簡単に人類動物園と旧作四作を

簡単に人類動物園と旧作四作を

宇宙がどれだけ広大で・・幾層にも繋がっているのか・・。

 簡単に人類動物園と旧作四作を




 CEO尾上雄二のコンツェルンの社員は人類だけだが、異文明の住民が立ち寄る事もある。
 全ての宇宙を表現する事は無理だが、仮称~別層の宇宙空間にも数多と生命は存在する。
 生命体と言わない方が良いのかも知れないのは、体となれば構造の異なる生命が除外されてしまうのかも知れないが、人類の言語なので不明。
 まあ、細かい事を気にする意味は無いだろう。人類の様に進化して間もないモノも存在するが、総じて存在する期間が短いようだ。
 寿命と考えればそれほど違いは無いのだが、そうで無く文明の消滅や存在する天体の事情にもよる。
 誕生した惑星など其のままであれば、惑星の構造次第で各種の災害や異常現象の犠牲になるのは仕方がなく、其れを制御する事は不可能。
 そう考えれば、あっけなく感じるが、かと言い人類が一億年存在したにしても、太陽系の他の惑星に移住するのも理論的に不可能。
 其れは、科学・医学・薬学などのlevelの問題だけでなく原始的なままの感情を抑えきれない事などにも起因する。
 其れは他の高度な生命からすれば、不思議に感ずることでもある。其れを顕著に見る事が出来る代表的なものがニュースだったりする。
 更に、TV番組だけをとってみれば、各人により好みが異なる事は理解できるが、正直言って面白く感ずるものが次第に無くなって来るのが、年齢と共に成長していく生命の特徴とも言える。
 人類に於いては、そういう現象を病として分類すれば、鬱状態などに相当するのだろう。
 ところが、そうでは無く少ないながらも興味を感ずるものはある。雄二や女優である三田綾子に若井夕子は皆同じく芸術には関心を持ち、特定の映画にも同じく興味を示す。
 雄二は人類の社会において、野球やテニスなどを部活動や趣味として経験はしたが、成長した現在は関心を持たなくなった。
 例えば、ボールを打つというだけに過ぎないと判断するようになった。其の技術的に優れた者が大谷選手であり、優秀だとは思うものの、最近のTVで始終放送している試合を見ることは無い。
 女性に対する考えも大きく変化をしてき、仮に美しいと感じたとしても、四つ足動物と変わらないのだと感じるようになり、其れでも演技をしている女優であれば、また別の観点で見るようになった。
 人類にとっては、子孫繁栄の為の一大事であろうが、宇宙の生命からすれば同じで無いのは極めて自然な事。
 その点、綾子や夕子は美しいと思う。化粧をしない素顔のままで人類に勝る美女なのだから、其れも・・というより同類だから当然だ。
 此の問題は、以前から「仮称~創造惑星~構造上・・一切の災害は無く、仮に巨大な惑星が衝突したにしても、被害は一切ない」に於いても、問題にされてきた。
 小説にしてしまえば、女性を登場させる事が出来る。
 時間が無くなったので、過去のものを四作載せる。



 以下は義塾時代に実際にいらした先輩と同級の女性があまりにも美しかったので、何回もテーマに取り上げたという事情があった。
 第一作の Blue Bossa。(同じストーリーの魔女物は他にも重ねたものがある。「魔女の溜息」は二作目。「上等の魔女」は三作目更に「Obediencia absoluta a las brujas 邦題 魔女には絶対服従」が四作目。読み比べて下さい。
 作家には同じテーマの小説に何度も拘る事があり、文豪で言えば「川端康成」が書き下ろした有名な作品で、既に誰もが読み終えていた「雪国」はそんな小説。
 既に書籍になり有名だったにも拘らず、川端氏が自ら亡くなる前でしたが、主役の駒子が心中をしたと書き換えていた原稿が、約50年近く経って見つかった様です。


 「Blue Bossa」


 JRの階段を下りながら田中道雄は、河合真理が前を歩いているのに気が付いた。
 二人はJRの田町から歩いて10分程の大学に通っている。
 道雄は法学部三年、真理は文学部四年。
 真理さんは道雄の下宿の隣の部屋に住んでいる先輩丸井武の同級生だ。
 武は仲の良い同級生が多いばかリで無く、同級生の他の大学の友達などともすぐに打ち解け飲みに行ったりする。
 下宿といっても、襖を隔てて六畳間が二つあるだけ。まあ、同居しているようなもの。
 だから、武が友人や妹弟が遊びに来ると必ず道雄に紹介してくれ、一緒に話を、酒をとなる。
 武は同級生の中で二つのグループに属しているくらい顔が広い。
 真理さんはその内の一グループで武以外の男性二人女性二人の一人。
 下宿にその四人が遊びに来た時に、道雄も仲間に入り話をし酒を飲む。
 サントリーのウイスキーなら角やオールド、道夫の親が送ってくれたブランディーVSOPなど。
 道雄は、武からその四人を紹介して貰った時に真理さんの瞳に吸い込まれる様に。
「・・凄い美女・・」
 後で武から聞いた話では真理さんはクラスでも人気が高いと言うが・・納得。
 道雄は一瞬こんな人と付き合えたらいいなと思ったが・・「いやいや先輩でもあるし、無理、無理」其れは当然。
 その憧れの真理さんが前を歩いている。
 道雄は足を速め真理さんに並びかけ声を掛けていた。
「二時間目授業ですか?」
「丸井君の下宿の人だったかしら?」
 二人並び東京タワーを右手に見ながら、桜田通りを渡り警備員の立っている前を通ればキャンパス。
 すれ違う学生達がそれとなく真理さんに視線を流して行く。
 道雄は小さく呟き。
「そりゃ・・美女なんだから」



