味
「じゃあこれやりなよ、はい」
彼女が僕の体に何かを押し付ける。緊張と高揚が電気信号のように駆け巡る。爆音のテクノミュージックと僕の心臓が同期する。
僕は彼女の手を取り、その手をゆっくりと開く。細い指のその延長にあるピンク色の長い爪が、ちょうど親指の付け根くらいに少し刺さる。
手の中には錠剤があった。赤と青のディスコレーザーがそれを時々照らす。
「これは?」と少し大袈裟な顔で聞いてみる。
彼女は「ダイヤモンド」と答えるが、ディスコの音楽にかき消される。
「え?」とまた同じような顔をする。
すると彼女は僕の耳元に顔を近づけ大きな声で「ダ・イ・ア・モ・ン・ド」と言った。
錠剤を見つめる。多分、薄紫色か薄いオレンジ色。間違いなくダイアモンドではないし、かといって、これが何かはわからない。でもこれを飲んだらどんな風になるかは想像できる。緊張と高揚が電気信号のように駆け巡る。爆音のテクノミュージックと僕の心臓が同期する。
錠剤を受け取る。周りが少し湿っている。若干生暖かい。彼女の銀色のピアスのくらい小さいのに、確かに熱を感じる。
「ほら、早く」と彼女が急かす。僕は彼女の目を見ながら、錠剤を舌に乗せ、そのまま喉の奥へ、体の中へ、飲み込んだ。
彼女はまた叫びながら腕や体を上下させ音楽に乗り込む。すると突然、彼女の目元のラメがレーザーのように光り始め、僕を貫いた。そしてそれを合図とするように、クラブのレーザーが僕を貫き、僕の中で踊り始める。香水の下品な匂い、フェイクレザーの乾いた音。僕を誘惑する朱色の唇。彼女を構成するものが鮮明に浮かび上がり、やがてぐちゃぐちゃに混じり合って僕の中で溶けた。
黄緑色の味がした。
彼女は黄緑色の味がした。
味