者思い

{鈍}

「立海さん」

可愛らしい優しい声に名前を呼ばれた、帰りの準備の手を止めて振り返る

「どうした愛由」
この声は間違えようが無い、クラスメイトの愛由だ。

「あの……今日って」
一ヶ月に1、2回ある会話のようだ、俺はお決まりの答えを返す
「用事はねぇぞ、どっか買い物か?」
愛由もお決まりの返答をしてくる
「じゃあ先に校門に行ってますね」

そう言って愛由は教室から小走りで出て行った。
 周りにいた女子達が一斉にヒソヒソと話始めた

俺は準備の手を止めて少しだけ盗み聞きをした

「いよいよかもね」
「でも立海君も鈍感よねぇ」

ヒソヒソ話はいい、それはいいのだが一つだけ否定させてもらう。


俺は鈍感じゃない!

心の中で一言叫んで準備を再開すると友達の平片が振り返り話しかけて来た。
「また勘違いされているね鈍感だってさ」
こいつだけだ、平片だけが俺の状況を分かってくれている。

俺はため息を一回ついて言った
「どうすりゃいいんだろうか」
平片は苦笑いを浮かべて
「さすがに分からないよ、その立場に立った立海がわからないんじゃあね、とりあえず行ってみたら?解決するかもよ」
「そうだな、ありがとう」
そう言って俺は校門に向かって歩いて行った。


愛由と向かったのはこれまたお決まりの商店街
「すみません、いつも来てもらって」
愛由が遠慮がちに誤ってくる
「いいって、俺も楽しいしな」
これは本音、愛由といるのは楽しい、好きという感情なのかはいつもこの時点ではハッキリと言えない……

そんな会話をしながら買い物をした帰り道、愛由がいつもの時間いつもの場所でいつものセリフを言った。

「あの……ちょっと公園で休みませんか?」
俺もいつもの返答を返す
「ああ、少し休もうか」
俺達はいつものようにベンチに二人で座った、沈黙が流れる。

愛由は何度も何か言いたそうにこちらを見ている、わかっている、
 うぬぼれでは無いし自慢するつもりも無いが分かっている、愛由は俺に告白をするつもりなのだ。

何度もこの状況に俺は立っている、しかしいつもこのまま解散となる、その度に俺、立海は鈍感男だ、という噂が流れる。
何度でもいう、俺は鈍感じゃない、愛由の気持ちには気づいている、愛由の友達からもさりげなく(さりげなく無いが)伝えられている。
だが気づいたからなんだというのだ、俺にどうしろというのだ。

愛由が告白してきたら付き合うつもりだ、いやむしろ付き合いたい、でも完全に好きという感情を抱いたわけでもない。
俺はこの純粋無垢な愛由に嘘をつきたくは無い、わがままなのは分かっている、俺の自分勝手な理想を愛由に押し付けているのも分かっている、でも


告白するのには相当な覚悟と勇気がいる、相手の好意が分かったところでそんなに変わる物ではない、むしろ後者の方が失敗した時のダメージは強い。

いや、それはいいわけだ、俺に{意気地}が無いだけ、俺はまだ恋愛に対して{未熟}なのだ

そんなわけでこんな友達以上恋人未満の関係が約1年続いている、愛由が俺のどこを好きなのか、いや好きなのかもわからない、不安になってきた。

お互いに沈黙を破らずに数十分、いつものように自然に解散となった。
愛由は最後にいつも丁寧にお礼を言ってくる、背が低いため自然と上目遣いに近い形になる、この瞬間なら言える、好きだ。
でも愛由はすぐに走り去ってしまう、なにかを振り払うように。


離れていく愛由の背中を見ながらため息をついた。

愛由と俺の関係が変わるのはもう少し先になりそうだ、人は{鈍い}{鈍感}だと言うだろう。

それでもいい、俺達は俺達なりにゆっくり進んでいけばいい、それがどんな結果にたどり着くにしても……

{愛}

いつもの終礼の時間、私は精一杯勇気を振り絞ってようやく一言話せた。

「立海さん」
クラスメイトで私の思い人、立海さんがこちらを振り向いて

「どうした愛由」

その後は夢中というより無心で立海さんを買い物に誘った。

「先に校門に行ってますね」
私はそう言って小走りで教室から出た。

校門まで走った、心臓が張り裂けそうなほどに鳴っている、走ったせいでは無いはず。


この数ヵ月何度立海さんを買い物に誘っただろう、その度に告白しようと思っているのだけど、結局なにも言えずに終わってしまう。


「おまたせ」
いきなり肩を叩かれて声も出ないほどに驚いてしまった、振り向くと立海さんが笑っていた。
 私が怒る事も忘れてその笑い顔に見蕩れていると笑いを抑えながら立海さんが口を開く。

