旧作から児童書一作に他を二作と三波春夫NHK紅白等

旧作から児童書一作に他を二作と三波春夫NHK紅白等

あれやこれや・・。


 旧作・・の前に少しだけ。
 いや、再放送の時代ものも案外あるが、不景気になると時代物が受けるという分かったような分からないような事も且つてはあった。
 其の中でも尾上雄二にとり、好みの番組は無いのだが、今、彼は「桃太郎侍」だけは見るようだ。
 先日、東芝の録画機の事について載せたのも、実はこの番組が元は18時に放送されていたのだが、現在は午前10時に変更になったので、不在中の録画が必要になったという事。
 其れで、たったそれだけの事で録画機を調達するまでも無い、という判断に至った。
 購入時はおそらく十万以上はしたのかも知れないのだが、部屋の奥から探し出した取扱説明書は相当の量になるので驚く。
 A4版の大きさの二冊に亘り、其々が約参百ページ程度で其れを全て読む事は先ず無いだろう。remotecontrolも二種類付属している。
 Yamahaの楽器もそうだったが、雄二には読むよりはpointのみ浜松の本社に電話で聞いた方が早く・・ピンときた。
 元々楽譜など面倒なものには縁が無く、間違おうが何だろうが一回だけいい加減に弾き、拡張子を変換させたりWindowsムービーメーカーで詰まらない写真をべたべたと貼り付け、YouTubeにuploadすれば出来上がりなのだが、今はGoogleの経営不振で拒否されるようになったので、新しく演奏する事が出来なくなった。
 次第にあらぬ方向に進んで行くが、且つてcomponent~ステレオの意味で~最新型を購入した。
 其の理由は・・当時はcassettetapeの時代でCDからテープに録音するのが流行っていた。
 ところが、仕事に明け暮れていたので・・?昔は休祭日が今の半分程度しか無く、週休二日などは無いし土曜日は半ドンだった。
 其れを考えれば今の世代は随分楽が出来、何不自由が無い時代になったのが・・逆に人類世界総白痴化に繋がった。
 其れは兎も角、出掛けているうちに録音しようと思い購入した。新型を選択したのはRentalCDが6枚×2装着出来たからで、仮に一枚録音に40分掛かるとすれば合計480分録音ができた。
 留守中に12枚が録音でき、録音後電源は雄二の指示で切れる。
 元に戻す。
 「桃太郎侍」の以前放送分よりは今回放送分の方が面白い。おそらく三十年位前?かも知れず、主役は高橋英樹で準主役に野川由美子も、植木等というのも珍しい。其れも若過ぎる映像で何か忍びの様なよく分からない役柄。
 役者の個人的な事はどうでも良い。この作品主役は且つて市川雷蔵もつとめていた。市川・野川の組み合わせは、大映の「ある殺し屋」にも登場している。
 番組冒頭に「原作を尊重し」と、わざわざ表示させる必要は無いので、放送局のlevelが知れそうだ。其れを言い出したら今の自民党や世代も同じ事になる。
「現物のlevelを・・尊重し・・」
 植木は既に亡くなっていると思うが、お笑いミュージックbandとして、beatles此の国武道館liveにも出演していたようだ。
 当時雄二はゆっくり見ている暇もなく、beatles・レコードや映画に較べれば、下手だなとの記憶が残っているが、ブルーコメッツも同様前座に出ていたと思う。
 一時大流行をした「グループサウンズ」の中では、演奏が安定し過ぎていて上手いのは分かるが、逆に何が起きるのか分からないという魅力に欠ける。
 雄二はミュージックというものを自分なりに解釈をしているので、部分的な良さの印象としての一例とし、パープルシャドウズの「小さなスナック」のイントロのleadguitarの演奏が面白いと思った。
 此処まで脱線をしてきたのは、三波春夫を登場させたかったようだ。
 というのはこういう事なのだが、此の人は確か歌手になる前は浪曲師で、当時は野暮だな・・とは思ったものの、恥ずかしげもなくものの見事に独特の域。
 印象に残っているのは・・圧巻だったが・・確か「赤穂浪士」が登場する歌詞があったと思う。
 殆ど知らないが、「・・雪を蹴立ててサッサッサッ・・oh蕎麦屋か・・」のくだり・・何が何だか分からないだろう。
 で、此処で桃太郎侍に合流する。
 この番組の初めに流れるのが、此の人の唄う曲。え?珍しいな・・と思っていたら・・作曲は誰なのか知らない。
「・・後ろ姿が・・その名を聞けば・・俺~は桃太郎・・」 
 全く大した事では無いのだが、「桃」の次は詰まらない旋律・・を予測し・・が、ほんの少しだけ予想外の、うん?成程・・太郎・・が気持ちが良い。
 歌は安定しているのにノリが良い・・こういう人は弟子の躾(しつけ)が厳しいようで案外?よくは知らないが苦労人の様な気がするが。1923年生まれ雄二の親とほぼ同じ様だ。
 もう少し脱線しよう。
 何かの記事かで・・NHKの紅白に演歌歌手が登場しない?NHKは見る事も無いし、紅白や・・行く年くる年などは、数十年前迄にちょっと見た限り。
 雄二の学生時代に、ブラスバンドOB構成jazzのビッグバンドのバンマスが何故か、ブラバン等無関係なのにBaseがいないから弾いてくれないか?
 こいつと雄二はクラスメイトで、化学の授業中にバンカースというボードゲームをやり、滅茶苦茶で・・且つ・・面白かったそうだ。
 化学と古文になつけなくて迷い、お陰で進学用の理科系と文科系のクラスを行き来した。なんで此の国の言葉で何段活用とか覚えなければならないの?
 ところが・・あとになれば・・何方にもなついていた。余りに暇な時期があったから・・危険物等の資格の本を購入してしまった。
 雄二の母がまだ健在だったが、介護をしなくてはならなく・・仕方がないので家族で話をしながらページを捲り・・一日一時間で五日後結果が。
 化学面白いな?
 こんな事を言うのでは無かった。
 バンドでは弾きたくないelectric base guitarで、leadguitarなら・・と思ったのだが、雄二の上智の後輩が当時有名な楽器屋の息子で、仕方が無く・・bandでボロボロの軽バン中古車を購入したよう、雄二と二人で向ヶ丘の彼の楽器屋チェーン店に必要な物を借りに行った・・途中エンジンは止まるし・・散々・・。
 こいついい奴だな・・で、stageではBaseを、Amplifierがベース用で無かったから、満員の入場者が聴いている公会堂では、ボコボコ音。
 其の時のメンバーに現在東京大国際経済教授は雄二の同期だが、同じく東京大の先輩が上手く、卒業後五木ひろしと共にprofessional pianist 、演歌歌手不出演?二人共現在生死不明。台北のラーメン屋のおやじも演歌歌手fanだが、いろいろな歌手がお忍びで来ている。
 やっとここまで来たが・・其の先程の紅白に演歌歌手が?の件なのだが・・若しそうなら・・NHKは勘違いをしていると雄二が。
 此の国の歌番組で演歌が聞かれないという事は珍しいのではないかな?と。もう亡くなっているだろうが、偽称名陸軍東部33部隊・中野spy学校の小野田少尉が南米のブラジルに移住したが、当時は世界中の元此の国の国民だった高齢者達が紅白を見た様で、皆演歌を聞きたがったと言われた。
「ま、死人に口無しか・・今見る人いないのでは・・?何処の放送局も・・?」

