学校の七不思議と七人の幽霊
BL・暴力的・グロテスク・性的表現があります。
妄想の産物ゆえ酷い表現が多いかもしれません。胸糞悪くなっても作者は責任を負えませんので御了承ください。
学校の七不思議ってありますけど、それを幽霊側の観点で書いてみました。
正直言うと、私の妄想と欲が詰め込まれた物語です(笑
縦書き前提で漢数字にしてありますので、縦書きで読んでいただけると幸いです。
ー 一つ目玉のヨシオ君編・前編 ー
……僕は目を覚ました。どこだろう、ここは。眼球の稼働範囲から見えるのは、闇……僕は闇の中にいた。
身体が動かない……それに、どうしてこんなところにいるんだろう。わからない……自分のことすら、思い出せない……
名前……なんだっけ。とりあえず小学生で、男なのは覚えてるんだけどな……
「……ーい、……て……ん……」
……何? 聞こえない……疲れてるんだ、寝させてよ……
僕がもう一度目を閉じようとした、その時。
「おおーい‼ 聞こえてますかぁ!?」
視界に、そう大声で叫ぶ女の子の姿が見えた。
「うわああっ!?」
驚きに、僕は飛び起き、後退りする。そこで、ようやく身体が動いた。
おかっぱ頭の、赤いスカートを履いた目の前の少女は、片手に燭台を持っている。蝋燭に灯された火は、儚げに揺れていた。
「あ、やっと起きましたね! もう、いくら呼びかけても起きないんですから」
ぷくーっと頬を膨らませる少女。何処かで見覚え……いや、聞き覚えがある。そう、あれは──
……トイレの、花子さん。
「お……おばけ……?」
口を突いて出た言葉に、少女は目を丸くする。
「お化け……ですか。まあ確かにお化けっちゃお化けですけどねー。とりあえず、自己紹介しますね。検討はついてると思いますが、私、“トイレの花子さん”で有名な花子です。今回のナビゲーター? 案内人を務めます」
「あ、案内人? 何の?」
「ええーと、題して……『あなたも学校の七不思議の一つ!』いや、一人? 『七不思議の幽霊になるツアー!』ですって」
「え? な、何言ってるのかさっぱりわからな」
「とりあえずご案内しまーす。貴方は今、記憶を失くされていますね? まず、それを取り戻すのが一つ目のプランです。貴方の足元に、水溜りがあります。それは、現世の自分を映し出す鏡となっております。さあさあ、ご覧になってください。……衝撃はひどいですが」
僕はとりあえず足元を見た。確かに、水溜りがあった。しかし立っている状態から自分の顔は確認出来ない。
地面に座って、水溜りを覗き込む。そこに見えたのは──
……水溜りに波紋が拡がる。赤が滲む水溜り。僕は、僕の顔は……
右目がなく、そこからぼたぼたと血が零れ落ちていた。
「うわああああああああ!!」
あまりの恐ろしさに僕は飛び退いた。しかし、それ以外はあまり見ていない。
恐怖を堪え、もう一度水溜りを覗く。すると、首元にロープのような細い紐で首を絞められた跡があった。
「……ううん。やっぱ衝撃強かったか……」
「……ね、ねえ……これ、本当に僕なの……?」
「はい、そうです。ちなみに私が覗くと、炎に焼かれて真っ黒焦げになった、人型消し炭みが見れますよー」
ニコニコ笑いながらそう言う花子さん。なんで笑っていられるんだろう……
……僕は、一体どう死んだんだろう……どう見ても、殺された、よね……
「さてさて……自分の姿をご確認出来ましたところで、お次のプランに参りましょうか! 誰もが気になる……自分がどうして死んだのか。誰にどんな経緯で死んだのか、です。貴方の場合は、殺されたのか、ですね」
にこりと微笑んだ花子さんは、蝋燭の火を吹き消した。再び闇が辺りを包む。
「さあ還りましょう。貴方の死の直前へ……」
その言葉と共に、僕は急激に襲ってきた眠気に目を閉じた。
……蜩の声が聞こえる。夕焼けが包む教室で、記憶の中の“僕”はぼーっとしていた。
僕はそんな自分の姿を、遠目から見る。夕焼けに反射する睫毛、凛とした大きな瞳……そして細く白い肌。
……恥ずかしながらも、自分は“美少年”の部類に入る人間だった。
教室に近付く人影。その男の人は、教室を覗くと、叫んだ。
「ヨシオ! 待たせてごめんな」
「あ、いえ……」
静かな返事を返し、“僕”は席を立ち、男について行く。僕、ヨシオって名前なんだ……
それはさておき、男は先生だろう。やっぱ、こいつが犯人……?
ついて行くと、二人が入ったのは準備室だった。“僕”は、先生に促され、ソファに座る。
その傍に座ってきた先生は、世間話を始め、話で流れるように、“僕”にボディタッチをしてきた。
短パンから覗く細く白い太腿を掌で撫でる。その行為はエスカレートし、逃げられないよう肩をがっちりとホールドし、もう片方の手で内太腿を大胆に撫でてきた。
「せ……先生……っ」
「ん? どうした。それでな、今度の授業なんだけど……」
ペラペラと饒舌に喋りながら、手は内腿から股間へ、そしてズボンの間から指を滑り込ませて……
「……や、やめてください……」
絞り出された“僕”の声を無視して、先生はパンツの上から性器を触っていたのから、パンツの中にまで指を忍び込ませてきた。
性器を直に触られる気持ち悪さに、“僕”は必死に抵抗する。しかし、先生はやめようとはしない。
「はっ、離、し、てっ……!」
「いいだろ、ちょっとくらい。減るもんじゃないしよぉ」
「そういう問題じゃないです‼ やめてください‼」
「ねぇ、ヨシオ君、経験一回くらいあるだろ? 先生にもヤらせてくれや」
「なんのことですかっ……よくわかんないけど、離してっ……!」
全体重をかけて、“僕”は先生を突き飛ばした。ああ、そうだ。僕はこのあと……
先生は机の上にあったロープを手に取り、“僕”の首にロープを巻き付け、絞め上げる。引っ張られてバランスを崩し、床に崩れ落ちた“僕”の脇腹を蹴って、仰向けにさせた。
先生は“僕”に馬乗りになり、ロープを左手で引っ張ったまま──
僕の右眼窩に、指を突っ込んだ。
「あがあああぁああぁあぁぁっ!!」
激しい痛みに叫ぶ“僕”。しかし、先生は気にせずぐちゃぐちゃと指を動かして、“僕”の右目を掴み取った。
引き千切られた視神経の端から、ポタポタと血が垂れる。血塗れの潰れた眼球を愛おしそうに見回すと、そのまま口に入れた。
必死に足掻く“僕”を、ロープで首を絞めることで操り、まるでその様は飼育される家畜の図だった。
ほとんど体力の失われた“僕”が動かないのをいいことに、先生は右手で“僕”の短パンをパンツごと摺り下げて、“僕”の体液に塗れた右手の指を秘孔の奥へと進める。
様々なショックで身動きの取れない“僕”は、ただその行為を受け入れるしかない。
解したあと、取り出した自身を中に進ませて、根元まで挿入ったことを確認してから、ロープの両端をを各両手で持って、一気に絞め上げながら僕を犯した。
先生が絶頂に達する前に、すでに僕は息絶えていた。そして、今に至るのだろう。
“僕”の意識が途絶えると共に、辺りはもう一度漆黒の闇に包まれた。そして、彼の少女はぼうっと姿を現す。
「……いかがでしょう。思い出しましたか」
「……ああ、嫌なほど、鮮明に」
「そうですか。では最後のプランです」
少し素っ気なく聞こえた彼女の声だったが、僕はそれをすぐに冷酷さであることを悟った。
「……犠牲者を一人。幽霊になるための、罪作りであり……復讐である、殺人を行うことです」
そんなの、当然だった。自分の殺される様を二度も感じて、見て、復讐しなくてどうする?
