promesa de la floristerí 邦題 花屋の約束
いきなり・・花屋の情景から始まる。
地下街に以前から物色していたテナント物件を運良く見つける事が出来た。
開店してからまだ一年程だが、駅からそう遠くないせいで人の流れは先ず先ず良い方だ。
今日は雨。
其れで地下街を通る人々は多く窺えるが、今のところ店に立ち寄る人の姿は見られない。
客足が悪いのは通勤の時間帯のせいだろう。其れに花の包みで手が塞がれては邪魔になる。
暇で何もやる事が無いからと、店の奥の小さな椅子に腰を掛けバッグから取り出した本に目を遣り頁を捲る。
ちょっとした短編推理小説で、サラリーマンの悲喜こもごもをモデルにした作品。
男女の駆け引きを絡ませたもので、或る女性が主人公なのだが、社内でも評判の美人と。
多田郁恵は、社では並み居る男性社員の憧れの的となっているが、女優をやめた後に入社。
では、彼女のお眼鏡に叶う男性は?となりそうだが、現在は此れといった相手等いない。
郁恵が秘書室のデスクで専務の秘書をやっているせいなのか、他の部署の社員と話す機会は殆ど無い。
だからでは無いのだが、昼食も社員食堂で済ませず、表のカフェなどを利用する事が多い。
秘書の日課は、朝、出勤してからの掃除に専務から依頼された書類の処理など。
其れに専務から買い物を頼まれ外出する事もある。気分転換には丁度良く専務も承知の上。
外出は貴重な時間を過ごす事になり、当然乍ら、一番楽しく感じる。
そうで無ければ一日中社内での業務。専務が在席している時には二人。
専務不在の折は秘書室長の元、一人で黙々と仕事をこなす事になる。
通路やトイレでは他の社員と顔を会わせる事もあるが、親しくしている者等はいない。
其れで、共通の話題等は無いのだから話に花が咲くなどという事も無い。
其の偶の時間に会う男性社員から声を掛けられる事等は無い。
当然、自分に対する他人の評価などを聞く事は無いし、聞いたところでどうとも感じない。
定時で社を退出し、駅に向かい歩いている時にふと思う。
毎日同じ通勤経路ばかりでは詰まらないからと、大通りにある本屋に寄ってみる事にした。
特に此れといい読んでみたいと思うものがあったのではない。
一人で何もする事が無いのも詰まらないからと、ジャンル別に並べられている両側の棚を見ながら店内の通路を歩き、彼是と物色を。
ファッション雑誌や旅行雑誌などの前を通り過ぎ、文庫本のコーナーで足が止まる。
目についたものを手に取り表紙裏の粗筋を読んでは元に戻し、又次の本を手に取る。
推理ものだが、まあこれなら飽きずに読めるかなど思いレジに並んだ。
店を出、早速読んでみたくなったのだが、ラッシュの車内で読む姿を想像するが・・。
其れで辺りのカフェで適当に時間をずらし帰る事にした。
カフェは仕事がひけた帰りの人達で混んでいたが、窓際のテーブルが空いている。
周りのtableには二人連れの姿が多く見られ、男女や女性同士で話をしている。
珈琲を頼んでからソファに凭れ、本を読み始める。
最近の作家のものは推理ものが多く、最初から何かが起きるまでのストーリーが展開する。 中には次々に登場人物を変えるものもあるが、この作品は登場人物が少ないから頭に入りやすい。
主人公の女性は自分と同じような会社勤めで、しかも役員の秘書。
何かと自分の姿とだぶらせながら読み始めている。
女性秘書は容姿に優れているようで、社員達の憧れの存在の様だ。
不意に社の通路でよく会う男性から声を掛けられた。確か一回だけ飲みに行った事が。
其の男性は二枚目の様なのか、結構モテるのか、其の時の社の女性と交際との話題を記憶している。
郁恵は其の男性には全く興味は無かったのだが、社内で或る女性とすれ違った時の事。
どういう訳なのか、其の女性の自分を見る目が険しくなっているような気がした。
