七ならべ 2022年11月
“七ならべ”は一行七音ですが、ここには一行十四音のものも含まれています。
雪は消さない
春のときめき
雪は消さない
夏のいたずら
雪は消さない
秋のつまずき
雪で消せない
ぼくの赤裸々
2022年11月2日
はぐれた猫と
また逢えた夜
彼女は
羽を持つ猫だから
見失うのが
不安だけれど
羽なら
ぼくの背中にもある
はぐれてるのは
ぼくの方だと
平均律の
水が流れる
2022年11月3日
雀色時
荒れた道へと
惹き寄せられる
落ち葉を
抱いたことがあるから
群れに留まれば
冥くなるから
この道をまた
歩いて行くよ
2022年11月5日
逃げ足早い
日曜だから
ぼくの世界が
醒めないように
丁寧に、夜
ことばの傷を
見過ごせなくて
指が求める
2022年11月6日
月が迷子だ
いつもの場所に
影がみえない
ぼくの尻尾は
空回りして
月がいないと
ねこは魔法を
抑えきれない
2022年11月6日
同じ夜空を
見ていたせいで
やがて真っ赤に
染められた月
ないしょ話が
聞こえたのかな
2022年11月9日
閑かな町に
サイレンが鳴る
無言の愛は
饒舌になる
歌い疲れて
戻る平穏
失うものに
気づくことなく
見上げた月の
記憶溶かして
小春日和は
立ち止まらない
2022年11月11日
雪は身体を
蝕んでゆく
腰は砕けて
肌は裂かれる
雪のない冬
憧れもする
それでも雪を
憎めないのは
その行末を
知っているから
黒く汚れて
泥に飲まれて
春に殉じる
いつかはぼくも
そうなるのかな
2022年11月12日
伝えたいこと
返したいもの
行きたい場所や
触れたいことば
届かないまま
凍りつく脚
ぼくの全てが
閉ざされるまで
許されるなら
雪になりたい
溶けてしまって
構わないから
2022年11月20日
天気予報に
並び始めた
かわいい顔の
ゆきだるまたち
もうすぐそれは
日常となる
雪は恐くて
綺麗でもある
適度に混ざる
愛と憎しみ
氷点下まで
冷え込む希望
せめて今夜を
温めたくて
窓辺に置いた
ほうじ茶ラテは
継ぎはぎの夢
待つほかにない
2022年11月22日
自分のいない
世界のことを
想像しても
傍観してる
いつものぼくが
みてる景色と
なにも変わらず
ひとをきらいになれたら
楽に生きられるかな
漏れたことばは
海がのみ込む
それが秩序と
いうものだから
2022年11月23日
待つ人のない待合室に
聞く人のない放送が鳴る
三番線に到着します
普通列車は釧路行きです
明日の景色を変えるためには
何かを捨てて軽くならなきゃ
吹けば崩れる週末だから
褪せた切符を払い戻して
乗るはずだった窓を見送る
2022年11月25日
雨が降る日は
なに忘れよう
迷路は徐々に
複雑になる
酒は敵でも
味方でもなく
声を欲しがる
空き瓶の底
夜更けに雪に
変わるようでは
脱がせる雨に
なれる訳ない
2022年11月28日
悲劇に耐えたラジオスターが
にやりと笑う角のおでん屋
大人になればわかると言われ
三倍速で生き抜いてきた
昔ばなしをかたる程度に
大人になった気はするけれど
あの日と同じ絵を描けるか
時代を名乗る山羊が邪魔する
2022年11月29日
七ならべ 2022年11月