奇想詩『キャトルミューティレーション・ブルース』

奇想詩『キャトルミューティレーション・ブルース』

「あの、手ざわりのやわらかい聖書の一ページが、他のどんな書物よりも、吸取りがよく尻を拭くのに適しているということを知るまでには、それ相当の時間がかかる」
(寺山修司『さかさま世界史 怪物伝』)

信じてもらえねぇかもしんねぇが


おれはいっつも気づかねぇうちに


宇宙人どもに連れていかれちまってるんだ


そりゃあ女房のほうがおっかねぇけど


あいつらもじゅうぶんおっかねぇ


なんであいつらはおればっかり狙うんだ?


もしかしたらおれが毎日


聖書でケツ拭いてるからか?


教会でファーザーにもらったはいいけども


おれは字が読めねぇから捨てちまうよりは


せめてチリ紙にして


ケツくらい拭いておかねぇと


ジーザスに悪いからな


アーメン


信じてもらえねぇかもしんねぇが


おれはいっつも気づかねぇうちに


宇宙人どもになにかを


埋め込まれちまってるんだ


それがスーパーマーケットの


防犯ゲートに反応しやがるから


なんにも盗んじゃいねぇのに


そこのうすのろ店長に叱られちまうんだ


酒場のやつらはおれのことを


クレイジーだと言いやがる


しょんべんみてぇな安酒呑んでる


てめぇらのほうが


よっぽどインセインだってのによ


信じてもらえねぇかもしんねぇが


このまえ風呂場で女房にバレねぇように


マスかいてたらよ


気づいたらまたあいつらに


連れていかれちまっててよ


その拍子におれのスペルマが


あいつらの一人にかかっちまって


そいつがドロっと溶けちまったんだ


それからだよ


あいつらがおれを狙わなくなったのは


でもよ


最近は黒い背広野郎が


おれんちのまわりをうろついてんだ


どうせ気のちいせぇ聖書のセールスマンだろ


今度おれんちにきたら


ケツの拭き方を教えてやらぁ

奇想詩『キャトルミューティレーション・ブルース』

奇想詩『キャトルミューティレーション・ブルース』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-04-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted