天才漱石の「夢十夜第一夜」と旧作から「夢十夜第二夜」に、くだらない社会の人類・・。
ご存知・・天才夏目漱石の夢十夜から・・「第一夜」・・。
( 明日も同様の予定と、人類の終焉について・・考え方が且つての消滅した「青い惑星相似の惑星」と同じ件に付き少し、意味は無いが・・。)
「夢十夜」
夏目漱石
第一夜
こんな夢を見た。
腕組をして枕元に坐すわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな瓜実うりざね顔がおをその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇くちびるの色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然はっきり云った。自分も確たしかにこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗のぞき込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開あけた。大きな潤うるおいのある眼で、長い睫まつげに包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸ひとみの奥に、自分の姿が鮮あざやかに浮かんでいる。
自分は透すき徹とおるほど深く見えるこの黒眼の色沢つやを眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕の傍そばへ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまた聞き返した。すると女は黒い眼を眠そうに※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。
じゃ、私わたしの顔が見えるかいと一心いっしんに聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
しばらくして、女がまたこう云った。
「死んだら、埋うめて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片かけを墓標はかじるしに置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢あいに来ますから」
自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、待っていられますか」
自分は黙って首肯うなずいた。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。
「百年、私の墓の傍そばに坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
自分はただ待っていると答えた。すると、黒い眸ひとみのなかに鮮あざやかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩くずれて来た。静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。長い睫まつげの間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた。
自分はそれから庭へ下りて、真珠貝で穴を掘った。真珠貝は大きな滑なめらかな縁ふちの鋭するどい貝であった。土をすくうたびに、貝の裏に月の光が差してきらきらした。湿しめった土の匂においもした。穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。
それから星の破片かけの落ちたのを拾って来て、かろく土の上へ乗せた。星の破片は丸かった。長い間大空を落ちている間まに、角かどが取れて滑なめらかになったんだろうと思った。抱だき上あげて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖くなった。
自分は苔こけの上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、丸い墓石はかいしを眺めていた。そのうちに、女の云った通り日が東から出た。大きな赤い日であった。それがまた女の云った通り、やがて西へ落ちた。赤いまんまでのっと落ちて行った。一つと自分は勘定かんじょうした。
しばらくするとまた唐紅からくれないの天道てんとうがのそりと上のぼって来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。
自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越して行った。それでも百年がまだ来ない。しまいには、苔こけの生はえた丸い石を眺めて、自分は女に欺だまされたのではなかろうかと思い出した。
すると石の下から斜はすに自分の方へ向いて青い茎くきが伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺ゆらぐ茎くきの頂いただきに、心持首を傾かたぶけていた細長い一輪の蕾つぼみが、ふっくらと弁はなびらを開いた。真白な百合ゆりが鼻の先で骨に徹こたえるほど匂った。そこへ遥はるかの上から、ぽたりと露つゆが落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴したたる、白い花弁はなびらに接吻せっぷんした。自分が百合から顔を離す拍子ひょうしに思わず、遠い空を見たら、暁あかつきの星がたった一つ瞬またたいていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。
夢十夜第二夜
こんな夢を見た。
まだ若いと思われる女性の看護師から、話し掛けられた。
私はベッドに寝たままで、いろんな事を考えていた。
自分の余命は長くても半年から一年だと思っている。
三年前に母の介護を終え母は眠る様に亡くなった。
其れから僅か三年で自分の番が来るとは思っていなかった。
