En el campo 邦題 田舎にて
事の発端は・・。
En el campo 邦題 田舎にて</span>
<a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20190908/16/europe123/af/f7/j/o0259019414580829418.jpg"><img width="559" height="494" alt="" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20190908/16/europe123/af/f7/j/o0259019414580829418.jpg"></a>
<span style="font-size:1.96em;">吉永絵里は、山手線に乗ってから、iPhoneがバッグの中に入ってない事に気が付いた。
カフェから出て電車に乗るまでに何処かに落としたのか、戻らなきゃと思って同じホームから先程乗車した目黒まで電車に乗った。
カフェで一人で考え事をしていた。
3年前にS市から都内のT市に引っ越したのだが、管理組合が厳しかったり、自転車が盗まれ、暴走族は走り回るし都会の騒々しさが嫌だった。
絵里は、付き合っている沢井勇作に相談した。
勇作は新聞社に勤めていて顔が広いから、つい最近M市の知り合いの大家さんを紹介して貰って部屋を決め、M市に引っ越した。
かなり大まかな大家らしく、敷金は三か月分納めたが、部屋代さえ払ってくれればいいと、他の事については五月蠅く聞くような事は無かった。
アパートはこじんまりとしていたが、一応エレベーターは付いていた、管理組合も何も無いから気は楽だった。
荷物は、以前S市から持って来たままだったから、引越しは勇作にトラックで運んで貰った。
再度の引っ越しであったが、やはり自分には東京は向いていないという気持ちは変わらなかった。
都会の喧騒が嫌いだし、都会ならと期待して来たのだが良い仕事は見つからない。
やはり地方に戻ろうと決心した。何処かに引っ越そうと。
引っ越したばかりだから、勤務先のG会社にはまだM市に引っ越した旨の申告はしていない。
単独行動が多いから、親しい社員もいないし、前の所から通勤している事にしたままだ。
役所にも異動届けはまだ出していないから、住民票も前の所のままだ。
しかし、地方に行けば仕事は無いだろう。
どうやって、生活していくか。引越し先は何処にするか。勇作には既に話をしてある。
会社では嘱託社員で、客のご機嫌伺いの様な簡単な仕事をしているが、外回りの仕事だから直行直帰も多く、週に1~2回纏めて報告書を書くだけだ。
1LDKの部屋には必要な物は何でも揃っている。
というのも、三年前に母が亡くなった際、S市の戸建てを処分した。
その際、山ほどあった家の中の物を殆ど処分し、最低限必要な物だけを持って東京に引越した。身寄りはいないに等しい。親族は、自分より歳が上だったから次々に亡くなってしまったが、唯一従妹がUSAアイダホ州にいるが、もう二年前に、「仕事で東京に行かれるかも知れない。其の時、会える?」とメールが来たが、その後「仕事の日程上来れなくなったから、また連絡をする」と送信して来たままだ。
最初にS市から引越した時、何となくまた引っ越すかも知れないというおかしな予感がしたので、殆どの物は其のまま段ボールに入れたままだ。
よく使う物と言えば、此れから取りに行くiPhoneと部屋で使うパソコンくらいだ。
目黒駅の構内から歩道まで、隅々を見ながらゆっくり歩いて行ったが、結局、カフェ迄着いてしまった。
カフェに戻ると、一応、店員にiPhoneを見なかったかと聞いてみた。
店員は笑顔で絵里にiPhoneの色を聞くとすぐに店の奥から持って来たiPhoneを「此れですか?」と、言いながら渡してくれた。
店の近くの歩道に落ちているのを誰かが拾ってくれたらしく、名前を聞いたが謂わなかったらしい。大きなマスクをしていたらしく、女性だったという。
もう一度目黒駅まで歩きながら、iPhoneのホーム画面を出してみた。
メールが入っている様だ。きっと勇作からだろうと思って、読んでみたら、やはりそうだった。
文面は、「今、大丈夫。何処にいる?」というものだった。
