子機器が、これに流れる雷電流そのものの分流や電磁誘導作用により破壊されたらしい。
 冷凍庫の制御盤は焦げ落ちていたから、冷凍庫付近で火災が発生したものと思われる。
 それで、完全冷凍されていた物が溶け始めて中が見えて来たようだ。
 社員が冷凍室に集まって来たとほぼ同時にパトロールカーが到着した。

 
 牛に紛れていたモノは、解凍したところ、山田親子だった。


 警察では、二人の死因を調べた。
 死因は毒物を飲んだ事によるものだった。
 其の毒物は作蔵のグラスと栄子のコーヒーカップから検出された。
 誰かが毒物を其のグラスとカップに入れたと推測されない事は無いが、毒物の管理者は栄子で、他の者は絶対に見本には手を触れないようにという規則だったから、誰の仕業かは分からず仕舞いのようだ。


 仮に、犯行動機などで誰かが疑われたにしても・・落雷のせいか・・予備電源を備えた防犯カメラも作動しておらず誰も映ってはいない・・無人で真っ暗であったと思われる当時の社内には二人以外は誰もいなかった事だけが証明されている・・。
 というのは、鑑識班・科捜研も足跡・指紋その他ありとあらゆる犯罪の可能性を指摘しながら調査をしたのだが・・。
「・・此れでは他殺だと仮定したところで・・何も誰かの犯行だと・・いや、もしそうだとすれば科学的ではないが・・落雷迄予測は無理だろうし・・こりゃ神業と言えそうだな・・」
 勿論・・推定死亡時刻当時に社を出入りする者の姿を目撃したなどという情報すら皆無だ・・何せ・・日頃から・・増してや夜間は、人通りが無い裏通り。疑わしきは罰せず。


 小さな祠の前・・何者かの影・・。
「・・・毒は毒を持って制す・・か」



 踊り子の涙



  舞台は華やかなフィナーレとなっている。人気のある歌手が登場して客席は盛り上がったが、Lastナンバーだ。
 其れにあわせるように観客は手拍子を・・。金沢都はその間に帰り支度を始め出した。此の劇場で前座として踊りを踊っている彼女。
 何人かの仲間と一緒に踊るのだが、客席には空席が目立っている。真剣に見てくれる客などはいないだろうと思う。
 


 場末の劇場に出ている時、・・を図った。人生は自分に笑顔を運んできてくれなかった。生活費も乏しくなり、もうこれ以上生きていても何もいい事など無いと思った。
 咄嗟に支度部屋から抜け出て裏の細い路地の行き止まりに座った時、・・思わず倒れていたようだ・・。
 此れで、何もかも終わるんだ、楽になれると思った。気が付いた時には、病院のベッドに寝ていた。看護婦が様子を見に来て戻って行った時、誰かの気配がした。
 奇術師のモアが帽子を手に持ってベッドに近付いてきた。こと切れる直前にモアが都が倒れているのを発見し救急車を呼んでくれたという。
 そして、一緒に病院まで付き添ってくれたと・・看護婦が話してくれた。モアとは芸名で木田敏夫というのが本名だ。
 敏夫は其の劇場で前座の奇術をやっていて、丁度終わった時、控室に来て都がいない事に気付いて探してくれ裏の路地で都が倒れているのを見つけてくれたという事だ。
 其の劇場にはいく事は無い。そんな事があったから元締めに追い出された。其れから、劇場を探したがなかなか見つからなかった。
 そんな時、敏夫が知っている劇場を紹介してくれた。勿論、事件の事は敏夫以外は誰も知らないから、何とか踊り子としてやっていく事が出来ている。
 手当は安いが何とか、いろいろなものをきり詰めてギリギリの生活をしている。新しい劇場に慣れるまでは大変だったが、敏夫が心配してくれて、皆ともうまくやっている。
 何処の劇場も、客の目当ては名の売れた歌手の歌を聞きに来る事だ。其の前座で出ている奇術師や踊り子などを真面に見てくれるのはほんの少しばかりの客しかいない。
 だから、若い時はまだ良いが年を取ったら踊り子などやっていられない。都はもう三十近くになる。其れだから、此れから先どうやって暮らしていくかが心配になる。
 他の踊り子は都より若いからまだ、そういう事は考えないだろうが、皆年になれば踊り子など廃業になる。其れから先は、何も宛が無いから、中には先輩で水商売などをやっている人もいる。
 都も、同じ道か、其れとも何か暮らしていける職業を探さなければならない。でも、踊り子に出来る職業など殆ど無い。
 そんな事を考えていると、また、不安になって・・。誰にも相談できないが、敏夫にだけは愚痴を聞いて貰っている。
 そんな時、都が此れからどうしようか困っていると話すと、敏夫は、一緒になって、悩んでくれる。都は其れが逆に敏夫に負担になると思い、出来るだけ・・。
 敏夫は都より年は二十歳ほど上だ。其のせいか都の事を心配してくれるのだが、手当ては敏夫だって幾らも違わない筈だ。
 其れなのに、少ない手当から食事を奢ってくれたり、必要なものがあったりすると、足しにして、と都にお金を手渡す事もある。
 都はそんな時に、受け取らない事があった。敏夫は、奇術道具を取り出すと、お金を次々に出して見せた。都は、其れを見て、涙が出そうになって、其れからは、遠慮しながらも手渡されたお金を素直に貰う事にした。



 敏夫は、奇術師になる前は画家になりたかったらしい。だから、休みの時など、都を誘って上野の美術館に連れて行ってくれる事がある。
 美術館には、いろいろ綺麗な絵が飾ってある。館内を二人でゆっくり回って、ある絵の前で立ち止まる。敏夫が、此れはドガという有名な画家が描いた絵だといった。
 其れを見た時、本当に綺麗だと思った。照明に照らされた踊り子の姿はまるで天使のようだと思った。上手い人が描いたからそんなに綺麗に見えるのかと思った。
 そう言ったら、敏夫は暫く黙っていたが、確かにドガの絵は綺麗で上手に描いているけれど、踊り子の事をよく知っているからこんな絵が描けるんだと言う。
 都は絵の事など何も分からないから、そんなものなんだと思う。でも、其れを話している敏夫だって絵を描いていたのだから、同じ様に踊り子の絵が描けるのかなと思う。
 其れを敏夫には言わなかったけれど、きっと描けるのではないかと思ったら、何時か自分の事も何時か描いて貰えるかも知れないと思う。
 だって、敏夫は踊り子の事をよく知っているし、気持ちが分かるから、其れだったらきっと・・と思う。
 


 最近、踊りを見に来てくれる人がいる事を知った。皆、歌手が目当てで見に来るのに、其の人は踊り子の踊りを見に来るという。
 其れは、どうやら、踊り子の中でも都の踊りが気に入っているようで、舞台が終わった後、楽屋迄花束を持って来てくれた。
 そんな事は無かったから、都は嬉しかった。其れから、何回か其の人が差し入れを持って来てくれるようになった。
 敏夫に其の話をしたら、喜んでくれた。
 そうした事が何回か続き、結局、二人は結婚をする事になった。此れで、生活は困らないが・・。



 其の話を、敏夫に話した。喜んでくれた。
 敏夫は、笑顔を見せたが、何処か、悲しそうな表情にも見えた。
 帰って行く敏夫の背中が寂しそうに揺れていた。



 最後の日に、敏夫からプレゼントがあった。
 一つは、絵だった。
 都がドガの踊り子のように、輝いて描かれていて、素晴らしく綺麗だった。



 もう一つは、最後に、とっておきの奇術を見せてくれた。

 誰もいない、舞台の上に立った敏夫。
 都は、一人、観客席の一番前で見ていた。
 
 Lastの瞬間、取り出した小箱から、綺麗な星のようなものが溢れ出て来ている。
 天使も現れて、舞台の上を、小さな羽で飛び回っている・・。



 突然・・スローモーションを見ている様に・・敏夫が舞台に・・倒れていく・・。
 初めて聞いた。
 敏夫は、癌で医者からもうあと僅かの命と言われていたと言う。
 舞台に転がった小箱から・・敏夫が虫の息で・・最後に・・取り出した通帳を都に差し出した・・。 


「・・本当の・・娘だと思っていたんだ・・」 
 そう言ってから・・目を閉じた・・笑顔のまま・・。



 ・・舞台の照明が・・静かに・・暗くなっていくような気がした・・。都は・・何時までも・・敏夫の両手を握っていた・・。



 窓



 「此処から見える景色は」



 水野哉が、此の街に引っ越しして来てから、時々、此の二階の窓から見える庭園を見る。
 どうという事も無い庭園だが、都心から離れた此の地方には、大して興味を感じるところが無い。
 立ち並んでいる家並みを見ても、遠くに見える街の灯りを見ても、都会にいた時と大して変わり映えがしない。
 此の窓から見える庭園は、公園でもある。
 賑やかに子供達の声が響いている日もあるが、やはり、静かな中に花や草が入り乱れて生えている様は、見ていても落ち着く。
 絵に描いても素晴らしいのではと思うのだが、残念ながら哉は、そういう才能は無い。


 最近、時々、庭園のベンチに座っている女性を見かけるようになった。
 それが、庭園と女性の双方がマッチして、美しさを感じると言っても過言では無いだろう。
 女性は、何処かの娘さんなのだろうが、此の庭園の何かが気に入って、ベンチに座っては、本を読む事もあるし、時々訪れる小鳥を相手にして、飽きもせず寛いでいる。
 小さな池もあるから、小鳥達は其処で水を飲んだり、木々にとまったりして、静かな時をつくりだしている。
 女性の服装も和服であったり、普通のドレスであったりするから、何か稽古事でもしているのか、それとも、仕事の関係なのかは分からないが、ベンチに腰掛けている様は暖かな美しさを感じる。
 小鳥達と草木や花と池に、女性の姿は印象派の絵画から抜け出してきた様な、独特の雰囲気を醸し出している。
 印象派と言えば、光を色彩で上手に表現している事で評価されている。
 本当は、庭園もさることながら、女性だけでも、その清楚な美しさを感じさせるものがある。
 だから、哉は、庭園だけでなく、女性の服装にも関心がある。
 今日は、どんな服だろうとか、庭園に不思議にマッチしている姿を見ては、哉は何とも言えない心のときめきを感じるのだ。
 女性の清楚な顔は、周りに溶け込んでいるのだが、灰汁が全くない自然さに付け足すように、余計な色彩が持つ違和感を取り払っている。
 哉が窓から見ている事を、あの女性は知っているのだろうかと思う事がある。
いや、知っているにしても、拘りを感じない、まるで、空気の様なものに例えれば一番表現し易いかも知れない。
 哉にしても、女性に却って不自然さを感じたく無いから、なるべく、そっと、見る様にしている。
 覗いている訳では無いから、二人の間には、過剰な意識が無い。


 しかし、哉としても、和服を着ている時の彼女が一番気に入っている。
 庭園をバックにした時に、融和するのだが、その和服の柄がセンスがあると感心する。
 七五三や芸子さんが此処に座っているのでは、雰囲気をぶち壊しにしてしまうと思う。