「……何処だ? あのクソ教師は……」
「あらら……性格まで変わっちゃいましたね」
「そりゃそうだよ。君は知ってるんでしょ?」
「ううーん……まあ……」
「早くあいつのところへ行かせて。他の被害者が出る前に、あいつを殺す」
「ああ……そうね。じゃあいってらっしゃい!」
花子さんは俺を思いっきりどついて来た。と共に、俺は現実世界へとワープした。
夕暮れ時。あの日と変わらない夕陽だけは、美しいままだ。
僕の“いた”学校に着いて、自分の格好が変わっていることに気が付いた。
右目の眼帯に、首の包帯。
試しに右目の眼帯を少し外してみると、ぼとりと血が落ちて来た。
……なるほどね……
自己解決して、僕は憎いアイツのいるであろう準備室へ向かう。霊体である僕には、鍵など何の意味もない。するりと鍵のかかった扉をすり抜け、僕は室内に入った。
……抑えた喘ぎ声が聞こえる。アイツも学習したんだろう。何人もそう簡単に殺すわけにもいかないから、多分生徒を脅して連れ込むという、卑怯な手段を使っているのだろう。
僕は部屋の奥へ足を進めた。そこには、やはり怖くて抵抗もできない、非力な生徒を犯して愉しんでいるアイツがいた。
幼い綺麗だった身体に、汚い己の欲望を打ち付けている、アイツが。
「……っ、んん、う……っ」
「……はぁっ、可愛いね──君は、本当に……っ」
「……っ……」
「可愛い子ってね……殺したくなっちゃうんだよ、ついつい……」
「っふ……え?」
「この細い首とかさ……ね? 先生よく絞めてたでしょ? 死にそうな前ってね、君のココがキュウって締め付けて来て、すっごく気持ちいいんだよ……」
「や……やだ……」
「だからさ……」
ポロポロと涙を零す生徒に向かって、口の端を醜く吊り上げたアイツが、彼の首に手をかけて、囁いた。
「……殺してあげるね……?」
俺は咄嗟に傍に置いてあったロープを掴み、憎い憎い目前の男の首に巻きつけてやった。
突然の出来事に、目の前の2人は目を丸くする。俺はコイツの阿呆面を、死に顔をよぉく見てやるために、上体が反れるようロープを引っ張ってやった。
「ぐ、が……あ……!!」
「お久しぶりですね、先生。そして、相変わらず、ですね? いたいけな生徒を犯すなんて外道なこと、よくできますね」
「おま……え、は……っ」
僕は眼帯と包帯をとってやった。ぼたぼたと右目の眼窩から血が零れ始める。それを見て、生徒が小さく悲鳴をあげた。
「……忘れたなんて、言わせないからね。アンタが殺した、一番初めの生徒……ヨシオだよ?』
僕が念じると、先生の右目玉はブチブチと視神経の捻じ切れる音を立てながら、コロリと床に転がった。
『僕はね……アンタみたいな屑教師を許しはしない。まだ幼い生徒の純潔を汚い己が欲で穢す大人を、赦しはしない。いや、赦されないんだよ……』
僕はロープを締め上げる。否、僕の念で、ロープが勝手に首を絞め上げていく。口の端から涎が零れ、目が段々と白目を剥いていく。
『お前だけは……じっくり殺してやる……』
僕はもう、自分が一体どんな表情をしているのか、分からなかったし、分かりもしたくなかった。
昔、見えもしないのに怖がっていた、お化け、幽霊と云う存在。
そんな自分が、お化けに、幽霊に、七不思議の一つとなる。何だか変な感じがした。
……気が付くと、目の前の憎かった男は右の眼窩から血を、口と鼻からは体液をだらしなく垂れ流して、死んでいた。
部屋の奥を見ると、生徒はあまりのショックでか、気絶していた。
『……ごめんね、怖かったよね……』
生徒に近寄り、僕は彼の頭を撫でた。頬には、涙の跡が残っている。
振り向くと、微笑みを浮かべた花子さんがいた。
『……おめでとうございます。これで貴方も、私達の一員です』
『……喜ぶことなのかな?』
『さあ……わかりませんが、貴方がこのように辛い思いをして過ごしている生徒を、元凶である先生を幽霊として殺すことで、助けられる立場になったことを嬉しく思うのならば』
『……そっか』
花子さんはくすりと笑って、では、と一言言って、すうっと姿を消した。
僕は床に転がっている血塗れの目玉をつまみ上げて、ぽいっと口に放り込み──ブチュリ、と噛み潰した。
── 一つ目玉のヨシオ君。
後々、その名で僕は生徒の間で噂になった。
『学校が原因でで困った時に屋上に行くと、右目に眼帯をし、首を包帯で巻いた一つ目玉のヨシオ君がいる』と云う、七不思議の一つとして……
ー 一つ目玉のヨシオ君編・後編 ー
「……はあ……」
彼──興津泰葉(おきつやすは)は、屋上の扉の前の踊り場で床に座り込み、膝を抱えて、溜息を吐いた。
“一つ目玉のヨシオ君”。彼はそれに頼りに来た。しかし、怖がりなこともあり、なかなか勇気が出ない。
けど、もう耐えられないよ……
じわりと滲んでくる涙に、彼は膝に顔を埋めた。
──泰葉はいじめられていた。同じ、クラスメイトの三人組に。
リーダー格の和樹(かずき)に、問題児の洋介(ようすけ)、そしてその二人の後ろについて回る、性格と雰囲気だけは自分に似ている優弥(ゆうや)。
特に原因を作ったわけでもない。接点すらなかった。そんな三人組から、二ヶ月前ほどからいじめられ始めた。
進級して、一ヶ月が経った頃だ。まだメンバーの変わったばかりのクラスで、喋ったこともないはずなのに、突然うざいと言われ、暴行や言葉の暴力を振るわれるようになった。
……こんなうじうじしてるから、いじめられるんだ。そうだ。勇気を出すんだ……!