 さて、長々と詰まらない事を・・。
 旧作から児童用のものをと思ったが、良いものが無いので一作以外は適当に摘まんだ。


「呑気と見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする。夏目漱石」

「 芸術のための芸術は、一歩を転ずれば芸術遊戯説に墜ちる。人生のための芸術は、一歩を転ずれば芸術功利説に堕ちる。芥川竜之介」

「くだらなく過ごしても一生。苦しんで過ごしても一生。苦しんで生き生きと暮らすべきだ。志賀直哉」


「by europe123 monotonous」
https://youtu.be/dugG3yVnaSU
 
 

 君ちゃんの入院 


 君ちゃんはお母さんと二人暮らしだった。
 でも今は一人だ。
 
学校には仲の良い友達がいた。
 授業が終わると、下駄箱で靴と内履きを履き替え、校門迄皆で駆けて行く。
 舗道に出ると、まるで子犬がじゃれ合う様に戯れながら、家までの道を歩いては立ち止まり、その日の話題を話しては、また歩き出す。
 家に着いたら、お母さんに宿題を済ませる様に言われているから、大急ぎで宿題を済ませ、友達と待ち合わせをした児童公園に向かう。
 ある時は買って貰ったおもちゃを手に、ある時は予め皆で示し合わせた遊び道具を持っていく事もある。
 でも、そんな物が無くたって、集まれば遊びのアイディアが浮かんでくる。
 お話をするだけで自分達の世界に入り込み、飛び跳ねているうちに公園はワンダーランドに変わる。
 
 そんなある日、やって来たのは、悪い知らせだった。
 君ちゃんは、お母さんと一緒に町の病院に行った。
 骨や関節の痛みが続いたり、熱が出たり下がったりしたから。
 医者は診断の結果、お母さんに白血病の疑いが強い、白血球に異常がみられると話した。
 大きな病院に入院する事になった。
 車で大分走った所にある大学病院が近付いて来ると、君ちゃんの頭の中には友達の顔が次々に浮かんだ。
 病室の外には君ちゃんの名前が貼られている。
 一人部屋だから、そんなに広くは無い壁際にベッドが置かれている。
 お母さんが毎日の様に様子を見に来てくれる。
 お母さんはパートで働いているから、仕事が終わってから夕方やって来るのだ。
 ベッドの横に座って、君ちゃんの顔を眺めるのだが、お母さんは何時も笑顔を絶やさないから、「母さんは元気だからいいよね」と君ちゃんも笑顔になる。
 お母さんは、今日はこんな事があったと、表情豊かに面白そうな話をしてくれる。
 時々は友達の名前も登場するから、そういう時は君ちゃんは聞き耳を立てる様にして一言も聞き漏らさない。
 そうするとお母さんは其れを見てまた笑うから、君ちゃんも頬が緩む。
 君ちゃんが幼い頃にお父さんは亡くなった。君ちゃんもお母さんもその時は泣いた、だって、優しかったお父さんの姿を浮かべると、悲しくなったから仕方が無い。
 でも、何日かするとお母さんは泣かなくなったから、君ちゃんも泣くのはやめた。
 今日の昼間に、君ちゃんがトイレに行った時、廊下で何処かの子供達と会った。
 部屋が違うから詳しい事は分からないが、何人もいるようだ。
 皆、何処か身体が悪くて此の病院に来ているんだろうと思ったが、そういう話はしないで、遊びやTV番組の話になったりする。
 皆で話に夢中になっていると、時間はすぐに経ってしまって、制服を着た女の人が「お部屋に戻ってね」と言って来るから、皆「じゃあね」と手を上げて、自分の部屋に戻って行く。
 お母さんはそんな君ちゃんを見ても何も言わないが、ひょっとしたら自分と同じ病気かななんて思ったりもするが、良く分からない。
 何時の間にかその子達と名前で呼ぶようになった。
「君ちゃん」「友香ちゃん」「美紀ちゃん」「哲ちゃん」、まだ他にもいる。
 廊下で立ち話をしたり、ソファがある所で話をするのだが、会っている時間はそんなに長くは無くても、一日の内で、退屈な時間に穴が開いたように、楽しくなる。
 君ちゃんが、毎日そんな事をしている内に、誰かが何か病気の名前の様な言葉を口に出した事があった。
 病気の名前なんて分からないけれど、「何か、私とは違うみたい」と思った。
 今日は、お母さんが学校の友達の話を持って来てくれた。
「はい、此れ皆から預かってきたの」と言って、友達の名前と銘々が話をしたい事を書いた四角な紙を見せてくれた。
「君ちゃんが居ないと詰まらないから、早く帰って来てね」
 君ちゃんの頭の中には、学校や公園の景色などが次々に浮かんで来たから、思わず呟いた。「・・皆と遊びたいな。早く元気にならなくちゃね・・」
 お母さんは其の紙をベッドの脇の机の中にしまいながら、「ねえ、お食事はどう?何か食べたい物があれば、今度持ってくるよ」と言ったから、「うん、あんまり・・」と横向きになっているお母さんの顔を見てから、「でも、お腹も空かないから・・」。

