願い。
「明日の天気はなんですか?」
私がそう聞くと。
彼はいつだって
「さぁ・・・ね。どうだろう?」
なにか意味があるような、そんな言い回し。
けど私は知っています。
彼のその言葉の使い方には意味なんてない、ただそれが癖なのだ。
だからいつどんな質問をしても、だいたいこんな感じなのです。
私も知っていて聞いているので、彼の言葉について特に何か言うことはありません。
だけど、ある日のこと。
彼の意味のない言葉の中でも、珍しく意味ある言葉を発見したのです。
それは。
「コーヒー飲みますか?」
そう、私が聞いたときです。
彼は
「ああ、コーヒーね。それはいい。すごくいい。僕はコーヒーが好きなんだ」
そう、いいました。
ああ、この人はコーヒーが好きなんだ。
私はただそれだけの情報を知ったことに、おかしな感動を覚えたのです。
彼にとっては、その言葉にたいした意味なんてなかったのかもしれません。
けど、私には意味のあることだったんです。
だって、彼の誕生日にあげるプレゼント。
何にするか決められたのですから。
「どうぞ」
私はインスタントのコーヒーを彼のデスクの隅に、コトリとおいた。
「ああ・・・ありがとう。ただまだ熱いね・・・ごめん、僕は猫舌でね。」
私は自分のデスクに戻って、心の中で思いました。
そうだ、誕生日プレゼントはアイスコーヒーにしようと。
それで、彼がもし、誘ってくれたらなのですが・・・
私も彼のそばで、アイスコーヒーが飲みたいな。
そう、思いました。
願い。