泰葉は涙を拭い、立ち上がった。そして、屋上のドアノブに手をかけ、震える手でドアノブを握り締め、扉を開け放った。
ズカズカと恐怖を打ち砕くように、足を進める泰葉。
ヨシオ君は──屋上の隅の壁に背を凭れて、大きく口を開けて寝ていた。
右目の眼帯に、首に包帯を巻いた、殺された時と同じ半袖半ズボン姿の、美少年。
噂の通りだった。あまりの衝撃に泰葉が固まっていると、ヨシオはゆっくりと目を開いた。
「……んあ……? お客、さんかな?」
「え、ええと……その……“一つ目玉のヨシオ君”……ですか?」
「んーそうだねえ。ヨシオだよ」
「ほっ……本当にいたんだ……」
ヨシオは背伸びをすると、眠そうな目をこすって、座り直した。促され、泰葉もヨシオの前に座る。
「んで? 悩み事は何?」
「ええと、そのですね……」
泰葉は今までのことを洗いざらい話した。ヨシオはふんふんと軽く聞き流している。
……本当に大丈夫なのかな……
そんな思いが泰葉の中で沸き起こる。話し終えたあと、泰葉はヨシオの返事を待った。
「……ふむふむ。その三人組を、殺せばいいの?」
「えっ、ころ……?」
「あれ、知らなかったの? 僕は殺すことでしか君達を助けられないよ。死んでるからね」
“殺す”。そんな物騒な言葉を、軽々しく微笑みながら言うヨシオに、泰葉はゾッとした。
……確かに、つらい。つらいけど……あの三人を殺すほどのことはあるのだろうか?
「そんな……殺すなんて、僕には……」
「じゃあどうしてほしいのさ?」
嘲るようにそう言い放つヨシオに、泰葉は恐る恐る、望みを口にした。
「……何で僕をいじめるのか、調べてくれないかな……?」
──こんな甘ったるいことを承諾してくれるだろうか。
泰葉は唇を噛み締め、ヨシオの返事を待った。ヨシオは顔色一つ変えずに、「いいよ」とそれだけ言い残し、泰葉の前から消え去った。
──その頃、校舎の外れにて。
泰葉をいじめている三人組が、ひそひそと話をしていた。
「……なあ、俺らいつまでこんなこと続けんの? 興津に悪い、よな……」
「でもよ、優弥はこんなだし……アイツに逆らうなんて、無理だろ。逆に俺らが殺されるよ……」
「……僕、怖い……先生が、怖いよぅ……」
顔や手足に傷を負ったかわいらしい顔つきをした優弥が、その大きな瞳からポロポロと涙を零し、泣き始める。それをあやす、整った顔をした、頼りになりそうな和樹。そしてお世辞にも顔がいいとは言えない、若干強面の洋介が、自分の身体を抱きしめて、俯いていた。
「……俺達だって……これからも犯されるなんて、やだよ……」
和樹の一言に、洋介は服を掴む拳をぎゅっと握った。
──と同時に、悪寒を感じた洋介が、突然振り返る。そこには──
「ひいぃっ!?」
洋介は情けない悲鳴を上げて、地面に尻餅をついた。和樹と優弥も驚き、唖然とする中、洋介は震える指で目前の人物を指差し、言った。
「ひっ……ひひひ、“一つ目玉のヨシオ君”……っ!!」
ヨシオはニコリと笑って、三人組に近付いた。
「どうも。その興津泰葉くんからご依頼を戴きまして、参上しましたヨシオでーす」
「なっ……なんだよ、俺らのこと殺しにでも来たのか!? まあ殺された方が、もうアイツに犯されなくて済むと思うと、せいせいするけどよ……!!」
そう吐き捨てて睨みつけてくる和樹に、ヨシオは微笑みをたたえたまま、答えた。
「殺さないよ。だって、元凶は君達じゃない。そうだろう?」
その言葉に、三人は目を逸らし唾を飲む。ヨシオはそれを肯定と看做し、話を続けた。
「元凶……その先生とやら。誰なのか教えてくれない?」
「……お、教えたらどうするんだよ……?」
「なに、そんなすぐに殺そうなんてことはないよ。まだ真実も事実も知らないし。とりあえずこれだけは言っておくね。泰葉君、そして君達含め全員救う。第一、僕は真犯人が先生じゃないと現れないよ。それが、教師に殺された僕の存在意義だからね」
「……本当に、助けてくれんのか?」
「だからそうだってば。じゃないと、僕の存在意義がなくなっちゃうじゃない」
「そ、そっか……」
そろそろ苛立ちが混じってきたヨシオの声に、和樹はよくわからなかったが空返事をした。
一息吐くと、ヨシオは優弥を見て言った。
「君……なのかな? 一番酷いのは」
「あ、え……そ、そんなことはないです……みんなほぼ均等に、辱めを受けてますから……ただ、僕の場合、先生がやたらと見えるところに暴力を奮ってきて……だから、一見酷そうに見えるだけです」
「ふぅん? じゃ、あとの二人は暴力はあまりないのかな?」
「ああ……俺は、そんなに」
「……俺も、別に……」
ヨシオは、俯き、そっぽを向きながら小さくそう言った洋介に、眼光を向けた。
「……本当に? 見えないところへの暴力はないの?」
「なっ、なんだよ俺のほうだけ見て……」
「人ってね、よっぽどの輩じゃないと嘘が簡単に吐けないからね。罪悪感で癖が出る。君みたいに、目を逸らしちゃうとかね」
「……べ、別にそういうつもりで逸らしたわけじゃ……」
弁解しようとする洋介に、和樹も疑いの眼差しを向けた。
「……そういやさぁ……お前、いつだったかに首に包帯巻いて学校来たよな。あの前の日、お前の番だったよな……先生との約束」
「あれは……あんとき言ったじゃねーか、関係ねえし大したことでもねえって」
「言っとくけど俺ら納得してねーぞ。第一、お前あのあとトイレの鏡殴り割ってすげー怪我してたじゃん。あんときはお前の落ち込み様的に深くつっこめなかったけどよ、やっぱなんか大したことあったんじゃねえの?」
「……しつけぇな、ねえっつったらねえんだよ!」
「あぁ!? テメエ、人がせっかく心配してやってんのに……!!」
「はいはいストーップ。君らに内輪揉めされても困るんだよね。いつもこんな感じなの? 優弥君大変だねぇ」
おどおどする優弥を見て、二人は我に返る。互いに舌打ちし、そっぽを向くと、ふんと鼻を鳴らした。
「ま、洋介君の件は置いておこう。僕には全部視えるからね。それで、今後のことなんだけど」
「……何さ?」
「しばらく僕は姿を消すから。まあもしかしたら、止めにいくかもしんない。先生が誰か突き止めたらね。そしたら事もクライマックスだから、別に乱入してもいいでしょ? じゃあねー」
「え、ちょ……」
ペラペラと早口でそう言って、ヨシオはふっと姿を消した。三人は唖然と、誰もいなくなった空間を見つめたままである。