 法学部は三年から専門課程だから講義は各種法律や政治など。
 最後の民法1が終わりキャンパスに出た時には、既に夕陽が芝生を赤く染めていた。
 また真理さんに会えないかなど思い、キャンパス内を見回すが最終授業後で学生の集団は皆幻の門に向かっていく。
 道雄。
「会えるわけ無い」
 大体此の人込みでは・・。
 その学生の中を男子学生に囲まれるようにしながら歩いている女性。
 道雄と同じ高校から入った竹内という女性。道雄に気が付いたとは思うのだが・・無視をしている。
 学生達に囲まれ女王の様にキャンパスを出て行く。道雄は、
「大した事ない、真理さんに叶わう訳無い」
 と思う。
 道雄は群れから離れ図書館の入口で警備員に学生証を見せ臙脂の絨毯が敷かれた階段を上がるとFloor。
 通路の右手に一列に並んでいる椅子に・・憧れの真理さんの姿が。
 先程まで会えないだろうかと思っていたのだが、何か一生懸命に本を見たりノートに書き込んだりしている。
 やはり邪魔しては悪いなと思いその後ろを抜けるように一番奥の開いている席に座った。
 道雄は宿題をやらなければならないから、普段あまり来ない図書館に来参考文献を調べた。
 参考になる部分を書き写し、最後に自分の見解をちょこっと書く事にする。
 その宿題もそんなに手の掛かるものでは無かった。
 刑法の未必の故意に関する事例と自分の解釈を書けばそれで終わりだ。
 15分程し、道雄は椅子を机の下にそっとしまい図書館の出口に向かった。
 階段を降りようとした時、丁度真理さんも用事を終えたようで鉢合わせになりそうになる。
 道雄は階段の手前で立ち止まり、真理さんに気付かれないようにと真理さんが図書館を出て行くまで待っていた。
 時間をずらし図書館を出る。
 その時間になれば陽も落ち、薄紫の闇に覆われたキャンパスが帰る学生達を見送るように佇んでいる。
 道雄は、桜田通りを渡り細長い仲通りを歩き始めた。
 本屋の前を通ろうとしたときだった。何と真理さんが店から出て来る。
 道雄は黙ったまま真理さんの後に付き歩き始める。
 突然・・真理さんが立ち止まる。
 そして、真理さんは振り返り。
「田中さんでしたっけ?」
 自分の名前を憶えていてくれたようだ。
「ああ、どうも・・いえ、今晩はでしたか?」
 真理さんはくすっと笑い、
「ね、田中さん急いでるの?」。
 道雄は何と言われたのかと?照れ臭そうに、
「いえ、急いではいませんが・・?」。
 真理さんは再び笑みを浮かべ、
「あなた、図書館にいたわね。調べ物でもしていたの?」。
 道雄は片手で頭を掻くと、
「宿題をしていたんです。あの・・真理さんがいたのは知っていましたが、邪魔をしては悪いと思い・・」
 真理さんは何もかも御承知の様な表情を浮かべ頷きながら、
「私、行きたい所があるんだけれど・・田中さんお暇?」。
 道雄にしてみれば憧れていた女性から思いもよらぬ言葉をかけられ・・其れは?
「ええ暇は、暇です。でも、行きたいところって・・?何方に行くおつもりで・・?」。
 真理さんは指を・・、
「あそこ」。
 道雄は真理さんの指が示している先を見、
「あそこって・・東京タワー?」
「ええ、そうよ・・」
「僕とタワーに・・行く?」
 道雄は流石に何をするんですか?とまでは言えない。
 道雄は内心はさておき、躊躇いがちに、
「ああ、僕はいいですよ。どうせ暇人ですから」。
「そう?じゃあ付き合ってくれるの?」
 道雄は真理さんと肩を並ばせメトロの駅まで歩く。駅の手前で、先程の竹内達・・に出会う。
 竹内を中心にし、周りを男子学生達が幾重にも取り巻いている。
 真理さんは・・そんな事お構いなしなのは・・当然。 高校時には美人だと言われた竹内でさえ、壁の様に囲まれている男子学生達の隙間から覗いている。
 道雄には一旦視線を流しただけで・・真理さんを凝視している。
 道雄は頷いてから、呟きを・・。
「・・これじゃ大女優の・・付き人?」
 そして・・思う。
「これ以上知っている奴に会わなけりゃいいが・・」
 地下鉄の芝公園駅からタワーまでは歩いて五分。
 其の時には、漆黒の闇に月を浮かべた様なプリンスパークタワーLoungeの照明が・・。
 その出来上がってしまっている美しさとし一見の価値はあるのだが。
 道雄は公園を歩きながら呟く。
「其れに付けても・・未知の美女・・」
 真理さんは美しい横顔のまま。
「何か言った?」



 エレベーターが上がって行くに連れ、眼下の街の灯りが次第に散りばめられていく。
 ドアが開くと・・薄暗い中にブルーの照明が映えている展望台から「東京」の夜景が一望に見渡せた。
 羽田から飛び立ち灯りを点滅させている夜間飛行の旅客機が腹を見せるように大きく旋回し海の向こうに消えて行った。
 道雄が手摺に手を掛けクリアガラスの外を見ている真理さんに、
「図書館で何か調べ物ですか?随分厚い本を捲っては見ていたようでしたが?」。
「・・卒論の準備をしていたの」
「へえ、テーマは何にしたんですか?文学部だから?」
 真理さんは小さな日比谷の灯りを見ながら、
「魔女裁判・・中世ヨーロッパの魔女狩り」
 道雄が街の灯りが横顔に映っている真理さんに、
「はあ、文学部で魔女裁判ですか?なかなか面白そうですね?」
「キリスト教にどうして魔女などと言う概念が生まれたのか、反ユダヤ感情と結びついたり、田中さんは法学部だから裁判は専門よね・・」
「いえ、裁判でも、魔女となると縁が無いですから。確か、Europe全体で15世紀から18世紀までに4万人から6万人くらい処刑されたんでしょう?」
 真理さんは図書館で見ていたものを思い出した様に、
「そう、おかしな事が罷り通っていたのね。理由がいろいろあったにしても今一つピンと来ないの・・ 金銭目当て説・異教説・女性医療師弾圧説・災禍反応説・ 宗派的角逐説・フェミニストの主張・社会制御手段説など。本当は恐ろしいと言われるグリム童話にも繋がっているのよ・・」。
 道雄が少し不思議そうに、「でも、真理さんと魔女か・・似合ってなさそうだけれど・・案外・・」
 真理さんは道雄を見、「案外・・何?私も魔女だって?そうかもね。冷たく見える?」。
 道雄はすぐさま首を振ると、
「そんな・・そういう意味じゃ無いんです・・」
 そこまで言って・・その後は言えなかった。
 二人はドリンクを飲みながら暫く話しをしていたが、 真理さんが、
「そろそろ帰ろうか・・」。
 道雄は魔女という言葉には少し驚いたもののもう少しいたいような気も・・とは裏腹に・・。
「そう・・そうですね・・帰りましょう?」

