青春の龍と刃
「青龍宮界」、「朱雀炎園界」、「玄武軍神界」、「白虎白蓮界」、「邪神魔界」、そして私たちが暮らす「人間界」
この六つの世界が存在することは我々は知らない。
なぜなら神と精霊の領域にある神域なのだから。
それぞれに六国の霊界、また神霊界には「精霊の王、または聖剣使いの巫女」と呼ばれる聖霊の御霊を宿す剣術士、そしてこの六国を守護する精霊の巫女を守ることを授け命じられた「聖剣使いの守護者」が存在する。
この六国の精霊の巫女はある意味、自由を許されない宿命を背負う者たち。だが魔界から降臨した六国の精霊の巫女を含め、世界を滅ぼそうとする「邪神仏の覇王」と噂される悪魔の降臨を許してしまう。
が、人間界は聖霊、御神霊とは無縁な世界。だから魔界から降りたった「邪神仏の覇王」は人間界をはじめ六国の精霊の世界をある種の魔王の中の魔王を召喚させようと動きだす。
それを阻止しようと立ち上がったのが、何かと束縛が激しい龍宮会に対して不満と怒りを覚えた青龍宮界から舞い降りた「自由奔放な性格の青龍の御魂を腰に携えた少女」が本当の意味での真実の平和と自由を求めて今、壮大なる途方もしれない六国の旅路に出発するのである。
こうして開幕した摩訶不思議で奇妙な神霊の存在である聖少女と普通の人間の男子高校生が織りなす世界革命の旅がはじまりを告げる物語の歯車がゆっくりと動き回りはじめるのである。
静かに開幕した壮大なる剣と恋がまじわう真実の愛を追い求めた冒険がゆっくりと動きだす。
第零話
六つの世界の狭間にある境界隧道を照らす光はまさに狂愛なる霊獣の瞳。
そんな月が見守る隧道はまさに奇妙な恋がたくさん育まれる百鬼夜行の世界なのかもしれない。
可愛くも気味悪い蝙蝠の鳴き声を聞きながら飲む。はじめから約束なんて守る気なかった。
何度も瓶をかたむけさせて水を飲む。何回も勝ち誇ったかのように笑いながら喉を鳴らす。高鳴る緊張と心をおだやかにさせようとする。嫌味としてにぎわう馬車にゆられながら全部、飲んじゃう。
「あっ! ボクにも飲ませてくれるは約束は!?」
「あれっ、君のぶんまで飲んじゃった。ごめんね〜」
「飲んじゃった。ごめんね〜 じゃないよ! ボクだってスゴっく水がほしかったんだよ!」
「ごめんごめんってば〜」
「そんなニヤニヤした顔であやまってもダメなんだからね!」
おもわず「おぉ〜」となる。見かけによらず怖い顔するんだなぁ。でも姿が姿だからイマイチ迫力が欠けてるから残念だよねぇ。
「せっかく汚されちゃったボクの美しい羽を綺麗にできるっておもったのに!!」
「悪りぃ悪りぃ、悪かったってばぁ〜」
「言ってることと顔がちがう!」
のんびりお気楽に発した言葉とは裏腹な私の態度に我慢できなくなったらしく。牛と豚などの家畜動物のはじっこにいる蝶々が泣きだす。くわしく分類するなら蝶とは言いきれないかも? しれない。
とりあえず空き瓶越しに見える怪しげな紐で吊るされた蝶々?がおっかない〜
「じゃぁ、私が綺麗にしてあげようか?」
「どうやって?」
「どうやって? って聞きかえされても困っちゃう〜」
「ぜんっぜん可愛くないブリッコなんかしてもゆるさないんだからね!」
そうとう惨めに吊るされてる蝶々?はご立腹の様子。 というか「えっ?」
たった今、聞いた発言にはさすがの私でも本気にならずにいられなかった。