 哉は次第に、このまま見ているだけでは物足りなくなってきた。
 絵画でも習おうか、とも思ったが、一足飛びに此れを描写する事は無理だと思った。
 かと言って、写真に撮るのは邪道の様な気がする。
 これも、余程の高度な技術を持っていて、感性が優れていないと難しいと思った。
 何とか、描写をしたいが、してしまうと、大事なものが消えてしまう様な気もする。
 哉は或る日、庭園に出てみる事にした。
 といっても、此の雰囲気を壊さないで、情景の中に入って行く事は、至難の業では出来ない。
 哉は、庭園の外側をゆっくり歩いて、女性や小動物や木々を見ながら、考えた。
 此のまま、自分がベンチに近付いてしまっては、女性も驚いてしまうだろうと。
 その日は、それで、部屋に戻る事にした。
 次の日、哉は同じ様に庭園に出た。
 やはり、女性に話し掛けてみようかなと思った。
 ベンチにゆっくり近づくと、葉を踏む音に気付いて、女性が此方を振り返った。
 哉と女性は軽く頭を下げて挨拶をした。
 哉は、自分の名を言ってから、女性の名前を聞いてみた。
 女性は「昭子と申します」と言って、微笑んだ。
 その微笑んだ顔が、またいいなと思った。
 此の庭園が好きなんですかと聞いてみた。
 女性は頷いてからひと言。「此処には、昔、祠もあったんですよ。私のおじいさんの時代には」
 そんな古くから此処に来ていたのかと思った。
 哉は少し話をしてから、考えた。「やはり、此の雰囲気を崩さないようにするには、・・絵にでも挑戦してみようかな」と呟いた。


 哉は午前中に二時間くらい絵の描き方を教えてくれる教室に通った。
 或る程度慣れてきてから、庭園の片隅で絵を描き始めた。
 庭園全体とその昔あったという祠も想像で書く事にした。
 一か月も経った頃、大体絵は完成に近づいた。
 女性の来ているものは和服にした。

 完成した頃、女性に話をしようと思って、庭園に出た時、女性がいなくなっている事に気が付いた。
 どうして、来なくなってしまったのかなと思っていろいろ考えた。「あの女性は此の庭園とは何かの縁があって来ていた様な気がする。ひょっとしたら、妖精だったのかも、それとも、幻想の中に現れていたのかも知れないな」などと考えた。

 二階の窓から見ていればいなくならなかったかも知れないななどと思った。
 哉は、毎日二階の窓から見ている。
 と、あの女性がベンチに座っている。
「そうか、妖精はそっとしておいてあげた方がいいんだろうな」と、呟いた。
 それから、哉は、毎日、窓から見るようにして、降りて行くのをやめた。
 美しいものは、離れてみていた方が、庭園とマッチしていて何とも言えないからな。

 そう言って、暫く掛かって描いた絵を部屋の中に飾って見てみた。
「こうしておけば、降りて行かなくたって、見れるし、雰囲気も壊す事はないからな」

 今日も庭園の女性は来ている。
 女性が思わず、此方の窓を見て微笑んだが、其の微笑みは一生忘れる事が無いくらい素晴らしいものだった。
 


 ふと気が付くと、絵の中の女性も振り返り哉に微笑んでいた。



 una historia brillante  邦題 恰も煌めくかのような事件簿
 

 飯田晃は幕張メッセで開かれている一般社団法人日本包装機械工業会主催の「JAPAN PACK 2019」を見学に来ている。
 晃はA新聞社の社会部の記者で、今日は担当記者の河合澄夫の代わりに取材をしている。
 此の催しでは、包装機械、包装資材、包装材料加工機械、製菓製パン・食品加工機械、医薬・化粧品関連機械、検査機・試験機、製造加工機器・包装関連機器、コンポーネント、包装用ロボット、流通関連機器、環境関連機器など様々なものを見る事が出来る。
 スーパーやコンビニなどに陳列してある食料品その他の包装資材に興味があったのでと言うのが表向きの理由だ。