 病院にはお母さんが面会出来る時間というものがあるようだ。
 お母さんが帰る前には、部屋の外のスピーカーの様なものから、女の人の声が聞こえて来る。「当病院の・・時間です・・」
 お母さんは椅子から立ち上がって毎日同じ事を言う。「君ちゃん、また明日も来るから」
 何時なのか時間は分からないが、眠くなって来る事もあるし、部屋の窓の外は真っ暗だ。
「お母さん。今から帰って食べるの?遅いからお腹が空かない?」
「大丈夫だよ。まだ遅い時間じゃ無いから、大人が食べるには丁度いいんだよ」
 君ちゃんはお母さんの後ろ姿が廊下に消えた後、ベッドの上で寝返りを打って反対側の窓の方を向く。
 窓の下の方に止まっていたお母さんの乗ったバスが、駅へ走り出していく音がする。
 一人になるとやる事も無いし、次第に眠くなって来る。
 今の所、夢はあまり見ない。
 次の日だけれど窓の外が明るくなっても、何となく家にいた頃の明るさと違う様な気がする。
 今日も美紀ちゃん達と会った。
 何時も来る子が一人、今日はいないのに気が付いた。
 気のせいか、何か理由があって来れないのかも知れないと思った。
 部屋が違うようだから、美紀ちゃんも知らない様だ。
 学校の友達は転校でもしなければいなくなる事は無い。
 次の日に美紀ちゃん達と会った時、誰かが言った。「あの子、退院って言って、病院にいなくても良くなったから、家に帰ったらしい」
君ちゃんも美紀ちゃんも思った。「そうか、元気になったからなんだ」
 其れから暫くして、又、一人いなくなった。
 新しく入って来る子もいたが、仲良くなったと思ったら、自分より先にいなくなる。
 そして、今日は美紀ちゃんが来ない。
 誰かが言っていたのを思い出した。
「病気によって、廊下が違ったり、階が違ったりする。病気が違えば、退院も
違うんだよ」
 美紀ちゃんも家に帰ったんだと思ったら、少し寂しくなったけれど、仕方ないなと思った。
 君ちゃんは、周りの子が次々に退院していくのに取り残されていく寂しさと不安を感じた。
 お母さんが来た時に、其の話をしたら、「君ちゃんもそうなるよ」と言って何時もと同じ笑顔が。

 何時もの様に皆で話をしてから、部屋に帰る時に気が付いた。
 廊下を歩いて行くと、近くの部屋の外の名前があった所に昨日まであった名札が無くなっている。
 其の部屋にいた子とは、一緒に遊んだ事は無い。
 何か、美紀ちゃん達がいなくなったのとは違う様な気がした。
 部屋に戻ってから、どういう訳かなと考えたが、やはりいなくなったんだから、何か理由があったんだろう。
 その晩、君ちゃんはおかしな夢を見た。
 美紀ちゃん達が、笑いながら手を振っている。
 其れとは場面が変わって別の夢を見た。
 屋根が付いた車が見える。
 確か何処かで見た事がある。
 多分、お父さんの亡くなった時にそんな車を見た。
 車は、長くクラクションを鳴らしてから走って行った。
 夜になって、お母さんが来た時に車の話をした。
 お母さんは一瞬、何時もと違う表情になったけれど、すぐに笑顔に変わり、「そうだったかな?忘れちゃったよ。君ちゃん、疲れて無いかい?」

 君ちゃんの容態は日に日に変わる。
 でも、次第に安定して来た時があった。
 お母さんが医者に呼ばれて夕方で無く、昼間来た時があった。
 部屋では無い所で長い間二人で話をしていたようだ。
 やっと、お母さんが部屋に戻って来た。
 笑顔は何時もと同じだが、何か君ちゃんにはお母さんが考え事をしている様な気がした。
 次の日も、早く来て医者と話をしている。
 部屋に戻って来た時に君ちゃんに言った。「君ちゃん。お家に帰ろう」

 タクシーを呼んで二人で家に向かった。
 家まで長く感じた。
 家に着いたら、お母さんが君ちゃんが好物の料理をテーブルに並べてくれた。
「やはり、病院のとは全然違って美味しい。お母さん有難う」
「そうやって君ちゃんが喜ぶ顔が見れてお母さん嬉しいよ。お父さんには・・食べさせられなかったけれど・・・」

 君ちゃんの此れからを書こうとして・・作者は此処で一旦筆を置く事にする。
 
 間違い無く、君ちゃんの病は良くなるだろう。
 きっと、学校の友達と此れからも仲良くやっていく事だろう。
 幼い子供が、ひどい目に遭うなどという事は無い。
 其れで無かったら・・そう信じたい。


 月はもう浮かんでいて、見渡す限り、その光が地上を覆いつくし、満天の星も周りを取り巻くように瞬いている。この世の光は、二人の家の幾つかの窓から入りこんで、家の中の灯りに溶け込んでいく。恰も灯影が消え去り、ことごとく、静かな夜空の下に、色も形もおぼろげな、ただ明るい空間を、際限もなく広げていた。



 図面

 東京駅は新幹線の発着をはじめとして、何本も電車が走っている。
 便利で良いが、次々にいろいろな電車が発着するので目まぐるしい。
 昔、国電(国鉄の電車だったから)と呼ばれていて現在はJRの普通電車を、
 南側(八重洲側)から北側(丸の内側)に並べてみると、
中央線・京浜東北線北行き・山手線内回り・山手線外回り・京浜東北線南行きとなる。
 宮田一馬は、その日の取材の仕事を終え、此処から山手線で渋谷にある新聞社に帰社するつもりだった。
 時刻は、午後三時頃のラッシュ前だ。
 電車に乗ろうとする人々が改札口の外に溢れている。
 駅員が拡声器で盛んにアナウンスをしている。
「お急ぎの所、申し訳ありませんが、只今駅構内には入れません」
 各線とも電車は止まっているようだ。
 改札口にkeep outと書かれた黄色いテープが張られている。
 何が起きたのか、分からないが、待たされる身としてはイライラする、中には急ぎの客もいる訳だから。
 飛び込みでもあったのか、人々の想像はまちまちであった。
 何れにしても、混乱している、この先何時になったら電車が動くのか。
 警察のパトロールカーが、何台か乱雑に止められている。
 一馬は社会部の記者だから、何が起きているのかを知りたいと思った。
 駅員と警察官が規制しているし、此れだけの人混みになると、動きがとれなかったが、地下鉄で帰るつもりは無い。本社に電話をした。