メールを送信しようかと思って駅前の交番の前で文面を作成していた時、何気なく交番の掲示板を見た。
自分に似ている女性の顔写真が貼りだされている。
よく似ている。違っているのは自分が持っていない服を着ている事くらいか。
此れでは、他人が自分と女性が同一人物だと思い込んでもおかしくは無い。
普通、犯罪者で無ければ、こんな所に貼りだされたりしないと思うのだが。
一瞬、交番の中に座っている警察官に目を遣った。
何かをしている様で此方を見ていない。
絵里は構内の階段を昇ってホームのベンチに腰を掛けた。
メールを送信しようと思った時、また勇作からメールが入った。
「君・・君だよね。先程電話したんだけれど出なかったから心配になって、大丈夫?」
随分、切羽詰まった文面の様に見えたから、慌てて送信した。
「iPhoneを落としちゃって、探したら見つかったんだけれど、其の時電話したんじゃない?貴方は、今何処にいるの?私は目黒。どうする?」
折り返しメールが来て、今から、渋谷に行くから何時ものカフェで待ち合わせをしようという。
店に入ると既に勇作は座っていて、此方を見て手を挙げた。
向かい合って座ると小声で話が始まった。「警察?君にそっくりな女性の写真が?僕もね、先程君はまだ会社にいるのかと思って、会社に電話してみたら、君は出掛けたままで・・と、何か君を探している様な感じに思えたんだけれど。其れと、其の写真の件が何か関係があるのかな?今週初めに、君が会社を出る時には、何とも無かったんだろう。
今日になって、警察から何か連絡があったりしたんだろうか?だとすれば、写真は何時貼ったのかな、何か、誰かと君が間違われているのかも知れないな」
絵里はコーヒーは先程飲んだばかりだったから、注文したカップには手も触れずに勇の顔を見た。「私も、駅の交番で初めて写真を見た時はビックリしたけれど、あの写真の女性は自分にそっくり」
勇作もカップには手を触れず。「君は、此の件について心当たりは無いんだ。取り敢えず僕は今から社に戻るけれど。また後で連絡するから。くれぐれも身には気を付けて!」
絵里は増々東京にいるのが嫌になってきた。「地方に戻ろうかと思っていた矢先、こんな事になって、此のまま地方に引っ越そうか。でも、警察が何かしているのなら、連絡があったり、引越し先が分かってしまうんだろうか。私は何も悪い事はしていないし、警察なんて関係無いんだけれど。おかしな事に係り合いになりたくはないな」
絵里は、身内はいないし、勇作と会社の連中くらいしか自分の事を知らないのだから、此のまま行方不明になっても構わないと思った。
勇作から会社には既に警察から問い合わせがあったような事を聞いているし、自分の事を探しているらしいというから会社には戻れないし、取り敢えず部屋に戻って様子を見るしか無いか、と思って気が付いた。そう言えば会社から電話が入っていない。
iPhoneを取り出して履歴を確認したら、勇作からと会社からの電話の記録はあった。無くしている間に電話が来たのだろう。
警察から連絡でもあって会社も自分を探している、今後会社からの電話は受けない様にしようと、連絡先の画面を出してみた。
連絡先の会社のところを、「拒否1」とした。
一応、他の連絡先も見てみたが、引越し後、登録件数は少なくなっていたから、他は心細そうに元のまま残っていた。
下北沢で乗り換えて、O線のM駅で降りた。
部屋までの道を歩きながら、ポケットからキーホルダーに他の鍵と一緒に束ねてあるアパートの鍵を出して考えた。「入居する時に、此れと同じ鍵を三つ貰ったから、他人が鍵を持っている筈は無いな。尤も、一つはドアポストの内側に貼り付けてある。万が一、持っている鍵を紛失した際に入れなくなると困ると思ったからそうしたが・・。
兎に角、先ずは、部屋に誰か待ち伏せしてないだろうか?中のお金などは無くなって無いだろうか。其れが先決問題だ。
絵里は、何とも言えない恐怖感が襲って来るのを感じながら、「どうか、誰もいませんように」と願いながら、部屋の灯りが付いていない事を確認した。
表のポストをそっと開けてみたが、不要なチラシしか入っていない。
エレベーターの「5」のボタンを押す。
エレベーターの速さが何時もよりも遅い様な気がした。
