最後の音楽

最後の音楽という言葉を、私はひどく恐れています。
音楽と出会ってしまったゆえに訪れた。
怖くて怖くて、しょうがない存在。

ほんの、数ヶ月前までは、私にとってかけがえのない親友。
人生、生きる目的だった。

けど、あの日。

「長くは生きられない」

そんな事実を伝えられた。
その日から、音楽は私にとって愛しくも恐ろしい。
そんな存在になっていった。

チェロ。
今まで私と一緒に音楽を奏でてきた。
私はそれを、寝たきりになってしまった後も、ベッドの上で弾いた。
一音一音鳴らせば、そのたび減っていく残り時間。

音楽は時間の芸術。
それゆえ、時間の経過は生々しく私の身体に響いた。
心地よかったその響きは、私の。「命の木」を削り取るかのように思える魔の響き。
それでも私は演奏をやめることはできなかった。
私という存在の証を、音と共にたくさんの人たちに知ってほしかった。

だから

私は最後の演奏会をすることにしました。

最後の私の音楽、聞いてほしかった。

最後の一音を、最高の音で、私の音で、終わらせたかった。

心からそう願います。


あなたがこの手紙を読んでいる。
つまり私はもうこの世にいないのでしょう。
どうでしたか?私の音楽。
どうか、私がこの世からいなくなっても、音楽だけは誰かの記憶の中で生きていてほしい。
お願いします。

最後の音楽

最後の音楽

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-31

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