夜と、その人のうた

綺麗なものって何だろうって。
僕はときどきそんなことをただ漠然と考える。
浮かんでくるもの。
海、だったり。空、だったり。星、だったりする。
綺麗なものって何だろうって、そう考えるときはいつもそうだった。
その夜もそうだった。
僕は海の浜辺に寝そべり、それを考えていた。
月が綺麗だな。
そう思っていた。
実際その日の月は、青白く輝き、その光は、海を青く照らしていた。
僕は目をつむり、考えた。
この景色をより綺麗な存在にするためには何が必要だろうか。
月の光で若干かすんでしまっている星達だろうか?
それとも・・・、または・・・
いろいろ考えてた。
でもいくら考えたって浮かんでくるものは一緒だと知ってた。
それでもいいのだ、別に暇つぶしなのだから。
今日も結論は星空に固まりつつあった。
でも今日違ったんだ。

「♪~」

声が聞こえたんです。
そしてそれは歌を歌う声でした。
それは・・・僕の今までの考えにはなかった、新しい綺麗なものだったんです。
海に青く差している光。
その中に人影が見えて、それは、本当に綺麗で。

「♪~」

女性の声で、歌う声が聞こえた。
僕は音楽にはあまり詳しくなくて、歌っている言葉もわからなかったけれど。
それが綺麗なことなんだってことはわかる。
僕はそのときから、その声に、その人に、何か、大切な気持ちが芽生えたんだと思う。

あの後、歌うその人とは、少しだけ話をする仲になった。
まだ、自分の中のこの気持ちの正体を知ることはできないけれど、
僕はそれが、嫌なことではなかった。
なぜなら、
月の綺麗な夜、浜辺で目をつむり考えること。
僕はこの気持ちがなんなんだろうと考えることが、最近の楽しみに・・・なっているんですから。

「♪~」

ああ・・・
またあの人の歌が聞こえる。
それは、確かに綺麗なもの。
そうに違いなかったんです。

夜と、その人のうた

夜と、その人のうた

  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-02

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