カメラの死神

零頁 始まりの時

雨が降っている。
そこには、壊れた町と一人の少年が倒れていた。
体が冷たい。
ここはどこだ?
意識も朦朧としている。
思考することも儘ならない。
体全体がギシギシととても痛い。
ただこうして雨に打たれることしか出来ない。
すぐ側には女の子っぽい人が、僕を見下ろしているように感じる。
僕はその人に殺されるのかなと思いながら、瞳を閉じた。

     ★

明治五年アメリカより、あるカメラが輸入された。
そのカメラに撮られた人は、一週間後突然死ぬという不可解なことが起こっていた。
そしてそのカメラの所有者が分かった時、その所有者もすぐに死んだ。
そしてその事件は「カメラ突然死怪奇事件」と言わた。
その事件後カメラの消息も途絶えた。

     ☆

そして月日が経ち、平成二十五年になった。
「カメラ突然死怪奇事件」も忘れられ、平穏な日々が続いていた。
ここは東京都、月ノ宮学園。
ここに再び呪われたカメラを手にする男が現れた。



僕の名前はユーネルト・ロアノス。月ノ宮学園の二年生だ。
ある日、僕は学園を終え家に帰宅しポストを開けると、一台のカメラが置かれていた。

「何だ、これ?」

僕は不思議に思いながらそのカメラを取り出して、部屋に入った。

「誰からだ?こんな物頼んだ覚えはないが・・・」

カメラの見た目は、高そうな一眼レフだが、所々キズがあり、少し年季がはいっているように見える。

「まぁいっか」

僕はカメラを机に置いて夕食の準備をし始めた。
今は十一月下旬。指が上手く動かせないくらい寒い。
幼馴染みの香織は、風邪を引かないようにとカイロを幾つも渡してくるが、正直言ってもう要らないetc.
そんなこと考えながら夕食を作り終えた。

「本当にこのカメラ何処からきたんだ?誰か間違えて入れたのかな?」

僕は夕飯を食べながら、郵便受けにあったカメラについて考えていた。
実際カメラの持ち主なんてどうでもいい。
いつか気付いて取りに来るだろう。
そんな事よりも僕にはやらなくてはならない事がある。
僕は食べ終えた食器を流しに運びPCを起動させた。

     ◆

突然だけど僕の両親は殺された。そして一夜にして僕の血縁者もいなくなった。
七年前の僕の誕生日にケーキをサプライズで作っていた。
両親は僕が学校に行っている間に刺殺され、バラバラにされていた。
そのときの僕は幼かったせいで状況が理解出来なかった。
一つだけ分かるのは犯人は十三人という大人数だった事。
それだけ判っているのに犯人の名前は誰一人分からず、この殺人事件は無条理に闇に消された。
 
それ以来、僕には犯人に対する深い愛情のような復讐心しかなかった。
十三人の殺人鬼を全員コロシたい。
僕が味わった苦しみをお前らに味合わせたい。
オマエラヲハヤクコロシタイ

     ◇

だから僕は復讐するための力をつけてきた。
情報を得る為に学を学び、コロス為に術を身につけた。
そして今やっているのは、クラッキングだ。
僕は週に一回は国連のブラックリストに侵入している。
何故かというと、犯人の情報が全くと言っていい程無いからだ。
両親がコロサれてから七年間ずっと探し続けても、足跡すら見当たらない。
当時も、警察の目を掻い潜り、未解決事件として闇に葬られた所は、やはり伊達ではない。
こうやって説明している間も、ロアノスは様々なセキュリティをくぐり抜けては足跡を消していった。ようやく通り抜け、ディスプレイに情報が表示される。
今回もあまり更新が無いが、一つだけ気になっている情報がある。
それは「タランチュラ」と云われる組織だ。
「タランチュラ」は今年の八月下旬ぐらいに、新しく更新された組織だ。
内容は、

人数  十三人
目的、所在は不明
行動は大規模だが、足取りが全くつかめない。
今までの犯行は、大富豪や株式会社をターゲットにしたものが多い。

と書かれている。
僕はもしかしたら、この組織が僕の相手はでないかと思っている。
七年前のあの事件と酷似している。
両親は金持ちだったし、金融会社でもあった。
この組織がターゲットにしてもおかしくない。

