斜め雨
右足を引きずりながら、土砂降りの山道を歩いている。体は崩れかかっていて、透明で屈折して見えにくい。名前は忘れた。僕はいったい誰なんだろう。右手はない。ひどく目まぐるしい毎日を眺めているだけで、壁を一枚挟んだ現実には触れられない。叶うのならば、浮かんでいたい。いっそ本当に透明になって静かに傍観していたい。けれども地を這う僕は半透明で、土砂降りのなかで生きていくしかない。歩いて、叫んで、くたびれ疲れて、それでも生きていくしかないんだ。もう少し、もう少しだけ、手を伸ばす。光を求めて、身を焦がしながら……深呼吸をする。あらゆる想定の通りに不運が重なり、僻地へと追いやられていく。死刑執行までの十三階段を上るように……土砂降りの山道を行く。
斜め雨