五階のベランダから、蛍光管が切れかかって点いたり消えたりしている街灯に照らされた道路が見えた。
此のアパートから出て足早に去って行く人の後ろ姿が見えた。
暗いから、男女の区別はつかない。自分の部屋に入ったのか。
丁度自分の部屋から出て来たところに、エレベーターが上がって来るのを見て階段で下りたのかも知れない。際どいタイミングだったが、会う事が無かったのが良かったのか、それとも何かを物色して目的を達したから出て行ったのか。
絵里は、得体の知れない相手が何を目論んでいるのかという事よりも、係わりあいになりたく無いという気もちの方が強かった。
ただ、貴重品が盗まれたんではとんでもない事になる。
部屋のドアポストから中を覗いてみたが、灯りはついていないし、物音もしない。
ドアポストの内側に合鍵を付けておくというのは、誰でもやる事だと以前知人から聞いた事がある。ということは・・先程の人影は私が帰って来る前に何らかの目的があって侵入して、出て行ったのかも知れない。鍵の位置が上下に多少ずれている。
鍵をそっと回す。
ドアが開いて、何時もの狭い空間が、目の前に変わらず拡がっている。
真っ先に貴重品、現金や通帳などが入っている大きなバッグの中を調べた。
全財産だから、何時も確認しているが、心配していた金銭や通帳はあった。
「良かった。此れさえあれば、此処から地方に引っ越す事も出来る」
そう思ったが、一度だけ使って今は有効期限が切れているかも知れない古いパスポートとが見つからなかったのと、母が亡くなった時に持って来た旧い戸籍謄本か何か一~二枚くらい無くなっていても分からないから、ひょっとしたら抜き取られたか、でも貴重品類さえあれば、今は、そんな物どうでも良いと思った。
絵里の貴重品が示す金額は、自分で稼いだものは殆ど無い。
S市の家を処分して引っ越す前からあった両親の残してくれた貯金から、相続を受けた通帳などだ。
家自体は築年数が古かったが、土地も含めて処分して、或る程度まとまった金額が入った。
次に、押し入れやフロアーに置かれている段ボール箱の中をざっと見てみた。
生活に必要な物は全部揃っている。
此のまま、誰にも気付かれずに引越しできれば、何も不自由の無い暮らしが送れるだろう。
今日あった事をいろいろ考えてみた。
「大至急、引越しの手配をして、ああ、その前に引っ越しする街は、彼是選んでいる暇は無さそうだから、取り敢えず前にいたS市で至急アパートを探そう」
突然バイブが震えた。
勇作からの電話だった。「ああ、社の同僚に聞いたら、やはり、君、いや、君にそっくりな女性が誘拐されたんだが、報道管制がとられていたらしい。其れがどういう事で方針が変わったのか新聞でもTVでも報じ初めたらしい。今、その記事を撮影してメールに添付して送るよ。誘拐されたという其の女性はFという上場会社の岩本昭という役員の娘で岩本明美という名らしい、其の役員が、娘を誘拐したという犯人からの電話があって警察に届け出たらしい。一億という金銭を要求しているという事だが。君は会社にはもう行かない方が良い。君を其の女性本人と思っているのかどうか分からないが、警察も動き出しているのだから、迅速に行動をしないと。前に君が言っていたけれど、此の都会から引越したいんだろう?其れを急いだ方がいいな」
「ええ、今、家に帰って来たんだけれど、貴重品や必要な物は全て揃っているから、後は引越し先・・S市にしようと思っているんだ。明日早朝にでも現地に行って、地元で今でも付き合っている知り合いは少しはいるから、仮の住まいを決めて来るつもりなの。勿論、引越し業者、其れが混んでいる様なら宅配業者にも電話をして、近日中に荷物を移してしまうつもり」
「いや、被害者と君との区別が付かない警察や犯行に関係する者が、其処を探し当ててやって来る可能性もあるから・・」
勇作の其処まで話し掛けた腰を折る様に。「・・もう誰かが此処に来たみたいなの。部屋の中まで入ったようで・・」
今度は勇作が待ちきれない様に。「それなら増々急がなきゃ。今晩中に僕が前と同じ様に会社のトラックを借りて行くから、荷物を全部積み込んでしまおう。今晩は、僕が知り合いの奴に頼むから、彼が持っている倉庫に運んでしまおう。今晩中にやってしまえば、明日其処に来られても問題は無い。君は貴重品だけを持ってS市の友人をあたればいい」
