奇想詩『教会のある町(あるいは剥製にされた猫たちの夢)』
僕の住む町には小さな教会がある
平日の昼下がりの散歩のついでに
誰もいないひっそりとした教会に行くのが
僕のささやかな日課だ
教会に入ると中は
ステンドグラス越しの陽の光で満たされている
光線の一本ずつにきちんと埃が舞っている
靴音や服の擦れる音が必要以上に響く
けれども誰にも文句は言われない
いつもどおりだ
僕はお祈り用の長椅子に座る
足置きを下ろしてそこにひざまずく
でたらめに世界の平和を祈って
でたらめに顔の前で十字をきる
隅の方に懺悔室があって
僕は司祭用の小部屋に入る
それからしばらくすると神父がやってくる
神父は懺悔室の中にいる僕には気づいていない
あるいは気づいていないふりをしている
神父はそうすることに慣れているように見える
神父が懺悔室の懺悔側の小部屋に入る
あまり上手とは言えない日本語で
神父が優しい声で懺悔を始める
シュヨ ワタシハ ネコヲ コロシテイマス
ナンビキモ ナンビキモ コロシテイマス
キノウモ キョウカイニ トドケラレタ
ステネコヲ コロシマシタ
アシタモ ネコヲ コロシマス
オユルシ クダサイ
エイメン
神父はきちんと十字をきり
小部屋から静かに出ていく
神父が暮らしいている司祭館には
大小さまざまな猫の剥製が飾られている
神父は安楽椅子で穏やかな午睡をとる
神父は剥製にされた猫たちと夢の中で戯れる
剥製にされた猫たちは
神父を喰いちぎる夢を見続けている
奇想詩『教会のある町(あるいは剥製にされた猫たちの夢)』