 乗客が拳銃で撃たれたらしいという事が分かった。
 中央線から一番北の京浜東北線北行きまで四本の電車の間で犯行が行われたようだ。
 四本といっても、山手線は両方向同じホームに停車するから、ホーム数だけ数えれば三つのホームという事になる。
 被害者が座席に座ったまま死んでいたのは、京浜東北線南行きの三号車の一番南側の座席であった。有楽町方面に向かって走る電車だ。
 何人かの乗客はサプレッサーの音を聞いているようで、一番北のホームから聞こえたという事らしい。
 北のホームでの目撃者は何人かおり、「あっという間の出来事だったが、男が銃の様な物を持っていた」と話している。
 当時、駅に人が多かったのは大都会のしかも一番大きな駅だから。
 其の人混みに当たらずに、しかも、被害者の車両との間には京浜東北線北行き・山手線(内回り・外回り)二本が走っているから、三本の電車が行き来する状況で犯行が行われたとすると、かなり狙撃になれた人間で無いと出来ない事になる。
 それに、目撃されにくい様に、僅かな間に犯行に及んでいる事からすると、前以て何回も現場に足を運んで、各線の駅に止まっている時間や、状況を調べていたのかも知れない。
 時刻表からすると、確かに間の車両がホームに一台も止まっておらず、多少運行の関係で時刻が擦れたにしても、車両の隙間から目標が見通せる瞬間があるという事が分かった。
 ただ、ホームを行き来する人々の動きまでは把握できないから、狙撃の技術や経験・勘は並外れたものでは無いという事になる。


 被害者のスマホのメールから「・・時・・分発の京浜東北線南行きの3号車の、一番南側の座席で待っていてくれ」との文面が見つかった。
 被害者は何等かの事情があって、誰かと待ち合わせをする約束をしたのだろう。
 警察の調べで、被害者は木俣洋三といい、渋谷にあるG商事会社の社長である事が分かった。社員から事情聴取をした結果、「商談で人に会うから、横浜に言って来る」と言って社を出た事が分かった。
 横浜方面の取引先や知人を調べたが、加害者を特定出来る様なものには結びつかなかった。
 動機についても、警察が、私情説・商売に関するトラブル・その他、家族や関係者、社員などから聴取したが、此れと言った手掛かりは掴めなかった。
 となると、本人のみが知る何者かと何等かの約束をしたとしか考えられない。
 亡くなった時は、何時も着ているスーツにバッグを持っていた。
 バッグの中には、商品のカタログで挟んだ様にある図面が入っていたという事だ。
 その図面には、「部品の様な物及び、飛行機・其れも戦闘機?の一部とみられるようなものが描かれていたらしい」、「G商事会社は電化製品の下請け会社だったから、関連の無い会社の社長がそんなものを持っていたという事を、疑問に思った者もいたが、それが事件に係ることだとは誰も思わなかった。一部の先端を走っている国のその方面の専門家であれば兎も角・・・」
 何故、それ程までに、最高に優秀なスナイパーを使う必要があったのかという事も分からない。
 弾丸から拳銃「9ミリ弾使用のM3913系、若しくは消音性を重視したMk.22 Mod0」と分かった、日本のSATでもまだ使われているらしい。
 北のホームから南のホームまで歩いても10分程、距離的には射程距離だ。 銃を撃った人間の特徴に付いては、見掛けた人々が、顔から服装までハッキリとは覚えていなかったのも巧妙である。
 迷彩服を着ている訳では無いから、ごく普通の服装で、顔は特徴が掴めなかったが、黄色人種であったようだ。
 おそらく、トイレ等に駆け込んで、持っていた銃と服を速やかにバッグなどに入れ、他の服に着替えたのだろう。
 SATの隊員に、同じ状況を設定して狙ってみて貰ったところ、かなり難しいが、・・優秀な狙撃手なら可能性は無い事は無く、五分位の間に狙撃したのでは無いかとの見解もあった。
 やはり、何度か下見に来て、四本の電車の時刻を調べ、目的の車両を狙う為の準備をしていたと思われる。
 一馬は、これ等を元にいろいろと考え、警察の見解は兎も角、記者としての推測をしてみる事にした。一馬の新聞社と同じ渋谷にG商事会社があったのは偶然だが、調査をするには好都合だった。其れも道玄坂の近くに両社はあったから、頻繁に行くことが出来た。新聞社では一馬をこの事件の担当記者として全部を任せてくれていたから。


 木俣は、祖父の代から代々商売を続けていたようだ。
 一馬は、其の会社に行った或る日、木俣の父高野博と男が喫茶店に入って行くのを見掛けた。 
 一馬は何となくその男が気になったから、店の外で張っていた。
 店を出た後、高野は一旦会社に戻ったがすぐに出てきた。表で待っていた男と一緒にタクシーを拾った。何処に行くのかと、一馬も急いで手を挙げタクシーに。 
 二人が乗ったタクシーは246号線を西に走り、厚木の大きな住宅の前で止まった。
 一馬は少し離れた場所でタクシーを降り、二人の後を追い住宅に向かう。
 大きな住宅ではあるが、どうやら裏手にも建物があるように思える。
 一馬は、近くの道路から住宅の裏側が見える場所まで行ってみた。
 やはり裏手に工場らしき建物がある事が確認できた。
 其の裏手の建物に近付いて、小窓が少し開いていたから、一馬は其処から中を覗いてみた。
 中には何十人かの人が働いていて、何かを作っているようだ。
 作っている物は家電製品では無いのではと思われる。
 一馬はこの工場がひょっとしたら、事件に関係があるかも知れないと言う気がしたので、カメラで写真を撮り、其の住所をスマホと付近の表示で調べ記録した。