絵里は送られて来たメールに添付されている記事を見ながら、「でも、警察は誘拐犯では無いから犯人扱いはしないだろうけれど、其れでも、いろいろ面倒な事に巻き込まれるかも知れないし、出来るだけ係り合いになりたく無いから。私、此の誘拐事件は何か引っ掛かるものがあるのよね。私にどう係わりがあるのかは分からないけれど、此の部屋まで来られたんだから」
「うん、詳しい事は今晩会って話すから、兎に角急いでトラックを調達してそちらに向かうよ」
絵里は部屋の中の物を纏め乍ら考えた。「良く分からないのは、何故私が、そっくりさんと関係も無いのに?部屋まで侵入するだけの必要があるんだろうか?」
二時間くらいして、車がアパートの下に止められた様な音が聞こえて、すぐに、ドアのチャイムが鳴った。
ドアの覗き穴からそっと見たら、勇の顔が魚眼レンズに写った。
大方荷物は纏まっていたから、二人でトラックに積み込んだ。
段ボール箱に小さな軽い箪笥が二つだから、エレベーターで降ろして全部積み終えた。
絵里が、此の部屋でのんびりする暇も無かったなと、車内から五階の窓を眺めると、トラックは目的地に向かって走り出した。
勇作が運転しながら話した。「おかしいのは、此の誘拐は、営利誘拐事件で、被害者の顔写真を公表してしまうと、却って被害者の身に危険が迫る事が多いと思うんだな。過去もこの様な事件は水面下で捜査されて、被害者の人命を最優先にしてきた筈なんだけれど。まあ、公開した方が発見とか犯人逮捕に役に立つ事もある様だけれど。何か公表を優先する必要があったのかな?」
誘拐事件については進展があった。
犯人から昭宛に連絡があり、高速道路の上からバッグに入れた一億円を投げ落とすようにとの指示があり、警察も其の地点を張っていたのだが、まんまとバッグを取られて逃げられたという事だった。
犯人は二か所の地点で其々一億円を落下させるように指示したらしいが、昭は一か所のみを警察に伝え、警察も一つの場所だけをマークしていて、もう一方の場所はノーマークだったらしい。警察も昭に其の事を追求したのだが、昭は人質の身の安全を最優先してそうせざるを得なかったと返答したらしい。
其処で、警察は犯人逮捕と被害者の確保に向け公開捜査に踏み切ったという事らしい。
倉庫は、O線沿線をS市方面に向かった小田原にあった。
二人は此処まで持ってきておけば、誰にも気付かれないだろうと思った。
部屋の解約や鍵などは、適当な理由を付けて、S市のアパートから郵送で処理すればいいだろう。
親族に緊急事態が発生してという事にでもしておけば、何とかなるだろうと思った。
倉庫の鍵を閉めてから、勇作は絵里を小田原駅まで送ると、トラックを返しに246を東京方面に走って行った。
絵里は小田原から新幹線に乗りS市に向かった。
今後も二人はマメに連絡を取り合う事にした。
絵里は思った。「また、懐かしいS市か・・。母が呼んでいるのかも。彼方此方探すより地の利がある街の方が何かと便利だし・・、そうだ、今のうちに仲の良かった友達に電話しておこう」
産まれてから母が亡くなるまでずっといた街だ。学生時代の友人も多くいる。
連絡先にはS市の市外局番の番号ばかり残しておいたから、一番仲が良かった畑野ゆかりに早速電話を。
確か、ゆかりは宅建の資格を取って、不動産会社に勤めている筈だ。
「もしもし、夜分済みません。吉永ですが・・うん、絵里。ゆかり?貴女に至急アパートを探して貰いたいと思って。うん、御免ね。ちょっと事情があって、急ぎなんだ」
新幹線の車窓からS銀行の看板が見えてきた、もうS駅だ。
時刻はまだ九時前、駅のロータリーまでゆかりが車で迎えに来てくれた。
県庁所在地だから、県では一番の商業都市だ、駅前のイルミネーションが美しいのが懐かしい。
車が、レストランに着くと、二人はドリンクコーナーから銘々好きな物を持って来てテーブルに向かい合って座った。
「アパート、急いでいるって?1LDKでいいの?家賃は場所にも寄るけれど、他に何か条件はあるの?」
「ええ、実は、人に追いかけられていると言ったら、驚くかもしれないけれど、なるべく行方が分からない方がいいんだ。住民票も暫くは移さないから、前の前のアパートに住んでいる事になる」