しばらくして顔を見合わせると、全員顔を青くして、とぼとぼと教室に戻った。
ヨシオは校内へ入り、四人のクラスを確かめた。教室内では生徒達が楽しそうにしている。
自分にはこんな記憶はないな、と少し寂しく思い、教室を後にした。
次は四人に被害を及ぼしている先生の捜索だ。小学校は関わりを持つ先生が少ない。ヨシオはこのクラスの担任を探すことにした。
……目を瞑る。過去の情景が、ファイルのごとく日付ごとに並んでいる。今日は月曜だから──
先週金曜日のファイルにざっと目を通すと、目に留まる情景を見つけた。
場所は算数準備室。デスクは1つ。その斜め向かいに、シーツの敷かれた大きなソファー。
奥行きの広い部屋で、入口前には大きなロッカーが部屋の方半分を占め、扉を閉めれば音漏れは少ないだろう。
放課後、そっと扉を開け、入ってくる洋介。整った顔をした、優しそうな笑みを浮かべるその先生は、洋介の元へ歩いて行くと、顎を掴み、口付け、扉の鍵を閉めた。
『……ちゃんと来たんだ。えらいえらい』
『……優弥のことを思ったら、来ないわけにはいかないだろ』
『友達思いかあ……いいねェそういうの。洋介らしくなくってよォ……』
『……うる、せえ』
『これだからお前は好きなんだ。壊せば壊すほど中身が見える』
『もう、いいだろ……もう十分、壊し尽くしただろ……』
『いやー、自殺未遂くらい、してくんないと、ねェ?』
唇を噛み締め、洋介は拳を握り締める。しかし黙ったまま、先生に促されるがまま、ソファーに寝転がり、先生はそれにまたがるように、ソファーに乗った。
『やけに素直じゃねえか。本当にぶっ壊れてきたか? ヒャハハ!!』
『……だからそうだって、言っただろ……』
『へえ? マジで言ってんの? 俺から逃げたいだけじゃねえだろうな? ああ?』
『うるせえな……』
洋介は先生の胸倉を掴むと、近付けた先生の唇に、自ら口付けた。
『はやくしやがれ……いつも、俺に時間かけすぎなんだよ』
顔色一つ変えず、洋介は淡々と喋る。それを聞き、先生は鼻で笑うと、洋介のズボンとパンツを脱がした。
ただ、されるがままに犯される洋介。先生は、途中から不服そうな顔で腰を打ち付けていた。
『相変わらずつまんねえ……壊れたんなら、俺を興奮させるような仕草見せろや』
カッと来た先生が、洋介の足を持ち上げ、腰を浮かせる。そして、真上から全体重をかけるように洋介の奥を思い切り突いた。
『っあぁ……ぐっ!!』
悲痛の叫びをあげる洋介。先生は嬉しそうに嗤った。
『ほんと、学習しねえバカなガキだぜ……そんなに酷くされてえのかよ‼ あ!?』
『っう、うぐっ……』
『だぁかぁらぁ……そんな呻き声、まったく楽しくねーんだよ、いっつも言ってんだろが!!』
先生の平手が、洋介の頬を打つ。中から雄を引き抜き、間髪入れずに洋介の髪を掴み、自身を根元まで無理矢理洋介の口に捻じ込んだ。
『んぐっ!?』
喉を突かれる苦しみに、洋介は吐き気を催していたが、口を塞ぐ雄が嘔吐を許さない。
『これでも足りねえだろ……お前にはこんなもんじゃ足んねえよなぁ!? 言えよ‼ どうやってもっと嬲られたいかをよォ!!』
『んんっ……んん──っ……』
洋介の頬を伝う涙。それを見て愉しそうに嗤う先生。まるで、主人と奴隷のようだった。奴隷は、主人に反抗すれば罰が下され、自尊心を捨て主人に従えば自分を失う。その狭間で苦しんでいる……洋介。
その後も二時間弱、陵辱は繰り返され、下校時間ギリギリに、洋介は重い腰に鞭打って家へと帰って行った。
……やはり洋介は少し違う扱いを受けているような気がする。
ヨシオは先週木曜の放課後の算数準備室を視た。
すると、また洋介の番だった。
おかしいな、と思いつつ、ヨシオは先週水曜の放課後を視る。
扉を開けて入って来たのは、和樹。先生は和樹に気が付くと、ニィッと嗤った。
『今日もちゃんと来たね』
『そりゃ……まあ』
『和樹君の身体、本当に綺麗だからね……楽しみにしてたよ』
『……そっ、すか』
『まあそんなとこに突っ立ってないで。おいでよ』
先生に促され、和樹は扉の鍵を閉めてから、ソファーに座る。先生はその横に座り、そっと和樹の身体を倒して、服を捲り上げた。
『いつ見ても綺麗だねぇ……子供の柔肌そのものだ』
和樹の肌を撫で回し、胸に頬擦りする。和樹はそれにゾッとしながらも、顔を赤らめながら耐えていた。
……そんな風に、和樹の扱いはなんとも生優しいものだった。たまにイライラした先生が平手打ちをかましたり、腹を殴りはしていたが……洋介とは大違いで、一度中出しして肉棒を舐めさせ、帰すと云う、一時間強の陵辱だった。
そして先週火曜の放課後も、思ったとおり洋介だった。
しかし先週月曜……今日の一週間前は、必然的に優弥の番だ。
恐る恐る準備室に足を踏み入れた優弥。先生はその腹を、いきなり拳で殴りつけた。
『うぐっ……! げほっ、はひっ……』
床に倒れ込む優弥。先生は扉とその鍵を閉めると、優弥の腕を引っ張って、無理矢理立たせた。
『立てよ、いつまで経っても軟弱だな。お前がいじめられないのはあいつらと一緒なおかげだもんなぁ……使ってんだろ? 盾に』
『そ、そんなことしてな……』
『その可愛いツラの裏で何考えてんだかわかりもしねえ。まあ、だからこそたまんねえんだけどなァ……』
今度は頬を思い切り拳で殴られ、床に崩れ落ちる優弥。その細い四肢を、痣になるまで先生はひたすら蹴り、踏み付ける。
丸まって必死に暴行に耐える優弥を見て、先生は嗤った。
『痛いか? なあ、痛いか? ヒャハハ‼ 実は嬉しいんだろ? いっつも律儀に来てんだからよォ、嫌じゃねえんだろ! このドM野郎‼』
『い、いたっ……やめ、やめてっ……』
大きな瞳からはポロポロと涙が零れている。か細く小さな優弥の声は、先生の罵声に掻き消される。
その後優弥は、殴られながら辱めを受けていた。泣きながらも、必死に耐える姿に、ヨシオは拳を握り締めた。
……整理してみよう。三人のローテーションは、月曜担当が優弥、火木金は洋介、そして水曜が和樹。
火木の洋介はどうやら先生の趣向らしい。金曜と違い、軽いもので済んでいる。
確かに優弥の暴力の奮われ様は酷いが、先生の洋介への執着心が尋常ではない。
やはり、あれは嘘か……
ざっとさらに過去に遡り、洋介が首に包帯を巻いて登校してきた前日の放課後を探し出し、ヨシオはそれを視た。