「で、今日はどこ行くんだ?」

「えと、父の誕生日なので、その、なにがいいかなって」
嘘では無い、父の誕生日が近いのは本当だ、最終的には立海さんを誘う口実でしかないのだけど。

「そっか、とりあえずいつもの商店街でいいか?」

「あ、はい」
そう言って歩いていく立海さんの後ろについていく。


立海さんと買い物をしているといつもは出せない自分が自然に出てくる、恥ずかしさも忘れる程に落ち着く。

「これなんかどうだ?」
そういって立海さんはいくつかの小物を並べた、私はその中から父が好きそうなデザインのマグカップを手に取る。

ぴったりの物が見つかったのが嬉しかったのも本当だけどそれ以上に立海さんが私の為にこんなに探してきてくれた事を思って自然に笑顔が出てくる。

「これにします」
笑顔で答えた瞬間立海さんが一瞬目をそらした気がした。


商店街からの帰り道、途中まで方向が同じなので一緒に人気の少ない道を歩いていく。

しばらく歩いた先に人気の無い公園が見えた、私はいつもここで立海さんに告白をしようと思っている。

何回も心のなかで復唱してから声に出す。

「あの……ちょっと公園で休みませんか?」

立海さんがいつものように答えをくれる
「ああ、少し休もうか」

二人でベンチに座る、沈黙が流れる。

私は何度も口を開こうとするが動かない、さっきまで本当の自分を出せていたのにこの状況になるとまた戻ってしまう。

立海さんはただ黙って周りの景色を見ている、待ってくれているのだろうか、私の心に気づいているんじゃないだろうか、一瞬そんな予想が頭をよぎる。

私はその考えをすぐに捨てた、立海さんは鈍感、なぜ私が立海さんに恋をしている事を知っているのかはわからないけどこの私達の関係を見てみんな、とくにクラスの女子は口を揃えて言う
  立海さんは鈍感だと。


私が一言、ただ一言いえば立海さんも気づいてくれる、でも勇気がでない、断られたら、もしこの関係が崩れて立海さんと話すことすらできなくなったら、そんな考えばかりが頭をよぎる。


こうして今日も告白はできないまま解散となった、最後にお礼を言う。

「ありがとうございました」
頭を上げると立海さんと目が合う、立海さんが目をそらした後なにか言おうとする。

私はもう一度頭を下げると分かれ道の方向に走り出した。

今立海さんが言おうとした事が何かはわからない、でも立海さんの一言でこの関係が壊れてしまうんじゃないか、そう思うと自然と足が動いてしまう。


そのまま家に帰って自室のベッドに寝転ぶ。

「なんで言えないかなぁ、私」
うつ伏せになって枕に顔を埋めて目を閉じる、立海さんの顔が次々に浮かんでくる、それと同時に自然と涙が出てくる。


「なんで、なんで言えないの」
消え入りそうなつぶやきにもならないような声で何度も言う。

私は立海さんのことが好き、それはこれからも変わらない、でも断られてしまうのなら、今の友達以上恋人未満の関係でもいいかなって思ってしまう。


数分間泣いた後日記を書き始める。



今日は立海さんに父のプレゼント探しを手伝ってもらった、いつものように楽しかった、

そんな内容を書いたあともう一つの違うノートを取り出して書き始める


 今日も告白できなかった、でも気持ちは日を重ねる事に募っていく、
こちらにはそんな内容の文章を書く

現状を維持したい自分、告白して決着を付けたい自分、これだけは立海さんと買い物をしている時でも本当がわからない。

{本当に自分がしたいことをすればいい}

心のなかで何度もその言葉を復唱する。



本当にしたいこと、それが見つかるのはまだまだ先の話だと思う、私一人じゃ何日かかるかわからない、
  それでもいい、本当にしたいこと、それが見つかるまで私は何もできないはず。