ゆかりがグラスを少し掲げる様にしながら考えている。「そうなると、普通の物件じゃ無理ね。不動産屋を通さないで、しかも、大家が五月蠅く無い所にしないと。というか、こりゃあ、もう例外的に個人的な繋がりがあるところしか無いな。いいわ。早速明日にでもあたってみる。ところで、何かあったの?」
絵里は掻い摘んで今迄の経緯を話した。
「それって、絵里にそっくりさんが誘拐されて身代金を要求されているという事でしょ?其れだけ大きな事件なら、此の街でも有名でしょ。絵里、覚えてるかな?S新聞に勤めている加納美津子?彼女から警察や犯人達の動きを聞いてみよう。逃げ回るなら、相手の動きが掴めた方がやり易いからね」
絵里は、此の時思った。「自分に関係無く事件が解決すれば良いが、何か、自分が何時か事件に係りを持つんじゃないか。只では済まない様な気がした」
住まいは意外と簡単に決まったから、勇作に連絡を取ってその旨を話した。
勇作も明後日の休みには此方に会いに来るという事になった。
それまでに、事件の詳しい状況を調べて会った時に話すという事になった。
S市でも既に事件の女性、岩本明美についての誘拐事件は一般に知られていた。
それどころか、新聞社に勤めている美津子から、事件が奔走している事を聞かされた。
カフェでは絵里が美津子とゆかりの二人と話をしている。
美津子がコーヒーカップに砂糖を入れてかき混ぜながら、分かっている範囲の情報を話した。「どうやら、犯人から昭宛に、明美は約束通り既に開放したとの連絡があったらしい」
本来なら、被害者が家に戻るなり、警察に駆け込むなりすれば誘拐事件は終わり、犯人は逮捕される筈だ。ところが、此処で思いもかけない事が起きた。逃げおうせた被害者の明美は、其のまま、此のS市付近にいるというタレコミがあったらしい。従って、警察はS市で捜査を開始したらしい、被害者は親元には戻らず、寧ろ犯人も含めれば、三者の何れからも逃げているという事になる。其処までが明らかになって来た。
一方、勇作も其の経緯については調べて状況を把握していた。
誘拐された明美は、実は父親の岩本昭とは血が繋がっていなかったらしい。
親子には違い無いにしても、実の子はもう一人娘の玲奈という娘で、明美と父、二人の間には揉め事が絶えなかったらしい。
明美は結婚についても、親の反対している外国の航空会社のダニエルというパイロットと結婚をしたかったのだが、昭から猛反対をされていたらしい。
結局、明美は岩本家では異端児という事であった。
昭は自分の面子を重んじて今回の誘拐事件を警察に届けたが、肝心な明美の方は、それ程危機感を感じていなかったのでは。
明美は運良く加害者から逃げ出した時には、寧ろホッとしたのかも知れない。
行方不明者が本当に行方不明になって、事はややこしい事になった。
此処からは勇作の想像の世界だが、先ず、この後の足跡をたどって行けば現実化して来る。
明美は、或る日、自分にそっくりな女性を見つけた。
その名は、吉永絵里。
何処で見つけたか?
おそらく、絵里が落としたiPhoneを拾った時だろう。
最初は、単に拾ったというだけだったのだろうが、絵里が写っている壁紙の画像を見た時に明美はさぞかし驚いた事だろう。
そして、思いついた、絵里とすり替わる事を。
だとすれば、絵里に関する全ての情報が満載されているこの機会を見逃す訳は無い。
拾って、連絡先や電話番号や過去のメールなどを全て見たのだろう。
そして、全て記録した後のiPhoneをカフェの店員に落ちていたと言って渡した。
店員が受け取った時に大きなマスクをしていたのは、そんな理由があったからでは無いだろうか。
絵里の住まいは其の情報の中に含まれていた。
メールでの勇作とのやり取りなどから、転居先が分かったのだろう。
次にどうしたか。
成り代わって貰う為には、メールでの近々田舎に帰るという文言や、其の田舎とは何処なのかという事を知っておいた方が良いと考えたのでは。
其れをハッキリさせるには、連絡先にS市の市外局番が多かった事、其れと、絵里のアパートまで行った時に戸籍謄本等から戻る地方とは何処かを推測したのだろう。
危うく絵里と鉢合わせをしそうになった時、後ろ姿の人間は彼女だったのでは。
其れから舞台はS市に移る。
何れは、絵里と明美が別人である事は分かるだろう。
