うっかりしていた面接

うっかりしていた面接

黒い就職用のすーつかな?

まさかの・・?

 銀座のカフェで食事の後、時間を潰していたら黒いスーツを着た端正な顔立ちの女性が珈琲を飲んでは書類を拡げている。
 黒suitと言えば、就職活動をする学生のユニフォームでもある。
どうして黒服に拘るのかとも思うが、企業が其れに好感を感じるのだろうか?
 其れに、テーブル上に履歴書を拡げているので、やはり間違いは無いように思う。
 しかし、此の時期は少し就職シーズンには遅いような気がする。
 就職もconnectionがある学生は気楽。学歴も成績も関係は無いというケースが少なくない。
 代表的な例としては、親が目指す会社の代理店をやっている場合など。
 大会社でも、メーカーや保険会社などにはこの手のconnectionが最も有効。
 会社には支店や営業所などがあり、其れら営業の業績に繋がる代理店には頭が上がらない。
 男性大卒・女性は短大卒などの条件を満たしているだけでほぼ無条件に採用となる。
 少ないconnectionとしてだが、会社が保険業なら監督する金融庁に親が勤めていれば最強のconnectionと言える。
 要は会社が逆らえない監督官庁という事になり、何年か前にTVドラマでやっていた『半沢直樹』の例の様に保険会社は「金融庁の検査」を怖がる。
 一年ごと交代で日銀の監査と金融庁の検査が行われ、日銀は何でも無いが金融庁は厳しい。
 保険会社や銀行の監督官庁が金融庁で、クレジット会社は厚生労働省と分かれている。
 一般の社員に行われる検査は、例えばdeskの引き出しなどに私的な金銭が十円でも入っていようものなら、会社のお金なのか個人のものなのかが不明だと注意をされる。
 其れはまだ良いのだが、会社の契約先との審査状況がいい加減だったりすれば、大問題。
 要は、金融機関というものに不正や誤魔化しに繋がる様な業務をやって貰っていては困るという事。
 審査とは、クレジット会社なども同じなのだが、顧客と契約を締結する際の正しいかどうかのチェック部署なので、一つ間違えば契約の内容に甘さが生じる事もあり、適正な審査とかけ離れてしまう事になるから。
 通常はマニュアル通りにやっていればスムースに事が運ぶのだが、営業は自らがとって来た融資などの契約をどうしても通して欲しいと考えるのは当然で、其処に適正な審査に欠けると思われる契約で無くなり、会社内部での不正等に繋がるいい加減さが出る可能性が生じる。
 業績は営業のみにあらずして、会社全体としても営利を追求する事が目的であるから、営業・審査がつるんで行動すればという危険性が指摘される事になる。
 connectionがある学生達にも建前だけで、一応筆記や面接試験は行われるが、合否に関わる様な事は先ず無い。
 例えば、集団面接の場では、五流大学卒は一流大卒ばかり質問に答えているから、凄いなと思ったところで、試験官は其れを重視はせず、よっぽど異常さでも感じさせなければ通さざるを得ない。
 そういう事は人類の社会では当然の事となっており、その点では公然と偏った審査が行われているのだが、其れが議員が汚職をするなどの金銭欲しさの行為にエスカレートするのも想像はつくだろう。
 人類のやる事は世界中が同じ仕組みとも言える訳になる。
 其れを指摘すれば、大人で無いなどと決め付けるのも人類の悪い特徴とも。
 三田康介が顧問弁護士をしている会社にもそういう会社があり、芙蓉グループとの名称。
 このグループは富士銀行が中心となり、日産自動車の様なメーカーや食品・保険・鉄道会社・その他広範囲に亙る会社で構成されている。
 同じグループの中に同業の会社もあるが、財閥系の安田火災と日産火災などが其れだ。
 以前、時代の流れでこの二つの会社が合併する事になった。
 損保会社では、他の系列でも吸収合併が行われたが、景気が良くても悪くてもそうなる。
 合併となれば、小さな方の会社の社員には悲喜こもごもとまでは言わないが、良い事とそうでない事が生じる。
 給与は大きな会社の方の基準が適用されるから上がるが、職位などはどうだろう?
 建物が一緒になれば、学歴からも財閥会社の従業員の方が上になるのかも知れない。
 こういうグループには決まりやジンクスのようなものが存在し、日産自動車などは本社ビルに出入りする他社の車にも制限をかけている。
 更に、グループ内では、家を購入すると転勤になると言われるが、実際にそのケースが多いのだろう。
 其れで、本当はトヨタ自動車の車を購入したいのだが到底出来ないし、家も建てたいが単身で全国転勤の旅に出るのでは不自由となる。
 さて、康介の知人の娘である川野美幸は、東京大学を出た後財閥系の損保に入社し、課長職にまでなったのだが事故で両親を亡くした。
 其れで、康介が美幸の親代わりになる事もある。
 颯爽と肩で風を切り歩く姿は美貌と相まって、康介を安心させてくれる。
 彼女はまだ独身であるから、先々を考えてやらなければならないとも思っている。
 