「ふぅー、今日はこんなところか」
そう言って僕は今回の情報収集を終えた。
いつも通り成果はない。
時間もかなり遅いので、今日はもう寝る事にした。

     ■

「ここは・・・何処だ?」

僕は周りをみまわすと、そこは鉄の扉が一つ佇んでいるだけの石壁に包まれた空間だった。
もっと周囲をかくにしようとしたが、動こうとしたと同時に、激しい痛みが僕を襲い、僕は自分の体が拘束されている事に気付いた。

「クッ・・・・これじゃ動けない」

両手を上に一つで纏められ、足にも鎖と鉄球が付けられている。
多分これは夢だろう。
だけど僕はこんな所は見たことがない。
空気が現在の空気と違うし、血と硝煙の匂いが充満している。
夢にしては五感が冴えすぎているが、気にしたらだめだ。
この夢は異常だというが直ぐ分かる。
異常だからこそ、この夢には何かがある。
そう考えていると、鉄の扉が開き軍服を着た男達が入ってきた。
この軍服・・・確か第二次世界大戦時のドイツの軍服だったか?

「オラッ!!いつものやるぞ!!」

男達の中からごっつい男が出てきて、突然怒鳴って意味分からない事を言っている。

「いつもの?・・・何をやるんだ?」

そう質問すると、ごっつい男がいきなり僕の顔を蹴った。

「グッ・・・・」

「口を慎めっ!!生け贄の分際でっ!!」

ごっつい男はそう言ってロアノスの顔を蹴りまくった。
クソッ、めちゃくちゃイテー。
やっとのことで蹴りが止む。

「すみません。自分の事もここが何処なのかも分からなくなってしまって・・・」

僕は今の情報をなるべく手に入れる為に、キレるのを我慢して、記憶喪失者の演技をする。

「なんだ~、とうとうイッちまったか~?」

ごっつい男が見下しながら近ずいてくるが、その間に別の軍服を着た男が入ってきた。
その男は、とても整った顔立ちで気品にも溢れており、特異な中でも特に目立っていた。
まあ、パーフェクト男とでも名付けておこう。

「まあいい。ここが何処かも、自分が何者かも知らぬまま、何かされるのはいろいろと酷だろう。」

パーフェクト男は、両手を広げて高らかに言う。

「ここはドイツのベルリン。そして、お前の名はアルシエル・グランツ・フォン・フリューゲル。我々を勝利へと導く生け贄だ。」

そう聞いた瞬間、僕は自分の体が女の体であることに気付いた。

一頁 僕の日常

アルシエル・グランツ・フォン・フリューゲル
その名前を聞いた途端、周りが暗転し、僕は夢から飛び起きた。

「ッハーッハー、何だ今の夢は・・・」

僕は荒い息を整えながら、さっきの夢を思い返す。
何故か僕の体が女で、第二次世界大戦時のベルリンで生け贄にされていた。訳が分からない。
考え事に耽っていると、突然家のチャイムが鳴った。

