七ならべ 2022年12月

知らない街で
迷うのが好き
影に惹かれる
きみの口癖
背中に虹が
生えるのを見て
取り残された
ぼくの音符は
路地に溶け込む


冬、晴れた夜
冷えた空気の
刃先を当てて
凍った星の
ひかり取り出す

閉じたこころも
重なり合えば
少しは
溶けることも
あるから
ことばが探る

星と会話が
できるってこと
きみ以外には
教えたくない


駅の魔法に
抗うことを
諦められず
早足になる
アイスティーには
黒いストロー
右手の距離は
いつか哀しい
黒いコートと
オレンジの靴
残像つれて
走り出す窓


ひとりの月が
泣いていた街 
季節はずれの
白いあいさつ
空に透かして
会社がえりの
道がふるえる

ちいさい星が
淋しがるので
もう帰ります


そちらの雪は
笑ってますか
こちらの雪は
ふて寝してます
そんな文字列
縦に並べて
夜の長さに
際限がない
押しつぶされた
温度を放ち
寝惚けまなこで
飛んで行きたい


蜘蛛のかたちで
蜘蛛が死んでた
死んだ身体で
張り付いていた
生死を超えて
残せるものが
今のぼくにも
あるのであれば

青空をみて
泣いたりしない

ふやふやになる
ことばがあれば
べつに生死を
超えなくていい
青空をみて
泣いたっていい


夕陽背にして
はしる高速
急いでいても
足取り重く
左手にある
ことばを舐めて
融点を知る
蜜の味なら
独り占めして


吹雪の夜は
やかんがうたう
閉ざされた部屋
あたためながら
外の様子は
もう見えなくて
止むことのない
風の泣き声

宇宙の中で
ぼくひとりだけ
生き延びている
そう思えたら
諦めもつく
やかんのうたは
変ロ長調


凍えた町に
火が灯ったら
ぼくはサンタに
なれるだろうか


結局ぼくは
サンタになれず
海辺の町で
膝を抱える
風は激しく
家を揺らして
現実だけが
光を浴びる
夢から醒めて
崩れた朝に
ひつじは空に
身を任せたい


空は遠くて
あやふやだから
きみとぼくには
泣くわけがある
だけどお互い
見ないふりして
素直になれば
漏れていく声
腕に冷たい
音を感じて
涙はいつか
時間を溶かす
交わすことばが
濡れてくるまで
微熱をうつす
日曜の午後


枕の上で
描く世界が
同じことばを
繰り返すのは
分け合う術が
他にないから
ルイボスティーが
見ている前で
沈黙の手が
誓いのように
重なってゆく


暮れの夕方
絆創膏に
隠された文字
抱きしめている
また来年も
ことばの空に
浮かびたいから

七ならべ 2022年12月

七ならべ 2022年12月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-21

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