 カフェの女性は、何か彼是考えているようにも見えるのだが就職活動などで・・何か理由(わけ)があるのかも知れない。
 康介が事務所に戻ると、事務の女性が採用の件でと話し掛けてきた。
 彼女は、事務員とし長く勤めてくれたが、この度辞める事になり、現在、代わりの事務員を探している。
 彼女の話とは応募者から連絡があったという事だ。
 都合を聞かれたので、何時でも良いと話す。と、早速電話を。
 午後三時に面接という事になる。今日は法廷は無い。
 時間になり・・訪れたのは先程の女性だった。
 其れで、スーツの件も頷けた。康介はあまり杓子定規な事は好まないから、別にスーツなど何でも構わないと思ったのだが。
 神楽耶涼子は開口一番、カフェで康介と一緒だったのを覚えていると。
 就職に関係無い事だろうと何だろうと、康介の事務所は会社とは違う。
 堅苦しくはしない、出来ないというのが康介の方針。
 女性は大学院を出ていると事務員が・・、案外、大学院卒は就職が悪いようだ。
 寧ろ、大会社でも一流大卒を歓迎する傾向にある。
 教授を目指し大学に残るのならまだしも、二年間余分に通ったという事に過ぎず、まあ、本人が何かを志していたのであれば其れは結構。
 専攻は文学と言う事。本人はやや場違いだと勘違いをしているようだが、事務員に法律知識は必要無い。
 康介は、カフェでの第一印象。あの時一目で好感を感じていた。
 不思議な魅力のようなものが彼女には感じられた。
 美幸も美しい女性で学歴も素晴らしい。しかし、また異なった何かを感じた。
 やって貰う仕事は決まっているし、引継ぎさえしっかり出来れば。
 話は文学の、職業作家である宮部みゆき氏も法律事務所で勤務していたと。
 彼女は高校を卒業後、会社員・法律事務所・アルバイトなどをやりながら、子供の頃から本を読むのが好きで・・という事。
 康介も文学は大好きであり、以前、古本屋の店頭だったが、「火車(かしゃ)」という本がワゴンに並べてあったので立ち読みをした。
 随分厚い単庫本だったが、飛ばし読みで30分程で読み終えた。
 其の表紙裏に周五郎賞をとった作品との記載があり、その後直木賞を取っているそうだ。
 読んだ時に法的な内容が記載されているので、?と思ったのだが後で説明書きを見てから成程と思う。弁護士に聞きながら・・と。
 そんな話が中心になり、果ては文豪の作品にまで及べば、彼女も感想を述べる。
 学歴は関係無いと言った事が、彼女にはどんなに感じられたのかと思ったが、まあ、採用の結論は彼女次第。
 翌々日、彼女から連絡が入り、勤務と決まった。大学院を卒業した女性はプライドが高いと聞くが、彼女はそうでもない。
 康介は、履歴書などの書類には目を通していない。
 元の事務員も彼女の印象を同じ様に纏めていたようだ。
 個人情報などを遵守してくれれば、後は仕事に慣れるだけ。全く問題はない。
 引継ぎはと言えば、もう一人事務員がいるから、事務所内の半分の仕事という事になる。
 裁判所に慣れて貰い、筋書きを康介が記述した提出書類を作成して貰うだけだ。
 康介ともう一人の弁護士が作成するから・・と、思っていたのだが。
 慣れて来て・・彼女。覚えが良いのか、自分から手順を組み作成出来るようになっていた。
 法律知識は必要ないが、二人の内彼女の分担は、主に民事執行法などに関係する書類作り。
 やはり、驚くべきことに、彼女の仕事の進捗状況には素晴らしいものを感じる。
「裁判所に申し立てる書類は、例えば、文字であってそうで無いような場合もある。姓名や地名などは全国版というか、実に様々なものがあるから、昔は・・」
 personal computerのアプリにも辞書にも載っていないようなケースもあり、手書きでも十分通用。
 要は、書記官は文字を照らし合わせるだけ。おかしな文字であろうが、元の文字と同じであればそれで問題はない。
 海外の様に言語が異なっても先ずその点は一緒。
 其の事を彼女に言った時には、既に彼女は其れを承知していた。それどころか其れ以外にも・・。