いろんな事とは過去の家族との出来事だが子供達も独立し不自由ない生活を送っている。
自分一人で生きていくのも目的が無ければ意味が無いと考えるようになり、何時かはあの世になど。
そんな事ばかり考えていたせいか、今度は自分の意思とは関係無く病が進行してきた。
看護師は日により或いは時間により交代する。人数が多いようで入れ代わり立ち替わりやってくる。
看護師の処置がどうであろうともそれ程気にはならない。
此処を出る時があるかどうかは分からないが、身体の中には病巣が居座っている様な気がする。
自宅で、或いは旅行先など何処でどんな事になるのかなど思っていた。
引っ越す事にでもなればやはり生まれ故郷に帰りたいと思う。
其れとも、旅行先の全く知らない場所でなど考えれば不審死とし事件沙汰になる可能性もある。
生まれ育った故郷であればその点まだ良いなど詰まらない事ばかり考えてしまう。
「もしもし」
突然話し掛けてきた看護婦の其の内容はこんな事だった。
「死ぬのって怖く無いですか?はあ、そうですか、それならお願いをしても良いでしょうか?」
看護師は近いうちに結婚をしようと考えているのだが、其の相手というのが一年後に生まれて来る男性だという。
どうしてまた、まだ生まれていない人類の事などが分かるのかと尋ねる。
彼女が言うには、前の生涯で知り合った男性で先に亡くなってしまったのだが、生れ変わって来るのが一年先になるから、其の時に結婚をしようという約束をしたという。
「それで?其れが私とどんな関係にあるのか?」
いきなりおかしな話をされ、其れで自らに一体何を願うのかと疑問に思うのは当然。
「貴方は御自分がもうじき亡くなってしまうと仰っていましたね?」
彼女が夜勤の時に私のベッドまで廻ってきた際、寝言でその様な事を言っていたという。
「寝言であれば本当にそうなるのかなど分からないと考えなかったのか?」
と尋ねたところ、
前にも同じ様な事があり、其の時は寝言の通り亡くなったようなのだが、亡くなる前に話をする機会があり、トイレに連れて行った際に、先が長く無く何時頃までが限界だという話を聞いたが、実際その通り亡くなったという。
其の話を聞いていて疑問に思った事を挙げてみた。
「もし、其の男性が一年後に生まれて来るとし、子供で生まれて来るのだから、其の男性が一歳の時には貴女は二十何年も歳が上という事になってしまうが、そんな年が離れた結婚で上手くやっていけるのか?」
女性は即座に答えた。
「・・実は私もこの世のものでは無いのです。今貴方の目の前にいる私は其の男性と心中をしたのです。魂が休まらなく、あの世とこの世の中間に浮かんでいる様なものなんです。只、死んだ事には間違い無いので、あの世に行く事は可能なんですが、道連れとしてあなたに付いて行こうと思ったのです。一人で行くには不安なので。其れで無事あの人に会えるという事は定かでは無いのですが、貴方に一緒に行って貰えれば、心強いと思ったから今迄おかしな事を申し上げて来たのです」
おかしな願いをされたものだとは思ったが、実際自分はもうじきあの世に行くのだから、旅は道連れか?」
やがて、私が死ぬ時が訪れた。
故郷に帰っていたから、病院に連絡をし看護師を電話口に出して貰い、至急私の所に来なさいと話した。
看護師は迷う事も無く其の日の内に私の故郷まで来、私に付き添っている。
少しの間痛みがあったが、次第に意識は無くなっていった。
看護師は私の脇に横たわると一緒にあの世に行く事を願っている。
今度こそ上手くいくようにと願ったのだろう。気が付いた時には、既にあの世の入口と思えるところに二人並び立っていた。
私と手を繋ぎ、私から離れないようにしようというけなげな女性に、出来るだけ協力をしてあげようと思った。
よく見ると、女性は赤い糸を持っていたから、おそらく其れが男性とを繋ぐ糸では無いかと思った。
その糸が外れないようにと女性のベルトに縛りつけてあげた。
あの世はこの世とは全く構造が違うのかも知れない。そういう話は誰からも聞いた事は無いが、死ねば当然。
只、別の空間があるだけとしても、何人かの人々とは会う事があるのかも知れないなど思ったりした。
其の人達の中から彼女の相手を見つけなくてはならない。
この世では想像もつかない事でとても不可能と思える事でも、あの世では運が良ければ会う事が出来るのか。
運が悪いとは、つまり亡くなって時間が経ち過ぎると、既に生まれ変わってしまっているなどあるのかも知れないという事。
二人は大急ぎで赤い糸を頼りに進んで行った。
やがて、霞の向こうに見えるが如く、人の影が見えて来た。
女性が其の人間の顔や姿を見て驚いたような顔をした時には、既に男性と女性は出会い、手を繋ぐことが出来たと思った。
さて、此処から生まれ変わるにはどうすれば良いのかは誰も分からない。
何処にも出口の表示などは無いから、三人で彼方此方探し回った。
時間が経つとどんな事になるやも知れないと、焦りが生じてきた。
辛うじて二人は生まれ変わり口を見つける事が出来た。
其の時の私の記憶では、只、隙間から明るい光が差し込んでいる扉の様な物を開けた時、二人は手を繋いだまま何処かの病院で新生児として生まれ変わっていた。
勿論、別の家庭に生まれた事だろう。赤い糸は其の後まで効果はありそうな気がした。
私は只管きっと良い親に恵まれたのだろうと願うばかりで、其処から先は私には分からない世界だ。
肝心な自分はどうなるのかという不安を感じながらあの世を彷徨っていた。
十七年前に亡くなった父と、三年前に亡くなった母に会いたいと思い、探し回ったが父はもう時間が経ち過ぎているから駄目だろうとも思った。
せめて母だけでも会いたいと思った時、既に私はあの二人と同じ隙間から光の刺す扉に来てしまっていた。
もう、生まれ変わりの時なんだと思った。
新生児が生まれたのは、昭和二十数年・・月・・日である事は何年かして分かったのだが・・。
つまり、私の場合は元の自分に生まれ変わってしまったという事の様だ。
また同じ生涯を送るのかという思いは自分では分からないし、周りの人々も生まれ変わりだとは思ってはいないのだから、結局、同じ人間に生まれ変わった、つまり生まれ変わりとは未来に対してだけでなく、過去に逆戻りする事もありうるのだと思った。
何故、其れが分かったのか?
