さんこいち
今日もまた親友は窓の外をぼーっと眺める。
どこを見るでもなく、ぼーっと遥か遠くを眺めている。
今日が晴天で暖かな陽の光も差し込んで、絶好の昼寝日和も手伝って、見ているこちらもすでに微睡み始めていた。
平和な午後の昼下がり、満腹中枢を刺激された私は残った理性を酷使し教師の死角を作ろうと試みる。その体勢はすでに昼寝のそれだ。
前の生徒が大柄で助かったと改めて思いながら、視線はその親友を離さない。
「ふぁぁ……」
ついにあくびが出た。
眠気を覚ますためだと言われるが、私は覚めた試しがない。
むしろさらに深みへ誘われる感覚。眠るためにあくびしていた。
迎えた放課後。
しっかり睡眠の取れた私は小腹が減り始めていた。
それは私を昼の微睡みへ誘ってくれた窓際の親友も同様のようで、私たちふたりはお気に入りのたい焼き屋へと向かった。
「やっぱり並んでるねー」
私は親友に言った。
「そうだね。よく郁実と3人で食べに来たよね」
「うん、たくさん食べたよね」
「元気にしてるかな、あの子」
郁実と私たちは小中といつもサンコイチだった。とても仲が良くて、ちょっと悪いイタズラなんかもしたりして。
諸事情で郁実は同じ高校へは行くことができなかったけれど、私たちは今でもずっと親友だ。それは変わらない。
「ねえちょっと、今、郁実いなかった?」
「え……?」
「ほら、あそこ」
「あ、ちょっと待ってよ、祐香!」
言った傍から親友は並んでいた、たい焼きの列から飛び出していた。
私は郁実の姿を確認する前にその親友の後を追いかけた。
「……祐香ってば、足が速いんだからもう」
肩で呼吸を繰り返す私に構わず親友は言った。
「あれー、見失っちゃった」
「祐香……人違いでしょ」
「いやぁ、郁実だと思ったんだけどな。最近全然会ってないから見間違えたのかも」
赤い舌をペロッと覗かせ、親友は少しだけ悲しそうに笑った。
「祐香……なに言ってるの? さっきから」
「え、なに?」
「ううん。さっきからじゃない。もうずっと前からよ……」
「なに、どうしたの?」
本当に本気で、そんな惚けたような顔しないでよ……。
こっちが泣きそうになるから……。
「郁実は……もういないんだよ!」
「え――」
「中学3年のとき、白血病で亡くなったのよ……!」
「――」
「祐香も一緒にお通夜へ行ったでしょう?」
私は親友に縋り付くように抱きついた。
郁実が亡くなったと連絡をもらった日のように涙が止まらなかった。
(終)
さんこいち
時々夢に見る友人。何か伝えたいことがあったのかな、なんて思いながらいつも懐かしく温かい気持ちにさせてくれます。会うのはまだ少し先になりそうだけど、どうか元気で。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。