 



 浜松町まで一緒に歩きJR に乗った。
 真理さんの家は東横線の田園調布だと言う。道雄は目蒲線の洗足だから目黒まで一緒に行った。
 道雄は電車を降り、動き出した山手線の車窓から手を振る姿が見える真理さんに名残り惜しそうに手を振った。
 真理さんが、
「また会いましょうね」
 と言ってくれたのが唯一の救いの様な気がした。
 道雄は洗足の駅から下宿まで住宅街の夜道を歩きながら呟いた。
「卒論か。もう卒業だものな・・」


 月が明るい割には・・いつもに比べ闇の密度が濃い夜だった。


 
「by europe123 original」
https://youtu.be/WOd05LXYI2g
</span>


「Obediencia absoluta a las brujas 邦題 魔女には絶対服従」



 学友のところで飲み過ぎた。あまりにも馬鹿らし過ぎて、尚且つ面白く、深夜のトランジスタの音楽は、軽快だし、つい時間を忘れてしまった。
 私鉄は既に最終電車も止まっているし、歩いて帰るしかない。線路沿いを歩けば間違い無いのだから訳はない。
 とは言っても、聊か飲み過ぎたかというより、飲んでいる時には幾らでも飲めるのだが、後で、あるいは翌日反動が来る。
 朝一の授業などに出られなかったり、起きてみたら枕元に吐いているとか、其れでも飲んではやりたい事をやる。guitarは必需品だから、何処にでも持ち歩く。
 今日は珍しく手ぶらで何か物足りない。下宿には普通なら泊まりますの連絡をするところ、忘れてしまった。
 何とか、モップスの「辿り着いたら何時も・・寝た・・ふり」では無いが、辿り着いた途端に寝てしまったようだ。庭の芝が心地良い布団のような気がした。
 何か、夢と現実がごちゃ混ぜになっている。起こしてくれたのは、驚くべき美女だった。先輩の級友で一回お目に掛っている。
 道理で、この時期にしては、極点のように寒いと思った。魔女が近付けば極端に気温は下がるという事は案外知られていないのかも知れない。
 其の、代わり、恐ろしい程の美しさで、言葉など出て来なくなる。暫く、慣れるまでに時間が掛かる。腕輪が月明りで輝いているのが印象的だった。
 では、先輩はどうしたのか、あの、二階の灯りの下で無線でもやっているのか。魔女が視線を二階の先輩がいる部屋の窓に移す。
 突然、窓が開けられて、二階の灯りが庭を照らす。魔女の姿は見えなくなった。
 姿が影になっていて表情はよく分からないが、此方を見ている。救助隊が来てくれた。先輩が肩に手をかけて裏口から静かに中に入れてくれた。下宿のおばさんや娘さんに知れたら大変だ。
 魔女の話をしたが、何も言わない。お前、寝ぼけてるんだろう、此れで気付け薬だと・・また、今度はウイスキーだ・・。ジェットストリームが流れている。此れで、世界中何処にでも行ける、夜間飛行で・・。




 翌日は、昼からキャンパスに出掛けた。多少頭痛がするが今日の講義に出ないと単位が足りなくなる。酒臭いからと言われると思い、大教室の一番後ろに座った。
 お陰で、マイクを通しての教授の声は聞こえてくるが、黒板の字が良く見えない。人のノートはあまり宛にならない。以前、千円で買った事があったが、全く試験では役に立たなかった。
 鞄から望遠鏡を出して何とか判別するが、少し手振れがすると何処まで読んだのか分からなくなる。潜水艦の潜望鏡もこんなものかななどと思っている内に、皆が席を立ち始めた。
 もう一時間半、別の講義を受けて、キャンパスに出ればもう夕陽が芝を燃やしているようだ。今日は此れで終わりだと思うと、何か物足りなく感じたから、図書館に寄っていく事にした。
 臙脂の絨毯の先の横並びの席の向こうに見えるのはひょっとしたら・・。そっと、近付いてその更に先の空いている席に座る。暫く、真面目に復習をしてから、出口に向かったら鉢合わせになった。
 宙美知さんが階段を降りて行く。扉を開けて表に出たところで、声を掛けられた。
「あなた、片山君のところの紺野君でしょ?」
 ガードマンや行き交う人々が此方を見ている。並んで桜田通りを渡る。この時間帯は学生が塊となり一方通行のように駅までの抜け道を流れていくが、近付けば皆こちらを見る。
「ああ、昨夜はどうも・・」
 美知さんは、何事かお分かりなのかそうでないのか、黙ったまま紺野康介の顔を見る。此のキャンパスには美女は一人だけではない。ひょっとして違う美女かなと思うが、あの零下の寒さは・・。
 大体が、あの夜更けに出歩く女性はいないだろうし、美知さんは田園調布に住んでいるから、電車が走って無ければ来る訳も無いなどと思う。
 しかし、そのあたりは魔女だったら関係無いのではという考えに変わる。何れにしても、何人か美女がいるのだが・・。
 だが、知り合いでも無い魔女が来るのもおかしいと考えていたら、美知さんが、あなた、其の時酔っていたんでしょう、魔女ならこんなもの持っている筈と、見せたものは確かあの腕輪。
 康介が、ああ、やはりと美知さんの顔を見る。美知さんがクスっと笑う。一瞬冷気が・・。環状七号線を下宿から内回りに少し走った辺りにも先輩と一緒に行った時に泊めてくれた美女がいるが。
 美女と魔女の関係は因数分解で解ける訳はない。 



