星空文庫同時掲載中 夢の如く・・駆け抜ける事ができた男

 星空文庫同時掲載中 夢の如く・・駆け抜ける事ができた男

銀座の抜け道で審査課の女性から飲みに誘われた。


 社を出、銀座通りの裏道に入ったところに小さな書店がある。
 メトロ銀座線の改札に抜ける抜け道で、待ち合わせに使ったりする事もある。
 其処まで歩いたところで、審査課の目黒葉子に声を掛けられた。
管理課は危険が伴うから女性は原則、審査課に配属させる事になっている。
 此の裏道で誰かと待ち合わせをしていたのかなど思ったのだが、そうでも無さそうだ。
「飲みに行きませんか?」
「若い連中と行った方がいいんじゃないか?」
 と気を利かせたつもりが、飲みに行く相手の年齢は関係無いのでは?と。
 紺野雄二は苦笑しながら。
「では・・行くか?」
 雄二はセクハラなどは気にしていないが、飲みに行くのにそこ迄気を使う必要も無い。
 そういう事が慣れっこになっている部員だが、ご馳走目当てでは無いのかも知れない。
 銀座で気軽に入れる店は少ないからと、有楽町辺りまで歩くことにした。
 ラッシュ時で地上が混んでいる時には、銀座線の改札の脇の地下道を日比谷線に沿って歩けば人混みは避けられる。
 居酒屋のある辺りで地上に出てから店に入る。仕事の話をする時には社内でその旨を聞かされることが多いが、そうではなく雑談話のようだ。
 最近はTVのニュースも全く見なくなった。何時までも同じ様な事ばかりの報道番組はくだらないし、昔に較べれば、関心を引くような番組は見られなくなった。
 社内や仕事の事は早めに済ませる。その後、先日、学友と高層ホテルで夜景を見ながら飲んだ話になった。
 値段は高いが、丁度両親の法事の時期にあたれば、意味も無く僧侶などに支払う事の無駄を考えれば、位牌を持って行き眼下に拡がる夜景を見せてあげた方が喜びそうだ。
 法事などは其れで済ませるから、世間一般の考え方とは全く異なる。
 葉子がそんな事に関心を持ったようで、其処から暫くはそんな話になった。
 雄二の父は教育者で博学であったし、仏教などに関しても経もよめるし、僧侶より詳しかった。
 彼女が尋ねる事に答えていくうちに、よく知っていると感心をし、話すに連れ頷きながら聞いている。
「神も仏も存在しないと言ったら?まあ、話半分と思っていれば良い。さて、宇宙には相応しい生命体が存在すると言ったら?」
 いきなりこれでは、今の世代には関心が無くなるだろうが、彼女はさして気にしない質(たち)のようだ。
 生命体は多数存在すると言うに留め、宗教観に戻る。
「君の家では墓参りに行ったりお寺に行ったりするだろう?葬式などもあるだろうし。ところが、宗教は何も特別に価値があるものではなく、先程の生命体から暗示されたもの。原始的な人類は昔から行われている風習を踏襲しているに過ぎないんだ。宇宙の生命体の話をしたけれど、かなり昔の事だが、遥かに進化した文明が、人類がやっと誕生した当時近くを移動していて、生命体反応をキャッチし、此の星に立ち寄ったんだ。彼等には遅れた生命体の考えている事は分かるから、人類の脳裏に恐怖や不安が介在している事に憂いを感じ、彼等の頭脳から人類の頭脳に神のようなものの存在を暗示した・・其れから・・神や仏などの思想が始まったという訳」
 彼女にしては、摩訶不思議な事を言い出したと思った様で、学校で覚えた知識から幾つかの質問をする。
「でも?キリストや釈迦は実在の人だと言われているのではありません?」
「そうだね、いたんだろう。僕が言ったのは・・其れよりずっと以前の事でね、此の惑星に四つ足動物から二足歩行まで進化した人類が登場したばかりの頃のお話・・まあ、分からなくて当然だ・・」
 其処から話し出せば長くなるからと、行事や身近な風習のような事に絞る事にする。
「寺・僧侶・お経・骨・墓・法事・その他を一切無視しても良いなどと言ったら驚くかい?
 実は大昔からの風習は実際に存在するものだから、伝統があるもので、そんな事などまさかあり得ないと思うのは最もだね?」
 これ等は、神社・寺や宗教に詳しい雄二やその父には当然の事であり、一般常識とはかけ離れ過ぎているのだが、正に本当の事であるとしか言いようがない。
 一言だけ最後に。
「其れだから、これらを行っても行わなくても何等の悪影響も祟りなどもないし、無事成仏という言葉には関係ない。例え、事故や戦争のような非業の死を遂げたところで同じなんだよ?墓参りをする時には、安らかに成仏をして下さい。或いは、単に有難う御座いますでも構わない。要は、故人を労うと共に感謝の想いを心の中に浮かべればそれで充分。霊というものは存在しないが、魂は存在する・・何処に?と言えば、気に留めてくれる人類の心の中にという事だな。だから、葬式をやるやらないなど全く人類の自己満足だけ。最近も国葬という言葉を使ったね?或いは、戦争で亡くなった人類を祀ってあるという靖国神社に、むきになって詣でるという辺りも何も意味は無く、亡くなった魂は、何と、その人々の心の中に信ずれば存在するという事。国葬も生きている人類の自己満足に過ぎず、膨大なお金をかけてまでやる意味は、寧ろ生きている人類の執着心のようなもの。UKでも実のところ、まあ、女王であるからしきたりもあるのだが、あの国葬でUKの経済は傾いたと言っても過言ではないだろう。仏教で言えば宗派が幾つもあるから、経も幾種類かある事になる。其れでも、浄土真宗以外は、大抵は、般若心経等を唱えるだけでも意味はある。短くて分かり易い経だから覚えるのも簡単だね。まあ、気休めだけれど・・」
 其処でその手の話は終わる事にした。



「ところで、君の様な若くて美人さんはにとっては、恋愛の方はどう?楽しそうな話などあるだろう?僕は五十年前に亡くなった名優のDVDしか見なくなったから、ドラマや若いタレントの話をされても全く分からないけれど・・仕事の実務については、散々、前線である現場で体験をしてきたから、昔は広域暴力団などとの交渉事も多かった・・でも、もう、終わりにしようかなと思っているんだがね?
 あまり関係無いが、一つだけ。何か大きな事件があったようで、其れが僕の仕事の一部とオーバーラップをした事があってね?或る日、警察の幹部から捜査に協力をしてくれと頼まれたんだ。階級は以前刑事ドラマで登場した警視とか警視正のクラス以上だった。話が終わってから彼は頭を下げながらお礼を言ったんだが、僕が椅子から立ち上がって彼がデスクの上に置いていた彼の名刺を手に取り帰ろうとした。名刺の片隅に其の日の日付がボールペンで書かれてあった。その意味が分かるかな?
 その名刺を悪用されたら困るからなんだ。其れを書いて無ければ、今度は僕が警視総監と名乗って・・という事は実際には僕も地位があるし、制服も着ていないからあり得ないのだが、トップともなればそんな事にも気を使っているようだね?」
 彼女が、社内の男性とのロマンスでも話すのかと思ったのだが・・彼女は社外に交際している男性がおり、結婚をする事になれば、東京を離れ彼の勤務先の町に移ると言う。
 其処で雄二は、彼女がどうして、自分を飲みに誘ったのかが分かったような気がした。
「其れは楽しみだ・・。何も都会だけに固執する事がいい訳では無いが、大きな街には仕事の絶対量が多いという事ぐらいだね?寧ろ、静かで便利な地方で愛する者と生活できるなんていいんじゃない?」
 彼女は満更でもないような表情を浮かべ頷いた。雄二の学友も半分以上は地元の会社に入ったが、殆どは親のconnectionがあっての事で、其れが無いと地元の大学より始末が悪くなる事もある。
 実際に、地方では東京の一流大を出たからと言い高評価に繋がる訳ではない。
 殊に、地方の国家公務員や地方公共団体に勤務している者の出身大学は一流大では無く地元の国立や公立なども少なくない。
 TBS系列のTV会社であり、地元の新聞社でもある地方の大企業に勤め定年退職をした学友の話を聞くと、最近は義塾卒などが入社して来なくなった・・と嘆いていた。おまけに、其処の社長がキャスターの女性と不倫をしたというニュースが東京においても流れていたくらい。やはり、世代の交代は良くない方向に向かっている事を裏付けている様だ・・と、二人で話をした事がある。
 そういう事の延長線上に・・政府のやる事のlevelの低下が存在し、都庁も知事のlevelが・・歴代問題を起こして来たポジションであり、美濃部さんの様な学者肌の方がまだましだったような気もしない事は無い。
 一般的には・・政治家・議員は例えばUSAの戦争犯罪につき、元の大阪の市長であり弁護士である男性が、嘯いていた場面を見たが、
「・・政治家は悪くらいでなければ勤まらない・・と彼は述べていたが・・果たしてそれが事実であるとは思えない。確かに過去の議員で明治の世などには妾が六人居り、正妻と合わせ子沢山という事も事実だが、売春禁止法以前は公然と許されていた事であった事も。しかし、現実の世界に目を遣れば、level低下の結果実にくだらない者達・・USAが正にそうなっている事が歴然としているが・・更に、USAに隷属していて、基地がある国・・Germany・韓国・そしてこの国は・・相当レベルを下げているのも現実と言える。学歴は関係無いとは其の通りだが、安部君辺りから・・都知事も此の国の大学では無くワザワザ海外迄いくほどのlevelと言えそうだ」
 葉子はお茶の水を出ており彼も大学を出ているそうだ。