夢から覚めたからだ。
目が覚めてから、随分おかしな夢だったなと思った。
夢で良かったのか悪かったのかは分からないと思った。
起きてから健康診断の用紙を持って市の指定する病院に行った。
夢で見た病院の様な気がした。
検診の結果が出た。
夢で見たのと同じ病に掛かっているという。
其れから暫くし、手術を受ける事になった。
其処で驚いた事は、生きるか死ぬかを自分で決めなくてはいけない治療の選択があった。
あと、自分の余命は半年から一年だと思う。
正夢だったようだ。
夕陽は病院の窓から差し込んで来るから、カーテンを閉めた。
二度と見たくない景色の中で、夕陽は何も言わず、まるで抽象画の様な図形混じりで私の心の中まで侵入してくると、心の中で、組み立てられなかったジグゾーパズルを持った私には抵抗が出来なかった。
後幾らも無い・・そう思いながら病院のベッドに寝ている。
夜中になった。
懐中電灯を持った看護士がカーテンの向こうから近付いてき、カーテンを開け私を見ている。
看護師が私に話し掛けて来た。
「もしもし」
看護婦の話の内容はこんな事だった。
「死ぬのって怖く無いですか?はあ、そうですか、それならお願いをしても良いでしょうか?」
其の後の話の内容は想像がついていた。
やはり同じ様だ。
「貴方は御自分がもうじき亡くなってしまうと仰っていましたね?」
彼女が夜勤の時に私のベッドまで廻ってきた際、寝言でその様な事を言っていたという。
其れを聞いた私は、今度は違うと思う。
其れで、本当に寝言でその様な事言っていたのかと尋ねた。
彼女は、少し思い出している様な表情をしてから・・。
「・・何か酷くうなされている様でしたが・・?」
其処で・・私は彼女の聞いた寝言は違う意味だったのではないか?と聞いてみた。
今度は私も若干寝ている時の記憶が残っていたようだ。
そう言われると彼女も・・自信が無くなっていた様で・・。
「・・無い・・無い・・」
と何回も繰り返していたのかも知れないと言う。
私も、其れを聞いたら・・まるで・・とてつもなく高いところにある棚からジグソーパズルと一緒に大きなものが落ちて来たのを感じた。
確かこんな夢を見ていて・・其れで寝言を言ったような気がする。
其の寝言とは・・?と思いだせば・・棚から落ちて来た大きなものが私に言わせた。
「・・生まれ変わり?そんなものは無い。仏教でいう「輪廻転生・・など無いのだ。そして、この世はあってもあの世など有る訳がない。其れであれば・・あの世から生まれ変わるなどもあり得ない事になる・・」
彼女も、私の寝言を・・もう一度記憶の底から呼び出そうとしたようだ。
看護師は懐中電灯で、私のベッドに異常がない事を確認すると・・カーテンは閉まり・・灯りは遠ざかって行った・・。
一つ気になるのは、私の此れからは見えているような気がする。
そう長くはない・・そう思うのだが・・何時になるかは全く分からないが・・其の時が来た時には私は・・もう同じ事を繰り替えさなくて良い事になる。
そう考えた時、何か気が楽になった。
あの世も輪廻転生も無い。
この世はある。
だとすれば・・。
「・・死んだ時には・・其れで終点だという事だ・・」
え?彼女?同じだろう・・つまり、心中を図ったが・・男は亡くなった。
彼女は死にきれなかった。
とすれば・・二人は別々のまま・・其の後は何もない事になる。
ベッドに寝ている時に看護師が来た。
私は、あの看護師の顔形・背格好など全て其の看護婦に尋ねてみた。
「・・ええ、以前はいましたが・・最近姿を見なくなりましたね?辞めたのではないでしょうか?」
私は其の看護婦の言っている事は少し違うと言いたかったが・・やめる事にした。
「・・いや?何処かで看護師をやっているんじゃないかな?」
組み立てられなかったジグソーパズルの最後の一枚が、ピタリおさまった・・。
撮影現場の一コマと・・現代の・・くだらない人類・・。
