春雷
[400字小説/11]
午前9時。わたしは本日、二度目の眠りから覚めた。
「ん……」
今日は珍しく早起きできたと思っていたのに、いつの間にか寝落ちてしまったらしい。
「えっ、うそ!」
手にしたままだった携帯電話を見て、思わず小さく叫んでしまう。今日は久しぶりに、遠出の予定があるのだ。なのに、寝落ちてしまったせいで、家を出なくちゃいけない時間が差し迫っていた。
今日は生憎の空模様で、鈍色の雲が重く立ち込めている。携帯画面の傘マークを見て、傘を持って家を出た。準備万端。二週間ぶりの逢瀬は、きっと上手く行く。そう思っていたのに、
「えっ、うそ!」
今朝と同じ台詞を口にしていたわたしの耳に、ゴロゴロと雷の音が。
ああ、神様。あなたはなんて無慈悲なの。わたしが何か悪いことでもしたと言うのでしょうか。
世界で一番雷が苦手なわたしは、足早に恋人のもとへと向かう。恋人に「怖がりだなあ」と笑ってもらう、ただそれだけのために。
春雷
2023/03/17
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