 そんな或る日、一馬は幾らか事件に関係があるかも知れないという人間に会った。一馬がその日、G商事に行って暫く道路の反対側のカフェから見ていた時だった。
 社員が何人か表まで送ってきている。社員達がかなり丁重に挨拶をしているところからすると、要職なのかそれとも顧客なのか。
 一馬はカフェを出て急いで反対側に渡る。
 記者の勘というか何かが一馬を促している、「逃すな。ひょっとしたら・・」
 道玄坂を早足で下り、女性を追い掛けた。
 「あの、済みませんが」
 声を掛けられた女性はゆっくり振り返り一馬の顔を見た。理知的な顔をしている。
 見ず知らずの男に声を掛けられたら、通常は無視するのだろうが。
 「ああ、私はこういう者ですが、少し・・宜しかったら・・お話がしたいんですが・・」
 その時、突然、男が近付いて来て、立ち止まっている女性を目掛けて突進してきた。着ていたジャンパーに隠すようにナイフを持っている。
 女性は軽くかわしたが、一馬が男の手を片手でねじ上げて、更にナイフを叩き落とした。
 男は一言何か「絵・・」と言った様な気がしたが、慌ててナイフを拾い逆方向に猛スピードで走って逃げる。帽子に大きなマスクの背中が道玄坂を上がって行った。
 一馬は学生時代に空手をやっていたから、それくらいは何でも無かったが、男の後を追おうとして、立ち止まった。今は、女性の方が気になる。
「警察に通報しましょう」
「・・ええ、そうですね。・・でも・・犯人の特徴は分からないし、無駄でしょう・・」
 一馬は、女性が何か犯行に心当たりがありそうな返答をするし、時間も掛かるから、と言うので、自分も何か憚るものを感じ、取材を先行した。 
 女性は、暫く一馬の名刺と顔を見比べていたが、頷きながら、
 「有難うございます。助かりました」。
 それ程動揺して無い様に見られた女性は一馬と共に、近くのカフェに。
 菊田佐代子という女性だった。
 佐代子は、何回か木俣を訪ねて来た事があるらしい。
 佐代子は、木俣とは単なる古くからの知り合いであったと言う。既に亡くなった木俣の会社を訪ねて来るとは・・まさか事件の事を知らない訳は無い。一馬は何か気に掛るものを感じた。
 佐代子とは、特に変わった話を交わす事は無かったが、此れから知人に会いに行くからと言うので、店を出た。店を出る前に今後佐代子に会う必要があるかも知れないと思い、電話番号を聞いてみたら、意外にすんなりと教えてくれた。
 一馬は、知人に会うという事も、木俣を訪ねて来た事からしてひょっとしたら其の知人とやらも、佐代子が何か此の事件に係っているのでは・・、「俺も、ちょっと考えすぎかな。しかし、先程の件にしても、随分落ち着いていたようだし、只者では無いかも。無駄足でもつけてみるか・・」。
 渋谷から井の頭線に乗り、下北沢でO線に乗り換える佐代子から離れて一馬は後をつけた。
 佐代子は、O線の参宮橋駅を降り、住宅街を歩いて五分ほどで行ける「T博物館」に入って行った。博物館とは言えない様な小さな建物だが、昔からの本物の刀剣を陳列している。有料で入場でき、本物の「妖刀正宗」などの日本刀を見る事が出来たのだが、一度警察に摘発された事があった。
 容疑は、地下の倉庫に山ほど古い本物の刀剣類を隠していたという事が、銃刀法違反という事で新聞の記事にもTVニュースでも報じられた事があった。
 それと、今回の事件とは関係がある訳は無いだろうが、一馬は其の時の取材から何か参考になる事があるのではと思い、社に電話して情報をメールで送って貰った。博物館の近くに立ったままメールを見る。
 「先代の館長が「大日本帝国陸軍時代」の知る人は少ないが、中野に在った、軍部も天皇も国民も、誰も実態を知らない『陸軍中野学校』出身者であった。」


 其の入学試験たるや超難関。どんな事が行われていたか、横道に逸れるが記してみる。
『因みに、中野学校の東部第33部隊というのは、偽装工作用のもの。採用試験の一部をあげると、 この試験何人いればひとり受かるのだろう、1000人にひとり? 一万人にひとり?
 陸軍中野学校の採用試験
 採用試験は難易度MAXのかなり変わったもの。
 事前調査で採用基準を満たしている者に、上官からある日「中野学校」に行くよう指示される。
 わけも分からないままいくと、そこには面接官らしき人物が…。
 そして突如こう切り出される…
面接官「ときに君、女は好きか?」
受験生「嫌いではありません。」
面接官「・・・・・」
受験生「女の事は全て相手次第です。」
面接官「もし女が裏切ったらどういう方法で復讐するか」
受験生「その場になってみないとわかりません。」
…と、ただの世間話かと思っていると、突然机に世界地図をバッと広げて…
面接官「ティモール島はどこにある?」
受験生「……。いえ、この地図にはティモール島が書いてありません。」
面接官「(この)地図の下、机の上には何と何があった?」
受験生「………。軍帽、カバン、万年筆、湯呑み茶碗、タバコ…」
面接官「タバコ(の銘柄)は何だ?」
受験生「チェリーです。」
面接官「灰皿の中には?」
受験生「吸殻が2本ありました。」
面接官「よろしい、では一度にいくつかの質問をするからまとめて答えろ。いいかね?」
面接官「①一晩にどのくらいの金が使えるか? ②キリスト教と仏教の違う点を5つ挙げよ。 ③共産主義の長所と欠点は何か? ④今この場で腹が斬れるか?」採用資格は下士官、一般兵士、それに予備士官学校の卒業生の中から特異な才能をもつ人たちが選抜され、士官学校出身者は除外された。
その理由は、軍人精神を叩き込まれた軍人は、民間に潜り込んだ際バレる可能性が高いから。
「(ここに来るまでに)上ってきた階段は何段あったか?」
「黒地の紙に墨で字が書いてある。どうすれば判読できるか?」
「野原に大小便がたれ流してある。それを見て女のものか男のものか、判断するにはどんな注意が必要か?」
など、記憶力、観察力、洞察力を試される質問が次々出されるという。
ある工場の前を通った。煙突から黒煙や黄色い煙があがっていた。
「工場の使用燃料は何か?」「何を生産し、その数量は?」「従業員数は何人か?」教官から矢継ぎ早に質問がとぶ。(中略)メモは一切禁止されていた。
講義といってもその内容がすごい!
武道、射撃、暗号解読、飛行機操縦、車の運転、モールス通信、外国語、職業訓練、暗殺術、信書開封術等の他にも、拷問訓練、手品の名人による毒盛りのテクニック、金庫破りの名人によるダイヤル式金庫の開錠テクニック、社交ダンス、更には性技まで、思いつく限りのありとあらゆる専門訓練が行われた
軍服・本名禁止!私服・長髪OK! 二重・三重スパイになっても生き残れ。
軍服を着用せず、普段から平服姿に長髪でいる事が推奨されていた。そのため、里帰り時には親から軍人にあるまじき姿を叱責され、スパイとして教育を受けている以上は親にも理由を明かせず、言い訳もできず苦労したと言われる。
中野学校の職員及び学生は、軍服を着用することは認められず、それどころか本名を捨てさせられ、偽名(防諜名)を名乗ることとなった。
内部の教育機関と異なって自由であり、天皇の名がでても冷めたポーズをとるとか、ときには反天皇の言動をとるよう要求されたりもしたのである。
校風は当時では考えられないほど自由奔放で、(中略)むしろ「天皇のために死なず」という気風すらあった。自分たちが命を捧げる対象は、天皇でもなく、政府、軍部でもなく、日本民族である。
映画で有名なシーンがある。顔を洗う時日本人は手を動かすが、中国人は顔を動かす~其れでスパイだという事が知れてしまったという。』
 

 一馬は更に送られて来たメールを見る。
 「その館長は、かなり年だが、現在の館長とは親子以上と言う表現の方が当て嵌まる。
 どういう事かというと、いろいろな中野学校に関する機密情報を話していたらしいが、まあ、教育・指導と言った表現が当て嵌まるかも知れない。未だにその精神を貫いている」其処でメールは終わっていた。
 