 康介の高校時代に美女と評判だった竹内が此方を見てみない振りをしている。取り巻きは竹内に夢中のようだが・・。
 竹内は・・女の勘という奴ではないかと思う・・真っ先に気が付いたのは。更に、美知さんが連中の脇を通った際の冷気で取り巻きも唖然としている。此れだから、目立ち過ぎるのもどうかと・・。
 田町は、自動車会社や食品会社や電機会社の本社がひしめいているから、夕刻は拙いなと思うが、そんな事は関係無く、振り返る人の行動まで制限する訳にはいかない。
 美知さんは人混みの中を気にもせずに歩くが、周りが道を開けるように・・。
 昨晩のお礼でもと思ったが、卒論で忙しそうでもあるしと、何も言わずにいたら、美知さんが一緒に帰ろうという。
 同じ方向だから構わないが、電車に乗ったら何処まで一緒に行くのかが気になる。
 目黒から目黒線を使えば、康介の降車駅の洗足は途中だが、其の先が美知さんの田園調布だ。
 東京タワ―に行かずして、一体、と思っていたら、美知さんが家に来ても良いという。先輩が同行しないのに自分だけ行くのも拙いような気もする。
 大体、田園調布はお屋敷街だから、凄い豪邸に住む魔女の何かを知ってしまい兼ねないのが何か心配になる。
 果たして、洗足を通り過ぎ康介はホームが遠ざかるのを見送っているが、美知さんは何処吹く風で意に介していない。
 すぐに、西側に半円のエトワール型(放射状)が特徴の田園調布駅に到着する。此の形からしても昔からどうしてかなと思った事があった。駅の東側に較べ西側の方が高級だ。
 駅から近くにある屋根が変わっている家の前で、康介は少し躊躇したが、自動ドアのように開いた扉から入った美知さんが、何をしているのという表情を見せる。
 別段変わった風には見えなかったが、中に入ってから内部がアンティークで神秘的なのに感心した。やはり、こういう雰囲気だから、美知さんとマッチしているのではと思う。
 応接室には暖炉のようなものがあり、屋根が変わっていると思ったのは、左右に開くのだと教えて貰った。どうして、その様なつくりなのかは分からないがと思っていたら、早速屋根が二つに分かれて、夜空がそっくり現れた。
 神秘的な景色に、康介が綺麗ですねと感想を述べたら、美知さんはこんな景色を見ていると卒論が進むのだという。
 屋根と言えば、先輩は時々屋根から入って来るんですよと話したら、そうねと言うが、そうねとはどんな意味なのかが分からない。



 美知さんが魔女だとの異名を持っているのは知っている。単にキャンパスでつけられた渾名かも知れないが、康介にはやはり、本物の魔女のような気がしてならない。
 ファッションモデルになろうとすれば、卒業すればなれると思う。しかし、その様な問題ではなく、美知さんには逆らえ難い何か神秘的な魅力を感じる。
 何か命令されれば、素直にその通りにしてしまいそうで、其れでいて、美しさに見惚れてしまいそうなのだ。
 あまりにも現実離れしているかなど思い、極端な事を想像してみた。美知さんが風呂から裸で出てきたらどう思うかなど考えたが、そういう事は未知さんには似合わないなと反省する。
 美知さんが、そんな事を考えている康介に、「何?何か言った・・?」と、いえ、何も考えていません、と慌てて弁解したが、そんな事も意味が無いだろう・・。
 美知さんは、Realにcoolなのだ。だから、魔女になる資格があるのだと、何かどうしてもそこに行きついてしまう。
 美しさがとんでもないところから生まれていて、人間臭さが感じられず、冷気がスーッと漂って来たらもう手の施しようも無い事になる。
 突然、家族はいないのかと思う。だが、いたら皆魔女の一族の様で、確かTVの海外番組にその様なものがあったような気がする。
 其れで其の事は聞かない事にした。
 其処で、ハタと気が付いた。此の夜空に此処から舞い上がっていく事が出来れば、先日の庭の件も納得がいく事になる。  
 魔女の集会にも此処からいくのかな・・など考えだしてからやめにした。其れでは、まるで御伽噺ではないか・・。
 




 美知さんが大人しく何かをやっているので、聞いてみたら卒論のまとめを終えようとしているという。
 もう、終わるんだ、一体どんな風に纏めたのだろうと、何気なく思った。
 「見たい?」と聞かれた時、迷って、「いいです・・」と言ってから、やはり見たくなった。
 しかし、二人でいる時にそれを見たら、何か起きそうな気もする。
 美知さんが、突然「片山君、呼んでいる・・」と言った時、身体が宙に浮くような気配がした。
 




 気が付いたら、下宿の庭の芝生に座っていた。
 時計を見たら、門限をとうに過ぎている。
 微かに声が聞こえた。
 下宿の屋根を見上げたら、先輩が瓦屋根の上で此方を見ている。どうやら、何時ものように塀から屋根に上がったのだが、宛にしていた自分がいないから中に入れないようだ。
 裏口のドアは外からでは開かないから、二人共中に入れない事になる。
 康介は思い出した。
 先日は、美知さんが・・魔女が、窓を見上げた時に先輩が窓を開けてくれた事を。
 同じ様に窓を見つめた。
 すると、突然部屋の蛍光灯のグロウランプが点滅しだし、蛍光灯が点いた。
 窓がするっと開いた。
 先輩は其の窓から中に入り、裏口に回り中から鍵を開けてくれた。
 二人で忍び足で階段を上がると、部屋の机に座った先輩が、「お前、何処に行っていたんだ?てっきりいると思ったら、いないから焦ったよ」と、康介が事の次第を話した。
 先輩は、美知さんの事については何も言わなかったが、黙って納得したようだ。
 「道理で、お前、やたらに冷え切っていると思ったよ、あれ見てみな・・」と、柱に掛けてあった温度計を目で示した。
 この時期だから、二十度は越えている熱帯夜だが・・零下・・。
 康介は、其の事には触れないで、窓から田園調布方面を眺めて、「おやすみなさい」と言ってから窓を閉めた。
 