 話は先週に遡り、晃は都内の或るホテルで起きた事件を調査・取材していたのだが・・、先ずは其方の記事は次の様なものであった。
「・・十月二十五日の朝刊。Tホテルの客室で二十四日午前十一時五十分頃男性が死亡しているのをハウスキーパーが発見し、ホテルから警察に通報・・」
この事件を担当する管轄署は丸の内警察署だが、何故か警視庁捜査一課が扱う事になった。
 警視庁の発表では死亡したのは都内M市にある大手のM商事会社勤務の男性54歳・・・、死亡原因は四階の客室内にいたところを銀座西五丁目のNビルの屋上から狙撃されたようで頭部貫通の即死。
 被害者の所持品であるバッグからは、会社関連の書類とS包装会社の試作した幾つかの製品が載ったファイルとDummy(試作見本)が見つかった。
 Nビルの屋上からは硝煙反応が出た。
 使用された銃は不明。7.62mm弾が窓ガラスを破り被害者の頭部を貫通し発見された。
 Nビルから被害者までの間には首都高速とJR高架線路があるが、距離は数百メートル。
 何処かの軍隊等に所属していた者の犯行とも思われるが、その意味では加害者はある程度限定されるので、警視庁が警察庁を通じて外務省とも連絡を取りながら直接捜査する事になった。
 晃は警視庁の表で同窓生の総務部広報課課長中多美紀と会った。
 彼女は叔父が被害者の商事会社の社長と知り合いだと言う。
 晃は、SATの模擬狙撃の捜査の模様を見に行った。
 見慣れた顔、隠匿係の今川義元と真田幸村の二人も一課とは別に来ていた。
晃は美紀にそれとなく被害者の勤務していた商事会社から、被害者の携わっていた業務と取引先である被害者の所持品のファイルとDummyについて聞いて貰えないかと打診してみた。
 美紀は同窓時代に晃と恋仲になっていた事もあったから、満更赤の他人では無いしとは思ったのだが・・。
 美紀は笑みを浮かべると、「私は、現在は警察官ですからね」と前置きをしてから、口に人差し指を充てると、「実は、同じ事を、貴方だけで無く、ある人からも依頼されているから、分かり次第報告しなければならないのだけれど、其れも表向きの話では無い様だから、まあ、ついでにという事で・・」と、片手を振ると自分のデスクに戻って行った。
 晃は、美紀が消えた警視庁の表示を見てから視線を上階に移すと呟いた。「そんな事言うのは、多分、あそこにいる義元さんくらいじゃないかな」
其の晩、早速美紀から連絡が来た。
「ファイルとDummy(試作品)は化学兵器用の防御Maskと防護服、其の兵器を完全密閉する容器の様で、新型化学兵器に対する対策の為に試験的に必要だったUSAのある部署からの受注だったみたい。
ああ、化学兵器と言っても色々あるんだけれど、・・・・・・・・・・・合成オピオイドから派生した・・・・・・(すなわち化学兵器)の一種で、暴露後1〜3秒以内に効果を発揮し2〜6時間意識不明にすると言われているものなど。この・・は・・・・・・・・・で使用されたことで・・・なったんだけれど、人質・・人のうち・・人が・・・・・・したことからその非致死性については疑問視されているようなの。・・・・・は事の全容を明らかにしていないのだけれど、・・・・・・カルフェンタニルとレミフェンタニルが検出された。前者はオピオイド系鎮痛剤フェンタニルのアナログ、後者は超短時間作用性の合成麻薬。効能・効果は「・・・・・・」であり、・・・・・・。だから、かなり画期的に改善された新型・・・というか、・・・・・の様なものに使用される完全密封容器のDummyだった様なの」
 晃は其れでかと頷きながら、拳を握りしめる様にすると、「現代では・・・とは、・・などの・・・・・により、人や動植物に対して被害を与えるため使われる。『・・・・・・』では、・・・・・・や、それを放出する・・・・・も含むものとしていて、・・・や・・・・・などの・・・・・・を用いる場合は、・・・・・ではなく・・・・・に分類されることが多いね。此の国でもオウム真理教事件でサリンを使われたが、今時そんなものを造って実戦に使用するのはテロ組織でも無い。・・・・・・止条約に違反しない程度の ・・・・・・と呼ばれていても、・・・・・・・・・・・・・・・・・・文字通りの死亡の危険がないわけではなく、濃度や暴露時間などによるため分類は相対的なんだけれど。USAはおそらく・・・・・・の研究と対処方法の為に実験材料として使用する際の「容器」の受注をした可能性はあるな。此れはスクープと言うよりも、機密として公表の仕方は難しいな。分かった、其れで、肝心なそれらの製造元なんだけれど、何処の会社なの?」と、美紀が、「パンフに記載のあった『・・・・・という・・・などを作っている会社』らしいわ。今度の「JAPAN PACK 2019」に出品する可能性があるから、見に行った方がいいんじゃない」
「それって、兵器とは縁が無いいろいろな包装容器や収納関係に使われるモノなどの会社が出店する催しなんじゃない?・・うん?そうか、此の国の技術はハイレベルと言われている・・、あり得るな。盲点かも知れない・・」