寺の境内に詣でる人達でごった返している。
時は江戸の世、徳川家斉が将軍になり大奥の女中に孕ませる事50人以上という。
人を掻き分け先を急ぐ女の姿をカメラが捉えている。旧財閥系のコンツェルンの総帥である尾上雄二。
人類史上未だかつてない好景気、とは雄二の青い惑星に造られた新たな三次元空間での話。
逆に人類の三次元空間では、長く続いた好景気も何処へやら。世界中で経済不況の嵐が吹き荒れている。
創造者を遥かに超える能力を持ち合わせている「創造生命体」~便宜上AIと呼ぶ~が創り上げた別空間。
映画の撮影も別三次元空間に移され撮影をする事が多くなった。
遥か彼方の百五十億年も離れた「創造球体」から訪れているのは雄二の他にも多数に亘る。
其のうち身近な存在であるのが雄二の学友でミスコンから業界入りした女優三田綾子に花街の芸者の師匠である若井夕子。
夕子は雄二と一緒に暮らしているのだが、今日は雄二と共に綾子の撮影風景を見に来ている。
時代ものが好きな綾子が出演している「勝負」は眠狂四郎seriesから。
撮影風景に戻る。
女の後を追う様に歩いて行くのが主役の浪人眠狂四郎。二人の姿が群衆の中にのみ込まれた次の瞬間女の悲鳴。
空に舞うのは女物の着物やら襦袢。続いて湧き上がる男達の歓声。
「何だ、あの女スリだったのか?」
素っ裸になった女は周囲の男達に身体を触られながらもカメラから外れていく。
財布を取り戻した狂四郎は無言でその場を立ち去る。舞台は変わり城下の茶店。
老齢の二本差しが数馬と会話を交わしていると、通りかかったのは町人姿の少年、城下でちょっとした親切を施(ほどこ)し生計を立てているようだ。
ところが少年の言葉は武士言葉。茶店の女主人が二人に其のちぐはぐな少年の言動につき話し始める。
「武士の子供ですよ。元は道場を開いていた父親が道場破りに殺されたんです。南蛮渡来の兜(なんばんとらいのかぶと)を見事打ち砕く程の腕前だったんですが。挙句が・・」
するとそれを聞いた老齢が。
「聞いた事がある、其の話」
その傍(かたわ)らで無表情な数馬が何を思ったか先程取り返した財布を懐(ふところ)から取り出すと、少年が歩きだした先の路上に放り投げる。
其れを見た老齢が。
「あの子供に施しを致すのなら、どうして手渡してあげない?」
謎解きは其の後。
少年は足元に転がっていた財布に気が付かずに歩もうとしたが、すぐに気付くと周囲を歩いて行く町民達に大声で。
「誰か、財布を落とした人はいませんか?」
老齢が、正直な少年を見。
「偉い偉い。其れはこの方のものじゃ」
少年は狂四郎に。
「本当に貴方の物ですか?」
「スリに取られたと思っていた・・」
「・・何故すぐに言わなかった?」
「富士に見とれていた」
「中に入っているものを言われい?」
「十両と二分・・」
財布を茶店の長椅子にひっくり返し金額を確認した少年は寸分違(すんぶんたが)わぬからと、財布を置いたままその場を去ろうとする。
狂四郎が。
「待ちなさい。其方(そなた)もう一度父に会いたいと思わぬか?」
突然おかしな事を言われた少年は足を止めぽかんと口を開けている。
狂四郎は立ち上がると老齢に・・。
「手数を取らせますが、立ち合いをして貰えますか?」
老齢は黙ったまま狂四郎に従い、三人は歩き出す。
場面は変わり、道場の看板が掛かっている門をくぐり中に入っていく二人。
少年は表の隙間から中を覗き込んでいる。
道場主の男が道場で狂四郎と対し何処の輩かと。
「・・眠狂四郎・・醜い男の顔を拝みたいと思ってな?」
「・・何流だ?」
「以前の道場主と同じく「願立流~がんりゅう」・・右から・・」
むっとし構える男。
二人が面してすぐに、男が斬りかかる。
併せ狂四郎が一太刀浴びせる。
グラっとしどうっと倒れた男。
すかさず老齢が倒れている男に近づく。
「・・こと切れておる・・」