……洋介の、心の声が聞こえる。
──どうしてなんだろう。どうして、俺ばっかり。
洋介は先生に犯されながら、相変わらずぼーっと宙を見ている。
『……もうちょっと喘げよ。つまんねーんだよ』
相変わらずテンションの低い先生に、パンッ、と尻を叩かれ、洋介は声を絞り出した。
『……っは、い……』
『返事じゃなくて喘ぎ声だっつってんだろ』
『ううっ……はい……あ、はぁ、んっ……』
『本当にお前色気ねーな。あいつらとは大違いだぜ』
『……っ、う……』
泣きそうな顔の洋介の思考が、流れてくる。
……だから、不思議なんだ。第一、狙いは興津じゃなかったのかよ。なんで俺ら三人組まで犯されなきゃなんねーんだよ。しかも、顔のいい優弥と和樹を差し置いて、密かに俺ばっかり呼び出して。
優弥には暴行まで加えて、傍から見ても痛々しい様にしてるくせに。俺には言葉の暴力しか浴びせないで、誰にも見えないところにしか跡を残さないで……
考え事をして先生から目を逸らしている洋介を見て、先生は相変わらず不服そうな顔で洋介を睨んだ。
『……また黙ってんな……そんなに気持ちよくねぇのか、俺とのセックスは』
『……気持ちいいわけ、ないだろ……無理矢理ヤられて、気持ちいいとか思う奴、いねーだろ』
『ふぅん……洋介君はそういう考えなんだ?』
先生は嗤うと、傍らにあったバイブを掴んで、洋介の秘孔にあてがい、無理矢理捻じ込んだ。
『っあ、あぐ……っ!』
『っつ……俺までキツいじゃねーか……快感じゃなかったらひたすら痛みを、ってな』
『や、やめっ……いた、痛いって‼ むり、入んないって!!』
『入れんだよ、無理矢理』
嗤いながら、先生はバイブを捻じ込んで行く。洋介の顔が苦痛に歪む。
『あぎっ、ひぃっ……!!』
『ああ、そう。いい声になってきたじゃねぇか』
『どこが……っあ、あああっぐ、はっ、やああああっ!』
『ははっ。ほぅら、全部入っただろぉ? 穴の限界か、ギッチギチだけどな』
『うう、いた……抜い、て……』
『とか言って、本当は嬉しいんだろ。ヒャハハ!』
目尻から零れ落ちる涙。洋介は唇を噛み締め、痛みと屈辱に耐えていた。
秘孔は限界ギリギリまで拡がっており、今にも切れそうだ。
『……また黙ったな……つまんねー。本当にどこまでもつまんねーわ、お前。つまんねー人生送ってるし本人がつまんねーのも道理には適ってんのか?』
『…………』
『……なんとか言えよ。何お前。つまんねーにもほどがあるわ』
『……じゃあ、俺を犯して何が楽しいの……?』
先生の口が止まる。目が動く。なんて嘘が一番いいか、それを考えている様子だった。
『……お前みたいな幸薄い奴をさらに不幸にしてやるのが楽しいから?』
『……あっそ……』
『……返事それだけかよ』
『……じゃあさ……なんであんたのお気に入りの優弥とか、狙ってる興津とか、そっちもっと犯せばいいのに、なんで俺ばっかなの』
『…………』
『……今度はあんたが黙んのかよ』
洋介の言葉にカッとなった先生が、直後にバイブを抜き差しする。ついに切れた秘孔や直腸内の痛みに、洋介は叫び、喘いだ。
『あああっ‼ ひっ、いたっ、やめっ、ひいぃいいいっ!!』
『ごちゃごちゃとうっせーんだよ、能無しのクセに‼ そうだ、お前ばっか犯すのはな、お前が能無しバカだからだよ‼ テストの点は悪いわ言動もバカだわ、一番引っかかりやすい奴だからだ! 文句あんのか、ぁあ!?』
『っ、ううっ、ぐっ……!』
『お前みたいなバカは死ねばいい‼ 殺してやってもいいんだぜ? ゴミ掃除に罪悪感もクソもねえからな!!』
『う……うそ、つき……っ』
『あ!?』
先生の凄む声に、洋介は堰を切ったように笑いを漏らし始めた。
『はっ、ははっ……本当は、俺が好きなんだろ』
『……なんだと……?』
『そうだ、お前は能無しバカの
ゴミクズ野郎に惚れてんだ! だからそうやって誤魔化すんだろ、そうだろ! はははっ!!』
『っこのクソガキ……本当に殺してやろうか!?』
ズンッ、と押し込まれるバイブ。痛みに洋介の身体は撥ねる。先生は洋介の首に掴みかかると、全体重をかけ、首を絞めた。
『っぐ、が……っ!』
『死ね……死んじまえ‼ ゴミははやく塵に還れ!!』
凄まじい大人の腕力に抵抗するも、洋介の力はまったく通用しない。これは、ヨシオも実際に殺されて、痛感していることだった。
開いた口の端から涎が零れ、死ぬかもしれないと洋介が覚悟を決めた時──先生の手が離れた。
洋介は身体をよじり、噎せる。先生は洋介の腰を掴んで、激しく腰を打ち付けてきた。
『くはっ、げほっ、はっ、あっ、あうっ』
『まだ……興津に手ェ出してねぇしな……生かしてやるよ!』
『ああっ、い、はっ、いたっ、いたいっ……!!』
『もっと裂けちまえ‼ ズタズタになるまで犯してやるよ‼ ヒャハハハハハハ!!』
ピストン運動に合わせて、直腸内が裂けているだろうことが、見ているだけでもわかる。先生のペニスは血塗れで、尻の下には白濁と血の混ざった薄桃色の液体が垂れている。
何度中に射精されたかわからないくらい、洋介は犯され続けた。
いくら叫んでも、放課後の学校には誰もいないから、助けもあるはずない。
失神しても叩き起こされ、気が遠くなるとすぐに尻を叩かれながら──陵辱は、下校時間ギリギリまで続いた。
動くことが出来ないほど、身体の節々が痛む。先生は、白濁と血に塗れた洋介の身体を乱暴に清めると、汚れた洋介の服を脱がせて、自分のシャツを羽織らせた。
『……いつも通り連絡しとくから、今日は俺ん家だぞ』
『……うん』
『……仕事終わるまで、ここで休んでろ』
『……うん』
『……ほんと、つまんねー返事……』
『……いつものこと、でしょ……』
『……ふん……じゃあ後でな』
『……うん……』
準備室を出ようとした先生が、足を止める。洋介は犯され続けて疲れた身体を休めるために、先生の行動に構わず目を閉じた。
先生はそっと洋介の頬を撫で、唇に口付ける。その優しいキスに、本性が現れていた。
先生は切なそうな顔をして、準備室から出て、施錠すると、職員室へと向かって行った。
一人準備室に取り残された洋介は静かに泣いていた──
……なるほどね。
ヨシオは一人納得していた。
何故なら、先生は本当に洋介を愛していたからだ。
洋介もそれに気付いていて、ストックホルム症候群のように、先生のことを好きになりかけている。
