奇想詩『無重力ゴリラ』
「そう、何度も言うが、それはまさしくゴリラだった!」
(ピエール・ブール『猿の惑星』)
ゴリラだけ重力がなくなって
空がゴリラだらけになったのは
いったいいつからなのだろうか
初めて目にした時
黒い風船か何かが
浮かんでいるのかと思ったのだが
よく見るとそれはゴリラだった
その日から空に浮かぶ無重力ゴリラの数は
少しずつ確実に増えていった
こうしてみると世界には思ったよりも
ゴリラがいるようで
なんとなく安心した
ある朝
空中ゴリラ占拠率を知らせる
ゴリラ天気予報を見ていたら
僕のアパートのベランダに
一頭のゴリラが空からゆっくりと降りてきた
こんなことは初めてだった
ゴリラがベランダの引き戸をガラガラと開けて
部屋に入ってきた
リビングのソファーに腰掛けると
ソファーが壊れてしまいそうなくらい傾いた
それからゴリラが話し始めた
「わたしたちはただただ何の気なしに
空に浮かんでいるわけではありません
あなたたちが空中ゴリラ占拠率を知りたがるように
わたしたちも地表人間占拠率を調べているのです
わたしたち無重力ゴリラは
あなたたちの中にいる無重力人間を探しています
そしてここにいるあなたがそうなのではないか
というのがわたしたちの見解です」
ゴリラの言っていることが
僕にはさっぱりわからなかった
僕がぽかんとしていると
ゴリラが僕の腕をつかんでベランダに連れ出した
すると突然ゴリラがベランダの外側へ
紙飛行機でも飛ばすみたいに
僕を軽々と放り投げた
僕は死んだと思った
目を開けると
ゴリラの背中に乗って空高く翔んでいた
ネバーエンディングストーリーだった
無重力ゴリラたちが雁のように
V字編隊を組んで飛行しているところに
ゴリラと僕は合流した
〝飛べないゴリラはただのゴリラ〟
僕はそんなくだらないことを考えながら
小さくなっていく街並みを眺めていた
ほんとうに僕が
無重力ゴリラたちの求めている
無重力人間なのかどうかは
わからない
たぶん違うだろう
それにしても夕日がきれいだ
その日の空中ゴリラ占拠率は
人間の割合が1%だけ増えていた
奇想詩『無重力ゴリラ』
〈あとがき〉
天竺鼠・川原の
「ゴリラだけ重力がなくなったら空がゴリラだらけになるのにな」
というフレーズに触発されて書いた作品です。