 翌日、図書館で未知さんに会った。
 周りの迷惑にならないように、小声で、「卒論、終わったんじゃないんですか・・?」と尋ねた。
 美知さんは黙って椅子をしまうと、目で表に行こうと言う。
 此方を見ているガードマンや行き交う人の視線が・・。 
「教授からアドバイスがあって、もう少し現実的に書いた方が・・此れでは、まるで、君が魔女のような事になってしまう・・客観的にみて」
 其れで、卒論を書き直しているんですか?と聞いたら、そうではないと言う。
 何か付け足す事があったから、書き加えたと言う。
 其の時一瞬感じたのは、其の教授とやら・・美知さんにそんな事を言ったら・・とんでもない・・?付け足す・・って、何だろう・・?
 駅前で、また、竹内の取り巻き連たちが此方を見ている。
 大勢の帰宅途中の会社員たちも立ち止まって此方を見ている。
 何か何層もの人垣のブロックが出来ているような気が・・。
 道を開けてくれた中を二人が歩いて行く。
 俄かに、辺り一面が冷え切ってきた。
 おそらく、零下にはなっていそうだ。
 皆、其のまま凍り付いているように見える。




 其の晩は、東京タワーに上った。
 青い灯りの中で、一際(ひときわ)おそろしく美しく・・輝いて見える美知さん。
 眼下に見える街中の動きが止まっているような気がしたが、街の灯りだけ色とりどりに煌めいているのが嘘のように思えた。
 美知さんが卒論に書き加えた部分を見せてくれた。
「・・今年は思い掛けない冷夏になりそう・・」
 此れ、もう一度教授に見せるんですか?と聞いたら、首を横に振る。
「明日は、全部休講になるから・・誰も・・いなくなるんじゃないかな・・」
 その意味が、何となく分かるのは自分だけだろうと康介は思った。




 翌日、講義に出掛けたが、掲示板の前にも何処にも誰もいない。
 掲示板には、誰が貼ったのか分からないが、・・月・・日・・君の・・講義は休講。
 この大学では福沢諭吉以外は皆君付けで、先生と呼ばれるのは諭吉だけ。
 全ての講義が休講になっている。




 来る時に気が付いたが、康介は珍しく原付で来たから良かったが、何もかも街中が氷山の如く固まっていた。
 自分の原付だけ動いたのは・・きっと・・美知さんが・・。
 下宿に帰ったら、唯一の声が聞こえた。
「ハローシーキュー・・此方・・ジャパンの「J」・・どなたかお聞きの方がいらっしゃいましたら・・」
 先輩だけは変わりないようだが、誰も無線に出ないのか、何時まで経っても・・。
 先輩は、いい加減に諦めたように、「だから、あいつにちょっかい出すと・・こういう事になるんだ・・」。
 康介は呟いて・・美知さんのおそろしく美しい顔が尚一層際立っているだろうことを・・。
 「・・美知さんも仲の良い先輩は特別扱いなんだな・・俺も・・絶対服従は・・快感!!」 
 
 




 一日、月も星も固まっているのに、光だけが変わらずに輝いているのが、不思議な気がする。突然、異常気象になった時は、何か原因があるのだろう・・。



 「Mélodie de ruelle 邦題 路地裏のメロディー」



 薄く苔が生えているような路地裏を走って来て塀によじ登る。すぐ後を男達が追って来るが、姿を見失うと逆戻りをして車に乗り先回りと決めたようだ。
 反対側の大通りに黒い車を止めてドアを蹴るように、バラバラっと散らばると物陰に隠れて路地から出てきたところを・・手にはサイレンサーを取り付けた拳銃が・・。
 窓を叩く音に気が付いたHepburnは一瞬びくっとして、「誰・・?誰なの・・」と、窓ガラスに白いハンカチが見えたと思うと男の顔が・・Silentムービーのように口元を大きく動かすと開けてくれと言っているようだ。
 ハンカチが白旗のように見えたから、彼女は窓際に近付くと窓を途中まで開ける。その続きは男が勢いよく開け放つと、窓から部屋によじ登るように入ってくる。
 後ろ手で窓を降ろした男はすくみながら両手を拡げ首を傾げる。歪めた口からフランス語が飛び出した。
「いや・・取り込み中失礼・・僕は Delon、君の敵では無いから安心して」と、サングラスを片手で外した男は彼女に笑って見せる。
 先程まで息を弾ませていたドロンが、改まってヘプバーンの手を取るとヘーゼルの瞳を見つめてから片膝をつくようにして軽く唇をあてる。
 ヘプバーンはパリのピカソ美術館の近くに家があり、Holland語もフランス語も話せる。勿論英語も。
 自分より8センチほど身長が高く若々しいドロンの容貌に好感を感じながら、彼女も笑顔を見せる。
「・・ちょっと大きなネズミに追われちゃってね・・其れで・・」
 ヘプバーンは彼の口を封じるように、「今、丁度焼きあがったパイでも如何・・」と、ドロンが、「そりゃ最高だ・・君が作ったんなら、遠慮なく・・」。
 臙脂のクロスの丸いテーブルにのったパイをヘプバーンが小皿にとって渡すと、彼は一口食べてから、「ほら、やはり、美味しい、君の味がするようだ・・」と、彼女は澄まし顔で、「なかなか、お上手ね・・ハンサムだし・・」。
 彼は小皿まで食べてしまいそうな勢いで、パイをたいらげると、「君こそ・・美しい・・シネマに出てきそうな・・」。
 彼女も自分の小皿にのっているパイに口をつけてから、「うん、まあまあうまく出来たよう・・キネマでなくてシネマ、フランス人?」ドロンが、「まあ、そんなところ・・君は?」。
「私は・・風来坊よ・・でもキネマのGermanyとは縁がないけれど・・。ところで、貴方も役者なんじゃない・・?マスクからして・・」
「うん?有難う・・まあ、そんなところ・・かな?」
「そんなところ・・か・・って?」
「ああ、その内ね、面倒な事が済めばだけれど・・」
 二人はテーブルを挟んで互いの自己紹介を簡単に。
 ヘプバーンがナプキンを渡すと、ドロンは手と口を拭こうとしてから、ポケットから先程のハンカチを出して、「此れでいいよ・・」と、彼女がしわくちゃのハンカチを見て手を出しながら、「其れ、私が洗っとくわ。大分、使い古した様ね・・」。
 素直にハンカチを渡したドロンが、「・・って、また来なきゃいけなくなる・・んじゃない・・?」。
 彼女は斜に構えると、「そういう事になったら・・お嫌?貴方が子供のように此れを降っていたから・・こうなったんじゃない?」。
 ドロンが相好を崩しながら、「そう・・だね。其れが本音だったから・・縁結びって訳?・・僕は嬉しいけれど・・」。
 其の自分の言葉で思い出した様に、ドロンが、部屋の中を見廻して、入り口と窓に視線を合わせてからすぐに彼女の顔を見る。
「こうしていられる時間がもう少し続くといいけれど・・ちょっと御免」
 ドロンは、ドアの覗き穴から外を見てから、何か気が済んだ様に彼女に、「此処、いいところだけれど・・大きなネズミなんか出ないかい?」。
「・・ええ、私は見掛けないけれど・・心配なら・・どうする?」
「此処から一番近い駅は何処?」
「・・うん、サンポールかサンーセバスチャン・フロワサール・・かだけれど・・?貴方、何処から来たの・・?」
「ほら、人間て夢中になっていると、意外と気が付かないじゃない、そういう事なんか・・」
「・・そういう事・・ね。其れで、どうするの?」
「8号線でオペラ座まで出てみようかな・・一本だし」
「取り敢えず・・?その先は?・・まあ、いいか・・私もお供してもいい?」
「・・勿論だけれど、ネズミが出るかもよ。まあ、オペラ座なら怪人だけれど・・」
「面白いわね。何となく分かって来そう。誰かさんを気にしているって事ね?女優さんかしら・・?」
「・・うん?君ほど美人じゃない、こんなものを持ったいかつい女優だから・・でも、君、この後の予定は?・・無ければいいんだけれど、一番・・」と指でピストルの形をつくり、首を傾げる。
「丁度、表に出たくなったところだったから、其れに、USA・・ハリウッドじゃ皆そんな感じよ?・・其の女優さんって見てみたいし・・」
 ヘプバーンが急いで片づけをしてからハンカチを洗濯機に入れると、準備はOKのウインクを・・。
 