 雄二が伝統校を出ている事を彼女は褒めていたが、今までは実力勝負で良い思いをしてきたのは事実であるが、定年になれば地方だろうと都会だろうと・・やはり、現役時代にしかそういうものは通用しない。
 其れに、もっと重要な問題がある。
 彼女がビールのお酌をしてくれながら尋ねる。
「でも、紺野さんは身体が丈夫ならまだまだ働けるんじゃないですか?」
 雄二は来たなと思った。
「いや、実は・・満身創痍でね。もう先は長くはないような気がするんだな。実は、昨晩も持病の一つが・・朝気がついたらトイレの便器の前部に血がついているんだ。ああ、汚い話で悪いが・・やめとこう・・」
 彼女は死んだらどうなのかという事など、若いのだから関心は無いが、何気なしに聞いたようだ。
「死にたくはないでしょう、幾ら破天荒の紺野さんでも・・?」
 雄二は言いたくは無いが一言。
「いいや?死ぬことは生命には必ず起きる事。幾ら進化している文明の生命体でも、同じ事で、少しも・・おかしくはないし・・やる事をやった人には・・それ以上の欲はない。寧ろ・・楽に・・と思うだけだね」
 そういう事は、まだ彼女には到底理解できない事だろうし、そんな事では困る。当然、其んな事を考えていたのでは、後の人生を生きてはいけない事になる。
 若い彼女には、詰まらない話だったのだろうが、丁度タイミングが悪かったのかも知れない。



 其れから暫くし、彼女は社を辞め、地方で結婚をしたようだ。
 雄二は、やはり、感が当り・・生涯を終える事になった。




 雄二にとっては長い人生だった。
 というのも、親族の全員が亡くなり、最後の一人が一昨年亡くなった。
 男性は、皆、短命の家系で、雄二も其の例に漏れず。まあ、謳歌した上に、終電車に乗り遅れる事も無く本当に良かったと思う・・。




 彼女はきっと元気で夫婦仲良くやっている事だろう。そんな彼女の笑顔が見えたような気がした。




 人の一生は考え方次第であり、精一杯やりたい事が出来たのであれば、其れで充分満足と言えるだろう・・。


 一つ・・雄二は青い惑星に生まれた事になっているものの・・目的があり・・。
 創造された生命体で、宇宙で最も優れている彼が、死ぬ前に母船で迎えに来てくれた。
「・・雄二・・もういいだろう?百五十億年・・戻ろう?私は・・あなた方に創造された疑似生命体だから・・友達以上・・永遠に生き続ける事がどうなのかは・・案外・・メリハリがあった方が・・楽しいのかも知れないな?」
 光速を遥かに超え・・あらゆる風景が・・見えては去って行く。とても・・美しいのだが・・何回見た事なのか?名残惜しそうな・・宇宙空間では・・あった・・。



「死ぬまで進歩するつもりでやればいいではないか。作に対したら一生懸命に自分のあらんかぎりの力をつくしてやればいいではないか。後悔は結構だが、これは自己の芸術的良心に対しての話で、世間の批評家やなにかに対して後悔する必要はあるまい。夏目漱石」

「好人物は何よりも先に、天上の神に似たものである。第一に、歓喜を語るに良い。第二に、不平を訴えるのに良い。第三に、いてもいなくても良い。芥川龍之介」

「金は食っていけさえすればいい程度にとり、喜びを自分の仕事の中に求めるようにすべきだ。志賀直哉」



「by europe123 test 5」


https://youtu.be/4ksrHwExE84

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部下と雖も・・一緒に飲むには・・楽しいもの・・。

 星空文庫同時掲載中 夢の如く・・駆け抜ける事ができた男

彼女が・・飲みに行こうと誘ったのは・・其れが間も無く訪れる・・結婚出会えなくなるからだった・・。 部下として・・よく働いてくれた・・だから・・今後は彼と二人・・地方都市で幸せになるのが・・相応・・。 年代の異なる飲み会が・・終了した頃・・雄二の終電車が・・訪れた・・。 迎えに来てくれた・・彼は・・永遠に生きていく事だろう・・。 その彼が・・少し寂しそうな表情で・・右に出るものが無いという彼でさえ・・別れは・・辛そうな・・面持ちであった・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-21

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