「ちょっと可愛くないってどうゆう意味よ!?」
「言葉どおりだよ! 華やかな着物に泥を塗るような糞尿臭い姿の少女よりも牛とか豚のほうが可愛くて素敵だ! と言ってるの!」
「よくも聞き捨てならないこと言ってくれたわね!! というかさ糞尿臭いのは君もおなじでしょ!?」
おもわず感情的に空き瓶を叩き割るぐらいの勢いで距離をちぢめてしまう。と、「おい娘さんよ。おれの馬車を踏みこわさないでくれよな〜?」の冷静なおとなの声かけが場を和ませる。声の主は糞尿臭い私と蝶々を乗せた馬車を走らせる農夫さん。
この見知らぬ農夫さんが『青龍宮ノ五重塔』から一銭のお金も持たず逃げてきた私に手をさしのべてくれた人間。この農夫のおかげで今、こうして外の世界へ行ける道がひらけた。
だから温厚な顔が好印象な農夫さんからのはじめてかけてくれた「おい娘、おまえの頭に生えた角らしきものはなんだ? もしや龍宮界の者か? まぁいい乗れ。おれが住む村まで運んでやる。たすけてやるよ……さぁ、おれの馬車に乗りな」この言葉には感謝しきれない。
「すいません。農夫さんがくれた水があまりにも美味しかったものでつい…………喜びすぎちゃいました。でも今はおちついてますので安心してください」と言ったあとに礼儀正しく頭をさげる。
…………は糞尿臭いケンカ相手に向けての無言の視線。もちろんできるかぎり怒りをしずめることを意識しながらね。
「わははっ、まぁ、あんたは本来なら青龍宮界から出ることはおれらの世界から認められてないんだから誰かにバレないようにおとなしくしててくれよな。あ、いちおう言っとくけれどあんたのそばに吊るしてるヤツを逃したりするんじゃねぇぞ。そいつは高値で売る予定なんだからさ」
「はい、わかりました」
声、口調はやさしいが言葉に込められ伝わり感じたのはけっして良いものではなかった。
なにかと束縛がはげしく嫌で嫌でたまらなかった龍宮界から逃げてきた私をたすけてくれた農夫は悪い人間なのかもしれない。たすけてくれる風に装い、舌打ち鳴らし「くそったれめ」と吐きながらも黙って吊るされる「そいつ」呼ばわりされた蝶々といっしょに売られるんじゃないか?
そんなことを一瞬でも失礼なことを思ってしまった。だから首を左右にふりながら「事情も聞かずに自分をたすけてくれた農夫をうたがってはいけない!」という嫌悪感のような思いと考えが胸を突いた。息がつまるような吐き気がするような感情がこみあがる。ほんとうに吐きそう。だから強く口をふさぐ。とにかく塞ぐ。はじめから人間を疑うことは凄く失礼に決まってるんだからね。
「どうした?」
「いや……なんでもない。ちょっとだけ気分が悪くなっただけ」
「そんなに胸に拳を深くのめりこませてどうした? おっぱいが大きくふくらみますように。っと念じながらのマッサージをはじめたのか? それとも発情しちゃった系?」
「か・ん・ぜ・んに今のはセクハラ発言だよね〜」
「そんなギュゥっと自分のぺったんこなおっぱいに一生懸命、念じてもボクは大きくなることはおもわないけどねぇ〜」
「君の場合はセクハラを軽々しく通り越して最低最悪な性格に決定だね!」
「ボクの約束を無視して水をぜんぶ飲んじゃうほうが最低最悪な性悪だと思うけどね〜」
「なんですってぇ〜」
「なんだ、ほんとうのことだろう?」