 二人がオペラ駅に着いた頃は茜色の陽が辺りを斜めに染めている。
 ドロンがスマフォで予め連絡しておいたから、ばらばらな服装をした男女がオペラ座のすぐ近くのカフェテラスに座って待っていた。
 暫し、話をしてから、彼女を紹介したが、皆、既に彼女の事は有名だから見聞きしていたようだ。
 彼女が、「随分、様々な格好をした役者さん達ね。あれも、演技の為の変装か何か・・?」と、「役者といっても、君のような主役では無いし、変装をするのが趣味の様でね・・」
「何か、アクションものの映画でにでも出ていそうね?」
 ドロンは、彼女の目を見てから、「そんなところかな・・派手な立ち回りもあるからね・・偶には」と、彼女は、「そうみたいね・・で、ネズミっていうのはいつお目に掛かれるの・・?」。
 ドロンは並んで歩いているヘプバーンの瞳を覗き込むようにしながら、「そんなに先の事じゃないよ。君はいかない方がいいんじゃないかな。君に何かあったら、世界中のファンががっかりするだろうしね」
 彼女は自分も、私生活で生きるか死ぬかの経験があるから、意外と芯は強い方だと言った。
「じゃあ、此れからエッフェル迄行くんだけれど・・本当にいいのかな?まあ、僕が君の事は何としてでも守るつもりだけれどね」
 二人はAuber駅まで少し歩きA号線に乗り、凱旋門のあるcharles de Gaulle Etoile で6号線に乗り換えセーヌを渡った所にあるBir-Hakeim駅で降りた。
 先程の連中は車に分乗して行くからEiffelで落ち合う事になっている。
 地下鉄とは言っても地上駅になっている。其処からは、二人並んでセーヌ川沿いに歩く。
 辺りはすっかり暗くなっていて、道端にはおもちゃなどを拡げて売っている業者達の前を通り過ぎれば塔に出る。
 黄色く光輝いているEiffelが目の前に巨体を現わした。観覧客が列を作って渦を巻くように並んでいる。
 チケットを買ってから其の後に並ぼうとした時に、セーヌを航行していた高速艇から武装集団が飛び出して来た。
 その前に既に到着していた、連中と合流する間も無く、鈍いサイレンサーの連続発射音が聞こえた。
 辺りは、俄かに騒然とし、恐怖の声を上げ逃げ惑う人びとで入り乱れている。敵味方に別れて物陰から撃っては姿を潜める。Eiffelの明るい黄色い灯りが輝いているからまだましだが、其れでも闇の中に銃の閃光が鮮やかなくらいに数知れない残像を残す。
 彼女を安全な場所に移して、ドロンも連中から預かっていた拳銃を撃ちまくる。何方もプロ集団だから、決着がつかない。
 サイレンが聞こえると白塗りに青いランプを回転させた警察車両が次々に到着した。
 警官隊も加勢して、敵はセーヌの船に乗り込んで逃げようとする。敵の仕掛けた煙幕と、警官隊が発射する催涙銃が入り乱れて、辺りの状況が良く分からない。
 報道関係のカメラも駆け付けて来た。警官隊と、テロ組織の争いはFranceでは珍しい事では無い。
 至る所でテロが発生している。報道陣が暗がりの中に潜んでいたドロン・ヘプバーンの姿を見つけたから、余計に騒ぎは大きくなっていく。
 二人に交流があった事は今までは知られていなかった。カメラからマイクに至るまで、二人に集まる報道陣と、テロとの戦いを取材する報道陣が入り乱れて、大変な騒ぎとなっている。
 二大俳優の交流があった事は今は知られている。 