それで、いいのだろうか

{視}

1・弓{平片}


「とりあえず行ってみたら?解決するかもよ」

僕、平片は友人の立海にそう助言した。

「そうだな、ありがとう」
そう言って立海は教室を出て行った。


解決するかも、僕はそう嘘をついてしまった。

あの二人がこうやって一緒に買い物に行くのは何度目だろうか、翌日決まって複雑な顔をして登校してくる、失敗のサインだ。

「なんだかもどかしいなぁ」

僕は成り行きで彼らが両思いに近い関係だということを知っている、でも僕がそれを伝えるわけにはいかない。

僕はどちらかがその口で告白すべきだと思っている、でも最近彼らの関係が少しずつ離れていくのを感じている。


「どうにかしなくちゃ」
僕は小さく呟いて教室を出た。


あくまで僕は舞台を用意するだけ、告白するかは、彼ら次第だ。

廊下を歩いていると

「またお手柄だったみたいね、キューくん」
後ろから声がした。

「その呼び方はやめてよ」
僕を昔のあだ名で呼んだのは、僕の彼女の遥花だ。


「いいじゃない、久しぶりにやってるの?」
僕は苦笑いで答えた。
「今回は難関だけどね」

「キューくんが難関だなんて難しいね」
遥花がいたずらっぽく言った。

「僕だって万能じゃないさ、帰ろっか」
そう言って行こうとした僕の手を遥花の手が掴んだ。

「どうしたの?」
僕が振り返ってそう言うと遥花は少し恥ずかしそうに

「あの、最近色々あって会えなかったし、ね」
時たま見せるこの表情が僕は好きだ、僕は笑いながら手を握り返した。

「わかったよ、じゃあ行こう」

そういって再び廊下を歩き始めた。


しばらく進んだ後遥花が聞いてきた。
「今回の人ってそんなに難しいの?」
僕は苦笑いで答える
「うん、後一歩なんだけどね、本当にあと少しなのに」

遥花は僕の顔を覗き込んで

「キューくんがまた恋のサポートをはじめるなんてね、どんな経緯で?」
「簡単な話、その男側が僕の親友ってだけ」

その後少し考えた素振りを見せてから遥花は言った。

「ねえ、私も手伝ったらだめかな?」

「え?」
予想外の言葉に裏声で聞き返してしまった。

「だから手伝いたいの」

「いいけど、珍しいね」
「そうかな?いいじゃない、私の気まぐれなんだから」
「僕としても遥花と一緒にできるのは嬉しいしね」

そう言うと遥花はすごくご機嫌になった。
「嬉しいこと言うじゃない、キューくんったら」

ちなみに遥花と僕は一学年違い、遥花の方が一切年上だ。


学校を出て遥花と僕の家の分かれ道についた、いつもどうり僕が遥花の道の方向に行こうとしたが何かに引っ張られた。

引っ張られた方向を振り向くと遥花が驚いた表情でこちらを見ている。

「どこ行くのキューくん?」

「どこって、いつも通り送るよ」
僕がそう言うと遥花が少し顔を赤くして言った。

「私も手伝うって言ったじゃない、キューくんの家で話聞かせてよ」

「あ、ああわかったよ」
そう答えながら僕の顔が少し熱くなるのを感じた。




2・買い物の後{立海}


あの買い物の数日後、木曜日の登校中に平片に話しかけられた。

「その顔はダメだったね」
俺は溜息をついて
「わかるか?進展無しだ」

平片はその返答を既にわかっていたようで、すぐに返してきた

「立海、今日放課後ヒマ?」
「ああ、ヒマだけど、なんだ?」
平片はいきなり真剣な顔つきになって俺の目を見つめて

「ちょっと話があるんだ、白羽さんの事で」

白羽というのは愛由の苗字だ、それにしても
「お前の真剣な顔って初めて見た気がするな」

そう言うと平片はすぐにいつも通りの顔に戻って
「そうかな?じゃあ放課後空けといてね」
「あ、ああ」

いきなり変わった平片の表情に驚きながら俺は承諾した。


その日の授業、俺は愛由の事ばかり考えていた。

俺は少し前の席にいる愛由を見てしまっていた、綺麗に整えられた短めの髪、可愛らしい小さい顔……
 そこまで考えて俺は思考を止めた、これでは愛由の外見が好きみたいじゃないか。

愛由の外見では無い魅力を考えようとして俺は気がついた、俺、今愛由の事を好きって考えなかったか?

