宇宙の塵の回想録
ここには現在も未来もありません。
私はただ膨大な過去を彷徨うだけの存在です。
ちょうど今、紫色をした星雲の横を通り過ぎようとしています。
不思議なことに、ここに来るといつも思い出すことがあります。
それは、ほんの一瞬の出来事でした。
あのとき私は、法律文書の上でピチピチ飛び跳ねていました。
裁判長が深いため息をついて「断じて許すことはできない」と言ったとき、私は弁護士の口から骨となって吐き出されました。傍聴席には壊れた水槽を抱えた少女が座っていました。その目には、懐かしい海が映っていたのを覚えています。
またあるとき、私は楽譜の上で口をパクパクさせていました。
音楽の先生はピアノを弾きながら言いました。「さぁ、深い海をイメージするのよ」
生徒たちはピアノに合わせて歌を歌いました。そこにもあの少女がいて、その目にはやはり海が漂っていました。
少女の目を見るたびに、月明りの下で海を自由に泳ぎ回ったことや、激しい川の流れを遡ったときのことを思い出したものです。
それから私は、何度か死に、そして何度か生まれ変わりましたが、いつもその思い出だけは大切にしていました。
ところがあるとき、私はその一切を忘れてしまったのです。
気が付いたら私は、二本足で立っていました。
そこはとても不思議な世界で、すべての中に天地が入っていました。
あれはたしか、私が初めて顕微鏡を覗いた時のことです。
突然、空から大きな雨が降ってきて、たちまち世界は洪水になりました。どこが上か下かも分からないまま流され続けるうちに、意識が遠のいてゆき、やがて辺りは真っ暗になりました。すると、どこからか声が聞こえました。
「星の光は悲しみでできてるんだよ」
それを誰が言ったのかは分かりませんでした。
宇宙の塵の回想録