また糞尿臭いうえに性悪の蝶々の憎たらしくてたまらない発言を聞き、自然と声がでかくなりそうになる。が私と反対に、上から目線の態度をつらぬき「今以上に声を大きくするんじゃねぇぞ。あのクソブタ野郎を怒らせたらえげつない光景を見せつけられることになるぞ?」と言い、けっこうマジなテンションで釘を刺されたのは素直におどろかされる
「なによ、あんたからケンカ売ってきたんじゃない。 まぁいいわ、許してあげるわよ。なんの事も起こさず青龍宮界側の境界隧道抜けたいからね。それに私も君との約束を守らなかったのも悪かったしねぇ」
「おぉ〜 やっとボクに謝る気になったか? っていうか、お嬢ちゃんの喋りかたはのんびりすぎて疲れるよ」
「フンッ、あやまるつもりなんかないわよん。こう見えて青龍宮界で名を轟かせた聖剣使いの私に頭を下げてほしいなら、その上から目線とえらそうな腕組みをやめなさいよぉ」
「ケッ、嫌だね。ボクはなにも悪いことしてないもん〜」
ほんとうなんて生意気なヤツなんだろうか。ぜったいにそのムカつく上から目線の態度をあらためないかぎり私は絶対に謝らないんだからね。なにがあっても言わないんだからね。
「もしよかったら私といっしょに境界隧道から抜けて流浪の旅しない?」なんてね…………
「ところでさ、君はなんでこんなところに吊るされてるの? 農夫さんに悪いことしたの? なんか生意気なこと言って怒らせたりしたの?」
鼻歌をまじえながら馬車を走らせる馬をあやつる手綱を振るう農夫さんに聞かれないようにコソッと声色を変えて聞いてみる。と上から目線は変わらずとも腕を組むのをやめた、まだ名も知らない蝶々が真剣な顔で喋りだす。
「ボクはあいつになにもしてないよ。いっしょに境界隧道を守ってきた仲間にだまされてあのブタ野郎に捕らえられたんだよ。それに最初に言っとくが、アイツはあんな姿してるが人間じゃないんだぞ」
「どうゆう意味?」
「言ったとおりさ。境界隧道のある出入口となる六つの神棚を守るお役目を天から授かってるボクと世間知らず感がハンパじゃないお嬢ちゃんが乗ってる、この家畜用の馬車を走らせてるのは人間界からやってきたんじゃねぇってことさ」
「人間じゃなかったら一体なんなの?」
「お嬢ちゃんは匂いを嗅ぎわけることはできないのか?」
「だから、なにが?」
「糞尿にまじった、あの農夫の姿を似せたブタ野郎の匂いがわからないのか?」
「だからさっきからなにを言ってるのよ?」と言いながらも。
えたいのしれないゾクッっとした寒さを感じる。なんかすごく嫌な感覚だ。とても信じがたい現実が高鳴る私の心をうらぎって勝手にはじまるような気がするから。耳をふさぐべき? それともちゃんと汚れたアゲハ蝶の羽をはばたかせる小人(だろう)が口にする現実を受けいれるべき? わからない。でも知りたい気持ちも確かにあるから。
だから……おもいきって聞いてみることにする。水のときとはちがう意味で喉を鳴らしたあとに。
「ねぇ、なんの匂いだっていうの?」
「まだわからねぇのか?」
「うん……全然わからないよ」
「ったく、もう! あ〜ぁイライラすな、おい! 闇霊獣の匂いだよ!」
私はこのとき気づかなかった。自分をたすけてくれた存在は戦争が絶えない人間界からやってきたと勝手に想像し考えてた人間よりもはるかに恐ろしい怪物だということを。
闇霊獣っていったい存在?
