沖に出られなくなった老人の日課
沖に出られなくなった老人の日課。
ひからびた魚。
タバコの吸い殻。
古い背広の匂いのする椅子。
きしむ木の格子。
するどい陽光は許すためのしわを刻む。
繰り返される海との対話。
同じ瞬間。
同じセリフ。
目尻のしわだけで笑う。
つむじ風が舞う。
帽子を押さえる手に浮かぶ血管。
沖から離れて見えてくる風景。
海鳥の声。
目を細める。
何が見える?
痩せ細ったディンゴ。
老人と目礼をする。
ゆっくりと通り過ぎる。
女たちの井戸端会議。
オペラのような笑い声。
強烈な日差しはじりじりと音をたててベンチを焦がす。
静寂と喧騒。
海への執着は愛情へと。
畏怖は尊敬へと。
空になったマルボロの箱。
美女と酒と太陽の町。
鮮やかな思い出とともに。
沖に出られなくなった老人の日課