七ならべ 2022年11月

“七ならべ”は一行七音ですが、ここには一行十四音のものも含まれています。

雪は消さない
春のときめき
雪は消さない
夏のいたずら
雪は消さない
秋のつまずき
雪で消せない
ぼくの赤裸々


はぐれた猫と
また逢えた夜
彼女は
羽を持つ猫だから
見失うのが
不安だけれど
羽なら
ぼくの背中にもある
はぐれてるのは
ぼくの方だと
平均律の
水が流れる


雀色時
荒れた道へと
惹き寄せられる
落ち葉を
抱いたことがあるから
群れに留まれば
冥くなるから
この道をまた
歩いて行くよ



逃げ足早い
日曜だから
ぼくの世界が
醒めないように
丁寧に、夜

ことばの傷を
見過ごせなくて
指が求める



月が迷子だ
いつもの場所に
影がみえない
ぼくの尻尾は
空回りして

月がいないと
ねこは魔法を
抑えきれない



同じ夜空を
見ていたせいで
やがて真っ赤に
染められた月
ないしょ話が
聞こえたのかな



閑かな町に
サイレンが鳴る
無言の愛は
饒舌になる

歌い疲れて
戻る平穏
失うものに
気づくことなく

見上げた月の
記憶溶かして
小春日和は
立ち止まらない


雪は身体を
蝕んでゆく
腰は砕けて
肌は裂かれる
雪のない冬
憧れもする

それでも雪を
憎めないのは
その行末を
知っているから

黒く汚れて
泥に飲まれて
春に殉じる

いつかはぼくも
そうなるのかな


伝えたいこと
返したいもの
行きたい場所や
触れたいことば
届かないまま
凍りつく脚

ぼくの全てが
閉ざされるまで
許されるなら
雪になりたい
溶けてしまって
構わないから


天気予報に
並び始めた
かわいい顔の
ゆきだるまたち
もうすぐそれは
日常となる

雪は恐くて
綺麗でもある
適度に混ざる
愛と憎しみ
氷点下まで
冷え込む希望

せめて今夜を
温めたくて
窓辺に置いた
ほうじ茶ラテは
継ぎはぎの夢
待つほかにない


自分のいない
世界のことを
想像しても

傍観してる
いつものぼくが
みてる景色と
なにも変わらず

ひとをきらいになれたら
楽に生きられるかな

漏れたことばは
海がのみ込む
それが秩序と
いうものだから


待つ人のない待合室に
聞く人のない放送が鳴る

三番線に到着します
普通列車は釧路行きです

明日の景色を変えるためには
何かを捨てて軽くならなきゃ
吹けば崩れる週末だから
褪せた切符を払い戻して
乗るはずだった窓を見送る


雨が降る日は
なに忘れよう
迷路は徐々に
複雑になる

酒は敵でも
味方でもなく
声を欲しがる
空き瓶の底

夜更けに雪に
変わるようでは
脱がせる雨に
なれる訳ない



悲劇に耐えたラジオスターが
にやりと笑う角のおでん屋
大人になればわかると言われ
三倍速で生き抜いてきた
昔ばなしをかたる程度に
大人になった気はするけれど
あの日と同じ絵を描けるか
時代を名乗る山羊が邪魔する

七ならべ 2022年11月

七ならべ 2022年11月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-21

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