 
 戦後、此の学校に付いてはほんの始まりで、例えば富嶽など終戦間際に設計や製造されたが、実戦で使用できなかった多種の軍事用兵器類を検証し実際に使用してみたほど優れたものに付いては飽く事無き執念があった。
 既に実戦で使用した紫電改やそれを上回る戦闘機がB29に対抗できたのではというなどという軍事面に留まらず、「何故、京都・奈良などに爆撃しなかったのかという事に付いても、一部では、勝利後観光に行く為に残しておいたという余裕のある説まであるくらいだ。国民が尊ぶ天皇を殺める事は、却って戦争を長引かせる事になり、本土決戦になれば米兵の死傷者が増えるから原子爆弾投下、天皇は生かして・・と判断したと言われている。戦前は天皇は象徴では無かった。が、実際には長い日本の歴史上、天皇は表向きだけ、実権はその都度、例えば徳川幕府の様に他の政権が握っていた事が多いのだが」。
 ところで、中野学校についてだが、中野学校と被害者との間にどんな関係があったのかという事になるが、被害者の木俣は、前館長から現館長同様の指導・知識等を受けていたらしい。
 一馬が社に帰った時、メールを送った同僚が笑いながら一馬の顔を見た。
 「被害者が持っていた図面は、戦闘機に関するものでは無いか?中野と戦闘機、満更冗談では済まされないかもよ」
 大日本帝国時代でも謎だった集団の事が、戦後百年経った現代に、再び、何の為に、どんな意味があったのかは、全て謎のまま、闇から闇に葬り去られたのだから、知り得ようも無い。其れだけに戦闘に関する知識については並外れたものを持っていてもおかしくは無い。増してや、其の時代時代に即したレベルを維持しているとなると脅威とも言える。
 一馬は、同僚の意見をそんな風に解釈した。
 今、世界で戦闘機に関して最新鋭の研究が行われているが、USA・USSR・Chaina・その他核保有国を中心として、殆ど次期戦闘機を購入・開発しているが、それは、秘密裏に開発していて、どの国も情報が欲しい。
 優れた戦闘機を(とは、言っても、スピードに付いては世界一であっても、いざドッグファイトになった際には、或る程度の適したものが要求される事を一例とすると、一体最新鋭の戦闘機で最強なのは、どんなものなのかいう事になる)
 それに関して、優れた情報を木俣が持っていたと仮定すれば、欲しくなるのは当然かも知れない。しかし、中野は日本国民の為としてしか暗躍しない筈だが。
 一馬は、木俣が中野精神を裏切ったのかも知れないとも考えた時、佐代子も同じ組織の人間だとすればもう一度、佐代子に会ってみたいと思った。
 今回の加害者が黄色人種だったという情報からだけでは、狙撃手が何者だったのかは分からない。
 一馬は考える、・・に先を越えられたくなかった国からの使者ではないか、其れとも組織を裏切った男の始末だったのか。
 其処で、問題がある。
 木俣が亡くなって、図面は誰の手にも渡らず警察の管理下にある。
 警察は捜査段階で図面が事件と係わりがあるとは考えなかったようだ。
 そうなると、機密は闇に葬り去られた事になる。
 重要な機密というか、最新の戦闘機に使用される筈だった情報はお蔵入りになった事になる。
 一馬は考えた。「此の話は記事にしない方がいいな。あまりにも大胆な事だし、ひょっとしたら生き残っている連中の身に何が起きるか・・やめた方が・・・」
 

 一馬は、佐代子にもう一度会う為、教えて貰った番号に連絡を取ってみた。
家にいるからという返事だったから、佐代子の家まで行った。面白い事を教えて貰った。どうして、佐代子が一馬にそんな事まで話してくれるのかと思ったが、
佐代子の口からは余裕なのか何なのか驚くべき事実が浮かび上がって来た。
 木俣は、万一の場合に備えて、予備の図面を持っていたというのだ。
 佐代子の部屋には壁に「モネの日傘をさす女」の絵が飾られているが、佐代子が其の絵を見ながら言った。「木俣は、あの図面と同じ物をもう一つ持っていると言ってました。私に警戒心を感じなかったのは、どういう訳か。今は、役にも立たない物だから」
 一馬は驚いた。「今は?役に立たない?其の図面って全く同じ物だって言ってました?何処に持っていると言っていました?」
 「会社の社長室の壁に掛けられている絵の額縁の中に」
 佐代子が一馬に、何かを言おうとしたが・・・。
 一馬は佐代子に礼を言うと車を走らせた。
 向かっているのは木俣の会社だ。
 運転中にスマホが鳴った。
 路肩に車を止めてスマホに出た。
 会社からの電話だった。「宮田か?渋谷で爆発騒ぎがあったらしいからそちらに飛んでくれないか?そう言えばお前、木俣が殺された事に付いて調べていたっけな・・・」
 一馬が渋谷に着いた時は、消防車や警察。救急車などが出動して大変な騒ぎだった。

 爆発が起きたのは木俣の会社だった。
 消防車が三台で消火放水をしているが、火の勢いはおさまりそうも無いと言う。
 調べてみないと分からないが、ガソリンなどの普通の可燃物では無く、何か特殊な爆薬の様な物が使用された可能性があるとの事だった。
 目撃者その他の話に寄ると、三階建ての建物の、木俣の会社があった一階から 出火したとほぼ同時に爆発音が聞こえて、かなり大きな爆発であったようで、一階部分は押し潰された状況で、上階が落ちてきて燃えているから、建物は全焼に近い状態になりそうだという。
 一馬は、写真を撮りながら呟いた。「此の爆発は、誰かが仕掛けたに違いないのでは。何れにしても、予備の図面は無くなったという訳か」


 数日後、・・で発表があった。「・・の次世代戦闘機は・・」


「其の戦闘機に応用された図面は二枚あったが、今は既に無くなってしまった。それなのに・・・どういう事だ」


一馬の呟きは街の喧騒に掻き消される様に消えて行った。
「佐代子の部屋にも絵が掛けられていたな、モネの日傘をさす女」




 JAL便の行方

 安田明子を送りに新幹線のホームまで来ている。
 緒方洋二と彼女は洋二が大学を卒業後、東京の会社に入ってから知り合った。
 洋二は信販会社、明子は地方の高校を出て上京し近くにあるデパートの商事部に勤めている。
 卒業時は丁度不況の時期でTV会社など大手の殆どが募集をかけなかったから、会社探しに苦労をした。
 其れでも、一応は決まり勤め始めてからは、社の女性達とも飲みに行ったりした。
 デパートは交代で休みが取れ、仕事で出掛けるついでに落ち合ってという事もあった。




