目を合わせながら無視をする
視野から湓れた愛はその痩躯を間歇的に顫わせながら息絶えた。凭れる柱もなく酷使に酷使を重ねた両脚は感覚を失い軅て硬直した。光に手を伸ばすと光はその手を無慈悲に八つ裂きにした。生きることの実際を思い出した。答はいつも遅れてやってくる、いついかなる時も。だが己が言葉を持たぬ骸だった頃、己は生と言葉を授けてくれなどと切望した憶えはない。安寧は唐突に奪われた、何の予告もなく唐突に、一瞬のうちに。生と言葉は侮辱し合っている、死と沈黙が侮辱し合っているように。己は嘗てその凡てを信じていた、生と言葉と死と沈黙を。答はいつも遅れてやってくる。そしてそれを拒むことは出來ない。その唐突さと理不尽が気に入らない。今や凡てが気に入らない、生も言葉も死も沈黙も。いや、己の気に召すものなど端から何一つなかった。凡ては瞞しに過ぎなかった。逆説に次ぐ逆説、その涯てしのない交代にもうんざりだ。あらゆる交代は侮辱に他ならない。あらゆる撰択は侮辱に他ならない。過去への、現在への、そして未来への侮辱に他ならない。答はいつも遅れてやってくる。変化は屈辱に他ならない。生への不信が痛みを齎す、計り知れない不信が計り知れない痛みを齎す、いつ終わるとも知れない痛み、慣れることのない痛み、癒えることのない痛み…強いられる痛みは悉く気に入らない。答はいつも遅れてやってくる。己はいつも待っているばかりだった、いつも何かを見失っていた。視野から湓れずに殘った愛を嚥み下すと全身に顫えが走った。結局は同じことだった。己は目を合わせながら無視をする。全身が一個の眼球に変っていく。膨張する痛みに喘ぎながら死ね。己は昔からお前が嫌いだった。
目を合わせながら無視をする