「おーい、ユーネルトー、居るかー?」

「ユーちゃん、居たら出てきてー」

この声は、幼馴染みの永原香織と前田賢二だ。
時間を確かめると午前八時頃、約束の時間になっても待ち合わせ場所に来なかったから、心配して来てくれたんだろう。

「悪い、今起きた。ちょっと待っててくれ。ってウワッ!?」

僕はベットから出ようとしたが、力が入らなくてそのまま前のめりになって、ベットから落ちてしまった。

「!?ユーちゃん、どうしたの!?」

「ユーネルト、中に入るぞ」

そう言って香織と賢二は予め渡してある鍵で家に入ってくる。

「よう」

そこには当然、前のめりになってベットから落ちている僕の姿があった。

「どうしたんだ、お前?何かに目覚めたのか?」

賢二が不思議そうに質問してくる。その隣で、香織は安心したのか胸に右手を当てて、フゥーと息を吐く。

「ちょっと力が入らなくてな・・・悪いけど、起こしてくれるか?」

そう言って僕は二人にベットに起こしてもらう。

「ユーちゃん大丈夫?顔真っ青だよ」

香織が僕の顔を心配そうに見てくる。

「まぁ、ドイツ人と日本人のクオーターだからな。元々顔が白いのはお前だって知ってるだろ?」

「うん・・・・」

香織はまだ腑に落ちないようだが、本当の事を言って諭す。
多分いつもの以上に真っ青なのだろう。

「今日は学校休んだ方がいいんじゃない?」

「いいやっ、気合いで何とかしろーー!!」

賢二がいきなり話しに入ってきて燃え出す。コイツはいいヤツなんだが、熱血すぎてたまに燃えるところが、玉に瑕なんだよなぁ。

「少し休んでから、学校に行くよ。だから先に行っててくれ」

「分かった。早く来いよ」

「無理しなくてもいいからね」

そう言って香織と賢二は僕の家を出て行った。



正反対のことを言っていた二人を登校させた後、僕はベットに寝っ転がりながら、さっき見た夢のことを考えていた。
あの時の生々しい感覚、あの感覚は夢というより寧ろ現実、まるで本当にそこに居たような感覚だった。
あの夢は実際にあったことなのだろうか?
だが、第二次世界大戦時のドイツで、生け贄があったなんて聞いたことが無い。
まず第一に、何で僕があんな夢を見たんだ?
そんなどうにもならないことを考えていたら、それなりにいい時間になった。

「もうそろそろ学校に行くか」

今から行けば二時限目終了ぐらいだろうか。
僕はまだ優れない体調のまま自分の家を出た。

     ■

学校の校門に近ずくと、僕のクラスメートのユーベル・シャッテン・フェアデルが校門から出てきた。

「よう、今日はもう帰るのか?」

一応社交として挨拶ぐらいはしておこう。

「そう言うお前は今来たところ?」

「ああ、今朝は調子が悪くてな」

「そう・・・私急いでるからもう行くね」

そう言ってユーベルは僕の横を通り抜けていく。
僕は振り返って、「気を付けて帰れよー」と声を掛けた。

「アハハ、ロアノスの方こそお大事に」

ユーベルは振り返ってそう言って、いよいよ行ってしまった。

「ハァー、僕も行くか」

正直僕はああいうタイプは苦手だ。
彼女の刺々しさはどうでもいいが、あの冷静すぎる性格を相手にするのは面倒だ。
一連の社交を終えた僕は、校門を入って自分の教室に向かった。



そして、僕は自分の教室、つまり二年二組の教室に入る。憶測通り二時限目終了後の休み時間に着いた。
休み時間中なので、誰も僕に気付かない。
・・・・筈だった。
三時限目の準備をしていたら、僕の机の前に人影がゆっくり入ってきた。

「ユーちゃん、大丈夫?」

入ってきた人影は香織だった。香織はまたしても、心配そうに僕の顔を見ていた。

「ああ、大丈夫だよ香織」

本当はあまり良くないが、今はこの心配性を安心させる方が先決だろう。

「良かったー、でも急にどうしたの?」

「ちょっと夢見が悪かっただけだよ」

そう言ったら香織は焦ったような顔をする。

「大丈夫っ、本当に何とも無い?」

「本当に大丈夫だって、何回も言わせるなよ」

「あっ、ごめん」

香織は申し訳なさそうにシュンとしてしまった。
とにかくコイツは、本当に心配性なんだ。こっちの方が、安心させるのに気を付けなきゃいけないから、こうなったら大変だとしか言いようがない。
確か七年前の事件が起こった後だったかな、香織が僕に対して気遣ってくれるようになったのは。
僕は心配性になった香織を見ると、いつも申し訳ないと思った。

     ■

その後、僕は三、四と授業を受け、昼休みになった。
今朝は、夢のこともあって弁当を作る余裕が無かったので、購買でパンを買って、屋上で食べていた。
ついでに、iPhoneでアルシエル・グランツ・フォン・フリューゲルと、第二次世界大戦時のドイツのこと、特に生け贄、国の体制について調べていた。しかし、役に立つ情報は一切無かった。