更に、女性から昼休みに少し時間を割(さ)いてくれないかと言われ、社から少し離れたところにあるカフェに同行した。
女性がいきなり切り出したのは、
「・・彼と別れてくれないでしょうか?」
との事。
真剣な顔つきにただならぬものを感じた。すると続く話が。
「・・妊娠をしている・・」
其処まで聞いた時、郁恵は、女性は何か勘違いをしていると思った。
其れで、
「あの・・私は其の男性の事には全く関心がある訳でも何でも無いですから・・でも、そういう事情が有るのでしたら私は其の男性と会わないようにします・・」
と約束をした。
其れからは、詰まらない濡れ衣を着せられたのだからと、その後社内で彼から誘いがあった時、
「・・忙しいので・・残念ですが・・」
と断る事にした。
急に郁恵の態度が変わったと感じたのか、男性は根掘り葉掘りい自分にその理由を聞き出そうとするのだが・・郁恵にとっては降って湧いたような出来事であり、何も言わず彼女との約束を守ったのは当然だ。
ところが、男性は、
「・・どうしても話があるから会ってくれないだろうか?」
と一層しつこくなってきた。
其処で、郁恵はやむを得ず一度くらいなら仕方が無いかと・・。
同行先の居酒屋の個室で、彼の話題は彼女の事。
だが、親しくも無い男性から一方的にプライベートの大事な事まで聞いたところで・・あの女性の顔が浮かぶだけ。
其れに、女性との関係を恥じらいも見せず他人に話す神経を疑うと同時に、其の冷酷さには驚ろかされた。
「・・実は彼女妊娠しているんだ。其れで、結婚話まで出ているんだが・・僕は君の事が忘れられないし、誰よりも愛していると思っている・・其れで、彼女には申し訳無いが・・君ともう一度・・?」
彼の話によれば、社内での郁恵の美貌は評判との事だが、
「・・自分も案外モテる方だからもし良かったら・・二人はお似合いだと言われるのじゃないだろうか?其れは言い過ぎかもしれないが、兎に角・・考え直して貰えないだろうか?」
何か随分乱暴な話だと思うし、自分のおかれている存在を勝手な作り事で決め付けている。
当然ながら・・そこ迄乱暴なのならもう一度はっきりするしかないと、
「・・申し訳ありませんが・・随分勘違いをされている様ですが・・?」
そう言ったきり、男性の顔も見ずに店を後にした。
その後、その女性と社の近くのカフェで会ったのだが、彼女は郁恵に。
「有難う御座います。お陰様で彼は私を大事にしてくれるて言っています。此れは、私からの気持ちばかりの・・お礼のつもりの物として・・」
そう言った彼女の掌(てのひら)には少し変わったブローチの様なものが握られている。
彼女は郁恵の掌に握らせるようにしながら、真剣な表情で郁恵の瞳を覗く。
ブローチは裏側に蓋のようなものがついていて、細かいものなら小物入れとしても使えそうだが・・蓋は容易に開かない仕組みのようでもある。
彼女は、其れは彼から貰った物で、其処に大事な物を入れていたと言った。
其れでは・・と、譲り受けたのだが・・やはり、彼女が可哀想だと思う・・。
其れから、暫くした頃の事。
彼女の姿が何時の間にか見られなくなった。 そして、役員から話し掛けられた事が・・。
「ああ、君は知らないだろうが・・社内でちょっと拙い事があってね。ある女性が亡くなったらしいんだが・・其れが・・電車に飛び込んだとか・・物騒な事で・・会社としても問題になっているんだが・・困ったものだな、最近の若い者は・・何を考えているのか・・?」
郁恵は其の話を聞いた時に、すぐに其れが誰の事なのか、そして、事の次第が分かるような気がした。
其れから暫くし、郁恵が家への帰り道の途中にあるホテル街の近くを歩いている時。
ホテル街から出てきた男女のカップルを見た時にすぐに気が付いた。
女性は社内でよく見掛ける女性であり、男性は・・あの・。
更に暫くした頃の事。