その先を考えようとした瞬間授業終了のチャイムが鳴った、俺の思考はそこで止まってしまった。




3・買い物の後{愛由}


立海さんとのお買い物の数日後、水曜日の放課後、私は学校近くの喫茶店にいた。

私はチーズケーキを、私をここに誘ってくださった先輩の遥花さんはフルーツパフェを頼んだ。


遥花さんがパフェを食べながら話しかけてきた。

「あゆっちってさ、恋とかしてる?」
突然の質問に私は喉を詰まらせた。

「ありゃりゃ、大丈夫?」
遥花さんが水を私に差し出してくれた。

私は水で喉のつっかえをとって

「いきなり何言うんですか」
遥花さんは笑って
「ごめん、で、どうなのよ? 好きな人とかいるの?」
私はちょっと考えて
「はい、います」

遥花さんはイタズラな顔をして
「誰よ、その人」

私は顔が赤くなるのを感じながら

「あの、クラスメイトの人です」

「あゆっちの事だからその人の前じゃあ喋れなかったりするんじゃないの?」

その言葉を聞いて私は心を決めた

「あの、遥花さん、少し相談があります」

遥花さんは待っていたかのように笑って言った
「いいわよ、話してみなさい」



4・喫茶店で{愛由}

私は立海さんの事が好きだということ、なかなか告白できない事、そして立海さんが迷惑なんじゃないかと思っていることを話した。

遥花さんは話しやすいように何度も頷いてくれ、話が終わると同時に口を開いた。

「まず聞くわ、あゆっちはその子のことが本当に好きなの?」
私は自分でも驚く声とスピードで返答していた。

「好きです、大好きです!」
言ったあとに気づいて顔が赤くなる。
「その、すいません、大声出して」

私が小さい声でそう言うと遥花さんは満足そうな顔をして
「そこまで言えるならいいじゃない、一回告っちゃえ」

「え、ええ、無理ですよ、何度も無理でしたし……」
私は大げさに手を振った。

「そう? じゃあ先輩として私が一肌脱ぐわ」
私は身を乗り出して
「ほ、本当ですか!」

遥花さんは驚いた様子で
「お、落ち着いて」
私は椅子に座って
「すいません」


「まあ、私がするのはセッティング、最終的に気持ちを伝えるのはあゆっちよ」
 遥花さんはそう言ってウインクをした。



5・飲食店で{平片}

僕は立海を連れて近くのファーストフード店に来ていた。

どっちにも食事が運ばれてきた時点で立海が口を開いた。

「で、話ってなんだよ」
僕は頼んだハンバーガーを一口かじって
「立海はさ、白羽さんの事どう思ってるの?」

立海が焦った様子で
「何って、なんだよ」

「じゃあもっと簡単に聞くね、立海は白羽さんのことが好きなのか?」
立海が少し黙って言いにくそうに
「好きだよ、完全にわかったわけじゃないけどさ」

僕は食べていたハンバーガーをおいて精一杯に真剣な顔を作って
「僕は立海の態度、白羽さんに合わせているように見えてもおかしくないと思うよ」

立海が驚いた顔で固まった、構わず僕は続けた。

「白羽さんのような性格なら尚更だ、立海が迷惑がってるんじゃないかって思っていても不思議じゃない」


そこまで言って僕は顔を戻して飲み物を飲んで
「まあ、あくまで僕の意見なんだけどね」

また嘘をついた、大げさにはしたけど根本は遥花が聞いてきてくれた白羽さんの本音だ。


立海はしばらくしてから
「そう、なのかな」
僕は最後の一撃、遥花と決めた決め台詞を言った。

「僕でよかったら一肌脱ぐよ」

立海は遠慮がちに
「いいのか?」

僕は得意げな顔を作って
「でも最後に決めるのは、立海だよ」

そう言って僕は残りのハンバーガーを食べ尽くした。




6・Love monday morning{遥花}

朝、私は起きてすぐにキューくんに連絡をした

「もしもし?遥花?」
キューくんが眠そうな声が聞こえた。
「あれ?キューくんもしかして寝てた?」
「いや、ちょっと前に起きてた」

「キューくん、準備できてる?」
「ああ、ばっちりさ、じゃあ今から行くよ」

そう言ってキューくんは電話を切った、数分後にキューくんが迎えに来た。

「ごめんね、待たせたかい?」
私は首を振って

「なんだか緊張するね」
「大丈夫さ、先生にも許可をとってある」

キューくんは得意げな顔でそう言った。




7・Love monday afternoon{立海}

「立海」