「やっぱり無いかー、秘密裏に行われてたとしたら普通出なてこないもんなー。それともあれは実際に行われていなかったのか?」

半ば諦め気味に僕は屋上の床に寝っ転がる。
国連にクラックしても、出てくる確証は無い。とういか、現実かどうかも分からないことで、そんな危険を犯したくない、といいのが正直なところだ。
だったらまたあの夢を見るしかないのか?
何故あんな夢を見たのか、どうやってまた見るのかは分からないが、あの夢には今の僕を変える手掛かりがある。僕の直感がそういっている。それがどういった変化なのかわ分からない。しかし、今の状況から進めるなら、僕はどんな所にでも行くつもりだ。
結論が出ると同時に、いきなり屋上の扉がバンッと開いた。

「ここに居たかーーっ!!」

「だから、ここに居るって言っただろ」

その声は、香織と賢二のものだった。
香織はハァハァと肩で息をしている。賢二は半ば呆れているようだ。ちなみに賢二の呼吸は乱れてないようだ。
状況から観ると、香織が僕を探し回っていて、賢二はそれに付き合わさせられたのだろう。
二人を観察していると、香織がこっちにやって来た。

「お前は何処に行っとたんじゃーっ!!」

香織のギャップの違いの変化に驚いただろう。
コイツは心配性だが、普段は強気で、感情の上下が激しいヤツなんだ。

「ずっとここに居たけど」

「ずっと探してたんだけど」

まぁ、見る限りそうだよな、まだ息乱れてるし。

「悪いな、心配させて」

香織の顔がいきなり赤く染まる。

「しっ、心配なんてしてないんだからねっ!!」

加えて香織はちょっとツンだ。

「だいたいアンタは・・・」

「どーでもいいけど、この位置からだと見えるぞ、青色さん」

僕は男として使命感を感じ、それをiPoneで写真に収める。
香織の顔がさらに赤くなる。いわゆるゆでダコ状態だ。
青色さんが震えながら、「ア、アンタってヤツはーっ!!」と言おうとしたが、

「香織っー!!今日は青なのかーっ。いつも赤を履けと言ってるだろー!!」

またしても賢二が突然乱入してくる。
前の説明で何となく分かっていた人もいると思うが、コイツはとにかく熱いものが大好きなんだ。
熱い会話、熱い友情、熱い恋など、熱いがつけばなんでもいいようなヤツだ。
前にどうして赤が好きなのか聞いてみたが、「赤は情熱の赤だろーーっ!!」と燃えていた。
北海道にも部活にスケット参加している熱い生徒会役員がいるが、それよりも熱い。
賢二と青色さんは、今だに言い合っているが、昼休み終了のチャイムが鳴ったので、もう行かなきゃいけない。

「チャイム鳴ったからとっとと行くぞ、青色さん」

「あ、あ・・・青言うなーーっ!!」

そう言った瞬間、素早い一蹴りが僕に炸裂する。
その時、青色が見えたのは言うまでもない。
ロアノスは、宙を飛んでいる間、こう思った。

空のように広い心を持ってほしい・・・青色なんだし・・・

二頁 奇妙な人達

僕は昼休みの後、普通に五、六と授業を受けた。
蹴られた後どうなったかというと、普通に着地して、何事もなかったかの様に、「行くぞ」と言って屋上をあとにした。
その時の香織の悔しがる姿は実に見ものだった。
お前どんだけすごいんだよと言われるかもしれないが、武道を修得した身としては、これぐらい出来て当然だ、という感じだ。
まぁ、他の人よりちょっと身体能力が高いから、幾つかあだ名が付いてたりしている。
白銀の髪からか、白い肌からか、またはヤロウを潰したせいか、何故だか白騎士や、ナイトや、白、銀などと言われている。
後ろの二つは色だが何も言うな・・・

回想を終えて放課後。
僕は事件のせいもあって中高と帰宅部に所属している。
月ノ宮学園は基本的に生徒を尊重する学園として有名で、行事は生徒が準備、司会、進行させ、学園側は何か重大な問題が起きた時にしか出てこない。
だから、生徒が部活に入っていようが入ってなかろうが関係がない。
香織は空手部、賢二はサッカー部に入っている。しかも、二人とも主将や、キャプテンといった立場にある。
いつも帰る時は一人で、時たま買い物をして帰る。バイトは、遺産相続をして有り余るほど金を持っているのでやらない。

