ぼくんち
ぼくんち
西原理恵子「ぼくんち」
これは本当に名作だなぁと思う。何度見てもそう思う。
物語は中学生くらいの男の子、一太、弟の小学校低学年くらいの男の子、二太の兄弟とその家族、まわりの人々の話になっている。
彼らの家庭環境は複雑だ。男を作ってはすぐいなくなる母親。そういう生活を繰り返す人だから兄弟の父親はそれぞれ違う人。兄弟は、銅線を拾ってきて売ったり、ゼッケン貼りのアルバイトをしたりして兄弟力を合わせ、何とか食べている。学校へは行っていない。
あるとき、母親が20歳前くらいの女の子を連れて帰ってくる。お前達のお姉ちゃんやでと言われ、二太は「普通は妹作ってくるんとちがうん?何で姉ちゃんやねん」という。まあそういう家庭なのである。姉の神子(かのこ)はそれまではピンサロにいたという。
つかの間の4人での生活。お姉ちゃんは優しく兄弟の面倒を見てくれた。ところが、またお母ちゃんがいなくなった。また男を作ったのだ。それに家の権利書まで持ち出したため、神子と兄弟は家から追い出されることになった。神子は彼らを養うために、またピンサロに勤める。
一太はお姉ちゃんがピンサロで働くのは嫌だった。自分でお金を稼ぐためにトルエンを盗み、町一番の不良のこういちくんのシマに参入してしまう。で、彼からしめられしまう。それが縁でこういちくんの舎弟になり、自立していく。彼は社会の底辺にいる人々の狡猾さや悲哀を見たり、初恋をしたりして、大人になっていく。
一方の二太も鉄くずを売っている鉄じいや、シャブ中の父親を持つさおりちゃんとの交流を通して、成長していく。
さおりちゃんは言う。
「うちは神様はいると思うで。ただし、うちらの町の山の上の金持ち専用のな。せやから金持ちは何をやってもうまくいくんや。神様のおらん貧乏人が何かしようと思たら、自分の力でせなあかん。けどやっぱり神様がおらんから何をやってもうまくいかん。うちのお父ちゃんみたいにな」
幼いながらもさおりちゃんにはお父さんの死期が近いことを悟っている。二太もだ。でも何もできない。瀕死のお父さんの横で、さおりちゃんは現実逃避し、眠ることしかできない。二太は幼いけれど、男だった。さおりちゃんを守ろうとするのだ。さおりちゃんのお父さんの死を看取ったあと、さおりちゃんにいう。
「今な。さおりちゃんのお父さん死んだで。さおりちゃんは寝てたから気がつかんでもしかたないけど。ぼくな、死にかかってるて、見ててわかってたけど、何にもせんかった。ぼく、おとうちゃんを見殺しにしてしもた。ごめんな」
世間一般から見たら最低の生活している人たちかもしれない。まっとうに働くこともせず、いやそういう機会に恵まれなかっただけなのかもしれないが、騙し騙されるような残酷な現実の中でも、彼らにも意地があり、人情がある。精一杯生きようとする彼らの姿はたくましく美しい。
最後の結末は悲惨だ。神子たち姉兄弟はバラバラになってしまう。神子は働くことに疲れ、二太を親戚にあずけることにする。一太は消息もわからなくなる。二太は親戚のおじさんに引き取られていくとき、泣かない。強い子なのだ。
人間の価値って一体なんなのかなと思う。外から見えるものだけでははかれない。泥をすするような生活をしてても、どこか一本筋の通っている人に私は惹かれる。
「ぼくんち」は甘くない漫画である。でもすごく泣ける。
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