平片が俺の名前を呼んだ、
「なんだ」
俺が何気なしに振り返ると平片がニヤついている。
「なんだよ」

そう言うと平片は更にニヤついて
「頑張りなよ」
そう言って平片は教室から出て行った。

俺は寝ているふりをして一人で少し前の事を思い出した。


金曜日のことだ

「でも最後に決めるのは、立海だよ」
そういって平片は残りのハンバーガーを食べた。

俺は飲み物を飲み干して言った
「どういう風に一肌脱いでくれんだ?」

平片は少し考える素振りをして言った。

「まあ、いい雰囲気にしといてあげるよ、月曜日の放課後にね」
そう言って平片は残りの飲み物を飲み干した。



月曜日、今だ。
「頑張らなきゃな」
俺はそう言って愛由の方を向いたら愛由と目が合った、俺は咄嗟にまた寝たふりをした。


顔がすごく熱い、おそらく真っ赤だろう。

俺はそう感じながらもチラチラと愛由を見てしまっていた。



8・Love monday night{愛由}


放課後、私は平片さん、遥花さん、そして立海さんと教室で作業をしていた。

遥花さんが申し訳なさそうに
「ごめんね、手伝わせて」

私達は生徒会の遥花さんの仕事を手伝っている、これが遥花さんが言っていたものなのだろう。

「いや、別にいいよ、ね、立海」

「あ、ああ」
クラスメイトの平片さんは遥花さんの彼氏らしい、でも

(なぜ立海さんまでいるのでしょう、どうやって?)

そう考えようとした時に遥花さんが声を出した。

「あれ?木材は?」
平片さんが答える
「え?もう全部無いと思うけど?」
「本当?」
そういって探すふりをしながら遥花さんは私にウインクをした、開始の合図だ。

遥花さんが平片さんに何かを告げた、しばらくして遥花さんが言った。


「ちょっと木材買ってくるわ、こんな時間だから結構かかりそうだから二人共休んでて」
そう言って遥花さんが近づいてきた。

「頑張んなさいよ、二時間後に帰ってくるわ」
そう言って二人は教室を出て行った。


教室に沈黙が流れる。


大体二十分が過ぎたころ、沈黙を破ったのは立海さんだった。


「愛由」
「は、はい」
緊張で声が高くなってしまった。
「ちょっと俺飲み物買ってくる、何がいい?」
「あの、じゃあ緑茶で」
「了解」

そう言って立海さんは逃げるように教室を出て行った。



しばらくして立海さんが帰ってきて、さらに十分が過ぎた時に私は決心した。

「あの、立海さん!」
思った以上に大きな声が出た、立海さんが驚いた表情でこっちを見た、心なしか顔が赤い気がする。


「あの、私」
それから一分程の間

「あ、う、あ、あの、私、立海さんの、その、」
立海さんが完全に固まっていたが私は気にせずに続けた。

「立海さんのことが、頭から離れないんです!」
一回言ってしまうとあとはどんどん出てきた。

「授業中も、休み時間も、家に帰っても、立海さんのことばっかり考えてしまうんです!」

約三十秒の沈黙の後、立海さんが口を開いた。


「その、俺も、だ」
立海さんが真っ直ぐ目を見てきた、恥ずかしくて火が出そうだった。

それからのやく一時間半、私達は少しだけ、ほんの少しだけ手だけを触れ合って黙っていた。



9・Love?tuesday{平片}


あの月曜日の夜、遥花からすべて聞いた、遥花はうまく白羽さんから聞き出したようだ。

火曜日の朝、登校中の立海を見つけた僕は肩を掴んで言った

「全部聞いたよ?立海くん」
僕はびっくりした、立海の顔はあの複雑な顔だったのだ。

立海は少し間を置いて
「立海、学校に行ったら相談がある」

「いいけど」
早速喧嘩か、それともデートの計画かな、そんな考えはすべて間違っていた。



向き合った立海から出た言葉は今までのすべてを吹き飛ばすような言葉だった。



「俺と愛由って、付き合ってるって事でいいのかな? 告白、されたのかな?」

僕は大きな溜息をついて言った。

「前言撤回、君は完全に、鈍感だ」

者思い

者思い

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-30

Copyrighted
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Copyrighted
  1. {鈍}
  2. {愛}
  3. {視}