今日は買い物もする必要も無く、自分の家に真っ直ぐ帰る。
はずだったんだが・・・
目の前には、ふらふらしているタメが一人居た。
彼女は、フィネア・ルーイ。
腰まで伸びている水色のロングヘアで、血の様に赤い瞳、スタイルもかなり良い方だ。
学園では、学園一のおっとりさん、マスコットと有名だ。実際のところ、おっとりなだけでなく、かなり天然も入っている。
身長が百七十ぐらいあるらしく、マスコットとしてはちょっとどうだろうか。しかし、フィネアの行動を見て和む人が多いので、マスコットでもいいのかもしれない。彼女はいつ見ても幸せそうにしてるから、そこが人々を寄せ付けるのだろう。
今も何故か電柱を正面から見ながらのほほんとしている。何も知らない人が見たら間違いなく精神異常者か、薬物中毒者と思われるだろう。生憎ここあたりではフィネアを知らない人はいないが、一応学園の体裁を守る為に止めておこう。
僕は、のほほんとしているフィネアの後ろから近ずく。

「何やってんだ、お前?」

「ふぇ?」

「ふぇじゃない。何やってんだ?」

「あ~、ユーくんだ~」

フィネアは眩しい笑顔プラス遅すぎる反応を返してくる。これだからコイツは苦手なんだ。
掴み所が無く、まるで雲と話しているようだ。

「ユーくんはどうしてここにいるの~?」

「僕は家に帰ってる途中だ。そこでお前がずっと電柱を見てたから止め、いや気になって声を掛けてみた」

「へ~、そうだったんだ~」

「で、お前は何やってんだ?これで三回目だ」

「三回目なんだ~。ごめんね~。」

ムカッ、流石にここまで話したいこととズレるとムカついてくるよなぁ。もうそろそろ声を張り上げてもいいんじゃないか?しかも、コイツなんか、くねくねしながら頬赤らめてるし。
遂に沸点に達した僕は声を張り上げた。

「だからっ!?」

「あっ、エアーちゃん」

僕が声を張り上げたすぐ後に、フィネアは僕の方を向いてそう言った。
直後僕の横を風が通り抜け、フィネアが連れ去られていった。

「ごめんねーっ!!この子私がいないとダメだから。今夜はカレーだから、華麗に去らせてもらうよ」

・・・・・・・・・

あー、何て言うか・・・シラけちまった。
僕は溜め息をついて再び歩きだす。
さっきフィネアを連れ去っていった嵐はアンディー・エアー、月ノ宮学園の三年生だ。簡単に説明すると、おっとり天然なフィネアのお守り役的な存在だ。
アンディーは前に「私が卒業する前のまでに、フィアを働けるようにする」と、学園で宣言していたぐらいだ。
ギャグをよく言うが、まぁ、気にしないでやってくれ。



僕は家に帰宅し、すぐさまカメラを持ち上げる。
昨日このカメラを手にして、あの夢を見た。つまり、このカメラが、あの夢に関係がある可能性があるのかもしてない。もしそうだとしたら、このカメラは普通じゃない。
僕はなんとなくカメラのレンズを覗いてみる。そこに写っているのは夕日に照らされている自分の部屋、写真も撮ってみるが、特に何も無かった。