 晃が幕張メッセの中を物色していると、見慣れた顔の人物が・・。
「ああ、お久し振りですね。でも無いかな。あなたはどうして此処に来たんでしょうか?ひょっとしたら・・」
 晃は、微笑んでいる義元の目を見ながら、「う~ん、記者の勘とでも・・言っておきましょうかね・・、ところでお二人共、やはり・・ですか?」と言うと、幸村が、「義元さんが行きましょうって言うもので、先程会場の案内を見たら、『・会社』のボックスはこの先ですよ。どうせ・・、そうなんでしょ?なら、一緒に、と行きますか、ねえ、義元さん」、義元は相好を崩すと、両手を後ろ手に組むなり歩き始めた。
・会社のボックスのフロントではコマーシャルレディーが、・社の製品に興味があり覗いたり質問をしたりする客の相手をしている。
 電光掲示板が、「・・常識をくつがえし、・・・の未来を変えていく。 「・・」ことのスペシャリスト。 それが私たち「・」です。 時代の変化とともに、・・・・・のありかたも変わり続けています。 業界の先頭を駆けるフロントランナーとして、 これまでの常識にとらわれることなく ・・」と文字を流している。
 客の殆どは・・や・・・などの関連会社や商社など興味のある人達の様だ。
 幸村や義元も客に混ざって商品の一覧の中から事件に関係のある商品を探してみたが、流石に・・Protectに関する類のものは極秘なのか、展示会場には見当たらない。
 晃と幸村が宛が外れたかと顔を見合わせている隣では、義元が・会社の会社案内のパンフを手に持ったまま暫し黙している。
 幸村がどうしたのかと思って義元に声を掛けようと・・するまでも無く、義元が口を開いた。「殺害された・・は大手商事会社の営業部長でしたから、ありとあらゆる商品を扱っていてもおかしくはないですよね。ですから、其の会社を調べたところで埃も出ないでしょう。・・Protectまで受注を受けたところで闇勘定にすれば社内でも其の取引を知る人間はごく僅かでしょう。其れよりも直接の生産者であるメーカーの方が商品の種類からして絞り易いかも知れませんね」
 其の義元が手にしている会社案内に記載された文字に二人の視線は集中した。
 ・会社の社長の名は「・零・」。
 晃がiPhoneで苗字の検索をしたところ、・会社の本社及び営業所が網羅されている・県に九十名程、・・に九名、・・にも三名、全国でも珍しい苗字である事が分かった。
 晃が美紀から聞いた話では焼津市に、案内にも本社は・・・・・から・・・に移転されたとなっている。
 被害者の住まいは・・だが、・会社の営業所は・・にもある。
 晃が義元を見ながら、「成程、此れが偶然なのか・・、其れとも・・」と、義元は頷くと、「ぶんやさん(新聞記者)の勘では、何か・・行き当たりましたか?」
晃は頷きながら、「私は・市にある・高校の出なんですよ。・・の大学に入学まで・市にいたので、・・・・・には詳しいですから、具体的な商品の確認に取材に行ってみますよ。・新聞社の課長や・中央警察署署長は同窓生ですから協力して貰えるかな?警察官では無いしな義元さんからも連絡しておいては貰えませんか?管轄外だから難しいかな?ところで、遺体はまだ司法解剖等で安置室ですか?」
 義元が、「其れは葬儀は何時かという事でしょうか?葬儀に行けば社長の・・さんも来られるかも知れませんね。若し親族であれば・・。・・までは?私も隠密の身のようなものですからね。遺体の状況については、鑑識の織田さんでも分かるでしょう、葬儀に付いても至急確認しておきましょう」
 亘は、二人の会話を聞いていたが、「其れなら決まりですか?先ずは事件に関係する取引商品は、被害者の遺留品であるパンフレットの・・Protect、つまり、マスク・・・・・・の密閉容器は・会社にM商事会社が発注した。後は取引の実態の裏付けを取るだけ。其れから、USAが試験的な目的で其の商品を必要としていて、最終的には其れがどうして殺害事件に繋がったのか?其の加害者は?・・、あれ?義元さん・・?」
 義元は口に人差し指をあてると小声に変え、「・・其処にいる男、話を聞いている様ですね。私達と同じ目的で・・」と、其の男が突然ボックスの人混みから離れて早足で歩きかける。
「幸村君!」
 走り出した男を、義元と幸村が追い掛ける。
 晃もスクープかと思い、二人の後を追い掛ける。
 男はメッセの中を人を突き飛ばしながら逃げまくる。
 幾ら大きなメッセでも出口は限られている。
 男は三方から追い詰められ、拳銃を取り出した。
 その場の四人の動きと拳銃を見て、群衆は悲鳴を上げながら雪崩の様になり避難しようとする。
「!(ちぇっ、こいつら死ね!)」
 男が発砲しようとする寸前、幸村がタックル、続いて義元が身体を押し曲げながら男の腕を捻ると、素早く手錠を掛ける。
 晃のフラッシュが焚かれる。
 義元が暴れる男に試す様に、「・・You had done something ridiculous!~とんでもない事をしましたね!」。
 大人しくなった男と二人を見比べる様に晃が、「通じるんですね」と、義元が、「CIAですよ。実行犯じゃない。今はこんなのがうじゃうじゃ動いていますからね。舌を噛まれちゃ・・。」と言いながら、男の口にハンカチを突っ込む。



 晃は、・県に向かった。
 ・会社には、前以てアポを取っておいたから、専務が出て、取材に応じてくれると言う。
 専務は、「M商事からの発注で、何も怪しいものを提供している訳では無いですから。どうぞご覧になって下さい。警察署からも連絡があったようですが、では、出掛けましょう」と、・社のロゴが横腹に書かれた社用車でF営業所兼工場まで向かった。
 工場内ではいろいろな製品に混じって、該当するモノを見る事が出来た。
 晃はなかなか見る事が出来ないだろう貴重な製品を見せて貰ったが、企業秘密に係る事なので話を聞くだけで写真は撮らなかった。
 専務から、「社内の会議で、これ等の製品については聞いていたが、具体的にどの様に使用するのかまでは知らず、注文通りに優れた技術を駆使してニーズに答えるのがメーカーとしての義務であるし、詳しい事は分からないが飯田(晃)さんの話から想像する限りでは、世界の平和に役に立つ・・ですか・・」との返答を得た。
 事件の事は承知で、非常に残念な事だ。被害者は社長の従弟にあたり、社長は・・営業所に出張がてら、明日、従弟の葬儀に出る予定になっているとの事だった。
 葬儀の件は晃も義元からの連絡で聞いていた。
 晃は、製品を見る事によって事のイメージが湧いてくる様な気がしたのだが、あくまでも・・・製品だから、改めて、・・・を使用する組織や国に対する防備の研究の為に使用するのだとの思いを感じた。