……多分、自分がいざ先生を殺そうとなった時、彼はひどく葛藤することになるだろう。
憎かったけれど、愛してもいた人間の死。彼がこの先無事生きられるか……確証はまったくない。
しかし自分はやり遂げなければいけない。一度洋介に話をすべきか……
ヨシオは目を開き、現実へと戻ってきた。周りの光景は、目を瞑る前となんら変わりない。
ヨシオは校舎内を歩いている三人組を見つけると、ふっとその場から姿を消した。
洋介たち三人組が歩いていると、目の前に上から人が落ちてきた。
「ひぃっ!?」
上にはまだ階がある。上の階の床に穴でも空いていて、そこから人が落ちてきたのならまだわからなくもないが、上は天井がちゃんとある。
『二度目だよ、慣れてよね』
そう言ったヨシオは、ふう、と溜息を吐いた。
『今は君達にしか見えてないと思うよ。霊感の強い子なら、わかんないけど』
「あ、そう……」
『それでね、なんで僕が現れたかと言うとね、洋介君に用があるんだ。ちょっと借りるよ』
「え? 俺? え、あ、ちょ、えええええっ!!」
スタスタと歩いていくヨシオに、念で引き摺られていく洋介。残った二人はまた顔を見合わせ、青ざめた顔をすると、教室へと足を進めた。
「……で、なんだ用って」
怠そうにそう言う洋介に、ヨシオは企みを含んだ微笑みを浮かべた。
「いやね、君の扱われ方についてなんだけど」
「なんの?」
「……僕が今何をしてるかわかってんの? もちろんあの担任の先生から、だよ」
洋介の顔が、身体が強張る。しかしヨシオは話を続けた。
「言ったでしょ? 僕は“視る”ことができるんだ。ここ最近の分と……君が、首を絞められて殺されかけた分の“算数準備室”の記憶を、視せてもらった」
「っ……」
絶望したような顔で、洋介は目を瞠った。
「一番ひどい目に遭ってるのは君だったんだね。そしてたった一人、本当に愛されているのは。……とても歪んだ愛だけどね」
「…………」
「ねえ、君は本当に先生が死んで微塵も悲しまないかい? 少しでも心残りしちゃわない?」
「……それ、は……」
──ヨシオに嘘を吐いてもバレる。
そのことをわかっていた洋介は、答えに困った。第一、自分でも気持ちの整理がなされていないことだ。
「……やっぱり、か」
ヨシオが溜息を吐く。「そんなこと……」ない、といつもの癖で口から出た洋介の言葉に、ヨシオは目を細めた。
「言い訳したがるのは子供の性だね。まあそれはいいとして。僕は、依頼を受けたからには、解決させるよ。たとえ君がどう思おうが、先生のことは確実に殺す。それが、僕の存在理由だからね」
「……それは……わかってる。それに、あいつはいない方がいい。殺されても、文句なんか言えない立場だ」
「……先生はあんなに罵ってたけど……君は、そんなバカじゃないよね。テストの成績なんかどうでもいい。そういうのじゃなくて、君は頭がいい」
ヨシオの言葉に、少ししてから洋介は鼻で笑い、微笑んだ。
「……さぁね。俺は、バカだよ。あんな奴に惚れるくらいだから。犯人に感情移入する……なんちゃら症候群だっけ? それかもしんないけど……でも、好きになったもんは好きになっちまったんだもんよ」
「洋介君……」
洋介は踵を返すと、呟いた。
「なあ……ヨシオ。俺、先生の死に際見たくないからさ……立ち会わないように、するな」
「……うん、わかった」
「んじゃ……ありがと、な」
呟くようにそう言った洋介は、ヨシオの前から立ち去った。その背中を、ヨシオは怪訝な表情で見つめ続けていたのだった。
──放課後。ヨシオは姿を消して、校内をふらふらとしていた。
ふと優弥の後ろ姿を発見して、ヨシオは距離を保ちながらついていった。
重々しい足取りで向かうのは、準備室。優弥が入り、ガチャリとドアの鍵が閉められてから、ヨシオは扉をすり抜けた。
ドンッ! と物凄い音がすぐ近くで聞こえた。隣を見ると、優弥がもう片方の扉に叩きつけられていた。
「っつ……!」
「……あー、ムカつく。子供ってのはなんでこうウザってぇかなァ……大人の言うことはちゃんと聞けや、っての」
先生が優弥に近付き、髪を掴んで、頭を扉に押し付ける。優弥は今にも泣きそうな顔で、怯えた目で先生を見ていた。
「……なんか言えよ。お前も子供の一人だろ? なんでああやって俺に反抗するのか意見述べてみろや」
恐怖に怯え切った優弥の口からは、どもりしか出ない。それにイライラした先生は、優弥の手を掴み、強引に部屋の奥へと引っ張って、ソファーに突き飛ばした。
「うぁっ……!!」
「言葉も喋れねぇのかよ、泣き虫優弥クンはよォ……じゃあ身体に聞くしかねえよなァ!?」
理不尽な、問いかけですらない先生の言葉に、優弥はもうダメだと目を瞑る。ヨシオは咄嗟に音を立てずに鍵を開けると、思いっきりドアを開け放って準備室に入るふりをした。
「せんせー! ききたいことがあるんだけどぉー」
作り笑顔でズカズカと準備室に入って行くヨシオ。
優弥は咄嗟にシーツに包まり、先生は咄嗟に笑顔を作った。
「あ、ああ! なんだ? どうした?」
「あのねー、算数わかんないとこあって。……っと、あれぇ? そこにいるの、優弥君?」
顔をチラリと覗かせた優弥が、ビクッと震えた。先生は焦燥の表情を表しながら、必死に弁解した。
「あ、そう。そうなんだ。優弥君も質問をしに来たんだけどね、具合悪くなったみたいで」
「ふーん……じゃ、僕が連れてこっか? せんせーもお仕事、あるでしょ?」
ヨシオはニヤリと笑った。その笑みはどこか妖艶にも見える。先生は一瞬驚きの表情を見せ、すぐに愛想笑いを作った。
──心の奥で、ターゲットがまた一人増えたと舌舐めずりしながら。
「あ、ああ。じゃ、お願いするよ」
「はーい。ほら、優弥君行こっ」
「あ、えっ……う、うん……」
瞬間恨めしそうに自分を見た先生を無視して、ヨシオは優弥の手を引き、準備室を勢いよく飛び出して行った。
二人が出て行った後、先生は扉を閉め、再度鍵をかけて、一人部屋で呟く。
「……んだよあいつ。……俺、確か鍵かけたはず、なのに……」
──そうだ。鍵をかけたじゃないか。なぜあの生徒はこの部屋に入って来れた? 鍵が開けば解錠の音がするはず。
──バレてる? 俺とあいつらとの関係が? いや、そんなはずはない。
──……そういえば、あんな生徒いただろうか。首の包帯、右目の眼帯の美少年……
──“あの”七不思議?