 信販会社の前に訪問した先はケンタッキーフライドチキンの本社だった。
 テナントの中に入っている其の会社の前で待っているからと珍しく休みが取れた文子が言うので、一緒に付き合ってくれカフェで待っていてくれた。
 面接の順番を待つ間も彼女の事を思い浮かべたりしたが、其れとは違い其の会社の事で気になる事があった。
 集団面接で五人が同時に横並びで椅子に座り、面接官もその前の横長のtableに五人並び座っていて、各人が交互に質問をしてきた。
 面接が終わり挨拶をし一階まで降りる。Elevatorが開くのを待っていた彼女の笑顔が見えた。
「カフェで待っていてくれて良かったのに?何か悪いな?こんなところ迄付き合わせたのでは?」
 時間があるというので、電車で二つほど行った新宿駅で降り、再び駅の近くのカフェに入ることにした。
 座るなり彼女が、
「面接はどうだったの?確か三菱商事の資本が入っているとか?」。
 テーブルを挟み正面に向かい合い、珈琲を啜りながら洋二が、
「うん、そうだね。資本は大手で潰れる事は無いだろうし、面接官が僕にばかり質問してきたから、他の連中には可哀想だったが、感触は良かったと思う」。
 彼女が更に状況を聞きながら、
「学歴も関係あったのかも知れないわね?でも、それだけではない何かが気に入って貰えたのかも?」。
 カップを皿に置くと洋二が、
「こんな事に気が付き、其れを話したら、途端に質問が僕に集中しだしたんだ。あの会社はフライドチキンなど商品の数が少なく、逆に言えば、値段が高いチキンでも美味しいから売れる様で、特にクリスマスの時期などは順番を待つ客が表まで並ぶそうだね?」。
 彼女は、頷きながら、
「そうよ。人気があるから、特に女性や子供には。私も友人も買う事があるんだ。でも高い事は事実よね、まあ、美味しい分仕方ないでしょう?其れで、何と?貴方に集中したと言うのは?」
 洋二は再び珈琲を皿に戻すと、
「うん、商品の程度は上等だけれど、品数が少ない点が?今後どんなものを追加していけばより収益を増やせるか?どんなものが良いか?其れを考えると、楽しみがあると思います、と言ったんだが。きっと、
【うちはこれ一本の商売ですから・・】
 みたいなことを言うのかと思ったんだが、そうではなく、新製品の開発には意欲があるという姿勢を見せたような気もした。先方の商売の方針は分からないが、面接官には何らかのインパクトを与えたような気がする。というのも、五人のうち質問が自分だけに集中したという事は、おそらく採用になる可能性は無い事は無いと思うが?」。
 彼女は一瞬笑みを浮かべ、
「其れ、良かったじゃない?若し、採用になったらどうするの?」
 其れからが、少し気になったという事に関係がある。
「実は・・こういう店頭販売がメインという会社は、当然ながら先ずは、実際に店頭で販売を経験させるところからが、始まりだと思うんだ。其れで、学生時代にデパートでアルバイトをやった時に気が付いた事があるんだ。其れはね、朝から晩までいらっしゃいませで、品物を渡してから、有難う御座います。それの繰り返し。僕はそのパターン、あまり向いていないと思った。本部で開発などをやる前は、現場経験は常識だからね。其れが・・やはり、詰まらないと」
 文子は洋二の表情から、其れが正直な彼の考えだと思う。というのも同じ大学で学んだ仲だから気持ちは。
 其の晩、矢張り電話があり、
「採用と言う事にさせて頂きますので・・」。
 洋二は、やはり、辞退をする事にしようと考えていたから、申し訳ありませんが・・と断った。
 採用の連絡というものは殆ど面接日の晩に来、不採用は何日か後に文書でその旨の通知が来るのが常識。
 何か、其れで良かったという気持ちと、この後他の会社で適職が見つかるのか?と思う不安な気持ちが交錯していた。




 其れから幸い二社目の面接で信販会社の採用が決まった。
 それ以前はワンマン社長だったりした事も有り辞退をした。
 採用後、短い研修があった後本社勤務となった。其の時感じたのは、矢張り法学や政治学を先行したのだから、其の専門職の方が良いと思った事だ。
 文子にも喜んで貰え、二人で祝杯を上げた。此れで、二人共社会人として取り敢えずは、一安心という事になる。




 忙しい文子とはなかなか会える日も少ない。
 其れで、彼女では無く明子と共によく遊びに行く事が多くなった。
 遊園地や水族館・博物館などで、随分楽しい時を過ごせた。
 明子が子供のようだなど思ったりもしたが、楽しければそれで良いという気持ち。
 其れは彼女も同じだったような気がする。そんな気持ちが彼女のストレートな表情から伝わってくる。
 都内だけでなく、関東一円のいろいろなところに行ったが、何処に行っても二人なら楽しいような気がしたのは事実だった。
 