 スマフォが振動し・・美幸から。
「三田さんお暇な時あります?何か、新しい事務員さんが入り・・優秀な方だって仰ってましたよね?私も、偶にはお会いして食事でもと思うのですが・・如何でしょうか?」
 勿論、楽しみに・・。
 早速、其の晩の事。有楽町駅の近くの帝国ホテルで食事をする事になった。
 もう一人の事務員は御主人がいるので帰宅したが、涼子を誘うと微笑みを浮かべ、宜しかったら・・。
 美幸の話とは、大した事はないようで、そろそろ相手をなど話そうと思った。
 エリートだけに相手も其の線だろうが、社内恋愛なら簡単で・・と、やはり出世が早いせいかそう簡単にはいかないようだ。
 美幸はそんな事より涼子の事が気になったようで、二人で話をし始めた。美幸の関心は彼女。
 康介は、二人にワインを注いだり、料理を取ったりで、あとは二人の会話を聞いていた。
 美幸の亡くなった父は法曹界の人だったが、美幸も法学部を出ている。
 様子を見ていると・・美幸が驚いたような表情を。二人の会話からは、法的な話題が。
 其れが驚いた事に、美幸の六法クラスの質問に、涼子は適宜応えている。
 要は、法律を全部覚えているような気もするのだが・・其れもあり得ないような・・其れでいて・・その場に応じ・・。
 先日の面接時には文学で・・今度は法律?と・・まあ、其れで・・彼女に任せてある執行の事に関し聞いてみる。
「ねえ、涼子さん・・強制執行だけでなく、担保権の実行と言う言葉があり、其れを君にやって貰っているんだが。其れに関連し、根抵当・・ああ、此れは継続的な・・其処まで言わなくとも良いようだ・・其れで・・極度額というもの・・ああ、知っている?確定は・・その実行つまり任意競売に必要な要件?ああ、必要無い・・?え?此れ、なりたての弁護士で知らない者もいるが・・」
 此れでは・・美幸といい勝負になりそうかななど、と美幸が。
「ねえ、三田さん?この方に結構難しい事まで教えてらっしゃるんですか?可哀想な?でも、彼女、そういう気配は無いですね。何か私と、気が合いそうな?良い方に入って貰いましたね」
 美幸は東京大法学部で管理職。その彼女に褒められるとは?




 





 法廷で、涼子が尋問をしている。其れも、人証申請から何から自分で手配し、尋問も尋常ではない?
 最初のうちは、まさか・・弁護士の資格は持っていないと思っていたのだが?此れは、履歴書をよく見て無かった?
 弁護士涼子の活躍が始まった。
 手が付けられないほどの華麗な話法。正に端麗な容姿に映えるが・・女性弁護士でこんなに美しい者はいない筈・・?ああ、此の国では・・失礼。




 やはり、早とちりで採用してしまったようだ。素晴らしい弁護士。此の国で優秀と言われるカミソリ何とかの異名以上?
  
 


 彼女の事は次第に分かってくる場合と・・逆にますますわからなくなっていく方が・・多い?