狂四郎は今度は改めて・・飾ってあった男の戦用の兜の正面に立つと・・一太刀・・。
兜の上半分が裂かれた。
其れを面の隙間から見ていた少年は喜び勇み道場の門に掛けてあった看板をはぎ取り捨てる。
「やったやった・・」
門から出てきた老齢は兎も角・・狂四郎は何事も無かったかのようにその場を去っていく。
「・・剣術を教えてください・・?」
「剣術は人を殺す為のもの・・お前のねぐらが出来ただけの事・・」
そう言い捨てると歩き出しカメラから外れていく狂四郎。
少年は剣術に未練があり・・。
「・・教えろ・・?」
老齢が其れを制すように。
「・・此れいかん・・今、検視役人を呼んで来る・・お前も此処で待っておるんだぞ」
(後程のsceneで出て来るが、この様に道場で正式に名乗り合い決した場合にはお咎めは無い。つまり、少年の父親が同じ状況で殺されたがお咎めは無かった事になる。其れを承知で狂四郎が少年に成り代わり仇を討った事になる。)
場面は変わり、老齢と狂四郎が居酒屋で酒を飲んでいる。
老齢は盛んに今の世が乱れている事・民百姓が困窮しているという世相を嘆くと同時に、幕府に何とか施作を考えるようにとの話をする。
にも拘らず狂四郎は敢えて貸す耳は無いと・・coolに突き放す。
その場は、意見が合わず機嫌悪そうに店を出ていった老齢。
直後・・表から老齢の悲鳴が・・。
「・・人違いじゃ・・」
表に出た狂四郎は老齢を殺害しようとする男の口から出た言葉を聞き老齢の肩書を知るのだが・・「幕府の勘定奉行~今で言えば大蔵大臣」その場は男を追い払う事が先決問題。幸い、刀傷はそれ程深い傷では無かった。
名を名乗り剣を構えようとした狂四郎に引き上げる男の捨て台詞。
「余計な邪魔立てをしおって・・奴は必ず切る」
狂四郎が。
「・・名乗っていくだけの度胸はあるか?」
名は名乗ったが、何れ・・と去っていく男・浪人。
狂四郎は老齢に。
「・・あんたが勘定奉行とは恐れ入ったな?今までもこういうことがあったのか?」
「・・いや・・ああ、一回だけ」
奉行の傷を酒で消毒し手当をする狂四郎。
「・・其れなのに付き人も付けずにいたのか?」
其れから、狂四郎は勘定奉行を陰から見守ろうとするが、余計な事をするな・・と、奉行。
狂四郎seriesにしては珍しい男同士の交流があり正義の味方。
狂四郎と勘定奉行とが二人で立ち寄った屋台の様な蕎麦屋。
其処には、おつや坊という娘がおり狂四郎の顔を見て判断をするのだが、人を斬って来た時は「怖い顔」そうでなければ「優しい顔」と見分ける事をする。
勘定奉行も一緒に娘と話をするに連れ懇意になる。其の娘が夜泣き蕎麦の客寄せの呼び声を周囲に。
娘の驚く声。
慌てて飛び出していく二人だが、狂四郎が。
「俺に関する事・・おつや坊、目をつぶっておれ」
暗闇から現れたのは、あの道場主の弟という槍の使い手。
早速二人が対するのだが、其処は狂四郎が簡単に斬って捨てる。
これ以降、狂四郎を狙う浪人達と奉行を亡き者にしようとする浪人が数名現れる。
狂四郎の「円月殺法」は素晴らしいと知りながらも、だから相手にし勝とうという浪人達。
それらは次々に狂四郎に斬られていくのだが、その浪人の内の労咳(結核)を患っている浪人の狙いは、奉行を斬る事を占い師の女から頼まれての事。
女と話をする場面では、
「俺が奉行を斬れば俺の女になってくれるか?」が目的の一つ。
ところが女はもう一人、狂四郎も斬ってくれと頼む。占い師は何かと突然登場をするのだが・・夜鷹に間違えられたりする。
夜鷹とは今でいう売春婦であり、御座を持ち歩きお客が見つかれば御座の上で抱かれるという商売。
江戸の時代には同じ様な職業とし、吉原の娼婦・柳橋の芸者なども大方似たようなもの。
ただ、今と違い体格が良すぎたり巨乳などと言う女はもてない。
やはり、今の時代だけが巨乳や少女趣味など全くおかしな時代だと言える。
という事は、やはり、漫画やanimationでの主人公もセーラームーンだったり、巨乳でパンツ見せの少女だったりと、幼稚な世代の世と間違い無く言える。
此の国で無くてもそうだろうが、着物姿が似合う女はstyleが良くすらっとしている。
此れは、抱きやすい女・風流な女・艶のある女・と全て此の国の歴史上も、同じ事が言えた。
綾子の様な女優にも同じ事が言え、其れで無ければ此の国のいい女とは言えない。
ところで、どうして奉行が浪人から狙われるのかだが、占い師の女・采女(うねめ)の場合には、実はキリシタンの外国人の夫がおり、その者がご禁制の異宗教の宣教師だから捕らわれの身になったのだが、将軍家斉の娘の一人である最も美しいと評判の姫の家来である主膳から騙され、夫を返して貰いたかったら、奉行を消せば・・との事。
この際に采女の話。
「・・女の愛とをご存知ですか・・?」
から、其の話が始まった。
ところが、采女は自らの部屋に狂四郎を呼んだ時に話をしながら抹茶を出す。
それには、痺れ薬が仕込まれていたから。話を終えた後、狂四郎は意識を失い、縄で縛られてしまう。
結局、縛られた狂四郎は姫の館に連れて行かれ、動きが取れない狂四郎に姫が欲望を満たそうとする。
「・・幾ら手練れ(腕が立つの意)でも、自由が効かなければ・・思いのまま・・」
と、詰め寄るのだが・・其処は狂四郎。
姫から逃れようとする。
其処に突然現れたのが、姫にぞっこんの浪人で女形の様に美形という設定の男。
「・・出たか色こ・・」
この色こという言葉の意味はよく分からないが色男という意味だろう。
男は狂四郎に打ってかかるのだが、狂四郎は逆に相手の武器を逆手にとり縄を斬り相手も打つ。
自由になった狂四郎は姫を盾にとり。
「・・姫の腕をへし折るぞ」
と周囲の武士達を脅しながら庭に逃げお失せた。
此処とは場面が変わるのだが、敵である采女が狂四郎を助けるscene。
狂四郎が銭湯に行った時。裸である事を良い事と打ちに来た浪人。
絶体絶命と思いきや・・狂四郎は相手が打って出た時には、湯に漬かり、いきなり刀で浪人を一刀のものに。
此れは、実は采女が女風呂の湯とは繋がっているので湯の下から狂四郎の刀「無双正宗」を渡した事による。
余談だが、昔の銭湯でも二通りあったようで、この世に男女の湯が仕切りられ、下の部分だけが繋がっているというものと、男女が一緒に混浴しているという風呂もあったようで、案外、その辺りは今の様な痴漢はいなかった事のようだ。
まあ、何にしても、今の時代が男女関係にしても最も乱れていると言えそうで、娼婦や芸者・夜鷹とはあくまでも金銭を支払っての商売上という事のようだ。
梅毒が今再び流行って来たという辺りも、如何にその辺りが男女が乱れすぎているのかの証と言えそうだ。
良く、時代劇で悪代官が女を犯したり
シリーズではキリシタンが度々関係しテーマの一つになっている。
ところが、狂四郎が何故モテるのかと言えば、実は外国人とのハーフで二枚目だという設定。
では、奉行が命を狙われる理由はと言えば、幕府の重鎮ではあるのだが、他の重鎮たちと意見が合わないから嫌われ、狙われるという事。
勘定奉行であるから幕府の財政や経済を考え、民百姓の身も案じているし、無駄な経費を削減するという事を大いに主張する。
其れで、意見が合わなくなり、前述の姫の場合にはお化粧料と称し二万両を許されていたのに奉行にカットされてしまった事の恨み。
其れを家来の主膳に命じた事が、奉行と狂四郎の抹殺という事になる。
謂わば、自由になる金を差し止められ・・という事なのだろう。
男は何時の世にもすっぴんだが女はどうして化粧が必須なのかは作者も不思議に思う。
最近のコマーシャルで、高齢の女性のモデルを出し、商品を塗ると何十代も若返るというものがあるが、若し夫婦であれば、幾ら化粧をし美人になったところで、家に戻れば素顔という事で意味は無いと思うのだが・・女の考える事はどうも理解に苦しむ。
其れは兎も角、話に戻る。
何時の世もそうであるのかも知れず、女性の真意は男性より性欲が強いと言えそうで、よく昔から女は灰になっても・・と言う言葉が使われる。
この姫も一時狂四郎に惚れた様で、その望みを見事蹴られたという恨みもあり、奉行と狂四郎が共に狙われる事になった。
浪人どもに狙われている二人だが、奉行の世直しの発想が正しい事と思った狂四郎が何かと奉行を助ける。
では、粗筋だけでは詰まらないだろうから、この辺りからお話に代えていく。
「・・上様から真剣にての御前試合を致すとの命があるが、わしは既に老齢の身であるから、試合は相手が幕府の剣術指南役の「柳生但馬の守(やぎゅうたじまのかみ)」であり、お主の身が危ないから、辞退をせい・・」
との奉行の心配も狂四郎に言わせれば。
「・・其れではあんたがお役目御免とされてしまうだろう?」
「・・いや、やめろ、此れは命令じゃ」
「俺の身は俺が決める・・其れに相手が但馬なら相手にとり不足はない」
其れを聞き涙を流す老齢の奉行。
奉行の改革は素晴らしく、丁度今の時代にそっくり。不況で貧乏国になってしまった此の国の政府は何をするにも間が抜け、増税を考えるばかり。国民はしんどいだろう。
いよいよ、御前試合の一幕になる。
此処で姫の家臣の主膳にはideaが浮かんでいる。というのは試合では特別の刀を使用する。
其の刀を支えるネジの様なものがあり、そのネジを緩めておくという仕掛け。
「立ち合いで刀を振った途端に刀の刃が抜け、真正面に座っている筈の奉行に刺さり、狂四郎も但馬に打たれるという一石二鳥に御座りまする」と、主膳。
「・・其れは名案だ」
と、期待する姫。
果たして試合での結末は・・。
秘め達の話では家斉がご覧になるという触れだったが、肝心な将軍は来ない。
互いに挨拶をし構える二人。
狂四郎が円月殺法を・・。
一周廻るうちに相手が倒されるというのが此の剣術の特徴。
下から上にあげていき、丁度刀を持つ両手で相手の姿が見え辛くなる時が、打ちどころと言う者もいるが、但馬も上段の時に打ちに出た。
此れを交わした狂四郎の刀が予想通りほぼ正面に飛び座っていた重鎮の胸に刺さった。
実は、狂四郎は刀を持った段階で、このネジを緩めてあることに気が付いていた。
其れで真正面で無くやや右寄りに飛んだ刀は奉行の右隣の重鎮に・・という事になる。
一斉に狂四郎を討ち取ろうとする武士達が場内に出ようとする。
但馬が声をあげ。
「・・控え居ろう・・控え居ろう・・此れは試合の場。お咎めは無い」
と。
但馬程になると、なまじ逆らうほどの武士はいないし、主膳も慌てて飛び出し皆を止める。
狂四郎は但馬に話し掛ける。
「・・此れは試合でも何でも無い・・ただの人殺しをさせ、大勢の証人に見せる為の猿芝居です。予めネジを緩めておいて・・」
「・・其れは如何に?」
「真正面に座っているある人物を殺させる為の謀(はかりごと)」
「・・其れは、聞かぬ事にしておこう」
と但馬。
「・・そう、貴方には関係のない事・・」
「・・それにしても私の一太刀を交わすとはお見事・・其れに剣法も変わっておった・・また、機会があれば何れ・・御身・・」
というところで、二人は別れる。
(このように昔から・・「大勢の人前でこそ、(狂言芝居が行われる)」事は幾らでもあった・・)
主膳が。
「・・お詫びと言っては何ですが・・奉行と狂四郎殿には別間でお話を・・」
其処に武士が。
「只今ご老中水野様直々においでなすったので・・」
奉行が其れではと、老中に会うのだが・・此処では良い話が。
老中水野忠邦と奉行が対面すると。
「・・お主の言われた事。上様も感心をされ・・」
要は、他の重鎮の意見と正反対の改革策を家斉が認め推進したという事。
此れが一番最後のシーンに繋がる事になる。
この水野忠邦は史実では、汚職に関与したような事が言われているが・・筋書きで変えたのかどうなのか?