もうひとつの第零話
夜明けまえの朝食ほどストレスをかんじるものはない。
「おい龍聖。おまえが住むこの神社が建立されたのはいつの時代だ?」
「たしか江戸?」
味噌汁をすすりながらあくびする。
そんな高校生の孫にたいして祖父の眼がするどくなりはじめる。
「違う」
「あれっ大正だっけ? それとも昭和だったけ?」
「ちがう!」
神職の衣装を着た祖父のお箸が折れる。さらに眼がするどく光だす。
「なら平成?」
「全然ちがう!!」
おだやかだった声もおのずと感情的になってゆく。けど、おなじみの雰囲気だから気にせず秒速で食べおわらす。と無神経な印象をあたえるあくびをしながら「ごちそうさん〜」を言うとオマケ的につけくわえる。
「え〜っといつの時代だっけ?」
「正解は安土桃山時代じゃぁーー!!」
この瞬間から平穏な朝食の時間が親子ケンカに移りかわる。祖父が食べのこした朝食が宙を舞う。ハデに飛び散る。
「あっ、戦国時代か! というか、いいかげんにしろよな。もう九十を越すところまで年老いた爺のくせに毎日ちゃぶ台がえしなんかするんじゃねぇよ。そんなに元気がありあまるならご飯ぐらい炊けよな〜 いつもいつも毎朝、茶碗にてんこもりにした梅干の山を食べさせるなんてどんなお祖父ちゃんなんだよ!?」
「あらよっと」自分がつかってたお茶碗と食器だけはまぬがれさせることができた寝起きの俺の身のこなしはやっぱり重い。でも戦争から生きてかえってきた海軍のお偉いさんだった祖父の身体能力はえげつない。
その証拠に強烈に速いゲンコツを食らわされる。もちろん「いっ痛ぇ。なにするんだよクソ爺ぃ!」と声を荒げるのは当然のこと。
「いつになれば、おまえというヤツは幼少期からずっとワシが教えつづけてることをおぼえるつもりじゃ! しかもそんな情けない格好しやがって! 五百年もつづく駒水家のご先祖さまがお守りしてきた神社の神主をつとめるワシの跡どりとしての自覚あるのか!?」
「そんな情けない格好って言うな! 俺がどんな服を着ようがクソ爺ぃに関係ねぇじゃないか!」
「そんな弱々しい女みたいな格好して何倍も人生の先輩であるワシに歯むかう資格なんかないんじゃから黙って話を聞くんじゃ!」
この言葉を言い切るまえには祖父の姿が俺の前から消えていた。
「うぎゃぁぁぁぁ……ぐぇぇぇぇぇぇぇぇ。痛てぇ!!」
ほんとうに九十を越えそうな人生の先輩とはおもえないほど瞬間的で俊敏なうごきでプロレスの寝技を披露したらしい。ちょうど反抗期に突入したばかりな俺を畳の床にしずめ叩きつけた祖父が熱く語りはじめる。
「龍聖よ。よくご先祖さまから代々つたわり現世まで遺された話をよく聞くんじゃぞ。いいか? おまえが十七年の歳月をなにごともなく平和に生きてこられたのは、この剣龍神社に奥之院と呼ばれてる『禁足地』に祭られてる神様、剣龍姫ノ命(けんりゅうひめのみこと)様のおかげなのじゃぞ!」
ふ〜ん、というか痛てて、痛いってば! はなせよ!
「いまから五百年まえの戦国の世のことじゃ。突如、人間界をふくむ六つの世界の境界から謎の歪みが生じたのがすべてのはじまりだったのじゃ。次から次へと戦死者が続出した戦場の夜のこと。血みどろの夜空を照らす月に亀裂がはしったようじゃ。ひび割れた月のなかから現れたのが天界さえも消滅させれるばかりか、八百の神々と大地を渡りやってきた仏達さえも無にすることができる強大なる力をもつ、っと云われてるのか邪神仏の覇王だったようじゃ。魔界の闇の底の奥底から誕生されたと言い伝えられてる覇王のおぞましい姿を目にした侍たちは声を発せられないほどの恐怖を抱いたのは言うまでもないはずじゃ。そんな人間たちを見おろした覇王は容赦なかったようじゃ。五万人を超える侍たちをひとりものこさず一瞬の如く喰らい殺されたらしい。それから何ヶ月もかけて日本全国に視野をひろげては無数の日本人の屍の山が築かれた地獄に一変させられたようじゃ。誰もが日本人の血が絶える。と思い絶望に打ちのめされたようじゃ。だけど、そんな残酷きわまりない世の状況になろうともあきらめず希望を捨てなかった者がいたのじゃ。その者こそが剣龍姫ノ命様なのじゃ!」