「はぁー、僕は何をやっているんだ」

僕は自分の行動がバカバカしくなり、カメラを机の上に置いて、ソファーに腰掛けた。

     ■

暫くして扉をドンドンと叩く音がした。

「どうしてアンタは、いつも私を置いて行くんじゃーっ!?」

どうやら香織が部活を終えて、僕の家に来たらしい。僕は立ち上がって扉の錠(じょう)を捻る。

「やっと開けたなー」

ガチャ、・・・ガチャガチャ・・・

「何で閉めとんじゃーっ!!」

「いや、お前みたいな不審者知らねーよ。ドア、ドンドン叩きやがって」

不審者め、毎度毎度騒音に悩ませられるこっちの身にもなれ。

「誰が不審者だーっ!!第一アンタが待っててくれないのが悪いじゃんっ!!」

「だって待つ義理ないし」

「ムッカーッ!!」

間違いなく今の香織の顔には怒りマークが三個以上ついているだろう。

「こんな綺麗で可愛い女の子の幼馴染みがいたら、普通待っててくれるでしょっ」

「何処にいるんだよ、そんなヤツ」

「私だーーっ!!」

ドンッという大きな音が部屋に響いてくる。かなりお怒りのようだ。

「お前自分で言ってて恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしいから、早く開けろーっ!!」

しょうがない、開けてやるか・・・

「分かったよ。いくら不審者でも十一月の夕方は厳しいだな、早く入れよ」

「本当っ、早く開けてよ」

「自力でな」

やっぱり無理だった。

・・・・・・

一時の沈黙があり、爆発する。

「アンタどこまで腐っとるんじゃーっ!!」

これだから香織をイジメるのは堪らない。頭は良いが、感情が先に出るため、煽って感情的にさせれば馬鹿同然。

「不審者なら大丈夫だろ。正拳突きでこじ開けろ」

ちなみに僕の家はマンションの十階で、扉は金属製である。

「ムリだからっ!アンタは出来るかもしれないけど、私はムリだからっ!」

かなり必死みたいだな。そんなに寒くはないと思うんだが・・・

「・・・・・・・・・」

「・・・・・おい」

なんか急に静かになったな。気配が在るから、自分の家に帰ったわけでもない。どうしたんだ?

「ユ~ちゃん~、開けてよ~」

あー、なんか泣き出しちまったよ香織のヤツ。

「だからっ自力で開けろって」

「ムリだよ~。私じゃ開けられないよ~」

流石にこんな風に泣かれたら良心も痛むわけで・・・僕は扉をガチャと開けた。

「早く入れ」

「うん・・・」

香織はドアの前で蹲っていた。そして、僕の家にゆっくり入った。

「まったく、自力で入れって言っただろ」

僕は呆れながら言う。

「だって、ユーちゃんが閉めたじゃんっ!」

「はぁー、お前が怒鳴っている時には、開いていたんだが・・・」

「え?・・・・はーーっ!?」

香織はこの事実に驚き口をパクパクさせている。

「ウソッ、いつっ?」

「ん?『ムリだからっ!アンタは・・・』ってとこ辺りから。開いてるのに開いていないと、勘違いしていたお前の反応はめちゃくちゃ面白かったよ」

僕は面白可笑しく言いながら香織を見ると、体がぶるぶる震えていた。
寒すぎて風邪でも引いたのか?

「あ・・・あ、アンタはどこまで人を馬鹿にすんじゃーっ!!」

素晴らしい正拳突きが僕の左頬にヒットする。

「ぐはっ」

香織、このパンチなら・・あのドアにも・・・穴開けられたんじゃないか・・・・・?

僕は再び空を飛びながらそう思った。
そして、全身を強く打って仰向(あおむ)けに着地する。

「・・・・・」

ロアノスはピクリとも動かない。

「ユーちゃんっ、大丈夫!?」

香織が慌てて駆け寄って来る。つーか殴ったのお前だし。

「香織、お前風呂入ってこい。その間に夕食作っとくから」

僕は香織の質問には答えず、普通に起き上がりながらそう言った。

「うん、ゴメンね」

「まったくだ。感情に任せて暴力振るう癖はどうにかしないとな」

「うぅ~~~」

香織はゆでダコになりながら浴室に向かった。
何故香織が僕の家で夕食を食っていくのかというと、簡潔に言うと、香織の両親が共働きだからだ。だから、親が夜いない時は、僕が夕食を作ることになっている。
香織も料理はできるが、僕の方が上手い事と、香織の両親曰く、「一人は寂しいじゃん」という事で僕が夕食を作るという事になった。
ちなみに、週に一回位で香織の親からメールで仕事のスケジュールがおくられてくる。

     ■

香織が普段着になって浴室から出てきた。
香織は「ユーちゃんは変なことしないから」という理由で、僕の家に服を数着置いている。しかも、僕の服と同じタンス、同じ段ときたものだ。
いくら変なことをしなくても、もう少し女子としての恥じらいを持ってもらいたいものだ。