 
 被害者の葬儀には義元と幸村も来ていた。
 葬儀には・社から・・営業所の所長と社長が参列したようだ。
 義元が社長から聞いた限りでは、他の同業者にも声を掛けたようだが、・社の技術度を考えての受注に至ったらしいとの事であった。
 葬儀の終了間際に行ったから十分に話を聞く事が出来た。
 ・社の現地での件については、晃が義元に報告をしておいたら、やはりM商事にあたるという事になった。
 三人は挨拶をしてからM商事会社に向かった。
 Ⅿ商事にはアポを取ってあったから、海外担当部門が調査に応じてくれた。
 対・・空間用のものだけに高度な技術を必要とするのだが、海外でも難しいと言われている様に、結論として一社しか製造出来ない事が分かった。
 M商事としては、今回の事件についてUSAの発注元に報告しているところだとの事だった。
 帰りの車中で、晃は、此処まで捜査一課とは全く会う事が無かったが、その辺りに付いてはと心配をしたら、義元が上手く警察庁長官クラスの上層部から官房長官付きの奥手警視監を通して、競合はしないようにとの条件付きで命令を受けているとの事だった。
 晃は、今回の事件に限らず本来は、当然ながら警察の公開発表上でしか聞けない事になっているから、その辺りは充分含んで取材する事を守り、事件の全容が発表されるまでは写真や記事も控える事を約した。
「ところで、残る疑問点は一体誰が加害者なのか?それと、今後も・会社が製造を続けるのか、それとも中止になるのか・・?」と、幸村が運転をしながら話した時、助手席の義元のスマホが振動し、ほぼ同時に晃のiPhoneも・・。
「はい、義元ですが・・、あっ・・やはり・・怖れていた事が・・、分かりました」
義元はスマホをしまいながら、幸村に、「幸村君、此れから・市まで直行できますか?私は急いだほうが良い様な気がするので・・今午後零時を過ぎたばかりですから、時間は十分にありますが・・・」と、義元のスマホの内容がどんな事だったのか、晃も自分宛に・新聞社から掛かって来た内容から、凡その察しがついた。
 三人は・・高速の車中で、二人に寄せられた情報を話す事になったのだが・・。
 先ず義元が運転中の幸村に、「奥手警視監からですが、・・警から連絡が入ったそうで、・会社の工場が何者かに襲われたらしいのですが、今現場は・・機動隊が取り囲んでいるようなんです。幸村君、『拳銃の用意は宜しいですか』・・ああ、運転中でしたね、失礼」と、遅れて晃が、「私にも・新聞社から連絡がありまして、現場付近の道路は封鎖されている様で、田舎町ですから、地元住民も非難したり大騒ぎになっている様ですよ」と、義元が、「飯田さん先日見学・・いや・・取材に行かれたんですよね・・」其の会話が終わるまでも無く晃が、「ええ、ですから、場所は分かります。・・インターで下りて・・号線を・に向かったところにあります、道案内は私が・・」