あっ、そうですか。とにかくはやく俺のうえからどいてくれよな? と言いたいが、痛すぎて声がでないんだが。
「常識とか人智など無関係な身体能力と剣術を誇っていた我らの剣龍姫ノ命様は膨大な時間をかけて邪神仏の覇王とすさまじい闘いをされたようじゃ」
嘘くせぇ〜 めっちゃ嘘くさいんですけど。というか勝手に「我ら」といった言葉を口にしてクソ爺ぃの仲間にしないでほしいんですけど。
「天と地を斬り裂くばかりか人間界そのものを滅ばさんとするぐらい我らの剣龍姫ノ命様と覇王の死闘は激しかったようじゃ。想像を絶する壮絶な日本の運命を決める闘いに終止符をうったのはもちろん剣龍姫ノ命様なのじゃ」
涙まじりの声でマンガみたいな話をされても反応に困るんですけど。おとなしく畳に縛りつけられてる俺はどんな顔して聞いてやればいいんだかわからないんですけど。
「だが完全なる勝利とはいいがたい結末だったようじゃ。一瞬ばかりな油断と隙を見逃さず深傷を負わすことができたらしいんじゃが。勝敗を決める一斬を食らわすことはできなかったと聞く。なぜなら深傷を負わすだけですべての生命力を燃えさせたらしく。トドメを刺すことは不可能だったようじゃ。深く傷ついた邪神仏の覇王が六つの世界の狭間にある境界隧道に退いたときには剣龍姫ノ命様のお姿は消え去っていたようじゃ。人間界にのこされたのは覇王に瀕死の傷を負わせた霊験あらたかな剣だけなのじゃ」
共倒れみたいな結末を迎えるぐらいなら、さっさと死んで忌々しい『神霊の聖剣』とともにあの世へいけばいいものの。と思う自分にさすがの俺もちょっぴり反省する気持ちが芽生えたのは口にすることはできないよな。
「こうしてすべてを無にしようとした邪神仏の覇王と我らの剣龍姫ノ命様の死闘はのこされた神霊の聖剣を証拠として伝説となり、剣龍神社の奥之院にある禁足地に祭られてる剣龍姫ノ命様の魂とも捉えることができるかもしれない神の御霊が宿る剣を守ることを重んじはじめたのが駒水一族の人間達であり。今世に生きる駒水の人間の宿命なのじゃ!」
これまで何百回も聞かされてきた話。まったくもって信憑性の欠片もない日本むかし話だよな絶対に。まともなお社、鳥居もない、賽銭箱すらおかれてない、自然ゆたかな緑と青しかない山と海しかない廃村集落のお寺の昔話なんて俺には関係ないんだけどな。いずれ家から出ていくんだから。
「もうおわったか? ドラマチックに泣くひまがあるならさ、いつもいつも飽きもせず毎日毎朝おなじ話を無理やり聞かされる孫である俺の気持ちを少しでもかんがえてくれよな。俺を産んですぐに海で死んでしまった母ちゃんと父ちゃんにもおなじように伝えたのかよ? アニメ、マンガみたいな感動の日本むかし話を畳に押しつけて聞かせたのかよ?」
「信心のカケラもない愚かでバカな孫とちがって熱心な信仰家だったワシの娘はすこぶる記憶力がよかったからおまえみたいに畳に縛りつける必要なんてなかったわい。都会に移り住んだ娘がつれてきたおまえの父も賢い頭の持ち主じゃったから一回きかせたら我らの剣龍神社の歴史を記憶してくれたのは素直にうれしかったものじゃわい」
あぁ〜記憶にない生きてた頃の母ちゃんと父ちゃんの話も何百回、聞かされただろうか。こんな毎日を探してたら本当に頭がおかしくなりそうだな、
