願い。

 「明日の天気はなんですか?」

私がそう聞くと。
彼はいつだって

 「さぁ・・・ね。どうだろう?」

なにか意味があるような、そんな言い回し。
けど私は知っています。
彼のその言葉の使い方には意味なんてない、ただそれが癖なのだ。
だからいつどんな質問をしても、だいたいこんな感じなのです。
私も知っていて聞いているので、彼の言葉について特に何か言うことはありません。
だけど、ある日のこと。
彼の意味のない言葉の中でも、珍しく意味ある言葉を発見したのです。
それは。

 「コーヒー飲みますか?」

そう、私が聞いたときです。
彼は
 
 「ああ、コーヒーね。それはいい。すごくいい。僕はコーヒーが好きなんだ」

そう、いいました。
ああ、この人はコーヒーが好きなんだ。
私はただそれだけの情報を知ったことに、おかしな感動を覚えたのです。
彼にとっては、その言葉にたいした意味なんてなかったのかもしれません。
けど、私には意味のあることだったんです。
だって、彼の誕生日にあげるプレゼント。
何にするか決められたのですから。

 「どうぞ」

私はインスタントのコーヒーを彼のデスクの隅に、コトリとおいた。

 「ああ・・・ありがとう。ただまだ熱いね・・・ごめん、僕は猫舌でね。」

私は自分のデスクに戻って、心の中で思いました。
そうだ、誕生日プレゼントはアイスコーヒーにしようと。
それで、彼がもし、誘ってくれたらなのですが・・・
私も彼のそばで、アイスコーヒーが飲みたいな。
そう、思いました。

願い。

願い。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-31

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