沖に出られなくなった老人の日課

沖に出られなくなった老人の日課。
ひからびた魚。
タバコの吸い殻。
古い背広の匂いのする椅子。
きしむ木の格子。
するどい陽光は許すためのしわを刻む。
繰り返される海との対話。
同じ瞬間。
同じセリフ。
目尻のしわだけで笑う。
つむじ風が舞う。
帽子を押さえる手に浮かぶ血管。
沖から離れて見えてくる風景。
海鳥の声。
目を細める。
何が見える?
痩せ細ったディンゴ。
老人と目礼をする。
ゆっくりと通り過ぎる。
女たちの井戸端会議。
オペラのような笑い声。
強烈な日差しはじりじりと音をたててベンチを焦がす。
静寂と喧騒。
海への執着は愛情へと。
畏怖は尊敬へと。
空になったマルボロの箱。
美女と酒と太陽の町。
鮮やかな思い出とともに。

沖に出られなくなった老人の日課

沖に出られなくなった老人の日課

思い出のギリシャへの詩です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-30

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