「なのに両親とも賢いはずの実の息子であるおまえはいったいどうゆうつもりなんじゃ!? 神様、仏どころか我らにとって永遠なる主と言い切れる剣龍姫ノ命様のこと大切にする気もないし、ワシが何年もかけて毎日、どれほどワシらが住む神社の神様・剣龍姫ノ命様のすばらしさを熱く伝えようとも、ちっとも胸に響かせる気配も見せないばかりか。ちょっとでも感謝しようともしないのはいったいどうゆうことなのじゃ!? おねがいだからいい加減にワシを安心して死ねるように改心せぬか!!」
「ヤだね! ぜったいにツルピカリンに光る頭がいつもまぶしい神主を勤める祖父の跡なんて継がないって俺は決めてるんだ! たとえなにを言っても、どんなけ時間と月はをかけても俺の決心は変わらないしゆらがないんだからな! だから、そろそろ本当にこのオンボロな神社の管理するのはやめようぜ? 俺はこんな狭くるしくてたまらない俺と爺以外だれも住まない家なんていらない。こんな貧乏の底当然な生活なんてさっさとおさらばしようぜ?」
まじで窒息死しそうな危険な状態から脱出することに全神経を集中させて本格的に自分を縛り畳に叩きつける祖父にむけて敵意を示すことにする。
マジでかよわい女の子の服を着てはこよなく愛する俺を殺す気かよ、このクソ爺は。ったくなんだってんだ? 五百年まえにこの地に現れたと云われてる邪神仏の覇王? 剣龍姫ノ命? そんなの俺にとってはどうでもいいんだよ。生まれてこのかた神も仏なんて一度も信じたことがないのに今さらどうやって心を変えろってんだよ。たぶん、これからも信じようとおもえる出来事なんてあるわけがない。ぜったいに俺から母ちゃんと父ちゃんを見捨てたに決まってる剣龍姫ノ命なんて信じてやるものか。だから必ず高校を卒業したら剣龍神社から出てってやる!!
「俺はぜったいにこの家から、信仰ばかり気にかける妖怪変化した祖父のまえからいなくなってやる!」といったような発言をわめきながら殴りかかる。何度も角度を変えながら強引に容赦なくしつこく。
「ワシの命よりもたいせつな剣龍姫ノ命様を侮辱することはぜったいにゆるさんぞ!」ひたすらこの怒声をくりかえし、ケンカ負け知らずの祖父がすべて防いでみせる。見事なまでの身のこなしで。
攻めまくる孫の俺。おなじ怒声をあげながら防ぐばかりな妖怪じみた祖父。まさしく非常識きわまりない騒ぎだなっと思うことは何度もあった。可愛い女の子の服を着ていてもやっぱり自分の信念を曲げられないらしい。
いつもとかわらない朝の日課となってるハイテンションな孫と祖父のコミニケーションしてる最中。
不意打ちに運命の音が鳴らされる。これまで聞いたことがないほど怪しく不気味に乾いた玄関の音。
「失礼する。ここが剣龍神社を守られてる駒水一族の住まいにまちがいないか?」
雀が鳴きはじめた朝にやってきた突然なお客の声は身の毛がよだつほど厳しく静かなもの……だった気がする。
なにごともなかったみたいにキョトンっとした眼をした俺と祖父はまばたきしながらも数秒間みつめあう。
こんな朝はやく、しかも自分たち以外だれも住まない廃村の集落においてひっそりと祖父が守ってる俺が住む剣龍神社にいったい誰がおとずれたのだろうか?
不思議とおどろきを隠せなかったが首を軽く振り、祖父に向けてた敵意を消すことにした。そんな俺を黙って見ていた祖父が神妙な顔を浮かべては。「ワシらの剣龍神社に誰がきたのか見にいくか」と言い、歩きだす。
そんな様子の艶々なツルピカリンの頭をした祖父の背中についてゆくかたちで俺も玄関へと行く。
妙な胸さわぎを抱きながら歩く、古びた床を踏み鳴らす音はあくまでも不安定なものだった…………気がする。
青春の龍と刃