「りんご」
鱗のような胸間
しづく滴るあおみの身体
ぬばたまの艶めける御髪湖面にたゆたいて戯ぶ
姫神よ 水神よ
真白き頬に紅の熱たばしりて
涼しき瞳 つめたき眦 何ものをも疑わぬ心の露わなるぞ
やさしきぬくき御手をのばし
わたくしのささくれ立った十本の指先をお包みなさりて
わたくしの胸元に居た小さなりんごが
ころんと青草に横たわり
わたくしの膝元から離れないで居た
「いい子だねえ、ほらちょっとだけおいで。」
りんごは誰に引っ張られるでもなく
ふあふあと自ら宙に遊んで
莟の御くちびるの慈しみをいただけり
「お花やさんに居た子だね。」
花のみ言葉は清廉な薫りをわたくしに孕ませて
わたくしは玉の如くなめらかになった指先をもって手のひらほどなりんごを胸に抱き
湖面の月に かしづいた
手毬の面影小さなりんごは今でもぬくいまま
消えぬ蛍 溶けぬ真綿の雪となって
わたくしが頭で戯れり
「りんご」