あくまでも何かをする為に必要な時間稼ぎであり、岩本家と縁を切って行方を眩ます目論見上での過程だったのではと思われる。
絵里は、昔からの友人達に囲まれて、都会生活には無い、充実した生活を送っている。
勇作は、会社に転勤を申し出て、取り敢えずS市の支店に勤務するようになった。
絵里は、仕事は見つからなくてもパートでも勤められれば十分だ。
勇作の収入と、自分の親から相続した財産があるから。
やはり警察がやって来た。
しかし、調べた結果、顔はそっくりでも全くの別人である事が分かった。
捜査は、其処で足踏みをしたまま。
或る日、ずっと連絡が無かった絵里のUSAにいる従妹から連絡があった。
やっと、日本に来れる様になったから、会いたいというメールが送られて来た。
絵里はH空港到着ロビーまで迎えに行った。
従妹は手を上げてゲートを抜けて歩いて来る。
二人は抱き合って互いの無事を祝福し、ロビーを歩き始めた。
歩きながら、従妹は、久し振りでも以前会った時と変わらない風情で絵里に今迄のブランク期間にあった連絡が取れなかった理由を話した。
勤めている会社の日程の都合や、個人的に付き合っている男性が子持ちでとか・・いろいろ事情があったようだ。
子供頃の想い出や、まだ、互いの親が元気だった頃の話など、いろいろな話は、都内のホテルでゆっくりするつもりだ。
歩きながらUSAの土産物を二人で見ている時だった。
絵里は、自分にそっくりな女性が男性と一緒に3階の出発ロビーに上がって行く様な気がした。其の女性はすぐに人込みに紛れてしまい、確かめる時間も無かったから、従妹に手短に簡単な事情を話して電車の乗り場に向かった。男性はパイロットのようでもあったが、其れも定かでは無かった。
今晩は都内のホテルに勇作も駆け付け、従妹の歓迎パーティーをしている。
勇作が、「じゃあ、皆さんの幸せを祈って乾杯!」と音頭を取り、三人で賑やかな会話が始まった。
料理を摘まみながら、ワインを飲み、従妹がアメリカでいろんな事があったという話をした。
「いろいろあったんだね」と、絵里が感心した様に頷いていると、勇作が突然、「ああ、いろいろあったと言えば、あの誘拐の件だけれど・・」話題を変えた。
従妹と絵里が幾らか酔いが回った顔付で勇作の顔を見た。
「あれって、実際には誘拐されてなかったのかも」
「誘拐されてない?」と絵里が怪訝そうな顔をすると、勇作が続けた。
「絵里がiPhoneを失くした時に、マスクの女性が拾ってくれたんだよね。その後絵里が交番で似た顔の顔写真を見た、という事は、誘拐事件が発生して公開された時には本人は自由の身になっていた。其れが拾ったiPhoneから偶然身代わりを見つける事ができ、アパートに侵入した。其の時盗まれたパスポートはまだ有効期限があったんじゃないかな」
「だから、空港から私に成り代わって海外に去って行ったという訳?」
「うん、自分のパスポートでは手配がされているから拙いね。という事も含めて、此の誘拐事件は被害者と加害者が吊るんだ事件だったのかも?」
従妹が二人の話を聞いていて頷いた。「という事は、犯人は存在しないという事になるんじゃない?」
絵里が、「そんな事があってもおかしくは無い状況が何かあったのかも知れないね」と、自分にそっくりさん誘拐事件を締めくくった。
夜は始まったばかりで、月が此の街の空に浮かんでいる。
如何にも地方都市らしい叢の虫の声が、またたく星を頼りなく揺すぶっていた。
「死ぬまで進歩するつもりでやればいいではないか。作に対したら一生懸命に自分のあらんかぎりの力をつくしてやればいいではないか。後悔は結構だが、これは自己の芸術的良心に対しての話で、世間の批評家やなにかに対して後悔する必要はあるまい。夏目漱石」
」
「芸術のための芸術は、一歩を転ずれば芸術遊戯説に墜ちる。人生のための芸術は、一歩を転ずれば芸術功利説に堕ちる。芥川龍之介」
「金は食っていけさえすればいい程度にとり、喜びを自分の仕事の中に求めるようにすべきだ。志賀直哉」
「by europe123」</span>
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En el campo 邦題 田舎にて
東京で起きたある事件が・・地方のS市にまで発展。