ひとひ
ブーツの金具が拍子をとって
革靴とピンヒールが歌いだす
白い一等星がぼやけていく
オリオン座が遠のいていく
だから春は怖いのだ
黄砂をかぶったフロントガラスが泣いていた
足の裏に力を込める方法を
忘れそうだから怖いのだと
肌を刺す風のなかで 一羽
電線の鳥が鳴き続けている
日向ぼっこしていた黒猫が
ふらりどこかへ歩いていく
絵を描きたいと思った
想像のパレットから作った色で
格子形のワイヤーを染めるのだ
あかく沈む太陽を縁取って
切り抜く真似をしたいから
フロントガラスはまだ泣いている
砂利の端で フキノトウが咲いている
春は歌いだす
存在を問いただすように
春を歌いだす
ひとひ