七ならべ 2023年2月

吹雪の夜は
外の様子を
見たくないから
スマホに眠る
ことば掘り出し
熱源とする
紅茶はさらに
冥い動揺
あなたの街を
見てみたくても
ライブカメラは
うなだれている

(2023年2月2日)



マッチを擦って
観るまぼろしは
あたたかいとは
限らないから
脆い約束
瓶に閉じ込め
死のはじまりを
想いつづける

(2023年2月3日)



これまでのこと
思い起こせば
余白に書いた
出来事ばかり
脳とセカイを
白く塗り替え
あと数日で
流氷が来る

(2023年2月4日)



夜の線路は
凍えてるから
寂しげな音
鳴らし続ける
春は来るのか
いつ来るのかと
歌い続ける
春を待ってる
わけじゃないのに
ぼくの気持ちを
置き去りにして 
風船はとぶ

(2023年2月6日)



雪がいとしく
感じられたら
春がちかくに
来た証拠です
春はしまひの
季節ですから
綺麗に溶ける
準備しませう
春のなみだは
わたしの為に
光らせたくて

(2023年2月8日)


ひとりの窓に
雪の結晶

二月の夜を
濾過すれば船

月のかたちは
おなじ想い出

紡ぎつづけて
春のたまさか

手を伸ばしても
あと千哩

(2023年2月9日)



シチューの夜は
木彫の熊が
少しほほえむ
家族はだれも
気づかないけど

熊がよろこぶ
顔をみたくて
ぼくはにんじん
食べないでおく

(2023年2月10日)



スプートニクが
飛び立ってから
もう何年が
過ぎただろうか
帰れないかも
しれないなんて
悪い冗談
言ってたけれど
ぼくらはここで
待ち続けるよ
若い記憶が
燃え尽きるまで

(2023年2月10日)



淡い予定を
雪に書いても

冬の魔法に
嫌われていた

徐々に冷えゆく
黄道のうた

たぶん春には
春の助動詞

角を曲がれば
天の羽衣

(2023年2月11日)



秘密基地には
ひみつがなくて
液状化した
記念写真が
散らばっている
 
裂け目があれば
嘘は生まれる
それでもあの日
話したことは
嘘ではないし
まぼろしでない
 
この山奥で
生きていこうと
した人たちの記憶で
土は
酸性化する

(2023年2月17日)



地震の夜は
灯りも消えて
被害伝える
ラジオの声が
部屋に溢れる

朝がこんなに
恋しいなんて
考えたこと
なかったけれど

脈拍でしか
伝えられない
こともあるよね

(2023年2月18日)



白い大地が
信じられるか
日が昇るまで
答えなどなく

列車の窓に
飛び込んだのは
希望に似せた
鈍い現実

そうだとしても
手を伸ばしたい
還る場所なら
やわらかいはず

(2023年2月18日)



交わることは
失うことと
教わってきた

欲望の火が
着いてしまえば
コントロールは
もう出来なくて

でも、それならば
失うものは
何なのだろう
それもわからず
冷たいしずく

(2023年2月22日)



小数点の
右と左で
違う誰かを
あたためている

小数点は
声を荒げた
なぜ自分だけ
小さいのかと
他の誰より
重要なのに
数字みたいに
セクシーじゃない

円周率に
翻弄されて
歯形のついた
小数点が
図る幕引き

(2023年2月23日)



約束の地が
雪溶ける頃

言い訳もなく
冷めた珈琲

持続可能な
飴を探して

仕組まれていた
朝のあかるさ

迷いつぶして
二月を急ぐ

(2023年2月27日)

七ならべ 2023年2月

七ならべ 2023年2月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-21

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