 三人の乗った車が・・号線を進んで行くと、・・川の手前から・・号・・・・号線の辺りは・・の機動隊が全面封鎖をしている様で、進めないから、一旦近くにある・・の本社迄戻って駐車場に車を停めると、社員に車で現場まで送って貰った。
 晃が見物人に混じって見守る中、義元と幸村は・・の責任者の山本警部に手帳を見せて状況を窺った。
 山本が敬礼をしながら二人に説明を始めた。「ご苦労様です。今日午前中におかしな連中が三人本社に入るなり工場の所在と『容器』は何処かを尋ねながら、拳銃をチラつかせたそうなんですよ。連中はすぐに工場に向かったのですが、すぐに110番通報がありまして、拳銃を持っているとの事なんで、機動隊の出動となったのですが。あそこの工場の窓は見えますか?あの窓の隙間から中が見えるのですが、責任者の増田工場長が人質になって製品の事をいろいろ尋ねている様子が分かります。
 咄嗟の判断で工員の殆どは逃げています。その際威嚇射撃があったようですが、工員に怪我は無かった様です。ああ、それで、連中はどうも・・では無い様なんですが、仲間同士で話す時には・語を使ったと脱出した工員は言っております」
 義元が頷きながら、「そうでしたか、先日の逮捕した・・・の仲間か・・。いや、此れは此方の話なんですが、失礼。おそらく間も無くSATの登場になると思いますが」と、山本が、「メガフォンで投降を呼びかけたのですが、教えた番号にスマホからの連絡があり、連中の要求は増田工場長を人質にとったまま製品のDummyと製造関係の書類を持って前に止まっているトラックに乗って逃走しようという訳なんですが・・」。
 幸村が工場と周りの状況を見回しながら、「此の包囲網を突破して逃げるのは無理だな。仮に逃げたにしてもいきなり海外に行くには空港まで行かなければならないが其れは無理・・、何処にも逃げようが無いでしょ。どうするつもりなんでしょう・・、あっ、義元さん、ひょっとしたら?」。
 山本が、「本当は、連中は製品や書類を持ってすぐに、我々が到着する前に交番の警察官なら、発砲して逃げるつもりだったらしいのですが、増田工場長がわざと時間を掛けてそれらのものの所在を明かさなかったから、我々が間に合ったと、逃げられた工員から聞いています。暫く出方を見て、場合によってはSATの強行突入となるかも知れませんね」
 幸村は晃に此処から港は近いのかと尋ねた。
 晃が、「此処から・・港まではすぐですが、・内でも有名な・港ですよ・・?」
 幸村が義元にその旨を伝えると、義元は頷きながら、「逃げ場と言ったら・・か無いですからねえ。・・なのは彼等にとっては却って好都合かも知れませんねえ」
 義元は・語で投降を呼びかけて、「決して悪いようにはしないから」と言いながら・・・の様子を窺った。
 義元は人質の交換条件を出した。
 増田工場長を開放する代わりに、自分ともう一人が人質になるからとの条件だった。
 ・・・は最初は拒否するような素振りだったが、人質が増えるのならと考えたのか、「応じる」と返答をした。
 ただ、条件は当然ながら拳銃を持っていないか身体検査をするという事で、拳銃は彼らの目の前で山本に手渡してから両手を挙げ乍らゆっくりと工場内に入り、無防備な事を示した後身体検査を受けた。
 それ以前に到着していたフォアグリップとレーザーホログラムサイトを装着したMP5Kを手にしたSATと打ち合わせをしていた。
 SATは更に、海上保安庁特殊警備隊(SST)にも連絡をとった。
 義元と幸村が工場内に入り両手を挙げ乍ら近付いて行く。
 連中は製品や書類を工場の彼方此方から集め、脱出の準備をする。
 其の荷物だけでも手に持っては逃走の邪魔になるからと、人質の二人に荷物を持つように指示をしたので、二人は言われるままに荷物を抱えた。
 荷物の中には工員から聞いていた余分なものまで。
 普通なら此処でSATが狙撃或いは突入するところなのだが、打ち合わせどおり人質二人を挟むように・・・が拳銃を人質の頭にピタリつけながら工場の前に止めてあったトラックに近付く。
 周りを取り囲んだSATや機動隊に道を開けさせると、・社のロゴが見えるトラックに素早く乗り込んだ。
 トラックは幸村が運転を命ぜられて、目的地・・・まで進む。
 SATを乗せた車も裏道を猛スピードで走って行く。
 幸村は時間を稼ぐ様にゆっくりとトラックを走らせた。
 誰の目にも・が見えて来た。
 有名な・・であるから漁師が操業をしていたりするのだが、時間的に殆どの漁船は操業中で・には見慣れない原子力船が見えた。
 トラックの揺れに身をまかせながら義元は以前起きたある出来事の事を考えていた。
 其の出来事を報じる戦国新聞の文字が義元の脳裏を流れて行く。
「・・産の・・・・・に関わったとして・・・・・・・措置をとった・・・3隻が、その後1年間で・・に少なくとも計・回・・したことが分かった。国連が・・・・・なか、制・・・使われた・が・・を訪れ、前後には・・・・・の・に入っていた。・・が・・・の迂回・・に・・・を利用している虞がある・・・。」
 義元が夢から覚める様に我に返った時、トラックは・・に到着した。
 ・・が二人を小突くように・していた原子力船に乗る事を促した。
 二人は荷物を抱えながらゆっくりと、波に揺れている原子力船に乗り込んだ。
 最後に二人を監視しながらmaddahの一人が乗り込んだ後、すぐに原子力船は港を出・沖に全速前進。
 晃は、・会社の社員に送って貰って・までは来たのだが、残念ながらそこから先には進めない。
 晃は突然おかしな事を思い出した。
 此方に・・・高速で向かう途中の車内で、義元が幸村に言った言葉を。
「確か、『幸村君、拳銃の用意は宜しいですか』だったが、拳銃が使えない可能性は前以て分かっていたとすると・・、あれは、ひょっとすると、何かの暗号だったのではないか」と、記者の勘がそう言わせた。
 ・・・の中にも自動小銃を構えた・・が数人いた。
 SATはSSTが用意した・・に同乗すると、遅れて後を追う。
 ・には・・不明の・・がほぼ・・状態で微動している姿が見えた。
 原子力船は計画どおり・・に近付き並んで・した。
 ・から幅の広いエスカレーターが下りてくると、・・達は次々に乗り込んで行く。
 二人もエスカレーターを伝い乗り込んでいく。
 荷物は二人が持ったまま上がって行く。
 全員が上がり終わったところで、・・が動き始めようとした時、SSTの巡視艇が猛追撃で追い付いた。
 SSTからスピーカーを通じ、停止命令が出た。
 ・・は逃げようとしたのだが、其の前方には海上保安庁の巡視船が立ちはだかった。
 小振りの砲身がぐるっと回ると照準を・・に合わせる。
 SSTの巡視艇が・・に横付けされ、SATなどが乗り込んで来る。
 自動小銃が火を噴くかと思われた直前、義元は幸村に何か呼びかける。
 数で圧倒するSAT達の攻撃を予測したCIA諜報員達は戦闘態勢に入り、人質にまで手が回らない。
 幸村が両足の靴の底の中に潜めていた超小型の催涙銃を取り出すと其の一つを義元に放ってよこした。
 義元は、工場から持って来たモノの中から、小型消火器を片手に、もう一方の手には催涙銃が握られている。
 機先を制しての二人の攻撃が始まった。
 まさかの背後からの不意打ちに諜報員数名が催涙ガスを浴びて戦線を離脱せざるを得なくなる。
 ほぼ同時に対面するSAT/SSTと諜報員達の自動小銃が火を噴いた。
 転倒したCIAに二人が手錠を掛ける。
 残りの諜報員も銃撃戦で次々に倒れる。
 洋上commandは完全に決着がついた。


 其の時、・・からSSTの巡視艇に無線が入っていた。
 謎の機動部隊の目的は、此れでは無かった。
 上空を航空自衛隊の戦闘機F-15(俗にUSAと日本ではイーグルと呼ばれる三十年前の機体)三機があっという間に・・。
 無線からは、「航空母艦クイーンエリザベスが接続水域航行中。レッドゾーンの外側に沿って航行船舶に、即告去るように警告中・・」と、自衛隊機が航空母艦に急接近し、あわや戦闘状態に・・。
 其の後二国の艦船は黙したままレッドゾーンの外をラインに沿って移動し始め、単なる示威行為でおさまった。