「……ははっ、まさか」
先生は自分の考えをその一言で払拭すると、もう忘れよう、と机に向かった。
しかし、心の底から湧き上がってくる苛立ちと怒りから、先生は何かに意を決したように準備室を出て行った。
校内を歩いている和樹の元に、優弥を連れたヨシオはふっと現れた。
「うわっ‼ ヨシオかよ‼ なんで上から落ちてくるんだよ、いっつも!!」
「そんなことより。とりあえず優弥君は返す」
優弥の背中を、和樹に向かってトンと押すヨシオ。和樹は優弥を受け止めると、怪訝な顔をした。
「とりあえず、ってなんだよ」
「先生もアホじゃない。けど短気だからね。すでに危ない……僕は何人もいない。全員を助けられるわけじゃないんだ。もう──」
ヨシオの冷たい瞳が、冷たい声が突き刺すように二人にかかる。
「魔の手は、伸びた」
先生に呼ばれて、泰葉はその後について準備室へと足を向かわせていた。
「あの、用って?」
「いやね、手伝ってもらいたいことがあって」
「はあ……まあ、僕にできることなら、しますけど……」
「ありがとう。やっぱ興津はいい子だなぁ」
「いや、別にそんな……」
ガラッ、と先生が扉を開ける。泰葉が準備室に入ると、先生はガチャリと鍵を閉めた。
先生にそこで待ってて、と言われ、泰葉は入口前で待つ。来ていいよ、と言われ、部屋の奥に行くと──
「興津はいい子だからさァ……こんな奴でも、ちゃぁんと人質になるだろォ?」
べろりと唇を舐めた先生の手に握られたナイフは、拘束された洋介の喉元に突き付けられていた。
猿轡をかまされている洋介は、涙が滲んだ目で泰葉の目を見て、首を横に振った。“俺のことは気にするな”と言わんばかりに。
「先生はねェ……ずうっと興津のこと狙ってたんだ。だから、こいつらにお前をいじめさせたんだよ。お前が心身共々弱っていくようにするためになァ!」
「そ……そんな……」
「でもな、それと同時に先生はこいつらのことを犯しまくってたんだ。お前も被害者で、こいつらも被害者だったんだよ、ヒャハハハハ!!」
「そんな、ひどい……!!」
「んでさァ……興津君? 先生の言うこと、聞いてくれるかな? 先生とセックス、できるかな?」
ニヤリと先生は嗤った。ナイフをさらに洋介の喉元に近付け、答えは決まってるだろ? と言わんばかりに。
泰葉は言葉に詰まった。嫌だ。けど、言うことを聞かなければ、洋介が殺される。たとえ、自分をいじめていた一人だとしても……それも、すべて先生の命令だったわけだ。被害者は被害者だ。自分よりも、酷い……
「あれェ? 返事は? 早くしてよ、手が滑ってうっかり切っちゃうよ?」
ぐっと身体を押し付けられ、洋介が呻く。しかし、その目は涙で溢れていようが、ただ“ダメだ”と泰葉に訴えていた。
「ぼ、僕……は……っ」
「ねえまだ? 早くしろ、って。お前を犯すかこいつを殺すか、どっちかさっさとやんねーと気ィ済まねえんだよ。こっちも命が狙われてるかもってのによォ……」
先生は段々と苛立ちを表していた。泰葉ははっとする。自分がヨシオに依頼したせいだ。自分のせいで、洋介は……!!
「っ……遅えんだよォッ!!」
「んゔうううッ!!」
目の前で噴き出す血飛沫。洋介のくぐもった叫びと共に、泰葉の顔にパタパタと生温かい鮮血が降りかかる。
いつまでも返答のないことに怒りが頂点に達したらしい先生の手に握られたナイフは、洋介の太腿に深々と突き刺さっていた。
ポロリと洋介の瞳から零れ落ちる涙。泰葉は恐怖で声が出なかった。
「ウジウジウジウジとよォ……遅えんだよ、このノロマ‼ だからテメエはやすやすといじめられんだろ、あぁ!?」
「ひっ……!」
凄まれて、泰葉は短い悲鳴をあげた。洋介は苦しそうに項垂れている。恐怖と痛みで脚が震え、やっとの思いで立っている状態だった。
そんな中、先生は辛辣な言葉を投げかける。
「おい洋介。手本見せてやれよ、先輩としてよぉ。いつもみたいに、足開け」
「……んんっ……」
「あ? 無理? 無理じゃねえよ、やれよ。ほら、邪魔なナイフ抜いてやるからよォ!!」
「んっ!? んんんっ!!」
「だ……だめっ!!」
──刺傷からの出血が一番多いのはいつか。
それは、洋介も泰葉もわかっていた。もちろん──
「んぐうううううっ!!」
一思いに抜かれるナイフ。先よりも高く上がる血飛沫と、洋介の悲鳴。
それを見て、先生は嗤った。
「ヒャハハハハ‼ たまんねェなァ‼ ……ああ、早く殺してぇ。お前を殺したくてたまんねぇよ……」
ぐったりとする洋介に、甘い声で囁く先生。それは完全に、愛する者への声だった。ただ、歪であることを除けば。
「も……もうやめて……先生、言うこと聞くから……洋介君を、離して……お願い……っ」
泰葉の哀願の声も、先生には聞こえていないようだった。べろりとナイフについた血を舐めて、ナイフを再度洋介の肌に近付ける。
「洋介……お前の肌は、和樹なんかよりずうっと綺麗で、滑らかだなァ……なんで気付かなかったんだろうなぁ……」
ナイフの刃の平らな面が、洋介の顎をなぞる。生理的な涙が、洋介の頬を幾筋も伝った。
「洋介……? 泣いてるのか。お前はいつも静かに泣くなぁ。顔の端麗さなんてな、どうでもいい。お前は綺麗だ……俺は、それが好きで好きでたまらない……」
洋介は声一つ出さなかった。否、出せなかった。太腿の刺し傷からは、未だ絶えず血が流れ続けている。洋介の体力は、限界だった。
「……ああ、ごめんな。こんなんじゃ、喋れないよな」
そう優しい声で言って、先生は猿轡を外す。先生の支えがなくなった洋介は、床に崩れ落ちた。
「……っ……う……あ……」
「洋介……? 大丈夫か? ごめんな、痛いよなぁ……」
優しい声。それは洋介の心を貫く。今までみたいに突き放してくれればいいのに。どうして、どうしてそんな優しい声で囁いてくるんだ。