郁恵が休暇で家にいる時にチャイムが鳴った。マイクにどちらさんですかと話し掛けたのだが、
「済みません・・南署の者ですが・・お尋ねしたい事がありまして・・」
手帳を見せた刑事の話は・・例の彼女が電車に飛び込んだという事故の事。
「偶々その現場近くを通りかかった高齢者の男性が言うには、女性と一緒に並んで立っていた男性がいたようだ・・」
と言うんです。
目撃者の男性は、酒を飲んでの帰りだとの事で大分酔っていた様だが、
『詳しい事は分からないが、踏切の赤ランプの点滅と共にシグナルが鳴っていた。電車が近付いてきた事は分かったが、電車の通過音の直前に女性の悲鳴が聞こえたような気がしたが・・その場を見た訳でもないですから詳しい状況は分からないですが・・』
と、更に。
「電車の乗客からは車内の灯りでその場の様子が見えたかもしれないのですが・・なにせ、暗がりだし電車はスピードが出ていたから、急ブレーキを踏んだ瞬間に乗客は重なるように倒れたらしいんで、外の様子まで見ている余裕は無かったのかも」
という事だけで、其の乗客を探しだすのはまず難しいとの事。
「・・其れで、貴女が同じ会社で、社内で彼女とお二人で話をしているところを見かけたという方がいましたので、何か心当たりがあるのでは・・?と。関係無いとは思いますが、一応仕事なので・・」
刑事が返って行く後ろ姿を見てから暫くした頃、スマフォが振動し。
あの男性からだった。
「ああ、悪いけれど、刑事が来て、交際相手として僕の名が挙がっているから、何か心当たりが無いかと・・。
其れと、事故当時何処にいたのか参考に聞かせてくれってね。いや、僕は全く関係無いから一人で家にいたと言ったんだが。
面倒だから・・若し、刑事でも来たら、悪いけれど・・当日、僕と一緒に何処かの公園にいたという事にしておいて貰えないかな?
本当に、僕は彼女の話を聞いて、寧ろ、驚いたくらいなんだ。全く、警察もしつこいから、彼女とは別れた後だったからね。頼むよ・・?」
郁恵は、一つ返事で・・も胸の中では全く別の考えが・・。
「分かった。誰かに聞かれたらそう言っとくわ、心配しないで・・じゃ、お休みなさい。
ああ、そう言えば、彼女が亡くなった日の翌日の・・時頃、貴方によく似た男性が女性とホテルから出て来るのを見たんだけれど、まさか、貴方という事は無いでしょう?」
郁恵は美しい頬を歪めるように・・笑みを浮かべ、呟く。
「あの女性、会社の女性だった・・其れに・・男の方は、間違い無いでしょうに・・あの女性が亡くなった翌日とは・・?」
其れから、彼女は社を辞め、花屋を開いた。
開店するのに十分過ぎる程の貯蓄があった。
郁恵が読み始めていた推理物の主役の名は、偶然・・?多田郁恵・・。
其れも頷ける。
郁恵の職業は現在、花屋の主人だけではない。
作家として活動を初め、本になったものも幾つかある。
実話を元にしたものも・・そう・・今、手にしているのはそのうちの一つ。
タイトルは・・「約束」。
暇な店に、客が訪れた。
「・・いらっしゃいませ・・あら・・お久し振りね?お元気そうで何より・・」
あの、男性。
社に勤めている時に、しつこく掛けて来た電話番号をスマフォの連絡先に保存しておいた。
先日、その番号に電話をし、会えないかしら?と話しを。
予定通りの時間に彼。
相変わらず無粋な二枚目気取りの笑みを浮かべながら来店。
「・・やはり、僕の事が忘れられなかったのかな・・?社でも二枚目で通っているから、忙しくて・・?でも・・他ならぬ美しい君からの誘いであれば、僕としても望むところ。其れで、再び・・付き合いを始めようと言う事かな・・?」
郁恵は男性の微笑んだ目に応える様に。
「ええ、そう・・そんなところよ・・やはり、思った通りのクールな二枚目は相変わらずなのね・・?」
あの彼女との約束は未だ果たしていない。
男性に珈琲を淹れてあげながら・・話し出す。