 
 一方、campusのミスコンテストでグランプリに輝き女優になった岡田文子。
 其れで、学生時代には専ら文子。その当時、キャンパスには業界人が少なくなく、中村雅俊など。
 キャンパスの学友達には二人の事はあまり知られていない。
 というのも、成りたての女優業は忙しく、講義に出て来れる事も毎回では無い。
 其れでは、卒業までの単位が足りなくなる。他の大学では四年の卒業時までに合計の単位を取得すれば卒業。
 ところが、二人の大学は一年時から毎年の単位が足りなければ進級できないという厳しい伝統大学だ。
 おまけに、其れを二回繰り返せば退学処分となる。其れだから洋二は講義に出ると、彼女の分まで二人分のノートをとっていた。
 其れだから、時々しか会えなくても彼女とは何時も笑顔で話をする事が出来た。
 更に洋二は彼女と交際する前に二年上の女性とも交際をしていた。
 其の女性は個人病院といっても大きな総合病院の院長が父であり大金持ちの娘という事になる。
 二人の女性の事情が違った事は、却って良かったのかも知れない。
 高校から一緒に入学した学友が或る日、
「お前、彼女と結婚すれば逆玉の輿じゃないか?」
 その言葉は兎も角、本人同士が気が合わなければ纏まりようもない。
 其れに、キャンパスを歩いている時には女性二人が顔を合わす事もあった。
 学友にとっては単に女性だろうが、洋二には友人という思いしかなかった。
 文子とはなかなか会えない事もあったが、ノートだけは家まで持って行き家人に渡した事もある。
 問題は、友人として・・とはいっても二人同時にという事は難しい。
 一年程した頃、お金持ちの女性との縁は切れた。可哀想だったが、洋二としてはあまりにも行動が違い過ぎた。
 彼女が付き合っている友人も破格の家柄であり、英会話なども早口過ぎ、外国人から、早口で分からないと言われたくらいだった。
 洋二の育った家庭や親族は教員が多く、その環境で育った洋二にとり、金銭や名声は眼中になかった。
 其れだから、男性の学友達の家柄は父親が会社経営というケースが多く良く皮肉を言われた事は覚えている。
「洋二君のお父さんは学校の先生だってね?」
 そういう時の相手の表情は、
「intelligentsiaぶって先生など・・」
 という・・何故か学友達の親には、一人を除き同じ態度を見せられた。
 洋二も何回か思う。
「俺は金に苦労している貧乏学生の癖に、金持ちが嫌いだとは馬鹿なのか?」
 偶に会う文子にも同じ様な名声という文字がちらついているように思えたくらい、洋二は孤独だった。
 やがて、二人も無事卒業をし其々の仕事に就く時が来た。
 ただ、一般の会社員と女優ではまるきし行動パターンが異なる。
 其れでも偶には連絡が来る事があった。
 洋二は、別に自らの事を女性にモテると思った事は無い。
 だから、会社で同期の女子社員と飲みに行く事も有り、大抵の女性は誘えば一緒に飲みに行ってくれた。
 若い時には誰でもそうだと思った。では、飲みに行ったからといい特別親しくなるという事は無いから、相手の女性がどう思っていたのかは分からない。
 単なる青春の通過点と言うに過ぎず、洋二だけでなく同期の男性もそれぞれ同じ様なものだったのかも知れない。
 そんな会社勤めの中でも一人、同じ大学を出た先輩は洋二と気が合った。
 最初は気難しいように思えた先輩だったが、どういう訳か洋二と飲みに行きいろいろな話をした。
 その先輩にも悩みがあり、女性だったが・・。先輩と女性は何度か喧嘩をした事も有り、そんな時には大丈夫なのか此れから先どうなってしまうのか、など考えた事もあった。
 其れでも、すったもんだの挙句、先輩は無事・・結局交際していた女性と後(のち)に結婚をした。
 先輩から其の女性と結婚をする事になったから、結婚式に来てくれないかと言われたのだが、生憎(あいにく)どうしてもいけない用事ができ断った事を未だに残念に思う事がある。




 洋二は社の女性とは単なる飲み友達だったが、明子の事は次第に、其のままで良いのかと思うようになった。
 会えば楽しいし、気軽に会える。だが、事(こと)結婚となればまだ良く分からない様な気もした。
 要は、気持ちの整理が出来ていないと思うのだが、過去の二人の事を思い出し、此方がもう少しその事を積極的に考えればと?
 女優の文子から偶に連絡が入る事はあった。しかし、彼女についての業界での噂のようなものは聞いていたから、彼女なりに自由にやっているのだろうと思う。
 以前ほど会う機会も少なくなっていた。
 少し互いの距離のようなものを感じ出し、もう、あれ程若くはないんだなど思ったりもする。
 一方、明子も次第に忙しくなると共に、彼女の自由奔放さが花を咲かせる時がきたようだった。
 洋二も転職をし法務職で指導をする立場になった時、何か忘れ物をしているような気もしたが、それが何なのかはよく分からない。
 年をとるのは仕方がない。
 ましてや女性なら、男性以上にそういうものを感じるだろう。明子と二人で飲む事があった。
 以前と同じなのだが、喉迄出かかり・・其処からが出て来ない。
 一言(ひとこと)言えば何とかなったのかも知れないが、どうしたんだろうと思う。
 女優の文子からは相変わらず偶に連絡が来るが、そろそろ相手が決まって当然だ。
 そして、明子と飲んだ或る日の事。
 少し驚いた。
「結婚をしようかと思っているんだけれど・・その前に洋二さんに言っておきたいと思い・・」
「其れは良かったね。親の勧め?そう?何も僕の事など気を使う必要はない。自由に考えて・・」
 と言いながら、何か自分の考えが纏まりそうも無いような気もした。



 其の頃、洋二に海外勤務の話が出ており、すぐに辞令が出た。
 明子に電話口で其の事を話す。
 縁が無かったのかも知れない、そうも思った。
 彼女が郷里の親に結婚の話を告げに行くという事で、新幹線のホームまで一緒に行った。
「彼とは仕事か何かで?考えてみれば、僕が見送るというのも何かおかしな気がするね?じゃあ、元気で・・」




 海外の話は文子にも一応連絡をしておいた。
 文子には、マスコミの報道が、業界に相手がいるような事を騒いでいる。
「え?海外europe?会えなくなるわね。うん?私?ああ、マスコミ。まだ分からないわよ。お嬢さんという年でもないから、そうなんじゃない?気を付けて?」



 de Gaulleに着いた時は、此の国の事は忘れようと思った。白人の女性には着物は似合わない。
 確かに薄い鶯色のコートが似合う美しいParisienne(パリジェンヌ)を街で見かける事はある。
 しかし、大抵白人や黒人の男性と一緒の事が多く黄色人種との組み合わせなど見た事も無いが、あ、一組だけ見た事を思い出した。
 珍しいが、女性はこの国の。
 そんな時、現地での仕事に変更があり一年で帰国する事になった。
 邦人企業の都合で信販会社も撤退する事になった。
 



 スマフォの連絡先を眺めてみた。
 上から下までズラリ個人や会社の名前が並んでいる。
 其のうちの二つの名前。
 関係無いとは思いながら、JAL便のメールを送った、どうしてそんな事をしたのかは分からない。
 どうせ・・縁が無くなった二人・・。




 de Gaulleの2番ゲートから羽田までは直行便で約12時間だ。





 やがて、夜間の滑走路に何色もの光が点滅を繰り返しているのが見えて来る。
 やや振動があったが、ブレーキ音を立て着陸する。ベルトを外しC/Cに見送られゲートに向かう。
 




 ゲートを抜けた時、着物姿の女性の姿が見える。
 勿論見覚えがある。
 誰・・?
 まさか・・?
 


 
 




 眩しくて目を開けていられない程に・・一斉に報道陣のフラッシュが炊かれた・・。
「・・お帰りなさい・・」 
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旧作から児童書一作に他を二作と三波春夫NHK紅白等

三波春夫・・。

旧作から児童書一作に他を二作と三波春夫NHK紅白等

紅白・・。 その他旧作児童書一作と他が二作・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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