「Contactos a tiempo 邦題 予定通りの連絡先」



 広島邦夫は満員の車内で考えている。病院で亡くなるという訳にはいかない。知り合いはたった一人の女優だけ・・。
 邦夫は、女優とは付き合いが長いが、彼女には事実婚の亭主がいる。
 とは言っても、現在は完全に別居をしているのだから、その決着がつけばまた異なるが。
 三笠夕子は大女優で邦夫の学生時代からの友人だ。邦夫が海外に行っている時に交際が途切れそんな事になった。
 偶に見るのは・・・TVのニュースだが、其れに出て来るキャスターの女の子はあどけない顔をしているから、夕子の若い時を思い出すが、夕子は大人の美女だ。
 元々、邦夫の親族は少なく昨年最後にいとこが亡くなり、アイダホに住んでいる女性のいとこは音信不通。
 病院で何かの病気で死ぬとなると、誰も見届けるものがいなければ面倒だ。其れで、夕子に連絡を取ってみた。
 取り敢えず会う事になった。
「久し振りだね。忙しい所悪かった。実は・・」
 此れ此れと事情を話す前に、御主人との経緯はどうなっているのかを尋ねてみた。
 どうやら、相変わらず別居の様で会う事は無いという事だ。二人の関係の細かいところ迄の関心は無いが自らの現状を話してみた。
「・・緊急連絡先もないという事なの?」
「ああ、保証人は金銭的な事だから問題は無いが、万が一の場合の連絡先が無くて困っているんだが・・子供?一人立ちしたら縁は無い・・」
「・・そういう考えもあるのね?うちは、子供がいなくて良かったけれど・・其れでどうするつもりなの・・?」
「・・いや、其れで・・」
「・・其んな事なら、私が万が一の場合の連絡先になるわ・・」
 邦夫は其れは助かったと思ったのだが・・。
「ああ、そうして貰えれば助かるな。迷惑だろうけれど?」
 夕子は微笑むと。
「・・何か随分他人行儀になってしまったのね。昔の貴方はそんな人じゃ無かったのに・・仕事が忙しくていろいろあったのかしら?」
 邦夫は其れもあるがと、以前の事が気になっていた。
 以前、彼女が結婚する前に聞かれた事があった。私、こういう話があるんだけれど・・と。
 其の時に邦夫の頭に浮かんだのは、自分が海外に行けばなかなか会えなくなるという事と、いや、其れよりも役者の男性との関係が上手くいっているのであれば、関わり合いたくないと思った。
 業界の人間だから、自分のような一般人とはまた異なり、其の方が自然であるし彼女の気持ちが一番で、其れで順風満帆であるのなら其れに越した事は無い。
 まさか、二人の間がこのようになるなど考えても見なかったが、当時、自からの気持ちを吐露(とろ)する事は避けた。
 邦夫は自らは所詮別世界の者、増してや互いに仕事に全てを掛けている身であるしどうしようもないと思った。
 話は変わり・・試しに肩書を隠し結婚サイトに登録してみた事を夕子に・・。
「ところが、昔のこの国ように話しやすい女性などまずいないね・・。levelは兎も角、世代の交代で女性も本来の女性とは思えない様な気もする。やめれば良かったと気が付いたのだが・・。其れに君のような同じ学校を出ていて気の置けない女性という者は先ずいないようで・・。先日も、何処の大学なのか分からない女性に、趣味で小説を書いたり楽器の演奏をしている事を伝えたら、此処は結婚相手を探すところですから仕事の宣伝はお断りですお生憎様・・で呆れた。本職は法務職で、此れはあくまでという・・言う気も起きなかった。全く教養のない心太(ところてん)式に大学を出たというだけの女性ばかり。案外、男性より女性の方が自分の世界に閉じこもってしまう傾向が強いのか・・いや、そうではなく、世の中考え方が違ったのだろう。だからやめるがね・・」
 夕子は邦夫の顔を見ながら笑う。
「・・其れなら、私も其のサイトとやらに登録してみようかな・・?面白そうだから・・」
 邦夫はまさかと思う。冗談がきつい・・確かに中には少しばかりという女性もいない事は無いが・・女優・・はあろう筈もない・・。
「しかし、女優が・・などはあり得ないよ?ジョークがキツイのは相変わらずだね・・」
 彼女は表情を変えると。
「・・ねえ、どうして、あの時、私が・・前の人の事を話した時に・・はっきり言わなかったの?」
 邦夫はやはり、其の事かと思った。
「・・其れは君が希望している事だから・・其れに、会えなくなるし、君は業界人だからまさか、海外までは来れないし・・其の彼の事が好きならと思えば、何も言えないよ」
「昔の貴方の事だからと、あんな事言ったのよ・・止めてくれるのかなと・・」
「それじゃあ、彼が好きでは無かったの?・・其れなら・・僕の責任もあるって事かい・・まさか、其処までは言えなかったよ」
 夕子は、一体何年付き合って来たのか?何もかも分かっていると思ったのにと言う。
 邦夫も、こりゃ拙いと思いながら・・笑顔で・・。
「其れなら、連絡先にでもなって貰おうかな・・?」
 彼女は笑いながら。
「ええ、いいわよ・・病院だけでなく・・違う連絡先にも・・って、前から同じじゃない・・?」
 其処まで言われれば、遠慮など必要無いと思う。
 結局、二人の話はやっとの事、帳尻があった。



 邦夫は夕子に写真を見せた。
 サイト用にとった何枚もの写真だ。
 どうして何枚も取ったのかと言えば、撮る度に年齢が異なって見えるから。
 彼女は手に取り。
「此れなんか・・いいんじゃない?私ならこの写真ならいいねするかも・・?」
 更に、笑いながら。
「どれも同じ様なものよ・・年齢が違ったって本人であれば同じ事・・考え過ぎなんじゃない・・?少しは別の事も考えてみたら・・?」
「・・ああ、分かった。で、君、御主人とは・・どうするの?は、もう聞いたよね・・事実婚も結婚も法的には変わりはないから・・あとは、完全に縁を切るという事だけれど・・彼の方はその点はどうなの?」
 彼も、すっかり承知しているからと、簡単な書面を交わして、済ませる事になった。
 其れは邦夫の専門だから、書類を作り渡す事にした。そういう事情では、慰謝料は発生しない。