ナイフを置いた先生は、洋介の履いている血に塗れた短パンを脱がし、傷口をペロリと舐め上げた。
染みる痛みに、顔を歪める洋介。先生は、脚へと伝った血を綺麗に舐め上げ、その後洋介に口付けた。
「んっ……」
口の中に広がる鉄の味。自分の血の味。洋介は動かない身体を、ただ先生に委ねるしかなかった。
泰葉は恐怖で地面にへたり込み、ただ先生のしていることを見ていることしか出来なかった。
「洋介……喋ってくれよ。殺さないから……死ぬ前に、一度でもお前と……」
『残念ながら時間だよ』
部屋に響く、冷たく凍った声。それに、先生はゆっくりと振り返った。
「……“ヨシオ君”……か」
「うん。さっきぶり、だね」
「……駄目、なんだな」
「駄目だよ。わからないの? 洋介君の体力は、限界だよ」
「…………」
「貴方は遅すぎた。自分に素直に慣れないその心が、自分の恋路を邪魔したんだ」
「……自業自得、か……」
「わかってるじゃん。僕は、依頼は絶対にこなす……貴方が生徒を陵辱した事実がある限り」
「……もっと早くに、気付けばよかったんだな……」
「……そうだよ」
いつのまにか、洋介は気を失っていた。後から駆けつけた和樹と優弥が、準備室に駆け込んでくる。
床に座り込んでいる泰葉を立たせて、和樹はその肩をがっちりと掴んだ。
「興津‼ 大丈夫か⁉」
「今までごめんね……‼ 本当に、ごめんなさいっ!!」
「あっ……ううん、大丈夫。だって、二人とも被害者だったんでしょ?」
「う……それは、まあ……」
「そんなことより……」
泰葉が部屋の奥を振り返る。床の血溜まりに倒れている洋介を見て、和樹は叫んだ。
「洋介ッ!!」
「先生が、洋介君の太腿を刺して、それで……っ」
「そん、な……ひどい……」
「でも……」
そう言って、泰葉は先生とヨシオを見た。ヨシオは洋介が気絶したのを確認して、先生に言い放った。
「彼は、貴方を好きになっていた。“たとえストックホルム症候群だろうが構わない、ただ俺は先生が好きだ”と、そう言っていた。貴方はあの日あの時、殺されかけて、心身共に弱り果てた洋介君が寝ようとした時に取った行動、あれから彼との恋愛に発展させるべきだった。貴方はあのまま立ち去るべきではなかった。あの後、貴方の家に行ってからのことは知らないけれど……ただ一人を愛すべきだった」
「……ああ……嫌なほど、わかってた。けど、こいつのこととなると、歯止めが効かなくて……やっぱり、俺が、駄目だから」
先生は拳を握り締めた。ヨシオは、優しく言葉を発する。
「……ちょっと話しすぎたね。洋介君が失血死しないうちに、このまま目を覚まさないうちに……僕の使命を果たす」
先生は静かに後ろを向いた。どこからともなく現れたロープが、先生の首に巻きつく。ヨシオは3人を振り返ると、呟いた。
「……君達、目を逸らしてもいいよ」
しかし和樹は、真摯な目で言い放つ。
「いや……見届ける。洋介のために」
「……そう」
ブチブチと糸状のものが切れていく音がする。先生はデスクの両端を握り締めて、必死に耐えていた。声を出さぬように。今までの自分の罪を、噛みしめるかのように。
「……さようなら」
暫くの沈黙の後、ヨシオがポツリと呟いた。それと同時に、糸の来れた操り人形のようにドサリと床に倒れる先生の體。
ヨシオはデスクの上に転がっている目玉を抓んで、ペロリと舐めた。
「……しょっぱい」
その一言ののち、口に放り込まれた目玉は、ブチュリと音を立てて潰れた。
……ゆっくりと開いた目に飛び込んで来たのは、真っ白な天井。
洋介が顔を横に向けると、そこには和樹と優弥の姿があった。
「洋介!!」
「よかったぁ……目、覚めたんだね」
安堵する二人に、洋介は久しく口を動かした。
「先生……は、やっぱ」
その言葉に、二人は俯く。二人の後ろに立っていた泰葉は、洋介の元へ行くと、口を開いた。
「……ヨシオ君は、僕の依頼を果たしたよ。でも……先生は、本望だったみたい」
「……死ぬのが?」
「洋介君と、最後は両想いになれたって。ほんの一瞬でも、嬉しかったって」
「……っはは、人にバカバカ言っておいて、あいつが一番バカじゃん……」
「洋介君……」
洋介の瞳からは、ポロポロと涙が零れていた。止まらない涙に、堰を切ったように洋介は嗚咽をあげて泣き始めた。
三人は、優しく洋介を慰めていた──……
『どうでした? 初仕事』
『んー……』
そんな病室の窓の外、五階の高さに浮く花子とヨシオ。ヨシオは窓の縁に肘をついて、無表情な顔をしていた。
『……人間って、難しいなって』
『そうですね。個々が違いますから』
『洋介、自殺とかしないだろうな……?』
『それは貴方の管轄外ですよ。自殺は……自分を生かすか殺すかは、その人の自由です』
『僕らみたいに、殺されたり事故だったり……戦争だったりじゃなければ、か』
『……そうですね』
花子は真顔で呟いた。ヨシオは相変わらず、ボーッと4人を見ている。
『……もう僕の仕事は終わりだ。行こう、花子さん』
『ええ、帰りましょう。私達の居場所に……』
二人は手を繋ぐと、ふっと姿を消した。
ふと窓の外に視線を逸らした洋介。彼には、微笑む二人が見えたのかもしれない……
ー 終幕 ー
学校の七不思議と七人の幽霊
載せない方が良かったかなー、って再度読んで思いました。
なんか胸糞悪いですね、この話。自分で書いたんだろwwwとツッコミたくもなりますが。
今も多分先生から生徒に対するセクハラ、性的暴行ってありますよね。
まあ私はそんな経験ないですけど(笑)あったらこんな話書かないか。
これはまあ、私の妄想から生まれた産物なのでBLになってますけど、やっぱり女の子ってそういう被害に遭う確率高いんでしょうね。
その他の事件も含めて、もっといろんな人が平和に暮らせる社会がくればいいのに。
多分、これは一生叶わないでしょうね。人間の欲というものがある限り。