 義元と幸村、其れに晃、おや?中多美紀も、の四人が、内幸町にあるホテルの高層レストランで飲食しながら話をしている。
 先ずは義元が乾杯の音頭を取りながら、「今回のUSAによる化学兵器製造に繋がる日本の技術は守られましたね。警察庁からの非公式な情報では、USAも・テストを中断する事になったという事ですよ。技術の進歩が、逆に、化学兵器に使われては意味が無いですからね。良い物が悪い事に使われては本末転倒というもの、・社はその技術を世界に示した訳ですから、今後も平和産業のリーダー格として先陣をきって行く事でしょうね。まあ、何れにせよ、丸く収まって良かった。其れでは乾杯!」と乾杯の後、美紀が飲み干したグラスをテーブルに置いて、「化学兵器は禁止されているもの。ベトナム戦争でも使われたけれど、結局子供達の様な弱者が一番被害に遭う事になるのだから、世界から追放すべきね」と言えば、晃が、「其れはそう幸村さん、お手柄だったじゃない。CIA相手にまともに戦ったんだから、調理係も大したものですね」、グラスを片手に持ったまま片手で頭を掻く様な仕草で幸村が、「偶々ですよ。話は飛ぶけれど、最後に自衛隊の戦闘機、あれは旧型と言う人もいるけれど、性能は、基本設計の優秀さとレーダーをはじめとした電子機器、搭載装備の近代化が進められ、現在でも能力的に最も均衡のとれた、信頼性のおけるトップクラスの実力を持つ戦闘機といえるそうですけど、航空母艦相手に、互角に意思表示が出来るという事は、素晴らしい、もう日本は新型などの導入は必要無いですね」、アラカルトの料理を摘まみながら晃が、「そりゃ、やはり、進駐軍・GHQが押し付けた平和憲法を何とか遵守して来れた国なのだから、世界でも戦後一度も紛争に至らなかった国は我が国だけじゃないかな。ある意味では、何故参加しないのだという国々の非難の声を撥ね除けて来れたが、其れは憲法を大事にしたからだという事に尽きる。敗戦の教訓を生かしながら『「広島の惨劇は繰り返すな」という意味の "No more Hiroshimas." 』を世界中に訴えた。本来、政権がもっと外交手腕に優れているのであればという事に繋がる訳なのだが。例えば、国交の無い国などには・・・のルートを通し交渉をすれば、例の・・被害などの難問も解決に至るという事を知らない(勿論Give and takeは必要~敬意を表し・・・でも交渉次第。他国を色眼鏡で見ていれば何事も進展する訳が無い。いらずパートナー及び関係国が妨害。)。また、これ以上は軍備の拡張をすべきでは無いですね。戦国新聞の記事を見ても専守防衛が失われつつあり、敵地攻撃など全く幻想と。其れでなくとも発癌物質垂れ流しUSA基地の問題が今回の化学兵器に関連していたとは・・自国内で被害が出るのを怖れ、此の国の基地は治外法権ですから何をしても一切分からない、その為に全く逆の仮想敵国という読み違いというもので、近々ICBMを使用した核攻撃の的になってしまう虞(おそれ)があることは明白ですね。
 無意味な・・兆もの防衛予算を国民の血税補填に充てれば、まあ、中立国が理想ですが、其処までは望まなくても何処の国とも友好条約を締結し平和で国民主権の国造りが出来れば最高ですね」

 突然、聞きなれた声が。「おや?調理係のお二人さん・・うん、総務迄・・、こんな値段の高いホテルで宜しくやっていていいんですか?景気が悪くなって、非常勤公務員も減らす(またこの約一~ニ年前の予言通りになりそうだが。)と言う声が国民から聞こえているのに・・」
 捜査一課の黄門達も現れた。
 義元がフォークの料理に口を添えながら、「黄門さん、今回は済みませんでしたね。ご活躍を奪ってしまったようで、誠に心苦しいばかりですが・・」と、美樹が、「此の料理美味しいわよ。黄門さん達もどう?心配しなくても、今夜は全て晃さんの お・ご・り!、スクープで金一封を貰ったからって、民間会社もいいところあるわね。国民の税金で国は成り立っているのだから、もう、その上に胡坐をかいている簡単な資格試験合格の上級国家公務員なんて自慢できる時代は終わったって こ・と・か・な!もう一回乾杯しましょうよ、黄門さん達もどうぞ一緒に」。
 黄門達も満更では無いという顔付で、「それじゃあ、私達もお相伴(しょうばん)といきますか。おい、この際、格好つけてる場合じゃ無いって!また先を越されて食べられてしまうよ。有難く戴かないと、ねえ、警視殿?」。



 辺りは薄紫色に暗くなり、臙脂の絨毯の上の人々が浮かれた様にホテルの照明に映える時、街の灯りは負けじとばかりに、色とりどりの宝石の様に美しさを増していった。


「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」
「All persons fictitious disclaimer」
「Fictitios omnes Terms」
「이 이야기는 소설이며 실제 인물 · 단체와는 전혀 관련이 없습니다.」



「by europe123」」
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「離れればいくら親しくってもそれきりになる代わりに、一緒にいさえすれば、たとい敵同士でもどうにかこうにかなるものだ。つまりそれが人間なんだろう。夏目漱石」

「好人物は何よりも先に、天上の神に似たものである。第一に、歓喜を語るに良い。第二に、不平を訴えるのに良い。第三に、いてもいなくても良い。志賀直哉」

「自己嫌悪がないということはその人が自己を熱愛することのない証拠である。自己に冷淡であるからだ。志賀直哉」




「by europe123 」
https://youtu.be/TibQnxeGdPc 

芥川龍之介著「仙人」及び旧作から数作程。