「貴方にピッタリのプレゼントがあるの?貴方、綺麗なものが好きだって言ってたわね?」
男性は頷くと。
「・・君のような美しい女性なら・・」
郁恵は店の奥から手にしてきた可憐な黄色い花を・・。
「此れ、綺麗でしょ?花だって生き物なんだから。でも、少し変わった花なの、人によって役に立ったり・・或いはそうで無かったり・・。
貴方はどうかな?良かったら・・持って帰ってくれる?」
男性は笑みを浮かべ。
「そりゃ、君からのプレゼントなら、是非とも戴くよ。嬉しいね。ところで、此れからの予定はどうしようか?うん?ああそう?今日は忙しいから無理か。じゃあ、近いうちにまた電話して・・忘れられない番号に・・?」
美女優であった郁恵は其れを見・・久し振りに演技・・。
「言っとくけれど・・其の美しい花、見た目美しいだけでなく、食用だから・・美味しいわよ・・きっと。今晩でも・・良い匂いを嗅ぎながら・・私だと思って・・ああ、其れから、此れ、見た覚えがあるでしょう?」
ブローチを取り出すと男性に見せる。
男性は顔を横に振ると。
「いいや。一向に見た事は無いね。どうせ、何処かの安物でしょう?」
其れから・・数日後の新聞に小さな記事が載っている・・。
「・・住まいの男性が・・食中毒らしき症状が昂じて・・孤独死か・・?」
郁恵は、あの女性の事故から暫くした頃。なかなか開かなかったブローチの裏ブタをやっと外す事が出来た。
中に入っていた物。
たたんで入れてあった、綺麗な小さな真四角の折り紙に書いてあった事。
「貴方から貰った此の綺麗なブローチ、大事にするわ。産まれて来る子供の為にも、記念にしなくちゃね・・」
「そんな大事な物を、どうして私にくれたのかしら?何が言いたかったの・・?でも・・貴女の敵(かたき)は取ったから・・。私は二枚目の女たらしは好きでは無いのよ?貴女の運は良くなかったけれど・・此れで何もかも無くなった。けれど、此のブローチは一生捨てはしないわ。私は・・二枚目の男とは違うからね・・」
郁恵の執筆は此れからもまだまだ続くだろうが・・其の作品は、亡くなった彼女を偲んだような、男女の真実を書いたものばかり。
因みに花の名は「++++」なのだが・・。 あまりに危険なので・・言わず・・としておく・・。
(登場する花は実際に毒があり致死量まで服用すれば死に至る。身近にある花だが其の事はあまり知られていない。事故に繋がると拙いので、敢えて名称等は省略。トリカブトでは無く、もっと身近にある花。葉の部分と花粉にも毒がある。綺麗な花には毒がある・・と覚えておいた方が宜しいかな?実は、同じ様な花の内、此れは14番目のランク。戦時中に食料が無く、何でも食べなければいけなかった。其のうち、よく知られているものの一つに「彼岸花」がある。球根の部分の毒を取り除き、貴重な蛋白質げんとして食べたのは此の国の国民・・何せ・・前線では・・もやむを得なく食した・・マグロのトロに似ていた・・と言う話は有名だ・・。)
「私は冷かな頭で新らしい事を口にするよりも、熱した舌で平凡な説を述べる方が生きていると信じています。夏目漱石」
「 人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのはばかばかしい。重大に扱わねば危険である。芥川龍之介」
「幸福というものは受けるべきもので、求めるべき性質のものではない。求めて得られるものは幸福にあらずして快楽なり。志賀直哉」
「by europe123 ORGBIT」
https://youtu.be/TibQnxeGdPc
promesa de la floristerí 邦題 花屋の約束
美女優であった役員秘書が・・約束をした事は・・何だったのか・・?
男女の常を少し誤れば・・どんな事になるのか・・?
美しいものには・・毒がある・・。
だが・・美しい女優だった彼女が守った約束とは・・?