 マスコミが動いた・・。
「事実婚だった事を話し・・終止符」
 更に、週刊誌が、その間の出来事や心境につき・・記事にする。
「で?此れから・・ご予定は・・何方かと・・などあるんでしょうね・・三笠さんの事なら、何も無いという事は無いでしょう?」
 マスコミはスクープを取りたい。
 其れが面白ければ、尚の事スクープの価値は高くなる。
「ええ、結婚サイトに登録して知り合った男性で気にいった方がいましたから・・?」
 記者達は一斉に笑う。
「本当のとこ・・聞かせて下さいよ・・?」
「病院の連絡先になってくれって言われましてね・・其れで・・どうしようかと考えて・・」
 更に記者の笑いは大きくなる・・。
 週刊誌には更に多くの記事が掲載された。


 


 二人で、局に行った時に・・キャストの変更を知らされた。
「・・此れ、恋愛ものですから・・代えますね・・そうだ、御主人に代えましょうか・・?丁度いいじゃないですか・・息があって・・」
 スタッフの冗談もキツイ。



 二人の住まいは、専属の不動産屋が気を利かせてくれ、浜松町の近くのマンションになった。
 学生時代によく来た東京タワーが良く見える。
「僕は・・賃貸でも良かったんだけれど・・?」
「・・あの頃は・・四畳半の貴方のアパートによく行ったものね・・其れでもいいわよ・・」
 全く、キツイ冗談は、相変わらずだ。




 局では夕子がスタッフに。
「今日はケツカッチンだから、16時アウトでね・・」
(業界用語で、この次に別の予定が入っており、時間が詰まっている(のんびり収録できない、延長できない)を意味する。)
 スタッフは、外で見ている邦夫の姿を見て・・笑っていた・・。




 二人が住み始めてから、彼女が不在の折、週刊誌の記者が来る。
「あの、此方が・・其の・・今回の・・?」
 邦夫は・・面倒になり。
「・・いえ?僕はこういうもので・・」
 名刺を差し出す。
「ああ、弁護士さん?何かあったんですか・・?」
「いや・・彼女がおかしな男につけ狙われているというので・・相談を受け・・」
 記者は此れはまたスクープかと押してくる。
「・・ええ、其れはファンの方とかでは無いんですか・・?本当に狙われているんだったら・・いただきだな・・」
 記者は増々記録を・・。
 その場は何とか誤魔化したのだが・・其のまま、変態にでもしとこうかと思った。其の方が世間は賑わうだろうし・・もう少し物語を考えようと思う。
 只、前の男の事でストーリーが一つあるから、今度は派手な事件物にでもしようか・・其れには架空の人物か・・自分が扮するかだが・・。




 夕子は其の話を聞き、呆れたように。
「・・あらあら・・今度は暴漢になるの・・?」
「此の住まいは居心地は良いけれど・・やはり・・業界人となると・・マークが面倒だね・・?かといって、また引っ越すという訳にもいかないしね・・」
 夕子は面白そうに笑うと。
「いいじゃない・・暴漢の主人と一緒なんですってことでも・・そういうの先ず無いだろうから・・ところで暴漢ってどんなことするの・・?」
「・・おいおい・・また、キツイ冗談かい・・暴漢は架空なんだから・・暴漢が一緒にいたんじゃそりゃ拙いよ・・。僕が捕まえた事にしとこう・・」 



 邦夫は架空の暴漢を、弁護士が追求したという事にする事にした。
 再び記者が来た時に、その辺りの状況を面白おかしく話してみた。
 記者は顧問弁護士の活躍で・・女優の危機を救ったという事で・・記事が書かれた。
 案外、いい加減な事でも、大騒ぎになるのが業界だと言えそうだ。
 SNSやチャットでいろいろな反響が寄せられた。
 もう、事件は落ち着いたのだから、記者も来なくなるだろう。



 夕子が撮影が終わって帰ってきた。
「・・ねえ、貴方の物語・・スタッフに話したら、結構受けちゃって・・今度、そんな奴やってみようかなんてね・・」



 邦夫は思う。
 女優を巡っては・・いろいろ騒々しい事もあるんだなと・・。
 只、前の役者との話題が、其れによって影が薄くなったことは良かったと思った。
 此れで・・晴れて・・二人でゆっくりできると・・。
 結局、マスコミは冴えない弁護士と女優の結婚という事でおさめたようだ。
 邦夫は其れで充分だ。
 そもそも、連絡先から・・結婚までやっと辿り着いたのだから・・上出来だ。




 二人で食事をしながら・・夕子が。
「ねえ、落ち着いたところで。子供でも・・考えてみない?前の人とは無くて良かったけれど。貴方が亡くなったら、私一人で寂しいから・・ね?」
 邦夫は、
「おいおい、今度は少し早めに自分を殺そうという物語?成程、役者だな。ああ・・しかし・・そう言えば、また欧州に行かなければならないんだった。よく分からないんだが・・?」
 邦夫はそう言いながら、バタバタと手元の羽田発の航空機の時刻表を見だした・・。
「・・あらあら・・また逃げ出すの?」
「いや・・そういう訳では無いんだが・・?そう言えば、君、子供産めるの?よく分からないんだな女性のそういう事は・・?」
 流石に夕子は大女優・・照れもせず笑みを浮かべると・・。
「・・前の人の時にはそんなこと考えなかったけれど・・何か不足でも?」
 今度は・・キツイ冗談どころで・・済みそうもない・・。




「色を見るものは形を見ず、形を見るものは質を見ず。人間はね、自分が困らない程度内で、なるべく人に親切がしてみたいものだ。夏目漱石」

「強者は道徳を蹂躙するであろう。弱者はまた道徳に愛撫されるであろう。道徳の迫害を受けるものは常に強弱の中間者である。人生は常に複雑である。複雑なる人生を簡単にするものは、暴力よりほかにあるはずはない。芥川龍之介」

「素人か玄人かは、その仕事に対する作者の打込み方の相違だ。一つの考えというものは正しいか正しくないかだけで評価できない。正しい考えであって、しかも一顧の価値さえないものあるし、間違っていても価値を認めないわけにはいかぬ考えというものがある。志賀直哉」




「by europe123 original」
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簡単に人類動物園と旧作四作を

ニュースも番組もくだらない・・TV・・。

簡単に人類動物園と旧作四作を

理解できないのは・・仕方がなく・・其れっきり・・。 旧作を四作・・ダブってしまうが・・時間が無いので・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-04-16

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