「アンタ今何考えてんの?」

いつのまにか香織が僕の隣にきていた。

「いや、そんなところも僕が世話しないといけないのかなーと思っていたとこらだ」

「アンタ何か飼ってたっけ?」

お前のことだけどな・・・

「?何大口開けて固まってんだ?」

「ア、ア、・・・アンタ私のことそう思ってたのかーっ!!」

いきなり怒声を上げる香織。

「あれ、もしかして口で言ってた?」

「お前はーっ!?」

徐々に香織の右腕が上がっていく。このままにしたら僕が死ぬ!?なんとかしないと。

「お前も犬みたいに可愛がってやろうか?」

「え?」

殴りかかろうとしていた香織の体が硬直する。

「だから、もっと良くお世話してやろうかって聞いてんだよ」

「お世話する・・・・可愛いがる・・・ユーちゃんが・・・・・」

香織はみるみるゆでダコになっていく。
よしっ!!ここで丸め込む。

「そうして欲しいんだったらメシ食うぞ。僕が食べさせてやるよ」

「え、ええ・・・えっと・・・」

香織は真っ赤になりながら殴る体勢から、指をもじもじさせるようになった。

「早く行くぞ」

「あっ、ちょっと待って!?」

僕は香織の手を引いて椅子に座らせる。

「はい、あーん」

「あ、あ、あああ・・・」

ボンッ!?という音が鳴って香織が倒れる。
よし、恥ずかしすぎてオーバーヒートしたぞ。これで僕は死なずにすんだ。
次の問題は香織がこうなると暫く起きない事だ。とりあえずベットに寝かしておこう。そして、僕は香織をベットへ運んでいった。



香織をベットに運んだ後、僕は香織の母親にメールをしていた。

『香織がオーバーヒートしたんで、今日は僕の家に泊めていきますね。』

『良いけど、またやっちゃった?』

『ええ、命の危機にあったので・・・』

『そう、まぁ、よろしくしてやって』

一通りの許可を得てソファーに腰を下ろす。
そういえばさっき、香織に向かってヤバイこと言ってたな・・・
まぁ、オーバーヒートしたら、あいつはほとんど覚えてないから良いか・・・

     ▲

「んっ・・・あれ?ここ、ユーちゃんの部屋?」

目を覚ました私は、最初どうしてユーちゃんのベットで寝ていたのか分からなかった。

「ああ、そっか・・・私また倒れちゃったのか・・・」

ようやく今の状況を理解し、時間を見る。

「十時すぎ・・・って、家に帰んなきゃっ!!」

飛び起きて部屋を出ようとする。私はドアの隙間から光が漏れているのに気付く。

「ユーちゃんにお礼言わなきゃ」

ドアを開くと食欲をそそる美味しそうな匂いが溢れてきた。
私が見た光景には台所で、料理をしているユーちゃんの姿があった。

「よお、起きたか。もう少しでできるから待ってろ」

「なん、で・・・」

私はわけが分からずポカンと突っ立っている。

「何でって、お前メシ食ってないだろ。あと、今日はもう泊まってけよ」

突っ立っていた私は顔が赤くなるのを感じながら言う。

「ご飯は分かったけど、どうして私がアンタの家に泊まっていかなきゃいけないのよっ!!」

「はぁー・・・お前がオーバーヒートしたらほとんど泊まってるだろ。何回このやり取りしてるんだよ」

ユーちゃんはため息をつきながら言う。
確かにそうだ。私が倒れるとほとんどこのやり取りから始まる。それでもやはり申し訳ない。

「で、でもやっぱり・・・」

「ほら、とっとと食うぞ」

ユーちゃんはいつのまにかテーブルに食事を並べていた。

「もしかして、作り直した?」

並べられていく料理は私が倒れる前に見たもと違う気がする。

「ああ、それがどうかしたか?」

ユーちゃんは、何でそんなことを聞くんだ?、という顔をしている。

「ううん、何でもない」

私は、ゴメンね、とうい言葉と同時に、ありがとう、という言葉も出てきて、言葉がつまってしまった。

「何でもないなら聞くなよな。早く食うぞ、コッチだって腹減ってんだ」

「うんっ」

私が寂しくならないように、というユーちゃんの優しさが私に痛いほど伝わってくる。だから私は、ユーちゃんが隠したがっている影に気付かないフリをし続ける。

カメラの死神

カメラの死神

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-12-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 零頁 始まりの時
  2. 一頁 僕の日常
  3. 二頁 奇妙な人達