「・・其れなら・・女占い師の采女という女を渡して貰いたい。(捕らわれている事を知っているから。)ついでに其の夫も渡して貰いたい」
「女は牢に捕まえてあるが、男は既に処刑をされいない」
「其れを采女は知っておるのか?」
「いいえ・・」
この後、姫が手紙を読むscene。
家斉からの書状で。
「勝手に試合をさせた事は許せない。江戸所払いとする」
姫は。
「・・この若さでススキに覆われた田舎などへは行きたくはない」
という旨の巻物を持って来た徳川の使者が言うには。
「・・この事、既に老中たちの耳にも入っており・・今更覆す事など致しかねる・・」
使者が帰った後のscene。
姫がお付きの女中に話す。
「・・何もかも私の名誉を奪って行った男・・狂四郎・・今は遠い江戸の町・・」
と涙を流す。
其処でこの場面は終る。
狂四郎が野を歩く姿で始まる。
その先にあったのは・・采女が野の木に磔(はりつけ)にされている姿。
狂四郎が近付いてくる姿を見た采女が叫ぶ。
「・・来ないで・・来ないで・・」
狂四郎目掛け雨あられと降り注ぐ矢。
其れを地を這うように避けながら気に近づく狂四郎。
主膳が仕掛けた罠だった。
狂四郎としては一時は敵になり、痺れ薬を呑まされ命を狙われたにせよ、銭湯のsceneで湯の下から刀を渡してくれた恩があるからだろう。
一刀で気を倒し縄をとき采女を救い逃げる。其れを逃がさんと主膳と其の武士達。
采女は狂四郎が毒矢で傷を負った、その傷を口で吸っては吐く。
鉄砲で狙うが当たらず、一斉に十数人の武士に加わり残っていた浪人達もここぞと斬りかかって来た。
片端から斬り捨てていく狂四郎・・最後は主膳も・・。
全て倒した後、歩いて行く狂四郎の前に采女が呆然と立っている。
狂四郎は其処で脚を止め采女の目を見たが、顔を下げていき・・去っていく。
膝を崩す采女。
其処に数頭の馬の足音が・・。
「狂四郎・・狂四郎・・?」
奉行が助けに来たのだが。
「お主・・其れだけの手練れを世の為に使おうとは思わぬか?」
「・・幕府の手先は御免だ」
「・・いや、落ち着いた暮らしをせんかという事だ?」
「考え方が違うんだよ・・そんな事を言うとお主が嫌いになる・・」
去っていく狂四郎・・そこで・・「完」の文字。
配役は市川雷蔵・采女が準主役で、当時サラリーマンが妻にしたい女性という週刊誌のランクでナンバーワンになった藤村志保・高姫は久保菜穂子・蕎麦屋の娘高田美和・奉行加藤嘉(松本清張の超大作映画・砂の器でハンセン病の父の役で名演技を勤めた。)
シリーズの実質的な出発点となった秀作と言える。原作は柴田錬三郎・脚本三隅研次で、狂四郎が明るく正義を通す良い作品となっている。
大映の看板スタ―とは言え今と違い「休みなし」で一年二十数本撮ったという市川雷蔵の人気の程が窺える。
30代の若さで亡くなるが、相手役は様々な美人女優。若尾文子・宝塚出身の八千草薫・宝塚で同期で男役だった阿井実千子・勝新太郎の妻となった中村玉緒・美人コンテストで女優になった山本富士子・その他にいろいろな美人女優が何と腰元役などを演じており映画全盛期時代ならではの豪華なキャスト。
今のタレントとは比較にならない大人びた美女ばかりで、古き良き時代と言える。
RentalDVD 屋でもなかなかおいていないのは古いからと、知っている人がいないから。
何の役をやっても別人のようにうまく演技をした事が語り告げられている。
妻は大映の社長の娘で日本女子大卒、子供達にも一切外に出ないようにと言い残していたからか、業界人はいない・・と言うのも流石だな・・と思う。
親の七光りという言葉は・・「親のconnectionで就職を決めるような意味にも使われ・・岸田君の子供は秘書に・・一流の役者・雷蔵と比較される程の・・価値などない端役以下・・という事になる・・」
手に入れば是非見て頂きたい役者と言え、約五十年の月日を感じさせない魅力がある。
其れで、seriesのDVD十数枚程を購入した。
「呑気と見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする。夏目漱石」
「打ちおろすハンマーのリズムを聞け。
あのリズムが在する限り、芸術は永遠に滅びないであろう。芥川龍之介」
「金は食っていけさえすればいい程度にとり、喜びを自分の仕事の中に求めるようにすべきだ。志賀直哉」
「by europe123 Atmosphere」
https://youtu.be/ItfFsmBmeOE
天才漱石の「夢十夜第一夜」と旧作から「夢十夜第二夜」に、くだらない社会の人類・・。
あとは・・どうでも良い・・。