 或る日、涼子がこんな事を話し始めた。
「・・私、三田さんには随分とお世話になりましたが・・帰らなければなりません。え?停止条件付?いえ、其れはいいんですが・・時間が無いので・・済みません・・」




 結局、涼子を美幸と二人で送る事になった。
 涼子が何者かは?どうでも良い事。
 事務員だって、また採用すれば良い?
 美幸は彼女とまだ一緒に話がしたかったと言う。
 しかし、美幸も優秀な頭脳の持ち主。事の次第が分かったようだ・・。





 夕闇が迫る頃・・青い惑星の自転する速度は秒速460m、涼子が飛び立つ時、その自転の速さを利用し東向きに、斜めに去って行く姿が見えた・・Energy温存。
 最後に・・和服姿を披露してくれたのだが・・美幸は言う。
「ねえ三田さん、彼女、かぐや姫に似てません?お名前、神楽耶、で無かったかしら?道理で、優秀で美しい訳ですね。私の結婚相手では無く、三田さん、独身でいらっしゃい・・?彼女にいて貰いたかったのでは・・?」



 康介は・・。
「いやいや・・あ、君と同じ様に美しい・・それでもね・・」
「・・あら?私は、ずっといるんですから・・いいけれど・・彼女に何かメッセージを送った方が宜しいんじゃありません?」
 もう・・かなり・・高く迄上がっていて・・夜空の星と見分けがつかないほど・・。




 スマフォが振動した。
「涼子です・・帰らなければならなくてすみません・・三田さんには良くして頂いたし・・美幸さんとも・・仲良しでいられた・・忘れません・・またきっと・・此方に来させて頂きます・・其れ迄・・暫しのお別れ・・お元気で・・たった、百五十億(光)年の距離ですから・・ご心配なく・・ではまた・・」




 美幸と二人で感心をした。
「道理で・・優秀な訳だ・・宇宙の女神・・ねえ、美幸君?でも・・宇宙でも・・和服が流行っているのかな?」
 美幸はくすっと笑い。
「・・案外・・そんなものでは無いですか?でも・・三田さんの好みを読むくらいは・・あの涼子さんには簡単なんでしょう・・ですから・・きっと、期待通りになると思いますよ・・」
「・・あのね?先程のかぐや姫に似ているとは?何処かで見たのかぐや姫?」
 どうもしっくりこない康介は、今朝のTVで見た番組の事などを・・。
「・・美幸君・・Classic・・ああ、そうだね。今朝見たんだが、ベートーベンのピアノコンチェルト第四番・・あれ、コード進行が・・やはり如何にもBeethovenらしく・・似ているんだな?彼のものは何となく・・?」
 噴き出し笑いの・・美幸は。
「・・あら?聴いていてすぐにコード進行がおわかりになったんですか?あんなに大人しく・・かと思えば・・速弾きで・・目が見えなくなって最初に創った曲なんですね・・其れで、運命の前段のような部分も・・今度また三人でそんな話をしましょうか?え?いえ、きっと彼女はお見通しです・・?」
 流石に優秀な美幸だけの事はある・・なんて感心を・・誤魔化しか・・?




 美幸のお相手探しは、もう少し先になりそうだが?
 全くおかしなくらい、綺麗な星々が煌めいているが・・その中に・・涼子弁護士の星も・・涼子と同じ様に・・美しい星が・・多過ぎて・・よく分からなかった・・。



「色を見るものは形を見ず、形を見るものは質を見ず。夏目漱石」

「 他人を弁護するよりも自己を弁護するのは困難である。疑うものは弁護士を見よ。芥川龍之介」

「取らねばならぬ経過は泣いても笑っても取るのが本統だ。志賀直哉」



「by europe123 piaboralenguiE,pia」

https://youtu.be/N6mykOAclrI

うっかりしていた面接

cafeで見掛けた女性が・・。

うっかりしていた面接

やはり、あの女性だった。 まあ、ぼちぼち覚えて貰えれば良い・・程度に考えていた事と・・履歴書をよく見ていなかったのは・・? 女性二人の内・・東京大卒のエリート課長・・其れは分かるんだが・・? 今度入ったあの女性・・ただならぬ雰囲気・・? 二人の意気がぴったりとは・・? え?まさかの法廷出廷・・美女弁護士・・。 夜空の星に紛れるように・・実に・・宇宙の基本を・・よく知っている・・彼女の姿が・・。 「今度・・三人で・・そのお話でもしませんか?」

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted